極稀少品 恩寵の器なる無原罪の御宿り 戴冠したルルドの聖母 真珠母とガラスのケース入りメダイ 33.8 x 23.6 mm


突出部分を含む全体のサイズ 33.8 x 23.6 mm  最大の厚さ 7.0 mm

フランス  1876年から 1880年代頃



 十九世紀のフランスで制作されたルルドの聖母のメダイ。金属製メダイを二枚の透明ガラスに挟んでヴェルメイユの枠で囲み、彫刻を施した真珠母(しんじゅも マザー・オヴ・パール)の中央に嵌め込んでいます。





 金属製メダイの片面には、多数のフルール・ド・リスを背景に、マサビエルの岩場に立つノートル=ダム・ド・ルルド(Notre Dame de Lourdes ルルドの聖母)が打刻されています。聖母は目を天に向け、両手を胸の前で組んでいます。これは 1858年3月25日、十六回目の出現の際、少女ベルナデットに名を問われて、「わたしは無原罪の御宿りです」と答えたときの聖母の姿です。「わたしは無原罪の御宿りです」(Je suis l'Immaculée Conception.)という言葉は、聖母を取り巻くように、メダイの周囲に刻まれています。

 ルルドの御出現を表したメダイの浮き彫りには、岩場のくぼみに現れた聖母と、その前に跪くベルナデットを表した作例が多く見られます。しかしながら本品には聖母の立ち姿が単身で大きく表されており、メダイの中心軸を縦断するその姿は、あたかも天地を繋ぐ柱のように見えます。聖母は履物を履かず、裸足のまま、足元の茨を踏み付けています。茨の棘に傷つかないその姿は、聖母が原罪に傷つかないロサ・ミスティカ無原罪の御宿りであることを象徴的に表します。

 無原罪の聖母はキリストを生むことによって恩寵の器となりました。「恩寵の器」とは、神の愛と恵みが天から地へと降(くだ)る通り道のことです。サラゴサの聖母は柱の上に出現し、ファティマの聖母は灌木の上に出現しました。モンテギュの聖母はもともとシェーヌの洞(うろ)に安置されており、シャルトルのノートル=ダム・デュ・ピリエは現在も柱上に安置されています。柱や立木と聖母を重ね合わせるこれらの事例は、聖母が天地を繋ぐ「世界柱」であることを示しています。本品に彫られた聖母の立ち姿はメダイの中心軸を縦断していますが、本品におけるこの描写も、聖母が天地を繋ぐ柱であり、恩寵の器であることを表しています。





 聖母と真珠母との組み合わせにも意味があります。世界各地の文化において、古来真珠は女性の生殖能力の象徴であり、生命の象徴でした。キリスト教においても真珠は永遠の生命の象徴です。「マタイによる福音書」13章45節から46節において、イエスは「天の国」すなわち永遠の生命を真珠に譬えています。ギリシア語原文と新共同訳によって該当箇所を引用します。ギリシア語原文はネストレ=アーラント二十六版によります。

    マタイ 13:45 - 46  45 Πάλιν ὁμοία ἐστὶν ἡ βασιλεία τῶν οὐρανῶν ἀνθρώπῳ ἐμπόρῳ ζητοῦντι καλοὺς μαργαρίτας: 46 εὑρὼν δὲ ἕνα πολύτιμον μαργαρίτην ἀπελθὼν πέπρακεν πάντα ὅσα εἶχεν καὶ ἠγόρασεν αὐτόν.  また、天の国は次のようにたとえられる。商人が良い真珠を探している。高価な真珠を一つ見つけると、出かけて行って持ち物をすっかり売り払い、それを買う。


 アレクサンドリアのオリゲネス (Ὠριγένης, c. 184 – c. 253) は、このたとえ話の「真珠」がキリストを意味すると解釈しています(「マタイ福音書注解」 10巻9節)。「真珠」がイエスであるとすれば、「真珠母」はマリアであることになります。

 マリアは受胎告知を受け容れて救い主を生み、罪びとに救いをもたらしました。それゆえ真珠を「イエスの象徴」と考えても、「永遠の生命の象徴」、「救いの象徴」、「神の恩寵の象徴」と考えても、いずれにせよ真珠母は「恩寵の器」マリアの象徴であることになります。これに加え、真珠母はその白さによって「無原罪の御宿りの象徴」でもあります。

