プリカジュールによる稀少品 R. リゴラ作 「子羊を抱く幼子イエス」 ブロンズのゆりかご用メダイ 直径 43 mm フランス 1940 - 50年代


突出部分を除く直径 43 mm  最大の厚さ 8.8 mm  重量 34.3 g

フランス  1940 - 50年代



 20世紀中頃のフランスで、リヨンのメダイユ工房「ア・ オジ」(A. Augis) が制作したゆりかご用メダイ。中心に大きく表されたのは幼子イエスの像で、彫刻家のサインはありませんが、フランスで活躍したイタリア系のメダイユ彫刻家 R. リゴラ(R. Rigola)の作品です。メダイユ全体は六個のブロンズ製部品を組み合わせて溶接し、金めっきを施しています。4.3ミリメートルの直径、8.8ミリメートルの厚み、34.3グラムの重量があり、ゆりかご用メダイとしては異例の重厚な作りです。





 本品は子羊を抱く幼子を表しています。子羊を抱く幼子の図像は、洗礼者ヨハネの姿として親しまれています。しかしながらメダイユ工房ア・オジは、R. リゴラによる別の作品を改変して本品を制作しており、元の作品では幼子の後光に十字架があしらわれています。後光に十字架がある幼子はイエス・キリストですから、R. リゴラはこの幼子をヨハネではなくイエスとして彫っていることがわかります。

 幼子に抱かれる子羊は生まれたばかりらしく、体はごく小さなサイズです。子羊は十字架を抱える「アグヌス・デイ」(AGNUS DEI ラテン語で「神の子羊」)にも見えますが、十字架は子羊ではなく幼子イエスが持っているようにも見えます。子羊を抱く幼児がイエスであるならば、この子羊は「アグヌス・デイ」ではなくて、人間の魂を表すとも考えられます。またイエスと重ね合わせた子羊は、やはりアグヌス・デイであるとも考えられます。おそらく R. リゴラは子羊に二つの意味を重ねて、「アグヌス・デイ」と「導かれ救われるべき人間の魂」の両方を表したのでしょう。

 羊が人間の魂を表す図像の例として、19世紀後半のフランスのカニヴェを下に示します。このカニヴェは善き牧者であるイエス・キリストの手から生命の水を飲む羊たちを描いています。聖画の下には、次の言葉がフランス語で記されています。

  Allons puiser à cette source divine qui toujours s'épanche et jamais ne s'épuise.   常に湧き出し枯れることなき神の泉にて、我ら命の水を汲まん。

 当店の商品です。


 とりわけ本品はゆりかご用メダイですから、イエスに抱かれる子羊は、ゆりかごに眠る幼子を表していると思われます。羊をはじめ、草食動物は肉食動物に捕食される危険があるゆえに、眠るときを含めてほとんど常に立っています。しかるにこの子羊はイエスの腕の中という安全な場所で、脚を折り曲げてくつろいでいます。その様子は母の愛に守られてすやすやと眠る幼子にそっくりで、ゆりかご用メダイにぴったりの作品となっています。





 本品はいくつものブロンズ製部品を組み合わせることにより、三次元の奥行を実現しています。とりわけ薔薇窓状の部材には、大面積のプリカジュール(仏 plique-à-jour)が施されています。プリカジュールは溶融したガラスの表面張力を利用し、下地を欠く金属枠にエマイユを施す技法で、日本語では「透胎七宝」(とうたいしっぽう)といいます。本品のプリカジュールに使われているのは花紺青(はなこんじょう)のスマルト(コバルト・ガラス)で、見事なコーンフラワー・ブルーの発色が、かつてカシミールに産した最上級のブルー・サファイアを髣髴(ほうふつ)させます。





 日光に透かして見た本品のプリカジュールは、ステンドグラスそのものです。古代以来のヨーロッパ美術史において、青(ブルー)が積極的な役割を担ったのは、シュジェ (Suger de Saint-Denis, c. 1080 - 1151) によるサン=ドニ修道院付属聖堂(現、サン=ドニ司教座聖堂)の改築を以て嚆矢とします。シュジェは青色のスマルトを積極的に多用してステンドグラスを作らせ、ステンドグラスを通して、物質を聖化する天上の光を聖堂内に溢れさせました。賛嘆の的となった「ブリュ・ド・サン=ドニ」(bleu de St-Danis サン=ドニの青)のステンドグラス職人集団は、ル・マン(Le Mans ペイ・ド・ラ・ロワール地域圏サルト県)に移動し、当地の司教座聖堂サン=ジュリアン (le cathédrale Saint-Julien du Mans) において「ブリュ・デュ・マン」(bleu du Mans ル・マンの青)を、さらにシャルトルに移って、当地の司教座聖堂ノートル=ダム (le cathédrale Notre-Dame de Chartres) において「ブリュ・ド・シャルトル」(bleu de Chartres シャルトルの青)を、ステンドグラスに実現します。





 上の写真はシャルトル司教座聖堂の「ノートル=ダム・ド・ラ・ベル・ヴェリエール」(Notre-Dame de la belle verrière 美しき大ステンドグラスの聖母)です。商品写真ではよくわかりませんが、本品のプリカジュールには「ノートル=ダム・ド・ラ・ベル・ヴェリエール」と同じ花紺青のスマルトが採用され、周囲の金色とともに天上の音楽を奏でています。

 なお本品を日光に透かして撮影した写真では、スマルトにヘアラインが写っていますが、エマイユの表面に亀裂はありません。制作したメダイを徐冷する時に、小さな亀裂がガラス内部に生じたのでしょうが、これが原因となってエマイユが脱落することはありません。ご安心ください。





 本品の裏面には、環状部品の下部に「ア・オジ」(A. AUGIS)の刻印があります。「ア・オジ」(A. Augis) はリヨンのメダイユ及びジュエリー工房で、1830年創業の老舗です。今日も六代目当主のもとで存続しています。





 本品はおよそ六十年あるいはそれ以上前に制作された品物ですが、古い年代にもかかわらず、保存状態は極めて良好です。稀少なプリカジュールも、完全な状態で残っています。ゆりかごで眠る幼子を、イエスの腕に安心して抱かれる子羊に重ね合わせた美しい作品です。





本体価格 24,800円 販売終了 SOLD

電話 (078-855-2502) またはメール(procyon_cum_felibus@yahoo.co.jp)にてご注文くださいませ。




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