十字架の聖ヨハネ 「エル・カンティコ・エスピリトゥアル」(霊の賛歌) B
Juan de la Cruz, "el cántico espiritual, B", Manuscrito de Jaén




(上) ジル・ドマルトー(Gilles Demarteau, 1729 - 1776)による「十字架の聖ヨハネ」 パリ、ラール・カトリークによる複製 当店の商品


 スペインのカルメル会士、十字架の聖ヨハネ(Juan de la Cruz, 1542 - 1591)は、アビラの聖テレサとともにカルメル会の改革者であり、偉大な神秘思想家、ルネサンスの詩人としてもよく知られています。十字架の聖ヨハネは霊的活力を失った当時のカルメル会を改革しようとして多数派を敵に回し、トレドの修道院に八か月間幽閉されました。幽閉の環境は健康を保てないほど過酷であり、筆記具などもありませんでしたが、ヨハネはここで「エル・カンティコ・エスピリトゥアル」(西 "el cántico espiritual" 霊の歌)の最初の三十連を作りました。残りの連は、後年、バエサ(Baeza アンダルシア州ハエン県)とグラナダ(Granada アンダルシア州グラナダ県)で書かれました。「エル・カンティコ・エスピリトゥアル」は 1622年パリにおいてフランス語で、1627年ブリュッセルにおいてスペイン語で出版されました。

 「エル・カンティコ・エスピリトゥアル」には二つの版があります。先に成立したサンルカル写本(el manuscrito de Sanlúcar)版は「エル・カンティコ・エスピリトゥアル A」、後で成立したハエン写本(el manuscrito de Jaén)版は「エル・カンティコ・エスピリトゥアル B」と呼ばれています。

 「エル・カンティコ・エスピリトゥアル B」(ハエン写本版)の全文を、カスティジャ語テキストに和訳を添えて示します。日本語訳は筆者(広川)によります。「エル・カンティコ・エスピリトゥアル」は美しい韻文ですが、筆者の訳はカスティジャ語の意味を正確に日本語に移すことを主眼にしているため、韻文にはなってません。訳文あるいは註において、文意を通じやすくするために補った訳語は、ブラケット [ ] で括って示しました。



       Canciones entre el alma y el Esposo    魂と花婿が交わす歌
           
       La Esposa    花嫁の歌
           
   1.    ¿Adónde te escondiste,
Amado, y me dejaste con gemido?
Como el ciervo huiste,
habiéndome herido;
salí tras ti clamando, y eras ido.
 l. 1  あなたはどこに隠れていらっしゃるのですか。
愛しい方よ。私は打ち捨てられて、泣いています。
あなたは牡鹿が逃げるように、
私を傷つけたまま、
行ってしまわれました。あなたを呼び求めても、あなたはおられません。
   2.    Pastores, los que fuerdes
allá por las majadas al otero:
si por ventura vierdes
aquel que yo más quiero,
decidle que adolezco, peno y muero.
 l. 6  牧者たちよ。
小屋に拠りつつ、向こうの丘へと行くであろう人たちよ(註1、註2)。
私が誰よりも愛する方に、
いつかどこかで会ったなら、
私が患い、苦しみ、死にかけていると、あの方に伝えてください(註3)。
   3.    Buscando mis amores,
iré por esos montes y riberas;
ni cogeré las flores,
ni temeré las fieras,
y pasaré los fuertes y fronteras.
 l. 11  愛する方を探しつつ、
私はこの山々を越え、いくつもの川を渡りましょう。
花を摘むこともせず、
野の獣たちを恐れず、
砦をも、国境をも超えて行きましょう(註4)。
           
       Pregunta a las criaturas    神に造られた者たちへの問い
           
   4.    ¡Oh bosques y espesuras,
plantadas por la mano del Amado!
¡Oh prado de verduras,
de flores esmaltado!
Decid si por vosotros ha pasado.
 l. 16  森よ。茂みよ。
愛するあの方の手で植えられた者たちよ。
色とりどりの花々で飾られた
緑の牧草地よ。
あの方がお前たちを通って行かれたのなら、教えておくれ。
           
       Respuesta de las criaturas    造られた者たちからの返答
           
   5.    Mil gracias derramando
pasó por estos sotos con presura,
e, yéndolos mirando,
con sola su figura
vestidos los dejó de hermosura.
 l. 21  数限りない恩寵[の雨]を降らせつつ、
あの方はこの森を素早く過ぎて行かれました。
森を通られる際に眼差しを注がれ、
御顔[の輝き]のみによって
森を美しく着飾らせ給いました(註5)。
           
       La Esposa    花嫁の歌
           
   6.    ¡Ay, quién podrá sanarme!
Acaba de entregarte ya de vero:
no quieras enviarme
de hoy más ya mensajero,
que no saben decirme lo que quiero.
 l. 26  あぁ。私を元気にできる人などいない。
「あの方はもう本当にお前を捨ててしまわれたのだ。」(註6)
もうこれからは私に使者を
送らないでほしい。(註7)
私が望むことを、使者(森、茂み、牧草地)は語ってはくれないから。(註8)
   7.    Y todos cuantos vagan
de ti me van mil gracias refiriendo,
y todos más me llagan,
y déjame muriendo;
un no sé qué que quedan balbuciendo.
 l. 31  [愛しい方よ(註9)。]御身と親しく交わるために、私はあらゆる観想を為します(註10)。
そしてそれらの観想は、数知れぬ恩寵を私に語ってくれています。(註11)
それでいて、それらの観想は、私をいっそう傷つけ、
死ぬ[ほど苦しむ]ままにして、救ってはくれないのです。
何と呼べばよいかわからないものが、言葉にならぬまま残ってしまいます(註12)。
   8.    Mas ¿cómo perseveras,
¡oh vida!, no viviendo donde vives,
y haciendo porque mueras
las flechas que recibes
de lo que del Amado en ti concibes?
 l 36  それにしても、我が生命よ(註13、註14)、お前はどのように永らえているのか。
お前は生きながらも生きてはおらず、
そして[このように無為に]過ごしている。その理由は、
お前が矢を受けつつ、その矢を死なせているからだ。(註15)
[その矢とは、]愛しいあの方に発して、お前が自らのうちに抱くもの(愛)のことなのだ。(註16)
   9.    ¿Por qué, pues has llagado
aqueste corazón, no le sanaste?
Y, pues me le has robado,
¿por qué así le dejaste,
y no tomas el robo que robaste?
 l. 41  [愛しい方よ。]御身はこの心臓に[恋の印となる]傷を負わせたのに、
なぜそれを癒してはくれないのですか。(註17)
私から心臓を取り上げたのに、
なぜそれをこのように打ち捨てたままにして、
取り上げた心臓をご自身のものとしてくださらないのですか。
   10.    Apaga mis enojos,
pues que ninguno basta a deshacellos,
y véante mis ojos,
pues eres lumbre dellos,
y sólo para ti quiero tenellos.
 l. 46  [愛しい方よ。]私の悲しみと苦しみを消してください。
私の悲しみと苦しみを無くすには、どんなこと[をして]も十分ではありませんから(註18)。
私の目に、あなたが見えればよいのに。
なぜならあなたはわが目の灯りであり(註19)、
あなたを見るためだけに、私は目を持ちたいからです(註20)。
   11.    ¡Oh cristalina fuente,
si en esos tus semblantes plateados
formases de repente
los ojos deseados
que tengo en mis entrañas dibujados!
 l. 51  おぉ、水晶の泉よ。
その銀の水面に
私が愛する方の目が、
突然映ればよいのに(註21)。
私はあの方の目を、
自分の内奥に描いているのです。
   12.    ¡Apártalos, Amado,
que voy de vuelo!
 l. 56  愛しい方よ。御身の目を隠してください。
私は飛んで行ってしまいます(註22)。
           
