すっきりと清楚なモダニズム・デザインのメダイで知られるフランスの彫刻家、フィリップ・シャンボー (Philippe Chambault) の作品。通常の2~3倍のサイズで、ずっしりとした重量感があるたいへん立派なメダイです。
通常ならば聖母のみを描くに足りる縦長の画面に、イエス・キリストと聖母の両者を大きく描いて窮屈さを感じさせないのは、一部が重なり合うふたりの人物像の絶妙な配置によります。この重なりは画面を有効に利用する工夫でもありますが、より本質的には聖母子の一体性を表しています。すなわち聖母子を重ねて描くことにより、イエズスの受難は同時に聖母の受難でもあるという、「悲しみの聖母」の愛の深さを表しているのです。
目を閉じたイエスの脇腹には槍の傷があり、息を引き取ったあとの姿であることが分かります。聖母マリアは愛するわが子に手を差し伸べて悲しんでいますが、その表情は穏やかで、微笑みさえ浮かべているように見えます。
キリスト受難の場面において、聖母は当然のことながら悲嘆にくれる姿で表されるのが通例で、悲しみのあまり気を失った聖母の表現も多く見られます。しかるにシャンボーのメダイに表された聖母は人間的な悲しみを超越しており、通常の表現と大きく異なります。神のひとり子が刑死することによって救世が成し遂げられるという常識では考え難いキリスト教のミステリウムを、表面的な写実を超え、宗教性をたたえた表現により表しているのです。
メダイは銀色の合金製で、ホールマークはありません。聖母の頭上にフィリップ・シャンボーのモノグラム、上部の間に「フランス」(FRANCE) の刻印があります。20世紀中頃に鋳造されたヴィンテージ・メダイですが、新品時と変わらない優れた保存状態です。