フランスの美麗アンティーク・メダイ 《ノートル=ダム・ド・ルルド》 明色のエマイユと細密彫刻の小品 20.0 x 11.9 mm


突出部分を含むサイズ 縦 20.0 x 横 11.9 mm

フランス  1920年代



 アール・デコ様式に基づく輪郭と彫刻の様式が、まだ若かった二十世紀の香りを伝えるフランスのメダイ。丸みを帯びた菱形は、十九世紀のメダイに見られない意匠です。





 表(おもて)面に彫られた若きマリアの横顔は、メダイユ彫刻家エスクデロの作品です。柔和な横顔を見せる少女マリアは、まっすぐに天を見上げて神との対話に沈潜しています。優しい少女の口許に浮かぶかすかな微笑みは、少女マリアと神との間に、真に親しい関係が築かれていたことを示します。

 上の拡大写真は数十倍以上の面積に引き伸ばされています。実物の浮き彫りにおいて、顔の高さは五ミリメートルほどしかありません。金属のわずかな凹凸によって愛と敬虔を表情のなかに再現し、不可視の信仰を可視化したこの作品には、メダイユ彫刻家エスクデロの優れた技量が遺憾なく発揮されています。





 マリアの背景を埋める放射状の線は、後光を延長して発散する聖性の光であり、マリアを通して地上へともたらされる神の愛と恩寵を表しています。放射状の光は中世以来の伝統的表現ですが、本品においてはメダイユが有する菱形の輪郭と組み合わさって、アール・デコ期の作例にふさわしい意匠となっています。

 金属の浮き彫りに色ガラスの層を融着させて三次元性を強調するエマイユ技法を、エマイユ・シュル・バス=タイユ(l'émail sur basse-taille)といい、本品にもこの技法が使われています。本品に施されたエマイユの特徴は、ガラスの色が明るいことです。ゴシック期以降の西ヨーロッパにおいて、は聖母の色とされており、聖母のメダイに施されるエマイユも、青色の作例が最も多く見られます。

 青色エマイユを施した他の作例と比べると、本品の青は明度が高く、すみれ色がかった「ブリュ・マリアル」(仏 bleu marial マリアの青)であるのが特徴です。メダイユ彫刻家エスクデロは、マリアの眼差しを天に向けさせました。エマイユ職人は、天来の光が溢れる明色の青でマリア像を彩りました。この二点に注目すれば、彫刻の意匠においてもエマイユの色においても、本品は「恩寵の器」として天地を繋ぐノートル=ダム・ド・ルルド(Notre-Dame de Lourdes ルルドの聖母)にふさわしい作品であることがわかります。





 裏面にはルルドにおける御出現が彫られています。

 本品の浮き彫りにおいて、ベルナデットの姿は実際よりも聖母に近づけられています。この理由は、ひとつにはメダイが小さいから、すなわち実際にそうであったように聖母とベルナデットの距離を遠ざけると、ふたりの姿が小さくなり過ぎて、肉眼で視認できなくなるからでもあります。しかしながらいっそう大きな理由は、マリアが常に罪びとに寄り添う慈母であるからです。マリアは宗教的卓越性ゆえに堂々とした姿で大きく表現されています。しかしながらマリアはひとりの少女であり、ベルナデットが代表する「普通の人間」に近い存在です。ベルナデットの間近に立つ聖母は、常に罪びとに寄り添い、執り成しの祈りを捧げる悲母(優しい母)として描かれています。





 上の写真に写っている定規のひと目盛は、一ミリメートルです。人物の手足をはじめ、浮き彫りの各部分は一ミリメートル以下の極小サイズですが、大型彫刻に比べても全く遜色の無い出来栄えです。

 ここに彫られているのは、1853年 3月25日、十六回目の出現の際、ルルドの聖母が「わたしは無原罪の御宿りです」(Je suis l'Immaculée Conception.) と名乗ったときの様子です。の繁みに立って傷つかない聖母は、両手を胸の前で組んで目を天に向けています。ベルナデットはヴェールを被って跪(ひざまず)き、シエルジュ(大ろうそく)を持ち、胸の前に両手を合わせて、聖母に眼差しを注いでいます。裏面最下部に「ルルド」(Lourdes)の文字が見えます。

 ベルナデットの隣には靴が揃えて置かれています。靴の隣には薪の束があります。靴と薪が置かれているのは十六回目の出現ではなく、聖母が最初に出現した際の光景ですが、ベルナデットの傍らに靴と薪を描くのは、ルルドの御出現を描く定型的表現となっています。

 裏面の浮き彫りはガラス層で保護されていないゆえに、百年近い年月を経て、最も突出した部分が磨滅しています。しかしながら裏面の浮き彫りは、現状にあっても本来の優れた出来栄えをうかがわせて、芸術性を失いません。





 本品は第一次世界大戦直後の時代に、フランスで制作された真正のアンティーク品です。百年近く前の古い品物ですが、マリアの横顔はガラス層に守られ、完全な状態で残っています。裏面は突出部分が磨滅して優しい丸みを帯び、当初施されていたであろう銀めっきも剥がれています。赤味がかったブロンズの古色は、古い品物にしか備わらない温かみと美を本品に与えています。裏面の細密浮き彫りは、突出部分の磨滅にも関わらず、優れた芸術性を失っていません。





 本品は第一次世界大戦の痛手からようやく立ち直りつつあるフランスで制作されました。憎しみがもたらす惨禍を体験した人々は、慈愛深き聖母の前に回心し、神とキリストの愛に身を捧げようと誓ったことでしょう。裏面の磨滅は本品が肌身離さず着用された故であり、心から捧げられた数知れぬ祈りの跡といえましょう。吸い込んだ祈りが伝える人肌の温かみは、現代の品物に真似のできないアンティーク品ならではの味わいです。




本体価格 9,500円 販売終了 SOLD

電話 (078-855-2502) またはメール(procyon_cum_felibus@yahoo.co.jp)にてご注文くださいませ。




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