       El Esposo    花婿の歌
           
       Vuélvete, paloma,
que el ciervo vulnerado
por el otero asoma
al aire de tu vuelo, y fresco toma.
 l. 57  戻って来なさい。鳩よ。
そうすれば傷を負った牡鹿も
丘から姿を現して、
あなたが飛ぶ空の下(もと)で、爽やかな空気を吸おう(註23)。
           
       La Esposa    花嫁の歌
           
   13.    Mi Amado, las montañas,
los valles solitarios nemorosos,
las ínsulas extrañas,
los ríos sonorosos,
el silbo de los aires amorosos,
 l. 61  愛する方よ。山々や、
人里離れて木々の茂る幾多の谷。
見知らぬ島々(註24)。
水音高く流れる川。
愛を孕んだ風の唸り。
   14.    la noche sosegada
en par de los levantes del aurora,
la música callada,
la soledad sonora,
la cena que recrea y enamora.
 l. 66  穏やかな夜。
それにこの夜に対しては、曙照らす東の空。
静かな音楽。
音のよく響く静けさ。
疲れた者に力を与え、恋に陥らせる晩餐。
   15.    Nuestro lecho florido,
de cuevas de leones enlazado,
en púrpura tendido,
de paz edificado,
de mil escudos de oro coronado.
 l. 71  花が散り敷く私たちの臥所(ふしど)は
獅子たちの巣穴と繋がってはいますが、
紫の大布を広げ、
平和に拠りて建てられ、
その頂上は金でできた千の盾で飾られています(註25)。
   16.    A zaga de tu huella
las jóvenes discurren al camino,
al toque de centella,
al adobado vino,
emisiones de bálsamo divino.
 l. 76  あなたの足跡に従って、
若き乙女たちは道を歩きます。
稲妻に触れ、
香辛料を加えた葡萄酒と、
神より来たる香しき薫りに酔いながら(註26)。
   17.    En la interior bodega
de mi Amado bebí, y cuando salía
por toda aquesta vega,
ya cosa no sabía;
y el ganado perdí que antes seguía.
 l. 81  酒蔵に入って、
私は愛しい方から飲みました。しかし蔵から
この広大な野へと出て行ったときには、
もう何も分からなくなっていました。
以前に付き従った群れから、私ははぐれてしまいました(註27)。
   18.    Allí me dio su pecho,
allí me enseñó ciencia muy sabrosa;
y yo le di de hecho
a mí, sin dejar cosa:
allí le prometí de ser su Esposa.
 l. 86  あの方は、あの場所で私に胸の内奥を示し、
あの場所で私に、非常に美味なる知を示してくださいました。
そしてあのとき、私はあの方に、
私自身を全て残さず差し上げました。、
あの場所で、私は花嫁になると、あの方にお約束したのです。
   19.    Mi alma se ha empleado,
y todo mi caudal en su servicio;
ya no guardo ganado,
ni ya tengo otro oficio,
que ya sólo en amar es mi ejercicio.
 l. 91  我が魂も、我が持てる全ての物も、
あの方の御用に使うこととなりました。
私はもはや家畜の群の番をしません。
私にはもう別の仕事はありません。
ただ愛のうちにあることのみが、私の[行うべき]実践となりました。
   20.    Pues ya si en el ejido
de hoy más no fuere vista ni hallada,
diréis que me he perdido;
que, andando enamorada,
me hice perdidiza, y fui ganada.
 l. 96  なぜならもはや、もし放牧の入会地で
今日から私が見当たらず、姿が見つからないならば、
私はいなくなったのだ、とあなたたちは言うでしょう。
しかし私は愛しい方を思って歩きつつ、
自ら姿を消し、幸せをつかんだのです(註28)。
   21.    De flores y esmeraldas,
en las frescas mañanas escogidas,
haremos las guirnaldas
en tu amor florecidas
y en un cabello mío entretejidas.
 l. 101  爽やかな朝に選んだ
花々やエメラルドで、
私たちは花の冠を作りましょう。
その冠はあなたの愛に花開き、
私の髪に編み込まれます(註29)。
   22.    En solo aquel cabello
que en mi cuello volar consideraste,
mirástele en mi cuello,
y en él preso quedaste,
y en uno de mis ojos te llagaste.
 l. 106  私の頭から頸に懸かって見える
ただ一本のあの髪に、
その髪の一筋を私の頸にご覧になって、
あなたはその髪の虜となり、
あなたをちらりと見る眼差しに、あなたは傷を負われます(註30)。
   23.    Cuando tú me mirabas
su gracia en mí tus ojos imprimían;
por eso me adamabas,
y en eso merecían
los míos adorar lo que en ti vían.
 l. 111  あなたが私をご覧になったとき、
あなたの両眼は私のうちに、その恩寵を刻印しました。
そのせいで、あなたは私を強く愛してくださいました。
それゆえ私の両眼には、
あなたの内に見えるものを慕う資格があったのです(註31)。
   24.    No quieras despreciarme,
que, si color moreno en mi hallaste,
ya bien puedes mirarme
después que me miraste,
que gracia y hermosura en mi dejaste.
 l. 116  私を蔑まないでください。
もしも私の褐色[の肌]にお気づきになれば、
私をよくご覧になれます。
あなたは私をご覧になった後、
恩寵と美を私のうちに残してくださいます(註32)。
   25.    Cogednos las raposas,
que está ya florecida nuestra viña,
en tanto que de rosas
hacemos una piña,
y no parezca nadie en la montiña.
 l. 121  私たちのために、雌狐たちをつかまえてください。
私たちの葡萄畑は、もう花が咲いていますから。
私たちは薔薇で
花束を作ります。
誰もその山に現れることが無いように(註33)。
   26.    Detente, cierzo muerto;
ven, austro, que recuerdas los amores,
aspira por mi huerto,
y corran sus olores,
y pacerá el Amado entre las flores.
 l. 126  吹き止みなさい、生気無き北風よ。
吹いて来なさい、南風よ。汝、愛を思い起こさせる風よ。
私の果樹園に風を送りなさい。
果樹の香りが広がるように。
そうすれば、愛するあの方は花の間で食事をなさるでしょう(註34)。
           
       El Esposo    花婿の歌
           
   27.    Entrado se ha la esposa
en el ameno huerto deseado,
y a su sabor reposa,
el cuello reclinado
sobre los dulces brazos del Amado.
 l. 131  心地よく、望ましき果樹園に、
花嫁は入っている。
そして果物を味わって安らう。
恋人の甘き腕に、
頸を凭(もた)せ掛けて(註35)。
   28.    Debajo del manzano,
allí conmigo fuiste desposada.
allí te di la mano,
y fuiste reparada
donde tu madre fuera violada.
 l. 136  りんごの木の下で、
あなたはあの場所で私と横になっていた。
わたしはあの場所であなたに手を与えた。
自分の母が処女を失ったはずの場所で、
あなたは準備ができていた(註36)。
   29.    A las aves ligeras,
leones, ciervos, gamos saltadores,
montes, valles, riberas,
aguas, aires, ardores
y miedos de las noches veladores,
 l. 141  軽やかな鳥たちに。
ライオン、鹿、跳ねる黄鹿、
山々や谷、川、
水、大気、熱、
寝ずに過ごす夜の恐怖に(註37)。
   30.    Por las amenas liras
y canto de serenas os conjuro
que cesen vuestras iras,
y no toquéis al muro,
porque la esposa duerma más seguro.
 l. 146  快きリラと
夜曲の歌声によって、わたしはお前たちに誓ってもらおう。
お前たちは怒りを収め、
壁には触れないでほしい。
花嫁がこの上なく安らかに眠れるように(註38)。
           
