エミール・ドロプシ及びレモン・チュダン作 ロサ・ミスティカとノートル=ダム・ド・フルヴィエール 小さなメダイ 直径 15.4 mm


突出部分を除く直径 15.4 mm

フランス  1940年代後半



 優れたメダイ彫刻家ふたりの共作により、一方の面にはロサ・ミスティカの聖母を、もう一方の面にはリヨンのバシリカ「ノートル=ダム・ド・フルヴィエール」(Basilique de Notre-Dame de Fourvière) に安置されている「リヨンの聖母」を、それぞれ浮き彫りにしたメダイ。





 メダイの一方の面には、限りなく優しい「ロサ・ミスティカ」の横顔を、柔らかいタッチの浮き彫りで表します。 「ロサ・ミスティカ」(ROSA MYSTICA) とはロレトの連祷にある聖母マリアの称号の一つで、ラテン語で「神秘の薔薇」、「奇(くす)しき薔薇」という意味です。5世紀のラテン詩人セドゥーリウスが「カルメン・パスカーレ」("CARMEN PASCHALE" ) で歌ったように、棘のある繁みから生え出でつつも傷つくことなく美しい薔薇の花は、人祖の妻エヴァと同じく女性でありながらも、エヴァの罪に傷つくことがない無原罪の御宿り、すなわちマリアの象徴です。





 このメダイユにおいて、整った横顔を見せる聖母は、口許にかすかなほほえみをたたえつつ、眼を閉じて、神の愛、神への愛に思いを潜(ひそ)めています。その穏やかな表情は、救世主を産むという大任を果たすように天使ガブリエルから告げられても、いささかも動じなかったマリアの、神への限りない信頼を表しています。




(上・参考画像) ジャン=バティスト・エミール・ドロプシ作 「無原罪の御宿り」 ブロンズ製の自立式メダイユ 直径 55.0 mm 1880 - 1890年代  当店の商品です。


 マリアの右肩の後ろに、ジャン=バティスト・エミール・ドロプシ (Jean-Baptiste Émile Dropsy, 1848 - 1923) のサイン (É. Dropsy) があります。ジャン=バティスト・エミール・ドロプシは、キリスト教美術の分野において、19世紀後半から1920年代初めのフランスで活躍した最も優れたメダイユ彫刻家のひとりであり、やはり高名なメダイユ彫刻家であるアンリ・ドロプシ (Henri Dropsy, 1885 - 1969) の父としても知られています。この美しい「ロサ・ミスティカ」は、ジャン=バティスト・エミール・ドロプシの代表作です。





 もう一方の面には雲の上、天上にあって幼子イエズスを抱くノートル=ダム・ド・フルヴィエール(Notre-Dame de Fourvière フルヴィエール聖母)を浮き彫りにしています。聖母子の衣は母子の一体性を強調するタイプで、豪華な刺繍と宝石による装飾が施されています。聖母子はともに戴冠し、首には十字架を掛けています。さらに聖母の首には神とイエズスへの愛に燃える聖母マリアの汚れ無き聖心が掛けられ、聖母に倣うようにと見る者に呼びかけています。





 聖母子の前にはリヨンを象徴するライオン、背景にふたつの建物が表されています。ふたつの建物はいずれも「ノートル=ダム・ド・フルヴィエールのバシリカ」(Basilique de Notre-Dame de Fourvière) で、向かって左が西側ファサード、向かって右が東側からの眺めです。聖母子の周囲には次の言葉がフランス語で刻まれています。

  Notre-Dame de Fourvière, priez pour nous.  フルヴィエールの聖母よ、我らのために祈りたまえ。

 メダイの縁に近いところには、向かって左側にメダイユ彫刻家レモン・チュダンのサイン (TSCHUDIN)、右側にメダイユ工房のサイン (G. D.) がそれぞれ刻まれています。

 レモン・チュダンはパリの高等美術学校において、ジャン=バティスト・エミール・ドロプシの息子、アンリ・ドロプシに師事し、1945年のローマ賞を受賞しました。宗教をはじめとする様々な分野において、数多くの優れた作品を生み出した彫刻家として知られています。





 上の写真は実物の面積を数十倍ないし百数十倍に拡大しています。定規のひと目盛は 1ミリメートルです。聖母子の顔はいずれも 1ミリメートルに満ちませんが、目鼻立ちが整っているばかりか、罪びとを招く微笑みを浮かべて、限りない神の愛を見る者に伝えています。





 本品はいずれの面も高名な彫刻家の手による作品で、ふたりの作風の違いを活かしつつも調和のとれた仕上がりとなっています。制作時期は、第二次世界大戦の終結から間もない頃です。数々のマリア像のなかでも、高名な彫刻家の手によるとりわけ美しい作品を組み合わせたこのメダイからは、大戦の傷も未だ癒えずに苦しむフランスの人々が、まるで母に甘える幼子のように、優しい聖母を慕い頼る気持ちが伝わってきます。

 「ロサ・ミスティカ」に見られる優しい顔立ちと穏やかな表情は、エミール・ドロプシによる聖母像の特徴です。レモン・チュダンの「ノートル=ダム・ド・フルヴィエール」は驚くべき細密彫刻で、本品が直径 15ミリメートルあまりの小メダイであることを忘れさせます。

 本品は半世紀以上も前のものですが、古い年代にもかかわらず保存状態は極めて良好です。拡大写真を見ると銀めっきの剥がれた箇所が判別できますが、肉眼で実物を見ると新品同様です。





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