極稀少品 T. パルヴィレ作ゆりかご用メダイ 「愛の雨を享けるテレーズ」 ルーサイト製台座に薔薇のインタリオ 少女姿の稀少な作例 精神性あふれる名品 直径 70 mm

突出部分を除く直径 70 mm

フランス  1950年代



 フランスの守護聖女、リジューの聖テレーズ(幼きイエスの聖テレジア)のゆりかご用メダイ。本質的に修道者であったテレーズの信仰を、少女時代の姿に仮託して表現した非常に珍しい作品です。外形的には、少女テレーズが祈る姿を金属円盤に打ち出し、ルーサイトあるいはプレクシグラスと呼ばれる透明アクリル樹脂製台座に嵌め込んでいます。直径 70ミリメートルとたいへん大きなサイズで、ブロンズの環を上部に取り付けています。





 表(おもて)面に嵌め込んだ金属製メダイユの直径は 44ミリメートルで、ブロンズに銀めっきを施しています。左端に「サント・テレーズ・アンファン」(Ste. Thérèse enfant 「子供時代の聖テレーズ」)と記されています。少女テレーズの肩の後ろ、金属製メダイユの縁に近い部分に、メダイユ彫刻家のサイン("T. PARVILLERS" T. パルヴィレ)があります。T. パルヴィレは 1920年代から50年代にかけてフランスで活躍したメダイユ彫刻家です。

 メダイユ彫刻において、リジューのテレーズは常に修道女姿で表されます。筆者(広川)はこれまで長年に亙って非常に多くの「テレーズのメダイ」を見てきていますが、それらは例外なく修道女姿のテレーズを写しています。唯一の例外が本品です。極めて珍しいことに、彫刻家はテレーズをあどけなさの残る少女として表しています。





 本品のテレーズは十代前半の少女の姿です。少女テレーズは跪(ひざまず)き、天を見上げて神と対話しています。テレーズが眼差しを注ぐ先には十字架があり、十字架は天上から薔薇の雨を降らせています。

 「薔薇の雨」は、修道女になったのちのテレーズが遺した言葉「わたしは天から薔薇の雨を降らせましょう」("Je ferai tomber une pluie de rose.")を思い起こさせます。しかしながら本品に彫られたテレーズは、まだ少女に過ぎません。本品にはなぜ「薔薇の雨」が描かれているのでしょうか。その理由を知るには、薔薇が愛の象徴であることを思い起こす必要があります。





 本品のテレーズは、十代前半の少女として表されています。ちょうどこの頃、1886年のノエル(クリスマス)の夜に、テレーズは「余すところ無きコンヴェルシオン」を経験しました。テレーズは自伝「ある魂の物語」("Histoire d'une Âme")の元となる「手稿 A」を1895年に著述しましたが、このなかで少女時代の「余すところ無きコンヴェルシオン」について記述し、「この光の夜から、わが生涯の第三期が始まった。すべての中で最も美しい時期、天なる神の恵みに最も満たされた時期だ」と書いています。このとき以降、テレーズは他者の救いのために祈り始めました。他者の救いのために祈ることは、修道者となるテレーズが神から与えられた使命です。そえゆえテレーズは「生涯の第三期」を指して、「すべての中で最も美しい時期、天なる神の恵みに最も満たされた時期」("la troisième période de ma vie, la plus belle de toutes, la plus remplie des grâces du Ciel")と呼んでいます。


(下) 十三歳のテレーズ 1886年2月撮影。当店の商品です。




 「手稿 A」で、1886年のノエルに起こった「余すところ無きコンヴェルシオン」の描写に続き、テレーズは次のように書いています。

     Un Dimanche en regardant une photographie de Notre-Seigneur en Croix, je fus frappée par le sang qui tombait d'une de ses mains Divines, j'éprouvai une grande peine en pensant que ce sang tombait à terre sans que personne ne s'empresse de le recueillir, et je résolus de me tenir en esprit au pied de (la) Croix pour recevoir la Divine rosée qui en découlait, comprenant qu'il me faudrait ensuite la répandre sur les âmes...    ある日曜日、十字架に架かり給う主の写真を見たとき、御手から落ちる血に心を打たれた。御血を集めようと駆け付ける者もいないまま、主の御血が地に落ちたことを思い、私はひどく苦しんだ。私は精神において十字架の根元をつかみ、十字架から滴る神の露を受け、そうしてその露を人々の魂の上に撒こうと心に決めた。
     Le cri de Jésus sur la Croix retentissait aussi continuellement dans mon cœur : " J'ai soif ! " Ces paroles allumaient en moi une ardeur inconnue et très vive... Je voulais donner à boire à mon Bien-Aimé et je me sentais moi-même dévorée de la soif des âmes...    十字架上のイエスが発し給うた「わたしは渇く」という叫びも、わが心に繰り返し響き渡った。イエスの言葉は私がそれまで知らなかった熱意をとても活き活きと心の中に燃えたたせた。私は渇きを癒す物を主に差し上げたいと望むとともに、人々の魂を求めて私自身が渇くのを感じた。






