極稀少品 マティアス・ニコラ・マリー・ヴィヴィエ作 《全ての人の御母なる聖母 41.7 x 33.0 mm》 愛の光の大型メダイユ フランス 1830 - 50年代


突出部分を含むサイズ 縦 41.7 x 横 33.0 mm  最大の厚み 3.3 mm

重量 16.8 g



 楕円形画面いっぱいに古典的な聖母子像を浮き彫りにした美しい作品。フランスの高名な彫刻家マティアス・ニコラ・マリー・ヴィヴィエによる古典的なメダイユです。素材は真鍮(黄銅)で、優しい金色の輝きを放っています。重量 16.8グラムは五百円硬貨一枚と百円硬貨二枚の計三枚を合わせたよりも僅かに大きく、手に取ると心地よい重みを感じます。





 本品に浮き彫りにされた聖母はキリスト教の伝統的イコノロジーに従ってヴェールで髪を隠し、高貴な身分を思わせる大きなマントを身に着けています。その一方で聖母は体の右側(向かって左側)に幼子を抱いています。通常の宗教画において、聖母は幼子を左側(向かって右側)に抱きます。ルーヴルにあるロレンツォ・ヴェネツィアーノの聖母子は本品と同様に母子の位置が逆ですが、このような作例はあまり存在しません。マティアス・ニコラ・マリー・ヴィヴィエは古典的な聖母を描きながらも、母子の左右を逆転させ、宗教美術における既成の型にこだわらない作品を制作しています。


(下) Lorenzo Veneziano, "Vierge à l'Enfant" (détails), 1372, tempera et or sur bois, Musée du Louvre




 ニ世紀末頃の成立と考えられる新約外典に、「トマスによるイエスの幼時物語」という書物があります。この書物は教父エイレナイオス (Irenaeus, c. 130 - 202) の著作に言及があり、ギリシア語のほか、ラテン語、シリア語、エチオピア語、古スラブ語等の写本が見つかっていることから、かなり広い範囲で流布していたことがうかがえます。荒唐無稽な内容のこの外典において、少年イエスは少しでも気に入らないことがあるとすぐに人を呪い殺すような神通力の怪童として描かれ、当時過酷な迫害を受けていたキリスト教徒たちは、これを読んで溜飲を下げたのだろうと思います。

 しかし実際のイエスは決して怪童などではなく、ゼルマ・ラーゲルレーヴの作品に描かれているように、純粋無垢なごく普通の少年であったはずです。イエスは神であるとともに完全な人間(まったくの人間)でもあり、受肉したイエスは普通の人間の幼児と同様に、知恵においても少しずつ成長されました。福音記者ルカが「イエスは知恵が増し、背丈も伸び、神と人とに愛された」(ルカ 2:52)と書くとき、温かい家庭で両親の愛情に包まれて、健全に育ってゆくひとりの男の子の姿が思い描かれます。





 キリスト教の教義によると救世主イエスは三位一体の第二位格「子なる神」である一方、全くの人間でもあります。かといってイエスは半神ではありません。これもまた人間の知性では理解しがたいことですが、イエスは神でもあり、同時に全くの人(ふつうの人間)でもあるのです。イエス・キリストにおいて、神性と人性は混合せず、分離せず、ひとつの実体を為します。神学では、これをキリストにおける神人二性のウニオー・ヒュポスタティカ(羅 UNIO HYPOSTATICA 位格的結合)と呼んでいます。

 要するに子供時代のイエスはまったく普通の子供でした。生まれながらの英雄や半神のような異常児では決してなく、ときにはいたずらが過ぎて大人に叱られる普通の男の子だったのです。本品の浮き彫りはあたかも美しいもの、面白いものを見つけた母と子が共に目を向けるかのようで、その仕草はどこにでもいる普通の母子と異なりません。本品浮き彫りには宗教美術にありがちな生硬さが全く感じられず、どこから見ても地上の母と子であった聖母子の姿を再現し、親しみを持たせる作品に仕上がっています。

 メダイ下部の左寄りに、メダイユ彫刻家のサイン(VIVIER F.)があります。エフ(F)は名前のイニシアルではなく、ラテン語フェーキット(FECIT)の略記です。フェーキットはファキオー(FACIO 作る)の直説法完了能動相三人称単数という形で、「作った、制作した」という意味です。ヴィヴィエ・フェーキットは「ヴィヴィエ作」という意味です。




(上) JEAN-BAPTISTE ROUSSEAU, 1819, bronze, diameter 41.1 mm, Given by Madame R. de Benitua, the Victoria and Albert Museum




(上) NUTRIX QUOQUE MATER, 1831, bronze, diamètre 35,1 mm (médaille pour la maison centrale des nourrices, 2 exemplaires, Numéros principaux : OAP 2981 et OAP 2982), Musée du Louvre




(上) NAPOLÉON LE GRAND, 1836, bronze, diamètre 25 mm (médaille pour l'Inauguration de l'Arc de triomphe en 1836, Numéro principal : OAP 3044), Musée du Louvre


 マティアス・ニコラ・マリー・ヴィヴィエ(Mathias Nicolas Marie Vivier, 1788 - 1859)は十九世紀前半のフランスで活躍した最も重要なメダイユ彫刻家のひとりで、多数の重要な作品が美術館に収蔵されています。ルーヴル美術館は上に示した二種類のヴィヴィエ作メダイユを保存しており、一点目はパリ、サント=アポリーヌ通りにあった乳児愛誤院(la maison centrale des nourrices)のメダイユで、「母も子を養う」(羅 NUTRIX QUOQUE MATER)と刻まれています。この作品はカルナヴァレ美術館にも一点収蔵されています。二点目は 1836年のパリ凱旋門落成記念メダイユで、ナポレオン一世の横顔を刻んでいます。