 ルルドの聖母は名を問われて「わたしは無原罪の御宿りです」(Je suis l'Immaculée Conception.)と答えました。本品において金属製メダイに表された聖母は、天地を繋ぐ恩寵の通り道であり、聖母像の周囲には「わたしは無原罪の御宿りです」と刻印されています。また金属製メダイの裏面でルルドの聖母は「ロザリオの聖母」と呼ばれていますが、ロザリオは恩寵の器なる聖母の執り成しを求める祈りです。金属製メダイに籠められたこれらの主題と真珠母の象徴性は、本品において継ぎ目なく美しい調和を奏でています。





 真珠母には繊細な透かし細工が施されています。彫り残された部分の幅はわずか一ミリメートルほどですが、破損は全く認められません。

 金属製メダイの材質はヴェルメイユ、すなわち銀に金を被せたものと思われます。金属製メダイはガラスに守られているために、突出部分の磨滅が無いのはもちろんのこと、表面の金も完全な状態で残っています。ガラスの内側に水が侵入するとメダイの腐食が起こりますが、本品のメダイはこれまで水に濡れたことも無く、製作当時のままの状態を保っています。

 金属製メダイの聖母が戴冠していること、及び真珠母の部分を含めたメダイ全体の様式から判断して、本品の製作時期は、ルルドの聖母が戴冠した 1876年から 1890年頃までの間と考えられます。製作から百年以上の歳月が経っていることを考えれば、本品は極めて優れた保存状態です。

 上の写真に写っている定規のひと目盛は一ミリメートルです。聖母の顔は直径一ミリメートルの範囲に収まりますが、目鼻立ちはよく整っています。胸の膨らみ、腰と太ももの丸みなど、女性らしい体つきも巧みに表されています。聖母の足下に咲く薔薇や背景に散りばめられたフルール・ド・リスは一ミリメートルに満ちません。十九世紀フランスのメダイユ彫刻家は、現在では考えられないような技量を持っていたことがわかります。





 メダイのもう片面に刻まれているのは、マサビエルの岩場を蔽うように建てられた「バジリク・ノートル=ダム・ド・ルルド」(Basilique Notre-Dame de Lourdes ルルドの聖母のバシリカ)です。バシリカの背景にもフルール・ド・リスが散りばめられ、周囲には次のフランス語が刻まれています。

  Sanctuaire de Notre-Dame de rosaire, Lourdes  ルルド、ロザリオの聖母の聖堂





 こちらの面の細密さも聖母像に劣りません。高さ七十メートルの壮麗なバシリカが、縮尺一万分の一に相当する縦七ミリメートル、横四ミリメートルの浮き彫りで再現されています。建物各部のサイズは一ミリメートルに足りません。

 ルルドの聖母のメダイ自体は珍しくありませんが、ほとんどすべてが金属片を打刻しただけの作例です。これに対して本品は中央の金属製メダイを含めて五個の部品、すなわちヴェルメイユのメダイ、二枚のガラス、ヴェルメイユの帯、真珠母の枠を加えて制作してあり、通常のメダイに比べて格段に手間をかけています。真珠母の枠には慎重な手作業による透かし彫りが施されています。





 ルルドは多くの人を集める重要な巡礼地であり、多数のメダイが作られています。十九世紀に製作されたメダイも比較的容易に手に入ります。しかしながら本品はとりわけ手間をかけて丁寧に製作されており、一点物に近い稀少品です。十九世紀に製作されたルルドのメダイのなかでも、本品は最も美しい作例です。保存状態も極めて良好であり、打刻された細密な浅浮き彫りはガラスに守られて如何なる損傷や磨滅も無く、ガラスにも特筆すべき疵(きず)や亀裂は一切ありません。繊細な透かし彫りを施した真珠母も、完全な状態で残っています。優れた技巧によって手作りされた遠い昔の工芸品が、原状のまま現代まで伝えられたのは、たいへん喜ばしいことです。





本体価格 35,800円 販売終了 SOLD

電話 (078-855-2502) またはメール(procyon_cum_felibus@yahoo.co.jp)にてご注文くださいませ。




ルルドの聖母 最初期のメダイ 商品種別表示インデックスに戻る

ルルドの聖母のメダイ 一覧表示インデックスに戻る


ルルドの聖母 全年代のメダイ 商品種別表示インデックスに移動する

各地に出現した聖母のメダイ 商品種別表示インデックスに移動する


聖母マリアのメダイ 商品種別インデックスに移動する

メダイ 商品種別インデックスに移動する


キリスト教関連品 商品種別表示インデックスに移動する



アンティークアナスタシア ウェブサイトのトップページに移動する




Ἀναστασία ἡ Οὐτοπία τῶν αἰλούρων ANASTASIA KOBENSIS, ANTIQUARUM RERUM LOCUS NON INVENIENDUS