名品 「よきすすめの聖母」と「聖心の聖母」 優れた彫刻によるアルミニウム製大型メダイ 直径 32.8 mm


突出部分を除く直径 32.8 mm  最大の厚さ 4.5 mm


フランス  十九世紀末から二十世紀初頭



 百年以上前のフランスで制作された美麗な聖母子のメダイ。当時はまだ見かけることが少なかったアルミニウムを使って制作されており、直径 32.8ミリメートル、厚さ 4.5ミリメートルという立派なサイズです。一方の面には「よき勧めの聖母」を、もう一方の面には「聖心を示すキリスト」を、いずれもたいへん立体的な浮き彫りで表しています。「聖心を示すキリスト」の面には、いわば隠れたテーマとして、「聖心の聖母」が示唆的に取り上げられています。

 「よき勧めの聖母」は有名な聖画像であり、筆者(広川)はこれをテーマに制作されたメダイを幾つも見てきていますが、なかでも本品は最高の作品です。彫刻の出来栄えにおいても、メダイユ全体に籠められた意味の深さにおいても、類品をはるかに圧倒しています。


 ジェナッツァーノの聖堂に安置されている「よき勧めの聖母」


 よき勧めの聖母はローマの中心部からおよそ40キロメートル東、ジェナッツァーノ(Genazzano ラツィオ州ローマ県)にある聖画像です。聖母子は、共に戴冠し、天上の栄光に包まれています。聖母は幼子イエスを左腕に抱いていますが、これは聖母が天国においてイエスの右(すなわち、向かって左)に座することを表します。幼子イエスが両腕で母の首元を抱き、母子が顔を寄せて睦み合うさまは、普通の親子と変わらない愛情の通い合いを描いて、見る者に親しみと共感を覚えさせます。

 ジェナッツァーノの聖堂にある「よき勧めの聖母」の実物は、壁から剥離した二次元のフレスコ画です。しかしながら本品は立体的な浮き彫りにより、二次元の聖母子像に三次元性を与え、あたかも生身の聖母子を眼前に見るかのような臨場感を以て再現しています。すなわち本品はジェナッツァーノの聖母子像の単なる複写ではなく、メダイユ彫刻というメディウム(媒体)によって、「よき勧めの聖母」に新たな生命を吹き込んだ芸術品であるといえます。メダイの縁に近い部分に、「よき勧めの聖母」に執り成しを求めるフランス語の祈りが刻まれています。

  Notre-Dame du Bon Conseil, priez pour nous !  よき勧めの聖母よ、われらのために祈り給え。





 本品の浮き彫りに見られる特徴は、「身近な聖母子」と「威厳ある聖母子」を両立した作品に仕上がっていることです。

 聖画や聖像が果たすべき機能にはふたつあって、ひとつは「描かれるキリストや聖母子、聖人を、現実の存在として身近に感じさせる」こと、もうひとつは「聖なるものの威厳と力、崇高さ、近寄りがたさを感じさせる」ことです。第一の機能は「卑近さ」や「日常性」と、第二の機能は「崇高さ」や「宗教性」と、それぞれ親和的です。これら二つの機能は、多くの場合、互いに排斥し合います。「親しみやすさ」を主眼に制作された聖画像もあれば、「聖なるものの威厳と力、崇高さ、近寄りがたさ」を主眼に制作された聖画像もありますが、これらの機能あるいは特性を両方とも備える聖画像は稀です。

 本品を「よきすすめの聖母」の原画と比べると、立体的な浮き彫りが生身の聖母子を眼前に見るかのような臨場感を与えるとともに、市井の母子を描いたように写実的な描写が親しみを感じさせます。聖母子の顔かたち、とりわけ幼子イエスの頭部は、表情や髪が原画に比べていっそう子供らしく愛らしく描かれています。また「よきすすめの聖母」の原画において、衣やヴェールは単純な面として描かれていますが、本品の浮き彫りは流れるように自然な襞を表現し、「いま眼前におられる聖母子」の愛と働きをまざまざと感じさせます。





 その一方で、本品からは聖画像にふさわしい宗教性も失われていません。「よきすすめの聖母」の原画に描かれた聖母はイエスに視線を注いでいますが、メダイに浮き彫りにされた聖母の視線はイエスを越えた彼方に向かい、永遠の相の下に、イエスの公生涯に起こる出来事を見つめています。

 聖母の後光には、原画には無い星が描かれています。は「民数記」 24章17節においてダヴィデの子孫から出るメシア(キリスト)を表します。クレルヴォーの聖ベルナール (St. Bernard de Clairvaux, 1090 - 1153) は、説教集「デー・ラウディブス・ウィルギニス・マトリス」("DE LAUDIBUS VIRGINIS MATRIS" ラテン語で「処女なる御母の称讃について」の意)の「第二説教」第17節において、メシアを産んだ聖母自身をこの星に譬えました。本品を制作した彫刻家は、聖母の後光に星を、イエスの後光に十字架を彫っています。マリアが産んだ子はメシア(キリスト)であったわけですが、メシアであるイエスは十字架上に刑死するという最も考え難い方法で救世を達成し給うたゆえに、マリアはこの上もない悲しみと苦しみを経験することになります。この浮き彫りのイエスは、マリアの胸元に添えた左手の人差し指を伸ばし、祝福の仕草をしています。幼子イエスはこの上ない悲しみと苦しみに耐えようとする聖母を祝福しているのです。




