特徴的なシルエットを有する大型の銀製メダイ。カタルニャ(カタロニア)の守護聖女、ヌエストラ=セニョラ・デ・モンセラート(モンセラートの聖母)を浮き彫りにしています。
表(おもて)面中央にある長方形の画面には、モンセラートの峨峨(がが)たる岩山を背景に、戴冠した聖母子像を大きく表します。聖母子は豪華な刺繍に飾られた衣を身にまとい、聖母の膝に抱かれた幼子イエズスは小さな冠を、聖母は後光と一体化した巨大な冠を、それぞれ頭上に戴いています。ヌエストラ=セニョラ・デ・モンセラートは
1861年、スペインの聖母像としてはじめて正式に戴冠しました。本品は聖母の戴冠後、あまり時間が経たない時代の巡礼記念の品です。
メダイの制作方法には、貨幣と同様の「打刻」による場合と、美術メダイユと同様の「鋳造」による場合があります。20世紀初頭までのメダイは、多くの場合、打刻によって制作されますが、本品は鋳造されています。打刻によるメダイの浮き彫りは貨幣の場合と同様にごく浅いものとなりますが、本品は鋳造されているゆえに、ヌエストラ=セニョラ・デ・モンセラートの浮き彫りは立体的で、小品ながら迫力のある作品に仕上がっています。
長方形の画面は特徴的なシルエットを有する薄板状の部分に囲まれ、薄板の部分には放射状の文様が彫られています。この放射状文様はビュラン(彫刻刀)を用いてひとつひとつ手作業で彫ったもので、古い時代の銀製メダイにしばしば見られる特徴です。写真では良く分かりませんが、メダイの実物を手に取ると、ビュランの痕(あと)がきらきらと輝きます。それゆえ本品の放射状パターンはモンセラートの聖母から発する恩寵の光を表したものと考えられますが、様式化が進んだ植物文様のようにも見えます。裏面にはスペイン語の略記で「ヌエストラ=セニョラ・デ・モンセラート」(Nuestra-Señora
de Montserrat モンセラートの聖母)と刻まれています。
本品は19世紀後半のスペインで制作された真正のアンティークメダイですが、非常に古い品物であるにもかかわらず、突出部分の磨滅はごく軽微で、図像の細部までよく残っています。特筆すべき瑕疵は何も無く、たいへん良好なコンディションです。