五つの部品から組み立てたメダイヨン(ロケット)状メダイ。巡礼の象徴であるイタヤガイを模(かたど)ります。貝は小さいサイズながらたいへん写実的で、正しい角度で取り付けられた翼耳(靭帯が付く部分)、細かい平行線を伴う放射肋、三本の成長肋が、本物の貝さながらに再現されています。
イタヤガイの両面を、上部の孔を支点にして回転させるようにずらせると、平坦な側の裏面に、銀の純度を示す "925" の刻印が現れます。
純度の刻印の裏側には、聖心を示すイエス・キリストが浮き彫りにされています。イエスは愛の炎を噴き上げる聖心を左手で示しつつ、右手を挙げて祝福を与えています。その両手には大きな釘の孔が開いています。キリストの浮き彫りはたいへん良くできていますが、全体の高さは
10ミリメートル、顔の高さは 2ミリメートルあまりに過ぎません。
カタルニャ(カタロニア)の守護聖女、ヌエストラ=セニョラ・デ・モンセラート(モンセラートの聖母)が現れます。聖母の浮き彫りは、キリスト像、イタヤガイと同様にたいへん写実的です。聖母が彫られている円形メダイの直径は 9ミリメートルと小さなサイズですが、頭部のみをズームアップした大胆な構図により、力強い作品に仕上がっています。
ヨーロッパに広く分布する「黒い聖母」は神秘的で、ときには恐ろしげに見える聖母さえありますが、「ラ・モレネタ」または「ラ・モレニタ」(La Moreneta/Morenita 黒い乙女)の愛称で呼ばれるモンセラートの聖母は優しい微笑みを浮かべた穏やかな顔立ちで、本品の聖母も表情に優しさが溢れています。聖母の周囲には「サンタ・マリア・デ・モンセラート」(Santa
María de Montserrat スペイン語で「モンセラートの聖マリア」)と書かれています。
本品は真正のヴィンテージ品ですが、古い品物にもかかわらず、特筆すべき瑕疵(かし 欠点)はありません。突出部分も磨滅せず、制作されたままの状態で残っています。凹部に見られるパティナ(古色)が、ヴィンテージ品ならではの趣を醸(かも)しています。硫化銀の黒ずみを除去したい場合は、ブラシに練り歯磨きを付けて軽くこすれば、簡単にクリーニングできます。