ブロンズのトレフルによる透かし細工　「ルルドの聖母」　手描きエマイユのメダイ　27.2 x 22.0 mm


27.2 x 22.0 mm （突出部分を含む）

フランス　　1900 - 1920年代前半

　手作業によるエマイユ・パン（émail peint　エマイユ画）が美しい「ノートル＝ダム・ド・ルルド」（Notre-Dame de Lourdes　ルルドの聖母）のメダイ。20世紀初め頃にフランスで制作された大きめサイズの作品です。





　メダイの材質はブロンズで、写真では分かりませんが、艶やかに輝く金色の光沢があります。メダイの形はふたつのトレフル（trèfle　クローバー）の組み合わせを模（かたど）ります。後方のトレフルの葉には透かし細工があって、放射状のトラスリ tracerie（英 トレイサリ tracery）が顕著なゴシック初期の薔薇窓を思わせます。

　トレフルはゴシック建築によく見られる意匠ですが、その三枚の葉に象徴性を担わせるならば、三位一体の神の表すとも、キリスト教における三つの枢要徳（信仰と希望と愛）を表すとも考えることができます。

　ふたつのトレフルを重ねると、六弁の花のシルエットを描きます。古代ギリシアのピュタゴラス以来、現代の整数論に至るまで、「六」は最小の完全数として特別な地位を与えられています。古代キリスト教最大の教父であるヒッポのアウグスティヌス (354 - 430) は、完全数「六」によって、神が創り給うた世界の完全性が象徴されていると考えました。アウグスティヌスに倣うならば、ルルドの聖母が六枚の花弁に囲まれる本品の意匠は、無原罪の御宿りなるマリアによって世界が再び完全性を取り戻したことを象徴すると解釈できます。すなわち、いったん失われた神と人間との親しい関係は、マリアが救いを受け容れてメシアを生むことにより回復したのです。





　本品には手描きのエマイユ・パン（l'émail peint　エマイユ画）によってルルドの情景が表されています。これは1858年3月25日、16回目の出現の際に、少女ベルナデット・スビルーが聖母に名前を問うたときの様子です。このとき聖母は胸の前で手を合わせて眼を天に向け、「わたしは無原罪の御宿りです」と答えました。

　青い衣と白いマントを身に着けたルルドの聖母は、胸の前に手を合わせ、顔を挙げて視線を天上に向けています。聖母の頭部は天国の栄光を表す金色の光に包まれています。ベルナデットは赤い衣と白いヴェールを身に着け、聖母の前に跪いて祈っています。聖母の足下からは心身の病を癒す恩寵の水が流れ出しています。ルルドの水は病を癒すことによって個人の心身の完全性を回復させるのであり、メシアを生んで被造的世界の完全性を回復させた聖母を通して与えられるにふさわしい恩寵（神の恵み）の徴（しるし）であると考えられます。

　聖母は野薔薇の繁みに裸足で立っているにもかかわらず、その足は傷ついていません。無原罪の御宿りである聖母マリアは、人祖アダムの妻エヴァと同様に女性でありながら、エヴァの罪を引き継ぎませんでした。そのありさまは、薔薇の花芽が棘だらけの藪から出でながら、その棘に傷付くことなく、美しい花を咲かせるのにも似ています。エヴァが犯した罪の棘に傷つかないマリアは、それゆえ、ロレトの連祷において、「ロサ・ミスティカ」（ROSA MYSTICA　神秘の薔薇）と呼ばれます。


　本品のエマイユ技法である「エマイユ・パン」は、金属板の全面にいったん白色のエマイユを施し、その上に他の色のフリット（ガラス粉）で描画してゆきます。フリットは粒子が特に細かいものを、ニンニクの精油等、焼成後に煤を残しにくいもので溶いて使います。描画には筆を使うのが基本ですが、衣の襞など、同色の部分の内部に細い線を描くために、針状の道具を使うこともあります。

　色ごとに焼成を行うため、窯入れは多数回に及びますが、変色や滲（にじ）みを避けるために、焼成温度の調整は困難を極めます。最後に無色透明のガラス（釉薬）を掛け、他の色よりも低めの温度で焼成して、表面の艶を得ます。


　なお本品において、聖母には身光が描き加えられていますが、ベルナデットには光がありません。これは本品の制作年代がベルナデットの列聖よりも以前であることを示しています。ベルナデットは 1925年6月14日に列福、1933年12月8日に列聖されました。したがってこのメダイの制作年代は 1933年よりも前であることがわかります。私見ではルルドのご出現百周年にあたる 1908年頃のものであろうと思われます。





　このメダイはいまからおよそ百年前にフランスで制作されたものですが、古い年代にもかかわらず、保存状態は非常に良好です。繊細なエマイユ画にも剥落等の特筆すべき問題は何も無く、細部まで完全な状態で残っています。

本体価格　23,800円　販売終了　SOLD

電話 (078-855-2502) またはメール（procyon_cum_felibus@yahoo.co.jp）にてご注文くださいませ。




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