「ナザレのマリアの子ら会」(Congrégation des Enfants de Marie de Nazareth) の美麗なアンティーク・メダイ。ミル打ちを模した紋様を縁の内側に施した丁寧な作りです。19世紀にフランスで制作された稀少な作例です。
一方の面には、「ナザレのマリアの子ら会」会員をはじめとする地上の罪びとたちのために、天上にあって執り成しの祈りを捧げる聖母の姿を浮き彫りにします。聖母はヨハネの黙示録12:1に書かれている12の星の冠をかぶり、蛇を踏みつけるモントジッヒェルマドンナ(Mondsichelmadonna ドイツ語で「弦月の聖母」の意)、無原罪の御宿りとして表されています。
聖母に踏みつけられた蛇は、ウロボロス(οὐροϐóρος ギリシア語で「尾 を食物とする者」の意)として描かれています。自分の尾を咥(くわ)えたウロボロスは無限の繰り返しの象徴であり、これは世代を通じて受け継がれ繰り返される蛇の呪い、原罪を表しています。「創世記」
3:15 において、神は蛇に向かって次のように言っています。
お前と女、お前の子孫と女の子孫の間に / わたしは敵意を置く。/ 彼はお前の頭を砕き、/お前は彼のかかとを砕く。(新共同訳)
神のこの言葉ゆえに、聖母は蛇の支配を受けず、その身に罪を帯びない「無原罪の御宿り」であると考えられ、蛇を踏みつける姿で描かれます。美しく整った顔立ちの聖母は、左足に体重を掛けたコントラポストの姿勢で、体をわずかに右によじっています。聖母の穏やかな表情と相俟って、中心線が曲線を描く姿勢と、柔らかな衣の下にうかがえる女性らしく丸みを帯びた体つきが、全てを赦して執り成し給う母なるマリアの優しさを、余すところなく表現しています。聖母を取り囲むように、次の言葉がフランス語で記されています。
N'oubliez pas la règle de vie donnée par votre Mère. 御母の御(み)教へを、日々忘るることなかれ。
「ナザレのマリアの子ら会」は女性のための会として創立されました。会のこの特徴は、無原罪の御宿りを取り巻く文言にも表れていますし、美しく繊細な浮き彫りの作風にも反映しています。女性会員のためのメダイならではの愛らしさと華やぎを感じさせてくれます。
メダイのもう一方の面には、ナザレにおける聖家族の日常が浮き彫りによって描かれています。聖母は糸を紡いでいますが、これは昔の女性の典型的な仕事であり、また少女時代のマリアが神殿の垂幕に使う紫と深紅の布を織ったとの外典の記述(ヤコブ原福音書 10:2)にも影響された描写です。指物師であったヨセフは家のなかの仕事場で働き、少年イエズスは父を手伝っています。壁にある本は、箴言8章から9章にかけて知恵そのものと表現されているイエズスの象徴であり、上方の棚には、東方三博士の贈り物である没薬(ミルラ)あるいは乳香(フランキンセンス)、及びナルドの香油の壺が置かれています。右後方に見える百合は聖母の象徴で、これは「雅歌」2:2によります。
Sicut lilium inter spinas, sic amica mea inter filias. (Nova Vulgata) おとめたちの中にいるわたしの恋人は 茨の中に咲きいでたゆりの花。
(新共同訳)
メダイの材質はブロンズに銀めっきを施していますが、摩耗の程度はごく軽く、めっきの剥落はほとんどありません。19世紀の品物としては、たいへん良好なコンディションです。