       La Esposa    花嫁の歌
           
   31.    Oh ninfas de Judea!,
en tanto que en las flores y rosales
el ámbar perfumea,
morá en los arrabales,
y no queráis tocar nuestros umbrales.
 l. 151  ユダヤのニンフたちよ。
花と薔薇のうちにあって、
琥珀は芳香を放つ。
あなたがたは町はずれに住んで、
私たちの家の敷居には触れないでください(註39)。
   32.    Escóndete, Carillo,
y mira con tu haz a las montañas,
y no quieras decillo;
mas mira las compañas
de la que va por ínsulas extrañas.
 l 156  隠れてください、愛しい方。
あなたの御顔を山に向けてください。
そして何も言わずに、
むしろ山に伴う様々な物どもを見てください。
見知らぬ島々に関する様々な物どもを(註40)。
           
       El Esposo    花婿の歌
           
   33.    La blanca palomita
al arca con el ramo se ha tornado
y ya la tortolica
al socio deseado
en las riberas verdes ha hallado.
 l. 161  白い小鳩は
枝付きのアーチに変わった。
そして既にキジバトは
欲しがっていた仲間を
緑の川に見つけた。
   34.    En soledad vivía,
y en soledad ha puesto ya su nido,
y en soledad la guía
a solas su querido,
también en soledad de amor herido.
 l. 166  鳩は孤独のうちに生き、
孤独のうちに巣を掛けていた。
恋人はひとりで
鳩を孤独のうちに、
傷を負った愛の孤独のうちに導いた。
           
       Esposa    花嫁の歌
           
   35.    Gocémonos, Amado,
y vámonos a ver en tu hermosura
al monte ó al collado
do mana el agua pura;
entremos más adentro en la espesura.
 l. 171  愛しい方。私たちは楽しんで、
あなたの美のうちに、
山や丘を見に行きましょう。
そこには混じりけの無い水が噴き出ています。
私たちは木々のもっと奥まで分け入りましょう(註41)。
   36.    Y luego a las subidas
cavernas de la piedra nos iremos,
que están bien escondidas,
y allí nos entraremos,
y el mosto de granadas gustaremos.
 l. 176  そしてその後、高いところにある
石の洞窟に行きましょう。
その洞窟はよく隠されています。
私たちはその場所に入りましょう。
そして柘榴の果汁を味わいましょう(註42)。
   37.    Allí me mostrarías
aquello que mi alma pretendía,
y luego me darías
allí, tú, vida mía,
aquello que me diste el otro día:
 l. 181  私の魂が望むあのものを、
そこで私に見せてください。
その後、私に
その場所で、わが命であるあなたよ、
先日私に下さったものを与えてください。
   38.    El aspirar del aire,
el canto de la dulce Filomena,
el soto y su donaire,
en la noche serena,
con llama que consume y no da pena
 l. 186  喉を通る夜気。
優しい小夜啼鳥(ルイセニョル)の歌。
小さな林とその優美な姿。
静かな夜に、
焼き尽くすけれども苦しめることのない炎とともに。
   39.    Que nadie lo miraba,
Aminadab tampoco parecía,
y el cerco sosegaba,
y la caballería
a vista de las aguas descendía.
 l. 191  顔を向ける者は誰も無く、
アミナダブも現れなかった。
戦車の車輪は安らいでいた。
騎士は水を見て
馬から降りた。




 註1 Pastores, los que fuerdes allá por las majadas al otero:
          牧者たちよ。小屋に拠りつつ、向こうの丘へと行くであろう人たちよ。
         
         "fuerdes" は "ir"(行く)あるいは "ser"(…である)の接続法未来二人称複数形で、"fuéredes" の別綴り。"fuerdes"、"fuéredes" は語形の上では現代語の "fuereis" に対応する。スペイン語において、母音に挟まれた有声子音は脱落する傾向がある。また口語や散文に比べると、韻文の語は古形を保つ傾向がある。

 中世スペイン語の接続法未来は、未来における可能性を表す。現代のスペイン語はこれを接続法現在または接続法過去で置き換えている。
         
 註2 por las majadas
         筆者(広川)はこの句を「(山上にある)牧人の仮小屋を拠点にして」の意に解した。イベリア半島では移牧が盛んで、牧人は畜群とともに広範囲を移動する。
         
 註3  si por ventura vierdes aquel que yo más quiero, decidle que adolezco, peno y muero.
          私が誰よりも愛する方に、いつかどこかで会ったなら、私が患い、苦しみ、死にかけていると、あの方に伝えてください。
         ※ vierdes = viereis 接続法未来二人称複数の古形
         
         この部分は「雅歌」五章八節の引用である。ヴルガタ訳のラテン文と、筆者(広川)による和訳を示す。なお本稿における「雅歌」の引用は、章節分け、内容ともすべてヴルガタ訳に従う。
         
       CANTICUM CANTICORUM V, 8
         Adjuro vos, filiae Jerusalem, si inveneritis dilectum meum, ut nuntietis ei quia amore langueo.
          エルサレムの娘たちよ、約束してください。私が愛する方にもしも出会ったら、私が愛ゆえに病んでいることを、きっと伝えてください。(広川訳)
         
 註4 Buscando mis amores, iré por esos montes y riberas; ni cogeré las flores, ni temeré las fieras, y pasaré los fuertes y fronteras.
          愛する方を探しつつ、私はこの山々を越え、いくつもの川を渡りましょう。花を摘むこともせず、野の獣たちを恐れず、砦をも、国境をも超えて行きましょう。
         ※ amores = el Amado
         
          この部分は「雅歌」三章二節の引用である。ヴルガタ訳のラテン文と、筆者(広川)による和訳を示す。
         
       CANTICUM CANTICORUM III, 2
         Surgam, et circuibo civitatem : per vicos et plateas quaeram quem diligit anima mea : quaesivi illum, et non inveni.
          私は城壁をも登り、越えてゆきましょう。我が魂の愛する方を、町や村、野原に探しましょう。[しかし]あの方を探したけれど、見つかりませんでした。(広川訳)
         
 註5 yéndolos mirando con sola su figura vestidos los dejó de hermosura.
          あの方は 森を通られる際に眼差しを注がれ、御顔[の輝き]のみによって森を美しく着飾らせ給いました。
         
         旧約聖書において「神が人の上に御顔を輝かす」とは祝福を与えることであり(新共同訳「詩編」 89:16 他)、「神が御顔を隠す」とは人が神の祝福を失うことである(「申命記」 31:18 他)。 「神が森を通り給う際に眼差しを注ぎ、ただ御顔を見せることによって森を美しく着飾らせ給う」という詩句は、神が被造物に与え給う祝福(「創世記」 1:31)を意味する。

 ラテン語「フィグーラ」(羅 FIGURA 形)は「美しい容姿」を含意する。カスティジャ語の「フィグラ」(西 figura)は「形」、または単に「顔立ち」の意味だが、この詩句においてはラテン語の意味合いが残存しているように感じられる。
         
         なお "yendolos" は「森(los sotos)に行きつつ」の意に解した。"yendolos" の "los" は間接補語であり、本来は与格に置かれるべきところ、俗ラテン語あるいは古ロマンス語の段階で斜格に吸収されたものであろう。また "vestidos los dejó de hermosura" は "los dejó vestidos de hermosura."の意。
         
 註6 Acaba de entregarte ya de vero:
          「あの方はもう本当にお前を捨ててしまわれたのだ。」
         
         これは絶望した花嫁の叫びである。ここに言う「お前」は、花嫁自身のこと。
          ※ de vero = verdaderamente "de vero" は、俗ラテン語と中世スペイン語に共通する副詞句。
         
 註7  no quieras enviarme de hoy más ya mensajero,
           もうこれからは私に使者を送らないでほしい。
         
          no quieras = NOLI ラテン語風の言い方をしている。enviarme の me は間接補語、mensajero は直接補語。
         
 註8 que no saben decirme lo que quiero.
          私が望むことを、使者は語ってはくれないから。 ※ 理由の副詞節
          
          この文は単数名詞 "mensajero" を "saben" で受けて奇異な感じを抱かせるが、"mensajero" が指す内容は複数的であって、第四連の森(bosques)、茂み(espesuras)、牧草地(prado)がこれに当たる。
         
