この人を見よ
ECCE HOMO




(上) Guido Reni, Ecce Homo 19世紀ドイツのクロモリトグラフ。当店の商品です。画面サイズ 280 x 211 mm 26,000円 未額装


 「エッケ・ホモー(註1)」 (ECCE HOMO) とは十字架に付けられる直前のイエスの姿の図像です。この図像において、イエスは緋色または紫色のガウンを着せられ、いばらの冠をかぶせられ、笏(王杖)に擬した葦の棒を持たされて、ローマ兵たちから侮辱を受けています。


【福音書におけるエッケ・ホモー】

 イエスがローマ兵たちから侮辱され、ローマ総督ポンティウス・ピラトゥス(ポンテオ・ピラト)によって群集の前に引き出されたときの様子は、すべての福音書に記録されています。福音書には次のように書かれています。

 それから、総督の兵士たちは、イエスを総督官邸に連れて行き、部隊の全員をイエスの前に集めた。そして、イエスの着ている物をはぎ取り、赤い外套を着せ、茨で冠を編んで頭に載せ、また、右手に葦の棒を持たせて、その前にひざまずき、「ユダヤ人の王、万歳」と言って、侮辱した。また、唾を吐きかけ、葦の棒を取り上げて頭をたたき続けた。このようにイエスを侮辱したあげく、外套を脱がせて元の服を着せ、十字架につけるために引いて行った。(「マタイによる福音書」27章27-31節 新共同訳)

 通常「この人を見よ」と訳されるラテン語エッケ・ホモー (ECCE HOMO) は、茨の冠をかぶせられ、緋色のガウンを着せられたイエスを、ピラトが民衆の前に連れ出して、「ほら、この人だ」(註2)と示したときの言葉です。「ヨハネによる福音書」19章4-5節に次の記述があります。

 ピラトはまた出てきて、言った。「見よ、あの男をあなたたちのところに引き出そう。そうすれば、わたしが彼に何の罪も見いだせないわけが分かるだろう。」イエスは茨の冠をかぶり、紫の服を着けて出て来られた。ピラトは「見よ、この男だ」と言った。(「ヨハネによる福音書」19章4-5節 新共同訳)


【美術史におけるエッケ・ホモー】

 茨の冠をかぶせられたイエスの単身像は、西ヨーロッパでは中世において既に描かれています。このページのいちばん上に示したグイド・レーニの「エッケ・ホモー」もこの系統に連なる作品で、ピラトをはじめとする周辺人物や周囲の光景を描かず、キリストの単身像となっています。

 狭義のエッケ・ホモー、すなわちイエスがピラトによって群衆の前に引き出され、「見よ、この男だ」と示されたときの情景が図像に現れるのは 1400年頃のことです。受難劇に見られるように、イエスの受難は中世以来信心の中心的なテーマのひとつでしたが、この頃以降、エッケ・ホモーの図像は、マルティン・ショーンガウアーやアルブレヒト・デューラーによるエングレーヴィングが流布した北ヨーロッパをはじめ、ヨーロッパじゅうに広まりました。


(下) Correggio, Christ presented to the people (Ecce Homo), 1525 - 30, oil on poplar, 997 x 800 mm, The National Gallery, London




(下) 19世紀のイギリスのスティール・エングレーヴィング。イエスを取り巻く人物は、左手前から時計回りに、聖母マリア、使徒ヨハネ、ローマ総督ピラト、ローマ兵。ピラトは群衆に対して「見よ、この男だ」とイエスを差し示しています。当店の商品。

 エングレーヴァー: エグルトン (William Henry Egleton, fl. 1833 - 60)  画面サイズ 154 x 112 mm 15,000円 未額装





註1  カタカナでは「エッケ・ホモ」と表記することが多いようですが、ラテン語 HOMO の最初の O は短音、後の O は長音です。詩学で言う「位置によって長い」のではなく、本来2モラの長さで発音される音ですから、「ホモー」と表記すべきです。

 わが国には古典語を解する人が少ないせいか、ギリシア語やラテン語の母音の長短に無頓着すぎます。ラテン語において子音の発音は時代と場所により異なる場合がありますが、母音の長短が勝手に変更されることは決してありません。古典語の奇怪なカタカナ表記がまかり通っているのは残念なことです。

註2  ギリシア語原文の「イドゥー、ホ・アントローポス」 (idou ho anthropos) は、上に示した日本語訳では「見よ、この男だ」となっています。ギリシア語「イドゥー」は、ラテン語ではエッケ (ECCE) と訳されています。日本語では「見よ」と訳されていますが、イドゥーもエッケも間投詞です。したがって「ホ・アントローポス」「ホモー」はいずれも名詞の主格です。なおラテン語には冠詞がありませんから、上で「この男だ」と」訳されているギリシア語「ホ・アントローポス」(ホは定冠詞、アントローポスは「人」)を、ラテン語ではホモー (HOMO 「人」) 一語で表しています。



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