スペインとスペイン系諸国民の守護聖女、サラゴサのヌエストラ=セニョラ・デル・ピラル(柱の聖母)の大型メダイ。
材質はブロンズで、貴金属(銀)ではありませんが、たいへん大きなサイズであり、社会が保守的な安定期に入った時代に制作されたものと判断できます。それゆえ本品の制作年代は、スペインがキューバとフィリピンを失った米西戦争の痛手から立ち直り、次の不安定期を迎えるまでの間、具体的にいえば国王アルフォンソ十三世が親政を開始した1902年から、1908年頃まででしょう。ヌエストラ=セニョラ・デル・ピラルは 1904年5月20日、サラゴサ大司教フアン・デ・ソルデビジャ師(Juan de Soldevilla, 1843 - 1923)によって戴冠されました。たいへん立派なサイズの本品は、この頃に作られたものと考えられます。
メダイの一方の面にはジャスパー(瑪瑙)の柱上に立つヌエストラ=セニョラ・デル・ピラルの細密な像を打刻しています。聖母は眩い光を放つ冠を被り、左腕に抱いた幼子イエスを「救いに至る道」として人々に示しています。
幼子は右手で聖母のヴェールをつかみ、左腕にはゴシキヒワを留まらせています。ゴシキヒワはあざみの種子を好んで食べるので、スペイン語では「カルド」(cardo あざみ)に由来して「カルデリナ」(cardelina あざみ鳥)と呼ばれています。あざみをはじめ、棘のある植物は、人の罪を象徴します。したがってあざみを食べて取り除くゴシキヒワは、贖い主イエス・キリストの象徴です。
聖母子に向けたスペイン語の祈りが、浮き彫りを取り囲んでいます。
Nuestra-Señora del Pilar, rogad por nosotros. 柱の聖母よ、我らのために祈り給え。
上の写真に写っている定規のひと目盛は、一ミリメートルです。聖母と幼子の顔や手足は一ミリメートル以下のサイズですが、均整がとれた仕上がりです。衣の襞も自然であり、実物の聖母像「柱の聖母」を忠実に写しています。
もう一方の面には聖母像を安置した礼拝堂の全体を、きわめて細密な浮き彫りで再現しています。浮き彫りの周囲にはスペイン語で「サンタ・カピジャ・ヌエストラ=セニョラ・デル・ピラル」(Santa
Capilla Nuestra-Señora del Pilar 柱の聖母の聖なる礼拝堂)と刻まれています。
上の写真はスペインの古い絵葉書で、ヌエストラ=セニョラ・デル・ピラルの礼拝堂内部を写しています。中央にある大きなものは聖母を表したパロック彫刻です。「柱の聖母」は上の写真の右端に写っています。
上の写真に写っている定規のひと目盛は一ミリメートルです。柱の聖母は礼拝堂の奥、バロック彫刻の右後方に安置されています。柱の聖母をはじめ、複雑な装飾を施した礼拝堂の各部が、一ミリメートル以下の驚異的な精密さで表現されています。
本品は 1905年にヌエストラ=セニョラ・デル・ピラルが戴冠した際の記念品と思われます。百年以上前のスペインで制作された真正のアンティーク品ですが、保存状態は極めて良好です。特筆すべき問題は何もありません。大きめのサイズゆえに男性にも使い易いですし、薄く軽量に作ってあるので女性にもご愛用いただけます。