銀の百合に囲まれた心臓形カボション 愛と知と、聖母に対する三つの信心 聖母の愛の小メダイ 17.0 x 12.8 mm


突出部分を含むサイズ 縦 17.0 x 横 12.8 mm  最大の厚さ 5.2 mm

フランス  1850 - 80年代



 トルコ石色の不透明ガラスによる心臓が、聖母の愛を象(かたど)るアンティーク・メダイユあるいはペンダント。突出部分を除くと、縦横十三ミリメートルほどの愛らしいサイズです。薄青色のカボションは、愛の炎と百合を打ち出した銀の枠に嵌め込まれています。





 カボションの片面には、表面の凹凸により、聖母子が大きく表されています。もともと張られていた銀箔はほとんど剥落し、聖母の頭部と脚の周囲にわずかに残っています。残っている箔はガラスにしっかりと固着していますので、この面の剥落がこれ以上に進行することはありません。

 写真を見ても分かりづらいですが、本品の聖母は幼子イエスを左腕に抱いています。聖母はイエスを抱き上げて、イエスこそが救いに至る道であることを示しています。しかしながら母子の姿勢はロマネスク美術のような正面観ではなく、ゴシック以降の様式に拠ります。マリアは頸を左に傾げ、イエスは顔を母の胸に凭れかけさせ、母子ともに睦み合っています。





 本品は二組の象徴性を有します。

 まず第一に本品の形に注目すると、心臓形(ハート形)のカボションは、その形によって「愛」を象徴しています。しかるにカボションの色はトルコ石に似た青です。赤が愛の色であるのに対して、は知の色です。したがって本品が有する一組めの象徴性は「愛」と「知」であり、前者は形、後者は色によることがわかります。

 次に本品は聖母に対する三つのデヴォシオン(仏 dévotion 崇敬、信心)、あるいは聖母が有する三つの属性を表します。すなわちまず第一に、心臓を模る形態から、本品が「聖母の汚れなき御心」(Cœur Immaculé de Marie)を表すことは明らかです。第二に、青はケルビム(智天使)の色であることから、本品において幼子イエスを抱く聖母は、ケルビムに比せられる「上智の座」(羅 SEDES SAPIENTIAE)であることがわかります。第三に、青で象徴される「まことのケルビムの座」なる聖母は、カボションの裏面において十字架を抱いています。したがって本品の裏面は、「十字架の聖母」(仏 Notre-Dame de la Croix)を表していることがわかります。





 もう一方の面には、銀箔の十字架がカボションに貼り付けられています。聖母子像の面と同様に、この面の十字架にも剥落が見られます。残っている箔はガラスにしっかりと固着していますので、この面の剥落も現状以上に進行することはありません。

 使徒パウロは「コリントの信徒への手紙 一」一章において、「救い主が十字架上に刑死することで救世が達成される」という不可思議について書いています。あまりにも突飛であり、良識ある人には受け入れがたいとさえ感じられるこの福音を、パウロは「神の知恵」と呼び、人間の知性が生み出す知恵に対置しています。ケルビム(智天使)の色である青を十字架と組み合わせたこの面の意匠は、第一に、使徒パウロがここで言及する「神の知恵」を表すと考えることができます。十字架はキリストの象徴であり、神なるキリストは、この面において、青が表すケルビムの玉座に着いておられます。

 第二に、聖母子の面の説明に書いた通り、十字架を囲む青色を、イエスを抱く「十字架の聖母」と考えることもできます。幼子イエスを抱く聖母は、神の玉座です。それゆえネオカイサレアの司教、聖グレゴリウス・タウマトゥルグス (Γρηγόριος ὁ Θαυματουργός, Γρηγόριος Νεοκαισαρείας, c. 213 - c. 270) は、聖母を「まことのケルビム(智天使)」と呼びました。この面のカボションも心臓形であること、この面を取り囲む銀の枠が両横に百合、上部に愛の炎を表し、もう一方の面を囲む枠と同様に「聖母の汚れなき御心」を象っていることを考えれば、十字架を囲む青色の心臓は、何よりもまず「十字架の聖母」を象徴していることがわかります。


 純度八百パーミル(800/1000)の銀を表すパリ造幣局のポワンソン(仏 poinçon 貴金属の検質印)、「テト・ド・サングリエ」(仏 tête de sanglier イノシシの頭)が、上部の環に刻印されています。純度八百パーミルの銀はフランスの信心具に使われる最も高級な素材です。「テト・ド・サングリエ」の検質印は 1838年から 1973年まで使用されていました。





 純度八百パーミルの銀はフランスの信心具に使われる最も高級な素材です。十九世紀半ばのフランスでは、現代人には想像できないほど貧富の差が激しく、一般の人々が銀無垢製品を購入するのはほとんど不可能でした。本品は銀細工職人のみならず、ガラス職人の手も借りて制作されたビジュ(仏 bijou ジュエリー)であり、最も高級なメダイです。

 本品に見られる青と金の取り合わせは見た目に美しく、丸みを帯びた立体的な意匠はたいへん可愛いですが、色と形には深い象徴性が秘められています。本品の制作年代は十九世紀半ば、すなわち百数十年前であり、たいへん古い品物ですが、保存状態は十分に良好です。銀の破断やガラスの破損、ひび等の問題はいっさいありません。筆者自身、手放しがたい愛すべき小品です。





本体価格 18,800円 販売終了 SOLD

電話 (078-855-2502) またはメール(procyon_cum_felibus@yahoo.co.jp)にてご注文くださいませ。




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