(上) HONNEUR À LA MÈRE DE NOTRE HENRI, vers 1820, bronze, diamètre 37 mm (médaille en l'honneur de la duchesse de Berry, mère du duc de Bordeaux, Numéro principal : ND4070), Musée Carnavalet, Histoire de Paris




(上) JULES FRANÇOIS DE SIMONY, ÉVÊQUE DE SOISSONN ET LAON, 27 avril 1852, bronze, diamètre 37 mm, Musée Carnavalet, Histoire de Paris


 カルナヴァレ美術館は乳児愛護院のメダイユ一点に加えて、上の二点を収蔵しています。一点目はベリー公夫人マリ=カロリーヌ(Marie-Caroline de Bourbon-Siciles, 1798 - 1870)のメダイユで、銘にあるアンリとはマリ=カロリーヌの第一子ボルドー公アンリ(Henri d'Artois, 1820 - 1883のことです。アンリの父であるボルドー公シャルル=フェルディナン(Charles-Ferdinand d'Artois, duc de Berry, 1778 - 1820 シャルル十世の次男)は、アンリが生まれる四か月前に暗殺されました。幼いボルドー公は暗殺された父の胸像に手を伸ばしています。この作品はヴィヴィエによる最初期の作品で、人物の表現に生硬さが見られます。

 二点目はソワソンとランの司教ジュール=フランソワ・ド・シモニー師(Mgr. Jules-François de Simony, 1770 - 1849)の追悼メダイユで、師の墓所であるソワソン司教座聖堂に大理石像が完成した記念に制作されました。大理石像の作者はドニ・フォワヤチエ(Denis Foyatier, 1793 - 1863)です。




(上) LEOARDUS VINCIUS, 1825, bronze, diamètre 42 mm, Münzkabinett (Aus der Serie Numismatica Universalis Virorum Illustrium, Suite von Pierre Amédée Durand, 1789 - 1873, Paris)


 ドレスデンの貨幣メダイユ博物館は、レオナルド・ダ・ヴィンチを刻んだヴィヴィエのメダイユを収蔵しています。


 世界の主要な美術館が収蔵するヴィヴィエ作メダイユの制作年代は 1819年から 1852年です。首から上の横顔を大きく刻んだ肖像メダイユの場合、制作年代の作風の違いは目立ちませんが、全身像の場合は画面の雰囲気が大きく異なります。





 聖母子をどこにでもいる母と子として表現することに成功した本品は、円熟期のヴィヴィエによる作品です。制作年代は 1830年代から 50年代でしょう。本品のいま一つの特徴は、ブロンズ(青銅)ではなく真鍮(黄銅)が素材に使われていることです。そのため本品の聖母子は柔らかな金の光に包まれています。

 聖母子を包む柔らかな光は、「ルカによる福音書」の上記引用箇所にあるカリス・テウゥ(希 χάρις θεοῦ 神の恵み)の可視的表現です。「神の恵みに包まれていた」(ルカ 2:52)という新共同訳は意訳で、この部分のギリシア語原文(χάρις θεοῦ ἦν ἐπ' αὐτό.)を直訳すると、「神の恵みは彼(イエス)の下にあった」「神の恵みが彼を支えていた」となりますが、聖母子像をともに包み込む柔らかな光は神の愛と恩寵をよく表しています。


 「イザヤ書」六十六章十八、十九節の引用と思われる言葉が、聖母子を取り巻くように刻まれています。

  Les nations publieront Votre gloire.  諸国の民は御身の栄光を目にします。





 本品の裏面には次の言葉がフランス語で記されています。

     Les prière d'une mère telle que Vous ne seront pas rejetées.     御身の如き母の祈りが拒まれることはありません。

 この言葉の上にある星の環は、ボッティチェリがマーグニフィカトの聖母に被せた冠です。数多くの星々は、救いを求めて聖母を取り巻くすべての人々を表します。


 聖母マリアは慈愛に満ちた悲母(優しい母)であり、大きなマントを広げて罪ある者を匿い、神に執り成し給います。ミケランジェロがシスティナ礼拝堂に描いた壁画においても、最後の審判に際して怒れるイエスが罪人たちを容赦なく永遠の滅びに定める傍らで、聖母は最後まであきらめずに執り成しを続けておられます。福音書の中でイエスは時に厳しい顔を見せ給いますが、聖母はどこまでも優しい女性としてイメージされ、皇帝や国王から庶民に至るまであらゆる人の母となりました。





 上の写真は本品を男性店主の手に載せて撮影しています。女性が本品の実物をご覧になれば、写真で見るよりもひと回り大きなサイズに感じられます。





 本品は百七十ないし百八十年前のフランスで制作された真正のアンティーク・メダイユで、後世のレプリカ(複製品)ではありません。ヴィヴィエの作品はほとんどが偉人の横顔を彫った肖像メメダイユで、ルーヴルやカルナヴァレ美術館に収蔵されている作品がそれにあたります。いずれの作品も年代が古いだけに美術館での収蔵がふさわしい稀少品ですが、とりわけ珍しいのはヴィヴィエが制作した信心具のメダイユで、筆者(広川)は本品しか見たことがありません。おそらく二度と手に入らない作品で、手許に残しておきたいのはやまやまですが、気に入ったものは売らないとなると売るものが一つもなくなりますので、本品も価値がお分かりいただける方に手頃な値段でお譲りいたします。お買い上げいただいた方には必ずご満足いただけます。





本体価格 38,800円

電話 (078-855-2502) またはメール(procyon_cum_felibus@yahoo.co.jp)にてご注文くださいませ。




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