稀少品 ノートル=ダム・デュ・ロゼール ロザリオの聖母の大型メダイ ラングドック、ドミニコ会プルイユ女子修道院 直径 25.0 mm


突出部分を除く直径 25.0 mm

フランス  1910 - 30年代



 戦間期頃のフランスで制作されたいと尊きロザリオの元后、ノートル=ダム・デュ・ロゼール(仏 Notre-Dame du Rosaire ロザリオの聖母)の大型メダイ。突出部分を除く直径は二十五ミリメートルで、五百円硬貨とほぼ同じサイズです。





 メダイの一方の面には、プルイユ修道院に安置されている聖母子像が忠実な浮き彫りで再現されています。彫像のマリアは上智の座の聖母で、上智すなわち神の智恵あるいはロゴス(希 λόγος)であるイエスを膝に載せています。





 ユダヤ・キリスト教思想の考えでは、人間の知性は神の属性を捉えることができません。それゆえ神はあらゆる属性を捨象した点になぞらえることができます。空間の点から等距離にある点の集合は、球を為します。それゆえ球は神から発出する被造的世界を象徴します。

 本品に浮き彫りにされた上智の座(聖母)は、左の掌に包み込むように球体を載せています。これは世界が聖母の慈悲に包まれているさまを表します。膝に乗る幼子は球体の上に手を載せています。これは幼子イエスが全宇宙の支配権を有することを表します。





 幼子イエスは世の人々を祝福するために、掌を前に向けて右手を挙げています。幼子の右手にロザリオが懸かっていますが、これはロザリオがイエスの祝福に他ならないことを表します。

 ロザリオで祈る天使祝詞は「アヴェ、マリア」で始まりますが、冒頭のアヴェ(羅 AVE)はギリシア語で言えばカイレ(希 Χαῖρε)で、「喜べ」という意味です。このカイレは七十人訳「ゼファニア書」 3章14節及び「ゼカリア書」 9章9節の引用で、メシア(救世主、キリスト)の出現を予告する言葉です。

 天使祝詞の前半は「ルカによる福音書」 1章26節から44節に基づきますが、流暢なギリシア語話者であったルカは七十人訳聖書を引用しながら福音書を記しています。したがって天使祝詞は第一義的にはマリアを讃える祈りですが、突き詰めて言えばメシアの出現をマリアとともに喜ぶ祈りでもあります。





 十二世紀から十三世紀前半、フランス南西部のラングドック地方は異端カタリ派の勢力圏でした。聖ドミニコはこの地方に滞在し、1206年、プルイユ(Prouille オクシタニー地域圏オード県)に修道院を創設して、カタリ派をカトリック教会に帰一させるべく奮闘しましたが、思わしい成果はなかなか得られませんでした。

 十五世紀まで遡れる伝承によると、1208年、プルイユにおいて「ロザリオの聖母」が聖ドミニコに出現し、聖人にロザリオを授けました。強力な祈りの武器とも言うべきロザリオを与えられた聖ドミニコと同志たちは、このとき以降、カタリ派の改宗に成果を上げはじめたと伝えられます。





 上の写真に写っている定規のひと目盛りは一ミリメートルです。聖母子の頭部は直径二ミリメートルの円内に収まりますが、目鼻立ちが整っているのみならず、聖母の顔には不可視の信仰と慈しみが、イエスの顔には不可視の愛と権能が、いずれもメダイユ表面の精妙な凹凸となって、金属のうちに形象化されています。





 裏面には左に寄せて百合を浮き彫りにし、聖母に執り成しを願うフランス語の祈りを、アンシャル体に近い中世風の字体で刻みます。

  Sainte Marie de Prouille, priez pour nous.  プルイユの聖なるマリア、我らのために祈り給え。


 百合は気高い香気によって純潔を表しますが、「おとめたちの中にいるわたしの恋人は、茨の中に咲きいでたゆりの花」(「雅歌」 2:2)と謳われた《神による選び》、受胎告知の際に「お言葉通り、この身になりますように」と答えた《節理への信頼》をも表します。それゆえ百合は、聖母マリアに最もふさわしい花です。





 カトリックの数珠をわが国ではロザリオ(伊 rosario) と呼んでいますが、イタリア語「ロザリオ」の語源はラテン語「ロサーリウム」(羅 ROSARIUM)で、これは薔薇の花環(花綱、冠)のことです。

 聖母マリアは人祖アダムの妻エヴァと同様に女性でありながら、エヴァが犯した罪ゆえの原罪に傷つくことなく母アンナの胎内に宿りました。それは棘だらけの繁みから伸びた薔薇の花芽が、棘に傷つくことなく美しい花を咲かせるのにも似ています。それゆえ薔薇は聖母の象徴であり、聖母像に捧げる薔薇の花環あるいは薔薇の花の冠を、ロサーリウム(ロザリオ)と呼んだのです。

 ロザリオのことを、フランス語ではロゼール(仏 rosaire)またはシャプレ(仏 chapelet)といいます。ロゼールは特に十五連のロザリオを指す語で、語形から明らかなように、ラテン語ロサーリウムに由来します。シャプレは五連のロザリオを指しますが、この語は本来「被り物」を表す「シャペル」(仏 chapelle)に縮小辞が付いたものであり、やはり花の冠を表します。ドイツ語ではロザリオをローゼンクランツ(独 Rosenkranz)といいますが、これは文字通り「薔薇の花環」という意味です。





 上の写真は本品を男性店主の手に載せて撮影しています。女性が本品の実物をご覧になれば、写真よりもひと回り大きく感じられます。

 「ロザリオの聖母」のメダイは稀少品ですが、プルイユ修道院の聖母像をそのまま浮き彫りにした本品は、とりわけ珍しい作例です。筆者(広川)は長年に亙ってフランスの信心具のメダイを蒐集、研究していますが、プルイユ修道院のメダイを目にするのは本品が初めてです。直径二十五ミリメートルのサイズはかなり大きく、プルイユ修道院またはドミニコ会にとって記念すべき節目となる年に制作されたものであろうと思われます。


 本品は八十年ないし百年前のフランスで制作された真正のアンティーク品ですが、全体的な保存状態はきわめて良好で、細部までよく残っています。突出部分にも磨滅はほとんどなく、細部まで製作当時のままの状態で残っています。特筆すべき問題は何もありません。





本体価格 18,800円

電話 (078-855-2502) またはメール(procyon_cum_felibus@yahoo.co.jp)にてご注文くださいませ。




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