聖水入れを兼ねた三翼式オラトワール O. リュフォニー作「聖母子」による美しい作品 壁掛け式・自立式両用 102 x 62 mm フランス 二十世紀初頭頃


突出部分を含むサイズ 縦 102 x 横 62 mm

聖水入れを含む奥行 38 mm

脚を最も大きく展開して自立させたときの奥行 68 mm


フランス  二十世紀初頭頃



 昔のヨーロッパの家庭の一角、コアン・ド・デュに、十字架や聖像とともに置かれていた信心具、オラトワール(oratoire)。銀でめっきした薄いブロンズ板に打ち出し細工を施しています。観音開きの戸が付いた「トリプティーク」(triptyque 三翼型)で、扉を開けると O. リュフォニーによる聖母子のメダイユが現われます。





 本品は高さ約十センチメートル、幅約六センチメートルの本体下部に、聖水入れを取り付けています。本体の背部には金属棒を曲げた脚が付いており、これを展開するとオラトワールを自立させることができます。また本体の背部には孔があり、壁などの釘に掛けてオラトワールを垂直面に固定することもできます。

 聖水入れを含め、オラトワールの全体は細密な打ち出し細工が施されています。本体の意匠は盛期ゴシック様式の聖堂扉口を模(かたど)り、向かって左の扉にはサクレ=クール(仏 le Sacré-Cœur 聖心)を示すイエス・キリストを、向かって右側の扉には汚れなき御心を示す聖母マリアを、それぞれ打ち出しています。





 聖母像の下にある唐草風模様は、"AM" のモノグラム(合字)に似ています。"AM" のモノグラムは「アウスピケ・マリアエ」(AUSPICE MARIAE ラテン語で「マリアの庇護により」の意)を表し、フランス製シャプレ(仏 chapelet ロザリオ)のクール(仏 cœur センター・メダル)の意匠、あるいはメダイユの図柄として頻用されます。

 聖母像の下にあるものと類似した唐草風模様は、イエス像の下にも刻まれています。しかしながらこちらの模様は十字架を中心にして槍や海綿の棒、松明を束ねたアルマ・クリスティ(羅 ARMA CHRISTI 受難の道具)に見えます。





 観音開きの扉を開くと、円形メダイユに打ち出された聖母子が現れます。

 観音開きの扉を有する祭壇画を、フランス語で「トリプティーク」(仏 triptyque)といいます。「トリプティーク」の語源はギリシア語「トリプテュコス」(希 τρίπτυχος)で、この語は「プテュケー」(希 πτυχή 重なる層の一つ)の語幹の前に接頭辞「トリ」(希 τρί- 三)を、後ろに形容詞・名詞語尾を付けたものです。すなわち「トリプテュコス」は「三重になったもの」という意味ですが、日本語では「三翼祭壇画」と訳しています。トリプテュコスやトリプティークの中央パネルは「翼」(よく)ではないので、これを「三翼」と訳するのは適切でないように思いますが、美術史ではこの訳語が定着しています。本品では両翼の外側パネルに「サクレ=クールを示すイエス」と「汚れなき御心を示す聖母」が、中央パネルには聖母子が、それぞれ描き出されていることになります。

 円形メダイユに打ち出された聖母子は、十九世紀末から 1930年頃まで活躍したフランスのグラヴール(仏 graveur メダイユ彫刻家)、O. リュフォニーの作品です。O. リュフォニーのサインは、聖母像の背景部分、向かって右下に刻まれています。リュフォニーは丸彫りと浮彫の両分野に優れた作品を残した芸術家で、信心具としてのメダイユ、いわゆるメダイにも多くの作例が見られます。





 本品の聖母子は、キリスト教図像学の伝統的様式に従っています。すなわち聖母は幼子を左腕に抱き、イエスこそが救いに至る道であることを世の人々に示しています。幼子は左腕を斜め下に伸ばして掌を前に向け、世の罪びとを招いています。幼子の右手は祝福の仕草を表しています。

 救いに至る道としての幼子イエスを世に示す聖母を、「ホデーゲートリア」(希 ὁδηγήτρια)と呼びます。「ホデーゲートリア」とはギリシア語「ホデーゲーテール」(希 ὁδηγητήτρ = ὁδηγός 道案内人)の女性形で、「道を示す女」という意味です。一般的な「ホデーゲートリア」型の聖母は、図像を見る人をまっすぐに見つめています。しかしながらこの作品において、幼子はまっすぐに前を見る一方で、聖母は視線を斜め上方に逸(そ)らせています。

 聖母は若く美しく、その口元には微笑みがあります。しかしながら幼子イエスによる救世は、救い主が十字架上に刑死するという想像を絶する様態において達成されました。本品のような宗教的図像は、歴史画とは違い、時間軸に束縛されない宗教的観念を表します。本品の扉に打ち出された像において、イエスの聖心には十字架が突き立てられ、茨の冠が心臓を取り囲んでいました。また聖母像の心臓は、悲しみの剣に貫かれていました。したがってイエスの幼さ、聖母の若さに関わらず、メダイユに打ち出された母と子は、それぞれを待ち受ける運命を知っているのです。まっすぐ前方を見ずに視線を逸らせた聖母の姿は、マリアが母として抱かざるを得ない圧倒的な悲しみを思わせ、見る者の心を締め付けます。





 本品は数十年ないし百年も前のフランスで制作された真正のアンティーク品ですが、保存状態は極めて良好です。美観上、実用上とも如何なる問題もありません。聖水入れには大きなサイズの作例が多いですが、本品は小さいのでどこにでも飾れます。





本体価格 14,800円 販売終了 SOLD

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