 註9 第七連における二人称単数について。
          第七連において魂が語り掛ける相手は、"el Amado"(愛しい方、神)である。
         
 註10 todos cuantos vagan de ti
         (直訳) 御身に適するすべての事ども
         
          "vagar"(現代スペイン語で「さ迷う」「放浪する」)は、中世スペイン語では「intr. 暇・余裕がある」「tr. …にとって好都合である、気に入る」を意味する。いまここで "todos cuantos vagan de ti" というのは、「御身(神)に関して好都合であるあらゆること」、すなわち「神と親しく交わるのに役立つ様々な観想」のことである。
         
 註11 Y todos cuantos vagan de ti me van mil gracias refiriendo,
          御身と親しく交わるために私が為すあらゆる観想は、数知れぬ恩寵を私に語ってくれています。
         
         中世スペイン語の "ir + gerundio" は、現代語の "estar + gerundio" と同じく、進行形を表す。したがって "todos ... me van mil gracias refiriendo" は「(私が現に行っている)あらゆる観想が、私に、数知れぬ恩寵について語り掛けている」という意味。

 me van mil gracias refiriendo = me van refiriendo mil gracias  ※ "mil gracias" は "refiriendo"(< referir)の直接補語。
         
 註12  y todos más me llagan, y déjame muriendo; un no sé qué que quedan balbuciendo.
          それでいて、それらの観想は、私をいっそう傷つけ、死ぬ[ほど苦しむ]ままにして、救ってはくれないのです。何と呼べばよいかわからないものが、言葉にならぬまま残ってしまいます。
         
         神との一致を喪失した魂にしてみれば、本来であれば神から与えられるはずの恩寵について、言葉の上で理論的に理解しただけでは、却って苦痛を感じるのみである。なぜならば魂は、神との一致を喪失しているゆえに、それらの恩寵を現実に与えられていないからである。この箇所に言われている "un no sé qué"(何だかわからないもの)とは、救いを求める魂が得ようともがく恩寵のことである。この恩寵は魂の自然本性で捉え得る次元を超えているゆえに、魂はこれをどのように名付けてよいかわからず、「何だかわからないもの」と呼んでいる。

 明瞭に言語化された恩寵は、狭義の知性によって知解された理論、単なる言葉である。知識としてこれを知っても、神から離れた人間は、魂をエッセ(羅 ESSE 存在)の根底がら揺るがす強い不安から救われることができない。魂を真に救うのは、単なる言葉にすぎない恩寵の理論ではなくて、魂自身が全能力を挙げて享受する神との合一であるから。

 神から離れた魂にとって、かかる恩寵は、自然本性的能力によって捉えがたい限界概念(独 Grenzbegriff)である。それゆえこの詩句では、魂が求めつつ未だ到達できないこの恩寵を「何だかわからないもの」(un no sé qué)と呼び、またそれが「不明瞭なままに残る」(quedan balbuciendo)、すなわち「明瞭に言語化できない」と語っている。真の救済とは、神が恩寵により、人間の魂をその自然本性を超えた次元に引き上げて経験させる至福直観であるが、これは言語化できるような矮小なものではない。言語化を拒む神との合一である。
         
 註13 第八連における二人称単数について。
          第八連において魂が語り掛ける相手は、"vida"、すなわち「神を喪失した魂に辛うじて遺された活力無き生命」である。なお本稿では理解する上での便宜を考えて、第八連を節ごとに解説し、訳文を示したが、形式の上では第八連全体がひとつの疑問文となっている。
         
 註14 第八連冒頭の接続詞 "mas" は、話題の転換を示す。「しかし」、「ところで」と訳せる。
         
         中世スペイン語 "mas" はラテン語 "MAGIS"(さらに)に由来し、「しかし」(現代語の pero)と「さらに」(現代語の además)の二通りの意味がある。現代スペイン語において、「しかし」の "mas" は "pero" によってほぼ完全に置き換えられているが、雅語では "mas" が未だに使われる。ポルトガル語(mas)、フランス語(mais)、イタリア語(ma)、レトロマン語(mo)においても、この語は逆説の接続詞である。

 なおスペイン語 "pero" はラテン語 "PER HOC" に由来する。イタリア語 "però" もこれに同じ。
         
 註15 no viviendo donde vives, y haciendo porque mueras las flechas que recibes.
          お前は生きながらも生きてはおらず、そして[このように無為に]過ごしている。その理由は、お前が矢を受けつつ、その矢を死なせているからだ。
         
         神から離れた魂は、生ける屍のように本来の生命力を失った状態になっている。"porque..." の節が、その理由を説明している。"y haciendo" は「そして、そのような生き方となっているのは」の意。
         
         "morir" はここでは他動詞(死なせる)。"las flechas" はその直接補語。「矢を死なせる」とは、「矢の効力を失わせる」という意味。神は魂に愛の矢を撃ち込み給うたが、矢を受けた魂は鈍感さゆえに神の愛を感じ取らず、矢の効力を失わせたのである。
         
 註16  las flechas ... de lo que del Amado en ti concibes
         (直訳) 愛しいあの方に発して、お前が自らのうちに抱くものの矢
         
         "lo que" に導かれる名詞節(「愛しいあの方に発して、お前が自らのうちに抱くもの」)が、"las flechas"の意味する内容を説明している。"ti"(お前)とは、魂のこと。「神から発し、魂が自身のうちに抱くもの」とは、神の愛に他ならない。神の愛の矢が、魂を貫くのである。
         
 註17 ¿Por qué, pues has llagado aqueste corazón, no le sanaste?
          御身はこの心臓に傷を負わせたのに、なぜそれを癒してはくれないのですか。
          ※ aqueste = este
         
         この部分は「雅歌」四章九節の引用である。ヴルガタ訳のラテン文と、筆者(広川)による和訳を示す。なお「我が妹、花嫁よ」はエジプト的表現だが、ユダヤ人はきょうだい婚を行わないから、「雅歌」では単なる親しみの表現となっている。「片方の目」とは、女性がヴェールを挙げたときに見える片目のことであり、「一瞥」というほどの意味。
         
       CANTICUM CANTICORUM IV, 9
         Vulnerasti cor meum, soror mea, sponsa: vulnerasti cor meum in uno oculorum tuorum et in uno crine colli tui.
          あなたは私の心臓に傷を負わせた。我が妹、花嫁よ。ただ一度の眼差し(直訳 片方の目)と首の髪一筋で、あなたは私の心臓に傷を負わせたのだ。(広川訳)
         
         第九連と第十連において魂が語り掛ける相手は、"el Amado"(愛しい方、神)である。
         
 註18 Apaga mis enojos, pues que ninguno basta a deshacellos,
          私の悲しみと苦しみを消してください。私の悲しみと苦しみを無くすには、どんなこと[をして]も十分ではありませんから。
         
         「魂自身の力では、この悲しみと苦しみを消すことはどうしてもできないから」の意。なお "enojo" は現代語では専ら「怒り」を指すが、中世語では「悩み」「悲しみ」「苦しみ」をも表した。ここでは "enojos" を「悲しみと苦しみ」と訳した。
         
         "deshacellos" は "deshacerlos" に同じ。韻律を滑らかに保つために、"r" が同じく流音である "l" に同化し、"ll"[ʎ] になっている(la asimilación palatalizadora)。これはシグロ・デ・オロ(西 el siglo de oro 十五世紀末から十七世紀頃)のスペイン語韻文にしばしば見られる現象である。
         
 註19 pues eres lumbre dellos,
         なぜならあなたはわが目の灯りであり
          ※ lumbre = luz, dellos = de ellos
         
 註20 y sólo para ti quiero tenellos.
          あなたを見るためだけに、私は目を持ちたいからです
          ※ tenellos = tenerlos (una asimilación palatalizadora)
         
