《悪魔よ、去れ》 聖ベネディクトゥスの円形メダイ ミニマリズムによる作例  直径 18.2 mm


突出部分を除く直径 18.2 mm

フランス  二十世紀中頃



 二十世紀中頃のフランスで制作されたヌルシアのベネディクトゥス(St. Benedictus de Nursia, c. 480 – c. 547)のメダイ。 1880年以来モンテ・カッシーノで鋳造されているメダイの伝統的イコノロジーに則りながらも、大胆なマッス(仏 masse 塊)による特徴的な表現は、この頃に盛んであったミニマリスム(ミニマリズム)の流れを引きます。





 表(おもて)面には、紡錘形の画面をメダイの縦いっぱいに設け、聖ベネディクトゥスの全身像を浮き彫りにしています。剃髪して修道衣を着、高位聖職者のクロワ・ペクトラル(仏 une croix pectrale 司教や修道院長が首から下げる大型の十字架)を身に着けた修道院長ベネディクトゥスは、左手に修道院長の牧杖を持ち、右手の親指、人差し指、中指を伸ばし、十字を切っています。十字を切るのは人々に祝福を与える動作でもありますが、本品の場合、顔を右(向かって左)に向けて十字を切る聖人の足下に、大きく破損した杯が見えます。この意匠は聖人伝に記録された奇跡に基づきます。





 伝統的意匠に基づく聖ベネディクトゥスのメダイには、カラスとパン、ならびに壊れた杯と毒蛇が刻まれます。伝説によると、聖人を妬む者が聖人のパンに毒を入れましたが、カラスがそれを咥えて遠くに捨てたことで、聖人は難を逃れました。この伝説において、カラスは知恵を象徴しています。また第二の伝説によると、聖ベネディクトゥスに敵対する者が聖人の飲み物に毒を入れたのですが、聖人が十字を切ると、杯が粉々に砕けたと伝えられています。

 本品に浮き彫りにされた聖人の足下にカラスとパンが彫られているのは、第一の伝説に基づく表現です。聖人が顔を右側(向かって左側)に向けて十字を切り、その真下に壊れた杯と細長い物が刻まれているのは、第二の伝説によります。





 聖人を囲むようにラテン語で「聖ベネディクトゥス」(SANCTVS BENEDICTVS)の文字が彫られています。アルファベットの小文字ができるのはカロリング時代ですが、聖ベネディクトゥスはこれよりも二百年以上前の人ですから、聖人の名前はすべて大文字で書かれています。大文字ヴェ(V)に対応する小文字としてユ(u)が作られ、大文字ユ(U)はさらに後に成立しました。ですから聖ベネディクトゥスの時代には大文字ユ(U)は存在せず、代わりにヴェ(V)が母音字として使われています。





 修道院長聖ベネディクトゥスは堂々たる体躯の威厳ある人物として表され、あたかも天地を繋ぐように、メダイの上下いっぱいに、両足をしっかりと踏みしめて立っています。聖ベネディクトゥスは六世紀、すなわち千五百年以上前に生きた人であり、どのような容姿の人物であったのかが分かる肖像画等は残っていません。実際のところは小柄な人物であったかもしれませんし、厳しい戒律にしたがって生きた修道士ですから、きっと痩せていたことでしょう。それにもかかわらず聖ベネディクトゥスは、その後の西ヨーロッパ史に深い影響を及ぼした精神的巨人であるゆえに、この作品において堂々とした人物に描かれています。本品は信心具としての伝統的定型を守りつつも、本来目に見えない「信仰の強さ」や「精神的偉大さ」の可視化、形象化として、芸術の名にじゅうぶん値する作品に仕上がっています。





 メダイ裏面に書かれた文字が何を表すのか、長い間謎でしたが、1415年の写本が1647年にバイエルンのメッテン修道院で発見され、その意味が明らかになりました。まず、十字架上のイニシアル9文字が表すのは次の言葉です。

  CRUX SACRA SIT MIHI LUX. NUNQUAM DRACO SIT MIHI DUX.  聖なる十字架が我が光であるように。竜(悪魔)が我が導き手となることが決して無きように。

 メダイの上部のギリシア文字「イオタ・エータ・シグマ」(IHS)は、ギリシア語「イエースース」(イエズス、イエス)を表します。周囲のイニシアルが表すのは次の言葉です。

  VADE RETRO SATANA. NUNQUAM SUADE MIHI VANA. SUNT MALA QUAE LIBAS. IPSE VENENA BIBAS.  退けサタン。虚しき事で我を誘うな。汝が我に与うるは悪しき物なり。汝自身が毒を飲め。

 十字架の背景にある4文字のイニシアル C. S. P. B. は「聖なる師父ベネディクトの十字架」(羅 CRUX SANCTI PATRIS BENEDICTI)を表します。





 二十世紀半ばに制作された本品の浮き彫りは、制作年代にふさわしく、ミニマリスティックなデザインを採用しています。ミニマリスムは細密な表現を敢えて避け、神の単純性のうちにその豊かさを表現します。本品を二十世紀初頭以前の作例と比較すると、感覚で捉え得る精密さを排除することによって、浮き彫りの精神性が却って高まっていることがわかります。





 上の写真は本品を男性店主の手に乗せて撮影しています。女性が本品の実物をご覧になれば、写真で見るよりも一回り大きなサイズに感じられます。





 本品は数十年前のフランスで制作された真正のヴィンテージ品(アンティーク品)ですが、年代の古さにもかかわらず極めて良好な保存状態です。突出部分にも摩滅は認められず、細部に至るまで制作当時のままの状態を保っています。特筆すべき瑕疵は何もありません。





12,800円

電話 (078-855-2502) またはメール(procyon_cum_felibus@yahoo.co.jp)にてご注文くださいませ。




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