・聖ウァレンティヌスの祝日を「恋人たちの日」とした最初の文献、チョーサーの「鳥たちの集会」("The Parlement of Foulys") の一部を和訳いたしました。

・中世英語のテキストは、スキートの校訂による「チョーサー全集」("The Complete Works of Geoffrey Chaucer: Edited, From Numerous Manuscripts by Walter W. Skeat", Oxford, 1899 - 1900) に拠っています。


295 Whan I was come ayen unto the place すでに話した麗しき緑の庭に
296 That I of spak, that was so swote and grene, わたしは戻り、
297 Forth welk I tho, my-selven to solace. 自らをなぐさめようと歩みを進めた。
298 Tho was I war wher that ther sat a quene するとそこには女王が座っておられた。
299 That, as of light the somer-sonne shene 夏の太陽の輝きが
300 Passeth the sterre, right so over mesure その明るさにおいて星よりもすぐれているように、
301 She fairer was than any creature. 女王は何にもまして美しかった。
   
302 And in a launde, upon an hille of floures, 花咲く丘の緑のなかに
303 Was set this noble goddesse Nature; 気高きこの女神、自然は座っていた。
304 Of braunches were hir halles and hir boures, その城と部屋は自然のわざと方法にしたがって、
305 Y-wrought after hir craft and hir mesure; 木の枝でできていた。
306 Ne ther nas foul that cometh of engendrure, 親から生まれた鳥どもはみな、
307 That they ne were prest in hir presence, 女王のおられるところに出て、
308 To take hir doom and yeve hir audience. 喜んで女王に見(まみ)え、その命に服していた。
   
309 For this was on seynt Valentynes day, なぜなら聖ヴァレンタインの日であったから。
310 Whan every foul cometh ther to chese his make, この日、人が考え得るあらゆる種類の鳥たちが
311 Of every kinde, that men thenke may; 集まって相手を選ぶのだ。
312 And that so huge a noyse gan they make, 鳥たちの声があまりに騒がしく、
313 That erthe and see, and tree, and every lake 地も海も木もすべての湖も
314 So ful was, that unnethe was ther space 鳥たちで埋め尽くされていたので、
315 For me to stonde, so ful was al the place. 私が立つ場所とて無いほど、どこも鳥たちでいっぱいだった。
   
316 And right as Aleyn, in the Pleynt of Kinde, アランは「自然の嘆き」で(註)
317 Devyseth Nature of aray and face, その装いと顔立ちを描いているが、
318 In swich aray men mighten hir ther finde. それと同じ装いの自然を、人は見出すであろう。
319 This noble emperesse, ful of grace, この気高く優雅な女帝は、
320 Bad every foul to take his owne place, それぞれの鳥に命じて、持ち場に付かせた。
321 As they were wont alwey fro yeer to yere, 年ごとの聖ヴァレンタインの日に
322 Seynt Valentynes day, to stonden there. いつも占める持ち場に。
   
323 That is to sey, the foules of ravyne つまり猛禽は
324 Were hyest set; and than the foules smale, 最も高くに、そして
325 That eten as hem nature wolde enclyne, 虫や私が語らないものを食べるべく
326 As worm or thing of whiche I telle no tale; 自然によって定められた小鳥たちはその次に、
327 And water-foul sat loweste in the dale; そして水鳥たちは、谷の最も低いところに場所を占めた。
328 But foul that liveth by seed sat on the grene, 種を食べて生きる鳥たちは草の上に座り、
329 And that so fele, that wonder was to sene. その数は驚くほど多かった。

372 But to the poynt -- Nature held on hir honde 適切にも、自然の女神はその手の上に
373 A formel egle, of shap the gentileste 鷹の雌を留まらせた。その姿は
374 That ever she among hir werkes fonde, 自然が造り出したなかでも最も優美で
375 The moste benigne and the goodlieste; 最も優しく見目良いものだ。
376 In hir was every vertu at his reste, 鷹の雌にはあらゆる気高さが宿り、
377 So ferforth, that Nature hir-self had blisse それゆえ自然の女神自身がうっとりと
378 To loke on hir, and ofte hir bek to kisse. その姿を眺め、その嘴に幾度も接吻した。
   
379 Nature, the vicaire of thalmighty lorde, 熱さ、冷たさ、重さ、軽さ、湿り気、乾燥を
380 That hoot, cold, hevy, light, and moist and dreye ちょうど良く調和するように糾(あざな)い給うた
381 Hath knit by even noumbre of acorde, 全能の主の代理たる自然は、
382 In esy vois began to speke and seye, 優しい声で話し、語り始めた。
383 `Foules, tak hede of my sentence, I preye, 「鳥たちよ。わたしの言葉に耳を傾けなさい。
384 And, for your ese, in furthering of your nede, お前たちの幸せのために、おまえたちの必要を満たすために、
385 As faste as I may speke, I wol me spede. できるだけ早く語り、急ぐことにしましょう。
   
386 Ye knowe wel how, seynt Valentynes day, お前たちもよく知っているように、聖ヴァレンタインの日には、
387 By my statut and through my governaunce, わたしの定めにより、わたしの命じるところに従って、
388 Ye come for to chese - and flee your way - お前たちはわたしが与える喜ばしき痛みを感じて
389 Your makes, as I prik yow with plesaunce. 相手を探しに来、心赴くままに飛んでゆきます。
390 But natheles, my rightful ordenaunce わたしはこの世のすべてを引き換えに得られるとしても、
391 May I not lete, for al this world to winne, わが正しき法(のり)から離れることはないでしょう。
392 That he that most is worthy shal beginne. すなわち最も価値高き者から順番が始まるのです。


註 「自然の嘆き」("De Planctu Naturae") はフランスの神学者アラン・ド・リール (Alain de Lille, c. 1128 - 1203) の主要著作のひとつです。アラン・ド・リールは12、13世紀においてたいへん強い影響力があった神学者のひとりです。




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