 註21 ¡Oh cristalina fuente, si en esos tus semblantes plateados formases de repente.
          おぉ、水晶の泉よ。その銀の水面に私が愛する方の目が、突然映ればよいのに。
          ※ formases : formar の接続法過去 se形二人称単数
         
 註22 ¡Apártalos, Amado, que voy de vuelo!
          愛しい方よ。御身の目を隠してください。私は飛んで行ってしまいます。
         
         この部分は「雅歌」六章五節の引用である。ヴルガタ訳のラテン文と、筆者(広川)による和訳を示す。
         
       CANTICUM CANTICORUM VI, 4
         Averte oculos tuos a me, quia ipsi me avolare fecerunt. Capilli tui sicut grex caprarum quae apparuerunt de Galaad.
          [花嫁よ。]あなたの目をわたしから逸らせておくれ。あなたの目を見れば、私は飛び去ってしまうから。あなたの髪は、ギレアドから姿を見せた山羊の群れのよう。(広川訳)
         
         ギレアド(Galaad, Gilead)は岩石質の急峻な山地で、現ヨルダン王国領北西端に当たる。ヨルダン川の東岸、ガリラヤ湖の南東に位置する。
         
 註23  Vuélvete, paloma, que el ciervo vulnerado por el otero asoma al aire de tu vuelo, y fresco toma.
          戻って来なさい。鳩よ。そうすれば傷を負った牡鹿も丘から姿を現して、あなたが飛ぶ空の下(もと)で、爽やかな空気を吸おう。
         
         この部分は「雅歌」六章十二節を想起させる。ヴルガタ訳のラテン文と、筆者(広川)による和訳を示す。
         
       CANTICUM CANTICORUM VI, 12
         Revertere, revertere, Sulamitis! revertere, revertere ut intueamur te.
          [踊りの舞台へと]戻ってください。戻ってください。シュラミトよ。私たちがあなた[の舞]を見ることができるように、戻ってきてください。(広川訳)
         
 註24 "las ínsulas extrañas"(見知らぬ島々)について。
         
          形容詞 "extrañas" には「不思議な」という意味と「外国の」という意味があり、この箇所では両方の意味を込めて使われている。"las ínsulas extrañas" を「不思議な島々」と訳せば、騎士道物語を連想させる。「外国の島々」と訳せば、シグロ・デ・オロに成し遂げられた地理上の発見を連想させる。
         
 註25 Nuestro lecho florido, de cuevas de leones enlazado, en púrpura tendido, de paz edificado, de mil escudos de oro coronado.
          花が散り敷く私たちの臥所(ふしど)は、獅子たちの巣穴と繋がってはいますが、紫の天蓋を広げ、平和に拠りて建てられ、その頂上は金でできた千の盾で飾られています。
         
         この詩句は「雅歌」のいくつかの部分に基づく。引用元のヴルガタ訳ラテン文と、筆者(広川)による和訳を示す。
         
       CANTICUM CANTICORUM I, 15
         Ecce tu pulcher es, dilecte mi, et decorus! Lectulus noster floridus.
          私が愛するあなたは、美しく、男らしい方。私たちの臥所には、花が敷かれています。(広川訳)
         
       CANTICUM CANTICORUM IV, 8
         Veni de Libano, sponsa mea : veni de Libano, veni, coronaberis : de capite Amana, de vertice Sanir et Hermon, de cubilibus leonum, de montibus pardorum.
          レバノンから来なさい。わたしの花嫁よ。レバノンから来なさい。来て、冠を受けなさい。アマナの頂から、サニル、ヘルモンの頂上から、ライオンたちの巣穴から、ヒョウの住む山々から。(広川訳)
         
       CANTICUM CANTICORUM III, 10
         columnas ejus fecit argenteas, reclinatorium aureum, ascensum purpureum; media caritate constravit, propter filias Jerusalem.
          [ソロモン王は臥所に]銀の柱と金の背もたれ、紫の上り口を作りました。エルサレムの娘たちの許で、王は愛の只中に臥所を造りました。(広川訳)
         
       CANTICUM CANTICORUM IV, 4
         Sicut turris David collum tuum, quae aedificata est cum propugnaculis; mille clypei pendant ex ea, omnis armatura fortium.
           あなたの頸は、ダヴィデの塔のよう。その塔は幾つもの砦を伴って建設され、塔には千の盾が懸けられている。塔の全体が、勇者たちの武装によって[守られている]。(広川訳)
         
         なお "en púrpura tendido" の句は意味が不明瞭だが、貝紫の大布を広げた様子を描写したものと解釈した。貝紫の大布は非常な贅沢品である。
         
 註26 A zaga de tu huella las jóvenes discurren al camino, al toque de centella, al adobado vino, emisiones de bálsamo divino.
          あなたの足跡に従って、若き乙女たちは道を歩きます。稲妻に触れ、香辛料を加えた葡萄酒と、神より来たる香しき薫りに酔いながら。
         
         この詩句は「雅歌」のいくつかの部分に基づく。引用元のヴルガタ訳ラテン文と、筆者(広川)による和訳を示す。
         
       CANTICUM CANTICORUM I, 1 a 3
         [SPONSA] Osculetur me osculo oris sui; quia meliora sunt ubera tua vino, fragrantia unguentis optimis. Oleum effusum nomen tuum; ideo adolescentulae dilexerunt te.  [CHORUS ADOLESCENTULARUM] Trahe me, post te curremus in odorem unguentorum tuorum. Introduxit me rex in cellaria sua; exsultabimus et laetabimur in te, memores uberum tuorum super vinum. Recti diligunt te.
          (花嫁) あの方がご自分の口で私に接吻してくださればよいのに。あなたの豊かな薫りは、葡萄酒よりも、最上の香油の薫りにも勝っていますから。あなたの御名は注がれた油。それゆえ乙女たちはあなたを愛します。 (乙女たちの合唱) 私を連れて行ってください。あなたの後を、あなたの香油の薫りの方へと、私たちは歩みます。王は私をご自身の酒蔵へと導いてくださいました。私たちはあなたの内にあって喜び、楽しみましょう。王の酒蔵は豊かな葡萄酒によって、あなたに関するいろいろなことを思い起こさせてくれるからです。義人たちもあなたを愛しています。(広川訳)
         ※ memores uberum tuorum super vinum = qui (cellaria), super uberum vinum, memores sunt tuorum  この "memores" は複数主格の形容詞。
         
       CANTICUM CANTICORUM III, 11
         Egredimini et videte, filiae Sion, regem Salomonem in diademate quo coronavit illum mater sua in die desponsationis illius, et in die laetitiae cordis ejus.
          シオンの娘たちよ。出て来て、見なさい。ソロモン王が冠を被っているのを。その冠は王の婚礼の日、王の心(直訳 心臓)の喜びの日に、母が王に被せたもの。(広川訳)
         
       CANTICUM CANTICORUM V, 4
         Dilectus meus misit manum suam per foramen, et venter meus intremuit ad tactum ejus.
          私が愛する方は、戸の孔から手を差し入れてくださいました。あの方に触れて、私の心(直訳 腹、臓腑)は震えました。(広川訳)
         
       CANTICUM CANTICORUM VIII, 2
         Apprehendam te, et ducam in domum matris meae : ibi me docebis, et dabo tibi poculum ex vino condito, et mustum malorum granatorum meorum.
          私はあなたを連れて、我が母の家にお連れします。あなたはそこで私に[愛を]教えてくださり、私は香辛料を加えた葡萄酒の杯を、また私の柘榴汁を、あなたに差し上げましょう。(広川訳)
         
         ここで「愛を教える」と訳した " docebis"は、無知な少女に性行為を教えることを指す。「香辛料を加えた葡萄酒の杯」は、媚薬あるいは強精剤のようなものであろう。また柘榴は多産の象徴であるから、少女が「私の柘榴汁」を差し出すとの描写は、性交への同意を表している。
         
