聖マドレーヌと悔悛のガリア 聖霊と天使のトリプティーク フランスの小さなオラトワール


56.0 x 40.7 mm

フランス  1870年代頃



 昔のヨーロッパの家庭の一角、コアン・ド・デュに、十字架や聖像とともに置かれていた信心具、オラトワール (oratoire)。観音開きの戸が付いた「トリプティーク」(triptyque) というタイプで、銀でめっきした薄いブロンズ板に打ち出し細工を施しています。聖画は聖マリ=マドレーヌ(マグダラのマリア)のミニアチュール版画で、聖画を入れる部分は軽く固定されていますが、他の絵に差し替えることもできる作りになっています。



 本品は高さ 6センチメートル足らずの小さなサイズで、ロマネスク及びゴシック様式とルネサンス様式を融合させ、聖堂扉口を模っています。最上部に付いていたと思われる十字架は欠損しています。

 ロマネスク聖堂及びゴシック聖堂の扉口でいえばアーキヴォルトに相当する部分、すなわち円錐台の側面を展開した形の部分には、天上から舞い降りる二人の天使を打ち出しています。ふたりの天使はルネサンス風の姿で、天上から冠を運んできています。聖堂扉口のティンパヌムに相当する部分、すなわちまぐさ石に載る半円形の部分には、鳩の形の聖霊が愛の光を発出させつつ地上に舞い降りています。天使が運ぶ冠と、地上に舞い降りる聖霊は、いずれもオラトワールの聖人、本品の場合はマリ=マドレーヌの、神の御心に適う信仰、聖徳を表しています。





 オラトワールの下半分は純然たるルネサンス様式で、扉には十字架と植物文様が打ち出されています。十字架は末端が三つ葉を模ったトリフォリウム型のギリシア十字で、神の愛に光り輝いています。扉の両側にはコリント式の柱が立っています。

 扉を開けるとマグダラのマリア(聖マドレーヌ)のミニアチュール版画が現れます。豊かな髪を露わにした美女マリアは、悔恨の表情を浮かべ、祈祷書の前に跪いて祈っています。

 この小聖画はグラヴュール(エングレーヴィング)によります。カニヴェを適当なサイズに切り抜いたもののようにも見えますが、聖画の裏面は全くの白紙で、カニヴェに使われる紙よりも厚手であり、マリアの大きさもオラトワールの窓のサイズによく合っているので、このオラトワールにセットするために制作されたものでしょう。





 オラトワールは、金属棒を曲げて裏側に取り付けたスタンドにより自立します。スタンドの取り付け部分には「フランス製」(MADE IN FRANCE) と刻印されています。





 ところで悔悟に暮れるマグダラのマリアの姿は、「ガリア・ペニテーンス」(GALLIA POENITENS 悔悛のガリア)とそっくりです。

 図像に表現されるキリスト教の聖女は、ほとんど全員が髪をヴェールで隠しています。例外はマグダラのマリアで、女性としての魅力を誇示するかのような長く美しい髪を露出した姿に描かれます。いっぽうフランスの擬人化であるガリアは、図像においてヴェールを被りません。ガリアがヴェールを被らない理由は、実在の聖人でないゆえにキリスト教図像学の慣習に縛られないせいでもありますが、何よりもまず、当時の人々が、信仰から離れて無軌道な行いを繰り返したガリアを、マグダラのマリアになぞらえたためでしょう。下の画像二例において、長く美しい髪のガリアが悔悟する姿は、マグダラのマリアにそっくりです。


(下・参考画像) イエズスの聖心モンマルトルのサクレ・クール教会を捧げるガリア。アンリ・シャピュ (Henri Chapu, 1833 - 1891) の浮き彫りによるメダイ。当店の商品




(下・参考画像) フォトグラヴュールによる第一次大戦期の小聖画。ガリアはキリストの前に跪き、憐れみと援けを乞うています。ガリアの髪にはコロナ・キーウィカが見えます。当店の商品





 それゆえこのオラトワールは、実在の聖人であるマグダラのマリアに執り成しを願うに加えて、イエズスの聖心に対して悔悟の涙を流すガリアをも想起させる二重の役割を有します。

 聖心の信心を広めるにあたって最も功績があった17世紀の修道女、マルグリット=マリは、フランス革命のちょうど百年前に当たる1689年にキリストの啓示を受け、フランスの回心を呼び掛ける手紙を、当時の国王ルイ14世に送りました。しかし聖女の手紙とキリストの啓示は無視されて、カトリック教会の長姉であるべきフランスは、フランス革命をはじめとする堕落に堕落を重ねました。

 マルグリット=マリに与えられた1689年の啓示は、マルグリット=マリの列福から三年後の 1867年8月、聖女が修道院長に宛てた第98書簡が公開されてようやく明らかになりました。この三年後の 1870年、フランスは普仏戦争に敗れ、続いてコミューンの混乱により社会秩序が崩壊します。当時の人々はこの事態を、神がプロイセンを使ってフランスを罰し給うたのだと考え、フランス各地に聖心(サクレ=クール)教会が建設されるなど、社会に信仰が復興しました。

 本品はそのような時代に制作されたもので、悔悟の涙を流す娼婦マドレーヌ(マグダラのマリア)に、神の御前に跪いて赦しを請うガリアの姿が重ね合わされています。オラトワール上部において天上から降(くだ)り、まさにマドレーヌに与えられようとしている聖霊と天上の冠には、悔悟するガリア(フランス)に信仰が復興し、神がフランスを祝福したまうようにとの願いを読み取ることができます。





 本品はごく小さなサイズで、飾る場所を選びません。アンティーク工芸品としての美しさに加え、フランス精神史の実物資料としての価値を兼ね備えます。   





本体価格 11,800円 販売終了 SOLD

電話 (078-855-2502) またはメール(procyon_cum_felibus@yahoo.co.jp)にてご注文くださいませ。




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