(上) 「よき勧めの聖母」のヴァリエーション。いずれも19世紀中頃から20世紀前半のフランス製小聖画。


 したがって本品は聖母子の「親しみやすさ」を強調的に表しつつ、「崇高な宗教性」をも併せて表現することに成功しています。「よき勧めの聖母」の図像にはさなざまなヴァリエーションがありますが、聖母がイエスを越えて遠くを見据え、イエスの手が聖母を祝福する形となっている作例は極めて稀(まれ)です。筆者(広川)がこれまでに目にした「よきすすめの聖母」のなかで、本品はこのような表現がされた唯一の作例です。





 もう一方の面には、もう一方の面の「よき勧めの聖母」と同様に優れた立体性を有する浮き彫りで、聖心を示すキリストが表されています。十字架を突き立てられ、茨の冠に取り巻かれ、脇の槍傷から血を流すキリストの聖心は、人知を絶する強さの神の愛ゆえに炎を噴き上げ、強烈な光輝を発しています。キリストは痛々しい釘の痕がある左手で聖心すなわち愛を示し、右手を差し伸べて罪びとを招いています。キリストを囲むように、フランス語の祈りが刻まれています。

  Aimé soit partout le Sacré Cœur de Jésus.  イエスの聖心があまねく愛されますように。

 「イエスの聖心があまねく愛されますように」(Aimé soit partout le Sacré Cœur de Jésus.) というのは、イスダンの「聖心の聖母姉妹会」(les Filles de Notre-Dame du Sacré-Cœur) を創設したジュール・シュヴァリエ神父 (le Père Jules Chevalier, 1824 - 1907) の言葉です。したがって本品は「よき勧めの聖母」のメダイであると同時に、「聖心の聖母」(Notre-Dame du Sacré-Cœur) のメダイをも兼ねていることがわかります。




(上) 細密グラヴュールによる日本風文様のカニヴェ 「聖心の聖母」 101 x 64 mm フランス 1880 - 90年代 当店の商品です。


 上の画像は百数十年前のフランスで制作された聖心の聖母のカニヴェで、裏面には「メモラーレ」(MEMORARE ラテン語で「憶え給え」の意)の祈りがフランス語で書かれています。内容は次の通りです。日本語訳は筆者(広川)によります。

SOUVENEZ-VOUS    憶え給え 
     
 ô très-miséricordieuse Vierge Marie, qu'on n'a jamais entendu dire qu'aucun de ceux qui ont eu recours à votre protection, imploré votre secours et solicité vos prières, ait été abandonné.
   いとも憐れみ深きおとめマリアよ。御身の庇護に頼り、御身に援けを求め、御身の祈りを乞うる者が、一度たりとも見棄てられた例(ためし)を、耳にしたことはありません。
 Animé d'une semblable confiance, je cours vers Vous, Vierge des vierges, Notre Mère, et gémissant sous les poids de mes péchés, je me prosterne à vos pieds.    それゆえ私は信仰に勇気付けられ、御身の許へと逃れます。おとめたちのなかのおとめ、我らの御母よ。重き罪を背負って嘆きつつ、御足もとに身を投げ出します。
 O Mère du Verbe incarné, ne rejetez pas ma prière, mais écoutez-la favorablement et daignez l'exaucer. Ainsi soit-il.    受肉し給える御言葉の御母よ。わが祈りを拒み給わず、優しく耳を傾け給い、畏くも聞き届けたまえ。アーメン。


 苦しむ者が「聖心の聖母」に捧げるこの祈りは、本品の「よきすすめの聖母」においてマーテル・ドローローサ(悲しみの聖母)を祝福する幼子の仕草と重なります。聖母は大きな苦しみと悲しみを知り給うがゆえに、聖母にすがる者の苦しみと悲しみも理解し給い、幼子イエスが聖母に寄り添って祝福を与え給うたのとちょうど同じように、苦しみ悲しむ者に寄り添って恩寵と祝福を与え給うのです。





 1864年9月18日、マルグリット=マリがピウス9世によってローマで列福され、さらに1867年8月にマルグリット=マリの「第98書簡」が公開されたことで、フランスではイエスの聖心への信心が非常に盛んになりました。19世紀後半から20世紀前半のフランスは「悔悛のガリア」(Gallia Pœnitens) の時代です。ジュール・シュヴァリエ神父の祈りを刻むことによって「聖心の聖母」のテーマを併せ持つ本品には、この時代のガリア(フランス)におけるカトリック信仰が色濃く投影されています。

 本品は百年以上前のフランスで制作された真正のアンティーク品ですが、古い年代にもかかわらずきわめて良好な保存状態です。いずれの面の浮き彫りも芸術性に優れ、またきわめて立体的ですが、突出部分に磨滅は見られず、細部まで完全な状態で残っています。美術工芸品と呼べる水準に十分に到達した浮き彫り彫刻であるとともに、19世紀末から20世紀初頭のフランスの精神状況を色濃く反映した貴重な実物資料でもあります。





本体価格 15,800円

電話 (078-855-2502) またはメール(procyon_cum_felibus@yahoo.co.jp)にてご注文くださいませ。




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