 註27 En la interior bodega de mi Amado bebí, y cuando salía por toda aquesta vega, ya cosa no sabía; y el ganado perdí que antes seguía.
          酒蔵に入って、私は愛しい方から飲みました。しかし蔵からこの広大な野へと出て行ったときには、もう何も分からなくなっていました。以前に付き従った群れから、私ははぐれてしまいました。
         
         この詩句(第十七連)一行目の「酒蔵」(bodega)は、「雅歌」二章四節、及び註26で既に引用した一章三節に基づく。引用元のヴルガタ訳ラテン文と、筆者(広川)による和訳を示す。
         
       CANTICUM CANTICORUM II, 4
         Introduxit me in cellam vinariam; ordinavit in me caritatem.
          あの方は私を葡萄酒の蔵に導き入れてくださいました。そして私の内に愛を整えてくださいました。(広川訳)
         
       CANTICUM CANTICORUM I, 3
         Trahe me, post te curremus in odorem unguentorum tuorum. Introduxit me rex in cellaria sua; exsultabimus et laetabimur in te, memores uberum tuorum super vinum. Recti diligunt te.
          私を連れて行ってください。あなたの後を、あなたの香油の薫りの方へと、私たちは歩みます。王は私をご自身の酒蔵へと導いてくださいました。私たちはあなたの内にあって喜び、楽しみましょう。王の酒蔵は豊かな葡萄酒により、あなたについていろいろなことを思い起こさせてくれるからです。義人たちもあなたを愛しています。(広川訳)
         
         第十七連第二行は、「雅歌」五章一節に基づく。引用元のヴルガタ訳ラテン文と、筆者(広川)による和訳を示す。
         
       CANTICUM CANTICORUM V, 1
         [SPONSA] Veniat dilectus meus in hortum suum, et comedat fructum pomorum suorum.  [SPONSUS] Veni in hortum meum, soror mea, sponsa; messui myrrham meam cum aromatibus meis; comedi favum cum melle meo; bibi vinum meum cum lacte meo; comedite, amici, et bibite, et inebriamini, carissimi.
         (花嫁) 私の愛する方が、ご自身の庭に入って来てくださればよいのに。そしてご自分のものである果樹の実を食べてくださればよいのに。 (花婿) わたしは自分の庭に来た。我が妹、花嫁よ。わたしは香料とともにミルラを刈り取り、蜂蜜とともに蜂の巣を食べ、乳とともに葡萄酒を飲んだ。親しき者たちよ。食べて、飲みなさい。親愛なる者たちよ。酔いなさい。(広川訳)
         
         第十七連第四行と五行は、それぞれ「雅歌」六章十一節、及び一章五節を微かに想起させる。
         
 註28 que, andando enamorada, me hice perdidiza, y fui ganada.
           しかし私は愛しい方を思って歩きつつ、自ら姿を消し、幸せをつかんだのです。
          ※ hacerse perdidiza 自らの意思で人前から姿を消す、不在をよそおう
         
         この句は直前の部分とセミコロンで隔てられている。したがってセミコロンよりも後のこの部分では、家畜番の少女が姿を消した経緯が、少女自身の口から語られている。
         
 註29 De flores y esmeraldas, en las frescas mañanas escogidas, haremos las guirnaldas en tu amor florecidas y en un cabello mío entretejidas.
          爽やかな朝に選んだ花々やエメラルドで、私たちは花の冠を作りましょう。その冠はあなたの愛に花開き、私の髪に編み込まれます。
         
         朝のイメージ、及び花のイメージは、「雅歌」の次の詩句を連想させる。引用元のヴルガタ訳ラテン文と、筆者(広川)による和訳を示す。
         
       CANTICUM CANTICORUM VII, 12
         Mane surgamus ad vineas : videamus si floruit vinea, si flores fructus parturiunt, si floruerunt mala punica; ibi dabo tibi ubera mea.
          朝になったら葡萄畑に登って行きましょう。葡萄に花が咲いたか、花が実を結んでいるか、柘榴が花開いたかを見るために。そこであなたに私の乳房をあげましょう。(広川訳)
         
       CANTICUM CANTICORUM II, 5
         Fulcite me floribus, stipate me malis, quia amore langueo.
          花々で私を支えてください。私を林檎で飽かせてください。私は愛に病んでいますから。(広川訳)
         
         冠のイメージ、及び女の髪のイメージは、「雅歌」の次の詩句を連想させる。引用元のヴルガタ訳ラテン文と、筆者(広川)による和訳を示す。
         
       CANTICUM CANTICORUM III, 11
         Egredimini et videte, filiae Sion, regem Salomonem in diademate quo coronavit illum mater sua in die desponsationis illius, et in die laetitiae cordis ejus.
          シオンの娘たちよ。出て来て、見なさい。ソロモン王が冠を被っているのを。その冠は王の婚礼の日、王の心(直訳 心臓)の喜びの日に、母が王に被せたもの。(広川訳)
         
       CANTICUM CANTICORUM IV, 8 ad 9
         Veni de Libano, sponsa mea : veni de Libano, veni, coronaberis : de capite Amana, de vertice Sanir et Hermon, de cubilibus leonum, de montibus pardorum. Vulnerasti cor meum, soror mea, sponsa; vulnerasti cor meum in uno oculorum tuorum, et in uno crine colli tui.
          レバノンから来なさい。わたしの花嫁よ。レバノンから来なさい。来て、冠を受けなさい。アマナの頂から、サニル、ヘルモンの頂上から、ライオンたちの巣穴から、ヒョウの住む山々から。あなたは私の心臓に傷を負わせた。我が妹、花嫁よ。ただ一度の眼差し(直訳 片方の目)と首の髪一筋で、あなたは私の心臓に傷を負わせたのだ。(広川訳)
         
       CANTICUM CANTICORUM VII, 5
         Caput tuum ut Carmelus; et comae capitis tui sicut purpura regis vincta canalibus.
          あなたの頭はカルメル山のよう。あなたの頭の髪は王の紫衣にも似て、水路に繋がっている。(広川訳)
         
 註30 En solo aquel cabello que en mi cuello volar consideraste, mirástele en mi cuello, y en él preso quedaste, y en uno de mis ojos te llagaste.
          私の頭から頸に懸かって見えるただ一本のあの髪に、その髪の一筋を私の頸にご覧になって、あなたはその髪の虜となり、あなたをちらりと見る眼差しに、あなたは傷を負われます。
         
         ラテン語 "CONSIDERO"(検査する、熟慮する)の原意は、「星座(SIDUS)を凝視する」。このことからスペイン語"condiderar"(熟慮する)も、もともとは「注意深く観察する」という意味。
         
         この詩句の定動詞は、いずれも冗語的な再帰代名詞を伴っている(consideraste, mirástele, quedaste, llagaste)。これはいわゆる「利害の再帰代名詞」であり、与格的な性格を有する。ラテン語の与格にも同様の用法がある。
         
         「片目」(uno de mis ojos)については註17に既述。これは女性がヴェールを挙げたときに見える片目のことであり、「一瞥」というほどの意味。
         
         第二十二連の詩句は、既に幾度か引用した「雅歌」四章九節に基づく。引用元のヴルガタ訳ラテン文と、筆者(広川)による和訳を再掲する。
         
       CANTICUM CANTICORUM IV, 9
         Vulnerasti cor meum, soror mea, sponsa; vulnerasti cor meum in uno oculorum tuorum, et in uno crine colli tui.
          あなたは私の心臓に傷を負わせた。我が妹、花嫁よ。ただ一度の眼差し(直訳 片方の目)と首の髪一筋で、あなたは私の心臓に傷を負わせたのだ。(広川訳)
         
