稀少品 サミュエル・グリューン作 「受胎告知のマリア」 金色の小メダイ 18.2 x 12.5 mm


突出部分を含むサイズ 縦 18.2 x 横 12.5 mm

フランス  1930 - 40年代



 歳若きマリアの整った顔立ちを、柔らかいタッチで浮き彫りにした金色のメダイ。メダイの圧倒的多数は銀色で、本品のように金色のものは少数です。20世紀半ばには軽金属に金めっきを掛けたメダイが出回りますが、それらはピカピカしていかにも安っぽい風合いです。しかしながら 1930年代あるいは 40年代頃に制作された本品は艶を抑えた上品なシャンパン・ゴールドで、聖母の姿はあたかも天上の微光に包まれているかのように見えます。





 本品に刻まれた若き聖母は祈りの印であるヴェールを被り、心静かに神と対話しています。マリアの横顔は目鼻立ちが整っているだけでなく、瞳、瞼、眉等の細部が巧みに表され、女性らしい優しさが溢れています。斜め上方に視線を向け、口許に微笑みを浮かべる若きマリアの様子は、父を慕う娘のようです。明るく穏やかなマリアの表情は、救世主を産むという大任を果たすように天使ガブリエルから告げられても、いささかも動じなかった少女の、神への限りない信頼を表しています。浮き彫りのタッチは柔らかで、衣の襞は自然に流れ、ヴェールの薄絹はメダイの金属に置き換わった後も、その柔らかさを保つかのように思えます。

 メダイの左端近くに、サミュエル・グリューン (Samuel Grün, 1869 - ?) のサイン (GRUN) があります。サミュエル・グリューンはタリン(エストニア)に生まれ、フランスで活躍したメダイユ彫刻家です。筆者(広川)がサミュエル・グリューンの作品を目にするのは、「エッケ・ホモー」を彫ったメダイユに続いて、本品が二点目です。





 メダイユ彫刻に刻まれる人物像に横顔が多いという事実には、古代以来の貨幣彫刻の伝統を引いていることに加えて、ふたつの理由が考えられます。

 第一は技法的な理由です。浮き彫りという技法の特性として、空間的な奥行きに厳しい制限があります。また絵画と違って色彩を使うことができません。したがって浮き彫り彫刻で人物の目鼻立ちを表す場合、正面向きよりも横顔のほうが適しています。

 第二の理由は、モデルの人柄がありのままの形で現れるのは、正面向きの顔ではなく横顔だという理由です。クアットロチェント(15世紀)のイタリアにおいてピザネッロが始めたメダイユ彫刻は、イタリア本国よりもむしろフランスで栄え、19世紀においてひとつの頂点に達しました。19世紀のフランスでメダイユ彫刻が興隆するきっかけとなったのが、ダヴィッド・ダンジェ (Pierre-Jean David d'Angers, 1788 - 1856) による作品群です。常に変わらないモデルの人柄は、横顔にこそありのままの形で現れる、とダヴィッドは考えました。一時的な感情ではなく、人物の生来の人柄と、それまでの歩みによって形成された人柄を作品に表現するのであれば、横顔を捉えるのが最も適しているというダヴィッドの指摘には、大きな説得力があります。


 このメダイにおいて、サミュエル・グリューンはマリアの横顔の肩から上のみを、背景無しに制作しています。全身像であれば仕草や背景で表現できることも、この作品においてはマリアの表情だけですべて表現しなくてはなりません。本品においてマリアがヴェールを被っているのは神との対話あるいは祈りの象徴であり、端正な横顔に浮かぶ穏やかな表情、口許の優しい微笑みは、神に選ばれて恩寵の器となった若きマリアの信仰のあらわれです。





 本品は 1930年代または 40年代頃のフランスで制作された品物です。1930年代から 40年代は、フランスに住む人々にとって困難な時代でした。第二次世界大戦は 1939年9月1日にドイツがポーランドに侵攻したことで始まりましたが、フランスとの緒戦においてドイツは圧倒的な強さを見せ、フランスは早くも 1940年6月22日に休戦条約を結んで、実質的降伏に追い込まれます。1941年5月の段階においてフランスは南北に二分され、南フランスすなわちヴィシー政権下の「エタ・フランセ」(État français フランス国)はかろうじて独立国の体裁を保っていましたが、1942年11月11日にはこの地域もドイツ軍の占領下に入ります。ドイツの占領下、フランスの一般市民は困窮し、通常は家畜の飼料となるルタバガ(不味い蕪の一種)やキクイモなども食卓に上りました。

 若きマリアの横顔を彫ったこの美しいメダイが、どのような機会に購入され、身に着けられたものであるのかは推測するしかありません。しかしながら特定の巡礼地の聖母像ではなく、一般的な聖母像を優しいタッチで彫刻した本品のようなメダイは、子供の誕生に際して購入されることが多くありました。このメダイも、洗礼を受ける新生児に両親から贈られたものではないでしょうか。戦時下あるいは戦争直後の過酷な時代に生まれた子供のために、聖母の加護を祈ったのでしょう。マリア像に添えられた薔薇は、マリアの象徴であるとともに、両親の愛の象徴でもあります。穏やかに微笑む聖母を包んで天上の微光を放つかのような淡い金色のようなメダイは、両親の愛に包まれて安らかに眠る幼子が、無事にすくすくと成長するようにとの願いにぴったりではありませんか。





 本品は70年以上前のフランスで制作された真正のヴィンテージ品ですが、保存状態はきわめて良好で、突出部分もまったく磨滅せずに制作当時のまま残っています。シャンパン・ゴールドの柔らかい輝き、どのような服装とも調和する小さめのサイズは、上品なペンダントとして日々ご愛用いただけます。





本体価格 12,800円 販売終了 SOLD

電話 (078-855-2502) またはメール(procyon_cum_felibus@yahoo.co.jp)にてご注文くださいませ。




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