稀少品 マリ・アレクサンドル・リュシアン・クドレ作 《サント・セシル 聖セシリア》 芸術品水準の大型メダイ アルビ司教座聖堂内陣仕切りの彫像に基づく作品 36.1 x 20.3 mm


突出部分を含むサイズ 縦 36.1 x 横 20.3 mm

フランス  十九世紀末から二十世紀初頭



 メダイの表(おもて)面には聖セシリアの全身像、裏面にアルビ司教座聖堂サント=セシルを浮き彫りにした稀少な大型メダイ。パリに生まれた彫刻家マリ・アレクサンドル・リュシアン・クドレ(Marie Alexandre Lucien Coudray, 1864 - 1932)の作品で、鋳造により制作された美術品です。三ミリメートル近い厚みと約七グラムの重量があり、手に取ると心地よい重みを感じます。





 メダイ表(おもて)面において、聖セシリア(聖カエキリア)像は右手に殉教者の徴であるナツメヤシの葉、左手に携帯用オルガンを持ち、壁面から突出した天蓋付きの台上に立っています。


【下】 参考画像 携帯用オルガンを手にした聖セシリア Raphael, The Ecstasis of St. Cecilia (details), 1514, oil transferred from panel to canvas, 220 x 136 cm, Pinacoteca Nazionale, Bologna




 聖女の左右に配されたメダイヨンは薔薇とビーズのロサーリウム (ROSARIUM)、すなわちロザリオに縁取られてています。

 東洋における蓮と同様に、西洋における薔薇は豊かな象徴性を有します。古代ギリシア・ローマの異教時代以来、薔薇はアフロディーテー(ウェヌス)の花であり、愛の象徴と考えられました。アフロディーテーは美と性愛の女神であり、女神の薔薇は性愛を象(かたど)ります。しかしながらアフロディーテーは性愛と生殖を通して生命を与える女神でもあって、それゆえ性愛の花である薔薇は、生命の花であるとも言えます。

 薔薇は復活、再生の象徴でもあります。アプーレイウスの「メタモルフォーセース」は古代ローマ時代から現代に伝わる唯一の小説ですが、驢馬に変えられた主人公のルーキウスは、薔薇を食べてイシスの秘儀に参加することで、人間の姿に戻ります。古代ローマには毎年初夏にロサリア(羅 ROSARIA/ROSALIA)と称する祭儀があり、生命の再生が祝われました。





 古代ギリシア・ローマ以来、性愛、青春、麗姿、復活の象徴であった薔薇は、中世以降のヨーロッパの宗教的コンテクストにおいて、さらに高い精神性を賦与されます。すなわち十字軍は香(かぐわ)しいダマスク・ローズを東方からもたらしたが、ダマスク・ローズは平たく開いた形をしており、グラアル(独仏 Graal)、すなわちキリストが受難し給うた際、脇腹の槍傷からほとばしる血を受けた鉢を連想させます。こうして薔薇はキリストの血及び聖杯と結びつき、神の愛を象徴するに至ります。

 薔薇は聖母マリアの象徴でもあります。聖母は無原罪の御宿リであるゆえに、棘を持たないロサ・ミスティカ(羅 ROSA MYSTICA 神秘の薔薇)とされました。本品において聖セシリアの両側に見える薔薇の花輪は、ロサーリウムすなわちロザリオです。ロザリオは天使祝詞(アヴェ・マリア)を唱えるための数珠で、聖母への受胎告知、すなわち救い主誕生の告知を記念します。若きマリアは受胎告知を喜んで主を称えましたが、救い主への愛に殉じた聖セシリアは、若き聖母と心を一つにして神と救い主を称え、殉教の苦しみにも関わらず、口元に微笑みを浮かべています。

 ロザリオに囲まれたメダイヨンの内部には、「アウスピケ・マリアエ」("AUSPICE MARIAE" ラテン語で「マリアの庇護の下に」)の頭文字を組み合わせたアー・エム(AM)のモノグラムが刻まれています。モノグラムの組紐文は、異教古代以来の伝統的装飾パターンを引き継いでいます。

 聖セシリアの周囲には、次の言葉がラテン語で刻まれています。

  SANCTA CAECILIA, VIRGO ET MARTYR  聖カエキリア、処女にして殉教者





 本品の浮き彫りは、アルビ司教座聖堂サント・セシルにある聖セシリア像に基づきます。元の像は石灰石に多色の彩色を施した高さ 84センチメートル、幅 35センチメートル、奥行 35センチメートルの丸彫りで、内陣仕切り西側入り口の上に安置され、天使たちの声楽隊を指揮しています。像に表された聖セシリアは若々しく美しい顔立ちで、豊かに波打つ髪には、薔薇と百合の冠を被っています。