 註31 Cuando tú me mirabas su gracia en mí tus ojos imprimían; por eso me adamabas, y en eso merecían los míos adorar lo que en ti vían.
          あなたが私をご覧になったとき、あなたの両眼は私のうちに、その恩寵を刻印しました。そのせいで、あなたは私を強く愛してくださいました。 それゆえ私の両眼には、あなたの内に見えるものを慕う資格があったのです。
         ※ adamar (古) tr. 熱愛する ※ 現代語では「阿る」
         
         この連は内容が少し分かりづらいが、魂に対する神の愛の働きかけと、魂の内に起こる神の愛への感応を歌っていると考えられる。
         
 註32 No quieras despreciarme, que, si color moreno en mi hallaste, ya bien puedes mirarme después que me miraste, que gracia y hermosura en mi dejaste.
          私を蔑まないでください。もしも私の褐色[の肌]にお気づきになれば、私をよくご覧になれます。あなたは私をご覧になった後、恩寵と美を私のうちに残してくださいます。
         
         この詩句のいくつかの定動詞も、冗語的な「利害の再帰代名詞」を伴う(hallaste, miraste, dejaste)。
         
         褐色の肌のイメージは、「雅歌」一章四節及び五節を連想させる。引用元のヴルガタ訳ラテン文と、筆者(広川)による和訳を示す。
         
       CANTICUM CANTICORUM I. 4 ad 5
         Nigra sum, sed formosa, filiae Jerusalem, sicut tabernacula Cedar, sicut pelles Salomonis. Nolite me considerare quod fusca sim, quia decoloravit me sol. Filii matris meae pugnaverunt contra me; posuerunt me custodem in vineis : vineam meam non custodivi.
          私は黒いが、美しい。エルサレムの乙女たちよ。私はケダルの幕屋のよう。ソロモンの毛皮のように。私が色黒だと思わないでください。私は日に焼けて黒くなったからです。私の母の兄弟たちが私に腹を立てて、私を葡萄畑の番に立たせたのですが、私は自分の葡萄の番はしませんでした。(広川訳)
         
 註33 Cogednos las raposas, que está ya florecida nuestra viña, en tanto que de rosas hacemos una piña, y no parezca nadie en la montiña.
          私たちのために、雌狐たちをつかまえてください。私たちの葡萄畑は、もう花が咲いていますから。私たちは薔薇で花束を作ります。誰もその山に現れることが無いように。
         ※ piña 人や物の大きな集まり  parecer 「現れる」は古義  montiña (古)山
         
         雌狐と葡萄畑のイメージは、「雅歌」の次の箇所を連想させる。引用元のヴルガタ訳ラテン文と、筆者(広川)による和訳を示す。
         
       CANTICUM CANTICORUM II, 15
         Capite nobis vulpes parvulas quae demoliuntur vineas : nam vinea nostra floruit.
          私たちのために、葡萄を荒らす狐たちを捕まえてください。私たちの葡萄畑は花が咲いていますから。(広川訳)
         
       CANTICUM CANTICORUM II, 13
         ficus protulit grossos suos; vineae florentes dederunt odorem suum. Surge, amica mea, speciosa mea, et veni :
          無花果(いちじく)は小さな実を付けている。花咲く葡萄畑は香りを放っている。可愛く、美しい人よ。立ち上がり、来なさい。(広川訳)
         
       CANTICUM CANTICORUM VI, 10
         Descendi in hortum nucum, ut viderem poma convallium, et inspicerem si floruisset vinea, et germinassent mala punica.
          私はくるみの庭に降りました。山峡(やまかい)の果樹を見るために。葡萄畑に花が咲いているか、柘榴が芽吹いたかを調べるために。(広川訳)
         
       CANTICUM CANTICORUM VII, 13
         Mandragorae dederunt odorem in portis nostris omnia poma : nova et vetera, dilecte mi, servavi tibi.
          マンドラゴラ(チョウセンアサガオ)が香りを放ちます。私たちの戸口には、あらゆる果樹が植わっています。我が愛しき方よ。新しい果樹も古い果樹も、私はあなたのために蓄えました。(広川訳)
         
 註34 Detente, cierzo muerto; ven, austro, que recuerdas los amores, aspira por mi huerto, y corran sus olores, y pacerá el Amado entre las flores.
          吹き止みなさい、生気無き北風よ。吹いて来なさい、南風よ。汝、愛を思い起こさせる風よ。私の果樹園に風を送りなさい。果樹の香りが広がるように。そうすれば、愛するあの方は花の間で食事をなさるでしょう。
          ※ aspirar (古義) intr. 呼吸する 現代語では tr.(…を吸う)
         
         恋人(el Amado)が花の間で食事をするイメージは、「雅歌」の次の詩句を連想させる。引用元のヴルガタ訳ラテン文と、筆者(広川)による和訳を示す。これらの詩句における「百合」(lilia)は、花嫁のこと。
         
       CANTICUM CANTICORUM II, 16
         Dilectus meus mihi, et ego illi, qui pascitur inter lilia,
          私が愛する方は私のもの。私はあの方のもの。あの方は百合の間で食事をなさいます。(広川訳)
         
       CANTICUM CANTICORUM VI, 1 ad 2
         Dilectus meus descendit in hortum suum ad areolam aromatum, ut pascatur in hortis, et lilia colligat. Ego dilecto meo, et dilectus meus mihi, qui pascitur inter lilia.
          私が愛する方はご自身の庭の香しき花壇へと降りて行かれました。庭で食事を摂り、百合を集めるために。私はあの方のもの。私が愛する方は私のもの。あの方は百合の間で食事をなさいます。(広川訳)
         
 註35 Entrado se ha la esposa en el ameno huerto deseado, y a su sabor reposa, el cuello reclinado sobre los dulces brazos del Amado.
          心地よく、望ましき果樹園に、花嫁は入っている。そして果物を味わって安らう。恋人の甘き腕に、頸を凭(もた)せ掛けて。
         
         "Entrado se ha" の "se" は、利害の再帰代名詞。註30及び註32に既出。
         
         花嫁が恋人の腕に抱かれるイメージは、「雅歌」の次の詩句を連想させる。引用元のヴルガタ訳ラテン文と、筆者(広川)による和訳を示す。
         
       CANTICUM CANTICORUM II, 6
         Laeva ejus sub capite meo, et dextera illius amplexabitur me.
          あの方が左手を私の頭の下に差し入れ、その右手で私を抱いてくださればよいのに。(広川訳)
         
       CANTICUM CANTICORUM VIII, 3
         Laeva ejus sub capite meo, et dextera illius amplexabitur me.
          あの方が左手を私の頭の下に差し入れ、その右手で私を抱いてくださればよいのに。(広川訳)
         
 註36 Debajo del manzano, allí conmigo fuiste desposada. allí te di la mano, y fuiste reparada donde tu madre fuera violada
          りんごの木の下で、あなたはあの場所で私と横になっていた。わたしはあの場所であなたに手を与えた。自分の母が処女を失ったはずの場所で、あなたは準備ができていた。
         
         この詩句は「雅歌」の次の箇所に基づく。引用元のヴルガタ訳ラテン文と、筆者(広川)による和訳を示す。
         
       CANTICUM CANTICORUM VIII, 5
         (CHORUS) Quae est ista quae ascendit de deserto, deliciis affluens, innixa super dilectum suum?  (SPONSUS) Sub arbore malo suscitavi te; ibi corrupta est mater tua, ibi violata est genitrix tua.
          (合唱) 砂漠から登ってくるあの女性は誰でしょう。たくさんの装身具を身に着け、愛する人に寄りかかって。 (花婿)  りんごの木の下で、わたしはあなたを目覚めさせた。あなたの母はあの場所で乙女ではなくなり、あの場所で処女を失った。(広川訳)
         
       CANTICUM CANTICORUM II, 3
         Sicut malus inter ligna silvarum, sic dilectus meus inter filios. Sub umbra illius quem desideraveram sedi, et fructus ejus dulcis gutturi meo.
          私が愛する方が若者たちの間におられる様子は、りんごの木が森の木々に交じっているよう。私はりんごの木陰に座っていた。甘い果実を味わいながら。(広川訳)
         
