稀少な佳品 リュドヴィク・ペナン、ジャン・バティスト・ポンセ作 上智の座の美しき聖母 直径 25.5 mm


突出部分を除く直径 25.5 mm  重量 6.4 g

フランス  1900年頃



 アミアン司教区でひとりの司祭が叙階された際に、司祭の母に対して司教から贈られた記念と感謝のメダイ。





 メダイの表(おもて)面には、幼子イエズスを膝に乗せた聖母の姿が浮き彫りにされています。幼子イエズスと聖母の間には愛情が通い合っているのですが、イエズスはいま聖母に目を向けるよりも、むしろ救いを求める人々の方へ体全体を向け、腕を広げて人々を招いています。目を伏せる聖母の悲しげな横顔は、イエズスを失うことを分かっていながら、神に従う信仰によってその悲しみに耐えていることをうかがわせます。

 新生児イエズスをエルサレム神殿に奉献した際、マリアとヨセフは預言者シメオンから心の痛む預言を聞きました。 この出来事は「聖母の七つの悲しみ」の一つ目とされています。シメオンの預言をルカによる福音書 2章34 - 35節から引用いたします。ギリシア語原文はネストレ=アーラント (NT 27)、日本語訳は新共同訳によります。

     καὶ εὐλόγησεν αὐτοὺς Συμεὼν καὶ εἶπεν πρὸς Μαριὰμ τὴν μητέρα αὐτοῦ, Ἰδοὺ οὗτος κεῖται εἰς πτῶσιν καὶ ἀνάστασιν πολλῶν ἐν τῷ Ἰσραὴλ καὶ εἰς σημεῖον ἀντιλεγόμενον {καὶ σοῦ [δὲ] αὐτῆς τὴν ψυχὴν διελεύσεται ῥομφαία}, ὅπως ἂν ἀποκαλυφθῶσιν ἐκ πολλῶν καρδιῶν διαλογισμοί. ...  シメオンは彼らを祝福し、母親のマリアに言った。「御覧なさい。この子は、イスラエルの多くの人を倒したり立ち上がらせたりするためにと定められ、また、反対を受けるしるしとして定められています。-あなた自身も剣で心を刺し貫かれます-多くの人の心にある思いがあらわにされるためです。」

(下) Rembrandt Harmenszoon van Rijn, Simeon in the Temple (details), 1631, Mauritshuis Royal Picture Gallery, The Hague




 メダイの縁近く、右下付近に、メダイユ彫刻家のサイン (PENIN PONCET) が刻まれています。リュドヴィク・ペナン (Ludovic Penin, 1830 - 1868) とジャン・バティスト・ポンセ (Jean-Baptiste Poncet, 1827 - 1901) は多くの共作を発表しています。本品の制作時期は19世紀末頃であることから、リュドヴィク・ペナンの没後に鋳造された作品であることが分かります。早逝したリュドヴィク・ペナンの作品に、ジャン・バティスト・ポンセが手を加えて完成させたのでしょう。


 ルネサンス期のイタリアでピサネッロが始めたメダイユ彫刻は、フランスに伝わって大きく発達しましたが、アンシアン・レジーム期の作品においては、浮き彫りを背景から物理的に突出させることで立体性を表現しようとする傾向が顕著でした。


(下・参考画像) Guillaume Dupré, "Maria Maddalena of Austria, Grand Duchess of Tuscany (1589-1631)", 1613, bronze, hollow cast. Bowdoin College Museum of Art, Brunswick, Maine




 しかしながらリュドヴィク・ペナンやジュール=クレマン・シャプラン (Jules-Clement Chaplain, 1839 - 1909) をはじめ、19世紀半ば以降に活躍したメダイユ彫刻家たちは、物理的な三次元性に頼らず、人間離れしているとさえ思われる巧みな技術によって、生身の人物や実際の風景を眼前にするかのような奥行きを表現します。





 本品の場合も、実物を手に取っていただければ分かりますが、浮き彫りの背景からの突出は、最も高い部分(聖母の左手)でも1ミリメートル未満です。それにもかかわらず聖母の体の女性らしい丸み、イエズスの体の幼児らしい感触と温かみ、木製の椅子のしっかりとした質感、聖母の衣の柔らかさ、ヴェールの薄絹の透明感など、対象の手触りや温度を余すところなく表現するに留まらず、母子の愛、マリアの信仰と悲しみ、救い主イエズスの愛という目に見えないテーマをも見事に形象化して描き出すメダイユ彫刻家の才能には、驚嘆のあまり言葉を失います。





 メダイの裏面は細かい十字架の連続で周囲を縁取り、次の言葉をフランス語で記しています。

  l'évêque d'Amiens à une mère de prêtre, reconnaissance  アミアン司教から司祭の母へ 尊敬と感謝をこめて

 上の銘からは、アミアン司教区でひとりの司祭が叙階された際に、司祭の母に対して司教から贈られたメダイであることが読み取れます。


 本品表(おもて)面の聖母子像では、幼子イエズスが聖母の膝に乗っています。このタイプの図像は「知恵の座の聖母」あるいは「上智の座の聖母」と呼ばれます。イエズスは普通の人間の幼児と同様に、知恵においても少しずつ成長されました。福音書には「イエスは知恵が増し、背丈も伸び、神と人とに愛された」(ルカ 2:52)と書かれています。聖アンナが少女マリアの善き導き手であったように、マリアは少年イエズスの善き導き手でした。


(下・参考画像) フランソワ=テオドール・リュイエール作 「少女マリアに白百合を授ける聖アンナ」 信仰深き母の鑑、聖アンナのカニヴェ Le plus precieux des dons, Bonamy, pl. 44 当店の商品です。




(下・参考画像) イエズスに読み書きを教えるマリア。イエズスは膝の上で居眠りをしています。15世紀の作品。 Henri Bellechose (fl. 1415), La Vierge a l'ecritoire




 聖母マリアが「知恵の座」(SEDES SAPIENTIAE) と呼ばれるのは、その膝に座るイエズスが「知恵」そのものであるからですが(「集会書」24章26節他)、少し見方を変えれば、聖母が幼子イエズスを導き、知恵を与えたともいえます。

 このメダイに彫られた聖母は、目を伏せて悲しげな横顔を見せつつも、神に従う信仰によってわが子を捧げています。威厳に満ちた「知恵の座の聖母」が多い中、リュドヴィク・ペナンの作品は、別離の悲しみにともすれば沈みそうになる心を信仰で支える聖母を描いているのです。アミアンで司祭に叙階された少年を生み、育て、導いた母に贈るメダイの図柄として、これほどふさわしい作品はありません。





 本品の制作年代は1900年頃ですが、それほど古いものとはにわかに信じ難いまでに優れた保存状態です。メダイの美しさを損なうような磨滅は一切無く、聖母子の表情や、肌、髪、薄絹のヴェール、柔らかな衣など、あらゆる細部が制作当時のままの状態で残っています。サイズの点でも500円硬貨に近い大きさがあり、見応えがある立派な工芸品に仕上がっています。





本体価格 32,800円 販売終了 SOLD

電話 (078-855-2502) またはメール(procyon_cum_felibus@yahoo.co.jp)にてご注文くださいませ。




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