 上に引用したのは「手稿 A」第四十五葉裏面の後半です。「手稿 A」のテレーズは「十字架から滴る神の露」、すなわちキリストの血を受け、それを人々の魂の上に撒こうと心に決めています。キリストの血は神の愛の象徴です。

 「手稿 A」に書かれている内容をそのまま図像化するのであれば、十字架の根元を抱く少女テレーズにキリストの血が滴り落ちている構図になるはずです。しかしながら本品において、「十字架から滴る神の露」(キリストの血)は、同じく神の愛の象徴である「薔薇の花の雨」に置き換えられています。

 メダイユ彫刻家が「天から降る薔薇の雨」を以て「十字架から滴るキリストの血」に代えた理由は、十三歳のテレーズの信仰と修道女テレーズの信仰の同一性を表現するためです。本品において少女テレーズの上に降り注ぐ薔薇の雨は、「手稿 A」第四十五葉表面に書かれている出来事、すなわち 1886年のノエルの夜に十三歳のテレーズの身に起こった「余すところなきコンヴェルシオン」が、その後も恒久的に持続して、以後のテレーズの生き方を確定したことを示しています。

 テレーズの個人史に照らし合わせると、少女時代のテレーズと「薔薇の雨」の組み合わせは、一見したところ時系列を無視したアナクロニスティックな表現にも思えます。彫刻家は精神性あふれる本作品にこの「アナクロニスム」を敢えて採り入れ、少女テレーズの魂がコンヴェルシオンの経験によって地上の時間を超越したこと、神の御許で永遠の相の下に安らう者となったことを示しているのです。


(下) テレーズのメダイ 「私は天から薔薇の雨を降らせましょう」 22.4 x 20.3 mm フランス 1930年代 当店の商品です。




 修道女になったテレーズは、「私は天から薔薇の雨を降らせましょう」("Je ferai tomber une pluie de rose.")と書きました。これは薔薇の雨がテレーズ自身に発するという意味ではありません。テレーズが言ったのは、神の愛である薔薇の雨が「自分(テレーズ)自身に注がれたのと同様に、人々の魂の上にも注がれるべく、修道者として祈ろう」という意味です。

 1886年のノエルにコンヴェルシオンを体験したテレーズは、まだ十三歳の少女ながら、成人の修道者と同じく、「人々の魂の救いのために祈る」ようになりました。少女テレーズは「精神において十字架の根元をつかみ、十字架から滴る神の露を受け、そうしてその露を人々の魂の上に撒こうと心に決めた」("Manuscrit A", folio 45 verso)のですが、これは「天から薔薇の雨を降らせましょう」という言葉とまったく同じ意味です。

 したがって「十字架から滴るキリストの血」の代わりに、「天から降る薔薇の雨」が少女テレーズの上に注がれている本品の構図は、修道者テレーズを生んだコンヴェルシオンの持続性を表現していることがわかります。「十字架から滴る神の露を受け、そうしてその露を人々の魂の上に撒く」という少女テレーズの言葉と、「天から降る薔薇の雨を受け、その雨を人々の魂の上に降らせる」という修道女テレーズの言葉は、表現こそ違いますが、全く同じことを言っています。そのいずれも、「自らが受けた神の恵み(コンヴェルシオン)が、他の人々の魂にも与えられるように祈る」という修道者の使命の表明です。メダイユ彫刻家T. パルヴィレは、少女テレーズの上に薔薇の雨を降らせることにより、修道女となって以後のテレーズとの連続性、すなわちテレーズの身に起こったコンヴェルシオンの持続性を、この作品に可視化しているのです。





 本品の台座は、無色透明のルーサイト(Lucite 高透明度のアクリル樹脂)でできています。ルーサイトは円盤状に成型し、裏側からインタリオの技法を使って薔薇の彫刻を施しています。彫刻はひとつひとつ手作業によって彫られたもので、手仕事の温かみを感じさせます。





 本品は数十年前のフランスで制作された真正のヴィンテージ品(アンティーク品)ですが、保存状態は極めて良好です。特筆すべき問題は何もありません。メダイユ彫刻家T. パルヴィレは、少女テレーズの姿に仮託して、この頃のテレーズが経験した「コンヴェルシオン」と、在俗の修道女ともいうべき少女の高い霊性を形象化しています。

 愛らしい少女の上に薔薇の雨が降る意匠は見た目に美しく、少女時代のテレーズを彫っている点でも類例のない唯一の作例です。しかしながら本品の価値は、そのように可視的な点に留まりません。聖女の自伝「わが魂の物語」、及び1895年の「手稿 A」と照らし合わせて解釈すれば、精神性に溢れるこの作品には、「信仰のコンヴェルシオン」と「修道者の使命」という深遠なテーマが内在していることがわかります。





本体価格 25,800円 販売終了 SOLD

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