 註37 A las aves ligeras, leones, ciervos, gamos saltadores, montes, valles, riberas, aguas, aires, ardores y miedos de las noches veladores,
          軽やかな鳥たちに。ライオン、鹿、跳ねる黄鹿、山々や谷、川、水、大気、熱、寝ずに過ごす夜の恐怖に。
         
         この詩句は「雅歌」の次の箇所に基づく。引用元のヴルガタ訳ラテン文と、筆者(広川)による和訳を示す。
         
       CANTICUM CANTICORUM III, 5
         Adjuro vos, filiae Jerusalem, per capreas cervosque camporum, ne suscitetis, neque evigilare faciatis dilectam, donec ipsa velit.
          エルサレムの乙女たちよ。私はあなたがたに、野の山羊たちと鹿たちにかけて誓ってほしい。私が愛する女を、あなたがたは目覚めさせてはいけない。夜明かしをさせてはいけない。彼女が自分でそう望むまで。(広川訳)
         
       CANTICUM CANTICORUM III, 8
         omnes tenentes gladios, et ad bella doctissimi : uniuscujusque ensis super femur suum propter timores nocturnos.
          彼らは皆、剣を持つ者。戦(いくさ)に通じた者たち。夜を恐れるゆえに、一人ひとりの剣は腿の上にあります。(広川訳)
          ※ 「夜を恐れるゆえに」(propter timores nocturnos)とは、「夜襲に備えて」の意。
         
 註38 Por las amenas liras y canto de serenas os conjuro que cesen vuestras iras, y no toquéis al muro, porque la esposa duerma más seguro.
          快きリラと夜曲の歌声によって、わたしはお前たちに誓ってもらおう。お前たちは怒りを収め、壁には触れないと。花嫁がこの上なく安らかに眠れるように。
         ※ serena 吟遊詩人の夜曲
         
         「お前たち」とは、第二十九連(141 - 145行)に列挙された自然の諸事物のこと。
         
 註39 Oh ninfas de Judea!, en tanto que en las flores y rosales el ámbar perfumea, morá en los arrabales, y no queráis tocar nuestros umbrales.
          ユダヤのニンフたちよ。花と薔薇のうちにあって、琥珀は芳香を放つ。あなたがたは町はずれに住んで、私たちの家の敷居には触れないでください。
          ※ morá = morad 命令法二人称複数の民衆形
         
         この詩句は「雅歌」の次の箇所に基づく。引用元のヴルガタ訳ラテン文と、筆者(広川)による和訳を示す。
         
       CANTICUM CANTICORUM II, 7
         Adjuro vos, filiae Jerusalem, per capreas cervosque camporum, ne suscitetis, neque evigilare faciatis dilectam, quoadusque ipsa velit.
          エルサレムの乙女たちよ。私はあなたがたに、野の山羊たちと鹿たちにかけて誓ってほしい。私が愛する女を、あなたがたは目覚めさせてはいけない。夜明かしをさせてはいけない。彼女が自分でそう望むまで。(広川訳)
         
       CANTICUM CANTICORUM VII, 12 ad 13
         Mane surgamus ad vineas : videamus si floruit vinea, si flores fructus parturiunt, si floruerunt mala punica; ibi dabo tibi ubera mea. Mandragorae dederunt odorem in portis nostris omnia poma : nova et vetera, dilecte mi, servavi tibi.
          朝になったら葡萄畑に登って行きましょう。葡萄に花が咲いたか、花が実を結んでいるか、柘榴が花開いたかを見るために。そこであなたに私の乳房をあげましょう。マンドラゴラ(チョウセンアサガオ)が香りを放ちます。私たちの戸口には、あらゆる果樹が植わっています。我が愛しき方よ。新しい果樹も古い果樹も、私はあなたのために蓄えました。(広川訳)
         
 註40 Escóndete, Carillo, y mira con tu haz a las montañas, y no quieras decillo; mas mira las compañas de la que va por ínsulas extrañas.
          隠れてください、愛しい方。あなたの御顔を山に向けてください。そして何も言わずに、むしろ山に伴う様々な物どもを見てください。見知らぬ島々に関する様々な物どもを。
          ※ haz = faz  compañas = compañias  decillo = decirlo
         
         "carillo" は "caro" の縮小形で、特に田舎で使われる民衆語。
         
         第十三連(第63行)の "las ínsulas extrañas" が、ここで再び使われている。
         
 註41 Gocémonos, Amado, y vámonos a ver en tu hermosura al monte ó al collado do mana el agua pura; entremos más adentro en la espesura.
          愛しい方。私たちは楽しんで、あなたの美のうちに、山や丘を見に行きましょう。そこには混じりけの無い水が噴き出ています。私たちは木々のもっと奥まで分け入りましょう。
          ※ do = donde
         
         この詩句は「雅歌」の次の箇所に基づく。引用元のヴルガタ訳ラテン文と、筆者(広川)による和訳を示す。
         
       CANTICUM CANTICORUM IV, 6
         Donec aspiret dies, et inclinentur umbrae, vadam ad montem myrrhae, et ad collem thuris.
          昼間の風が吹いている間に、影が薄れている間に、わたしは没薬の山、乳香の丘へ行こう。(広川訳)
          ※ thus = tus, turis n. 香、乳香
         
       CANTICUM CANTICORUM VII, 11
         Veni, dilecte mi, egrediamur in agrum, commoremur in villis.
          愛しい方よ、お越しください。私たちは野に出ましょう。町や村に留まりましょう。(広川訳)
         
 註42 Y luego a las subidas cavernas de la piedra nos iremos, que están bien escondidas, y allí nos entraremos, y el mosto de granadas gustaremos.
          そしてその後、高いところにある石の洞窟に行きましょう。その洞窟はよく隠されています。私たちはその場所に入りましょう。そして柘榴の果汁を味わいましょう。
         
         この部分の冒頭二行(176 - 177行)は、「雅歌」二章十四節に基づく。柘榴の果汁は「雅歌」八章二節を思い起こさせる。引用元のヴルガタ訳ラテン文と、筆者(広川)による和訳を示す。
         
       CANTICUM CANTICORUM II, 14
         columba mea, in foraminibus petrae, in caverna maceriae, ostende mihi faciem tuam, sonet vox tua in auribus meis : vox enim tua dulcis, et facies tua decora.
          岩の穴窟に、岩壁の窪みにいるわが鳩よ。あなたの顔を私に見せてほしい。あなたの声が、耳に響く。あなたの声は甘く、あなたの顔は美しいから。(広川訳)
         
       CANTICUM CANTICORUM VIII, 2 ※ 註26に既出。
         Apprehendam te, et ducam in domum matris meae : ibi me docebis, et dabo tibi poculum ex vino condito, et mustum malorum granatorum meorum.
          私はあなたを連れて、我が母の家にお連れします。あなたはそこで私に[愛を]教えてくださり、私は香辛料を加えた葡萄酒の杯を、また私の柘榴汁を、あなたに差し上げましょう。(広川訳)
         
 註43 Que nadie lo miraba, Aminadab tampoco parecía, y el cerco sosegaba, y la caballería a vista de las aguas descendía.
          顔を向ける者は誰も無く、アミナダブも現れなかった。戦車の車輪は安らいでいた。騎士は水を見て馬から降りた。
         
         アミナダブ(アロンの義父 「出エジプト記」 6:23)への言及は、「雅歌」六章十一節に基づく。引用元のヴルガタ訳ラテン文と、筆者(広川)による和訳を示す。
         
       CANTICUM CANTICORUM VI, 11
         Nescivi : anima mea conturbavit me, propter quadrigas Aminadab.
          私には分かりません。私の魂はアミナダブの四頭立て戦車の傍で、私を掻き乱しました。(広川訳)




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