 この聖セシリア像は、1474年から 1502年までアルビ司教であった貴族ルイ・プルミエ・ダンボワーズ(アンボワーズのルイ一世 Louis Ier d'Amboise, 1433 - 1503)の発注により、彫刻家ミシェル・コロンブ(Michel Colombe, c, 1430 - c. 1513)、またはアントワーヌ・ル・モワチュリエ(Antoine Le Moiturier, 1425 - 1497)が、1474年から 1485年の間に制作したものと考えられています。ミシェル・コロンブはトゥール派の彫刻家で、ナント司教座聖堂にあるブルターニュ公フランソワ二世と妃のジザン(仏 gisant 仰向けに横たわる死者の像)をはじめ、国際ゴシック様式による多数の重要な作品を制作しています。アントワーヌ・ル・モワチュリエの作品は、ブルゴーニュ公国の宰相トマ・ド・プレーヌ(Thomas de Plaine, 1435 - 1506)のオラン(仏 orant 礼拝者)像がルーヴル美術館に収蔵されているほか、ブルゴーニュ公ジャン一世(恐れ知らずのジャン Jean Ier de Bourgogne, dit Jean sans Peur, 1371 - 1419)と妃のジザンを、アラゴンの彫刻家フアン・デ・ラ・ウエルタ(Juan de la Huerta, 1413 - c. 1462)から引き継いで完成させたことでも知られます。





 聖セシリアをはじめ、アルビ司教座聖堂サント・セシルの内陣仕切りに設置された像は、いずれも豪華なブロカール(仏 brocart 金襴)の衣装を着た姿に彫られています。浅浮き彫りと金彩で表現されたブロカールは、十五世紀頃に東洋からもたらされた布地を模しています。さらにブロカールは、透かしを入れた長方形の錫板を像の表面に並べて張り付け、これを着色することによっても表現されています。着色錫板によるブロカールの再現は中世末期に考案された方法で、聖セシリア像が制作された当時は最新の技法でした。この技法は南西フランスではほとんど使われていないゆえに、アルビ司教座聖堂の彫刻群は貴重な作例となっています。

 聖セシリアを含むアルビ司教座聖堂サント・セシル内陣仕切りの彫刻群は、フランス革命期にも破壊を免れ、十九世紀後半に修復を受けて今日に至ります。





 上の写真に写っている定規のひと目盛りは、一ミリメートルです。本品は百年以上前に制作されたアンティーク品ですが、突出部分の摩滅もごく軽度であり、細部までよく残っています。浮き彫りは厚みがあり、アルビ司教座聖堂サント・セシルにある実際の彫像をよく再現しています。

 聖女の左(向かって右)に、マリ・アレクサンドル・リュシアン・クドレ(Marie Alexandre Lucien Coudray, 1864 - 1932)のモノグラム、エル・セ(LC)が彫られています。リュシアン・クドレはパリに生まれ、1882年にフランス芸術家協会(La Société des Artistes Français)のサロン展に胸像一点を出品するとともに、パリ高等美術学校(l'École nationale supérieure des beaux-arts, ENSB-A)に入学し、オーギュスト・デュモン(Auguste Dumont,1801 - 1884)、ガブリエル=ジュール・トマ(Gabriel-Jules Thomas, 1824 - 1905)、アンリ・エミール・アルアール(enri Émile Allouard, 1844 - 1929)、ユベール・ポンカルム(Hubert Ponscarme, 1827 - 1903)に師事しました。1893年にはローマ賞でプルミエ・グラン・プリを獲得し、三年間をローマで過ごしています。ローマから帰国後は、1896年のサロン展で選外優良賞を、1900年のパリ万博で銀メダルを獲得しています。

 リュシアン・クドレは丸彫り彫刻とメダイユ彫刻の両方に才能を発揮しました。特に 1890年代末から 1910年頃までの期間はメダイユ制作に精力的に取り組み、代表作「オルフェウス」(Orphée, 1899)をはじめ、アール・ヌーヴォー様式による数々の美しい作品を産み出しました。信心具の性格を有するメダイユ彫刻としては、本品「サント・セシル」のほか、海事をモティーフに取り入れた大型で美しい作品「ノートル=ダム・ド・ラ・ガルド」が知られています。





 裏面には南西の方角から眺めたアルビ司教座聖堂サント=セシル (Sainte-Cecile) が浮き彫りにされています。サント=セシルは、カタリ派に対して軍事上の優位を誇示するための城砦のような特異な外観で有名で、全長 113.5メートル、全幅 35メートル、鐘楼の高さ 78メートルの規模を誇ります


【下】 参考画像 アルビ司教座聖堂サント=セシル (Sainte-Cécile)




 聖堂を浮き彫りにした周囲には、次の四つの地名が刻まれています。

  ALBI, CASTRES, LAVAUR, GAILLAC  アルビ、カストル、ラヴォル、ガヤック

 これらはいずれもオクシタニー地域圏タルヌ(Tarne)県の地名で、アルビ大司教区に属します。アルビは大司教座の所在地であるとともに、タルヌ県の県都でもあります。





 上の写真は本品を男性店主の手に乗せて撮影しています。女性が本品の実物をご覧になれば、写真で見るよりもひと回り大きなサイズに感じられます。





 本品は百年以上前のフランスで制作された真正のアンティーク品ですが、古い年代にかかわらず、保存状態は良好です。突出部分の磨耗は軽微であり、浮き彫りの細部は全体的によく残っています。彫刻家リュシアン・クドレが生み出した本品メダイユ《聖セシリア》は、浮き彫りの立体性と大きなサイズのせいのみならず、十五世紀の彫像に生命を吹き込む芸術性ゆえに、生身の聖女を眼前に見るかのような錯覚をも覚えさせます。





24,800円

電話 (078-855-2502) またはメール(procyon_cum_felibus@yahoo.co.jp)にてご注文くださいませ。




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