銀製高級ペンダント 金の星に囲まれたルルドの聖母 青色のガラス・エマイユを施したフランス製マーカサイト・ジュエリー 直径 24.2 mm 重量 6.6 g


突出部分を除く直径 24.2 mm  重量 6.6 g

フランス  1950年代



 第二次世界大戦の痛手から立ち直りつつある 1950年代のフランスで、ノートル=ダム・ド・ルルド(仏 Notre-Dame de Lourdes ルルドの聖母)をテーマに制作されたメダイユあるいはペンダント。銀無垢メダイをパイライトのメレで囲み、つややかなガラス・エマイユを施した高級品です。直径二十四ミリメートルは百円硬貨と五百円硬貨の中間で、かなり大きめのサイズです。重量六・六グラムは五百円硬貨に近く、手に取ると心地良い重みを感じます。





 ペンダントの表(おもて)面には少女マリアの端正な横顔を浮き彫りにし、融解した青色ガラスを掛けて、エマイユ・シュル・バス=タイユ(仏 l'émail sur basse-taille)としています。

 横顔を見せる若きマリアは、祈りを象徴するヴェールを被り、少しうつむき加減に目を閉じています。人祖アダムの妻エヴァは、「生命」を意味するその名にも関わらず、原罪を犯して人間に死をもたらしました。いっぽうマリアは「無原罪の御宿り」(仏 l'Immaculée Conception)、すなわちアダムとエヴァの子孫のうち、原罪を引き継がずに生まれた唯ひとりの人であり、罪びとたちに永遠の生命をもたらす救い主の母、新しきエヴァです。少女マリアは自分に与えられた特別な役割に思いを潜めつつ、心静かに神と対話しています。





 マリアの頭部の後ろには円形の後光があります。後光から放射状に発出する線条は、神の恩寵を表します。神ならざるマリアは恩寵の源ではありませんが、救い主を生んだ「ヴァズ・ド・ラ・ベネディクシオン」(仏 vase de la bénédiction 恩寵の器)、すなわち神の恩寵を人に伝える聖女であるゆえに、神の恩寵、すなわち無償かつ無限の愛は、マリアから発出する光として表されています。

 金色の星々が九個、マリアの後光を囲んでいます。「ヨハネの黙示録」十二章一節に基づいて、マリアを囲む星は十二個を描くのが普通ですが、本品ではこのうち三個がマリアの背後に隠れています。星の形は五芒星です。「五」は偶数(二)と奇数(三)の組み合わせであるゆえに、五芒星は「全ての事物」「全ての人々」の象徴です。いっぽう星の数「十二」は、キリストに従う使徒の数と同じです。したがって十二個の五芒星は、キリストに従うすべての人々、すなわち全キリスト教徒あるいは全キリスト教会を象徴します。





 浮き彫りを彩るエマイユの青は、ウルトラマリン(ラピス・ラズリの青)に似て、すみれ色がかった花紺青(はなこんじょう)です。これはスマルト(コバルトガラス)の色であり、フランス語で「ブリュ・マリアル」(bleu marial)、英語で「マリアン・ブルー」(Marian blue) と呼ばれる「マリアの青」です。

 十八世紀初頭にプロイシッシュ・ブラウ(独 preußisch Blau ベルリン青)が合成される以前、青の顔料は稀少でした。なかでもウルトラマリンははるばるバダフシャン(アフガニスタンの奥地、タジキスタンに接する地方)から運ばれてくるゆえにたいへん高価であり、絵画の注文主が画家に対してウルトラマリンの使用を望む場合、絵の制作費とは別に絵具代を支払いました。

 このように貴重であった青色の使用は、絵画よりもまず、ゴシック聖堂のヴェリエール(仏 verrière ステンドグラス窓)とエマイユにおいて始まりました。すなわちサン=ドニのベネディクト会修道院長シュジェ(Suger de Saint-Denis, c. 1080 - 1151)は色彩を光の属性と考え、それゆえに色彩は天上界に属するものと見做しました。シュジェはこの考えに基づき、1136年から 1140年にかけて修道院付属聖堂を改築した際、多色のステンドグラスを窓に嵌め込み、聖堂内に天上の色彩をあふれさせました。青色のスマルト(コバルトガラス)はとりわけ人々の賛嘆を集め、「ブリュ・ド・サン=ドニ」(仏 bleu de St-Danis サン=ドニの青)として知られるようになりました。フランスのメダイユに時折見られるスマルトのエマイユは、それゆえ、サン=ドニのステンドグラスに起源を有します。フランスはメダイユ彫刻の国であるとともにエマイユ工芸の国でもありますが、本品のエマイユにもその歴史が受け継がれています。


 エマイユとは別に、は天空の色でもあります。それゆえ青は天上界を象徴します。本品のエマイユの色「ブリュ・マリアル」は、マリアが「天の元后」であることを示すとともに、天上と地上を結ぶ「恩寵の器」であることを表します。

 青は知恵の色でもあり、ケルビム(智天使)を象徴します。しかるに智天使は神の玉座です。したがって「ブリュ・マリアル」のガラスに彩られた聖母は、やがて救い主を生み、幼い救い主を膝に乗せることになるマリアが、ケルビムに比せられる「上智の座」(羅 SEDES SAPIENTIAE)であることをも表します。


 浮き彫りを被う青色ガラスは、浮き彫りが有する三次元の凹凸を視覚的に強調しています。メダイユ彫刻とエマイユが融合したこのような工芸技法を、「エマイユ・シュル・バス=タイユ」(仏 l'émail sur basse-taille)といいます。青色ガラスの「エマイユ・シュル・バス=タイユ」において、聖母は恩寵の光により夜の闇を照らしているように見えます。濃い青色の部分に散りばめられた金の星が、この効果を相乗的に強めています。





 本品は愛らしい花のようなシルエットを有します。一枚一枚の花弁はファセット・カットを施したパイライト(黄鉄鉱)で飾られ、ペンダントのわずかな傾きに合わせて瞬くように煌(きら)めきます。

 ファセット・カットを施したパイライトを、アンティーク・ジュエリーの世界では「マーカサイト」あるいは「マルカジット」と呼んでいます。いわゆるマーカサイト・ジュエリーが最も流行したのは十九世紀であるゆえに、それらのジュエリーに嵌め込まれるパイライトのカットは、上面に平坦な面を持たないローズ・カットです。本品は二十世紀半ばの品物ですが、パイライトのカットはやはりローズ・カットで、たいへんクラシカルな趣きです。

 十九世紀の「マーカサイト・ジュエリー」は、ダイアモンドの代用品としてパイライトが使われるようになったものです。それゆえ安価な品物の場合、パイライトはジュエリー本体の金属に接着されています。接着によって取り付けられたストーンは、接着剤が経年劣化すると外れやすくなるのが欠点です。しかしながら本品のパイライト(「マーカサイト」)は、ダイアモンドをはじめとする天然宝石のジュエリーと同様に、ひとつひとつをプロング・セット(爪留め)しています。プロング・セットはすべてジュエリー職人の手作業によりますから、たいへん手間がかかります。それゆえ本品は、ダイアモンドこそ使われてはいませんが、立派なファイン・ジュエリーとして制作されていることがわかります。本品の上部に突出した台形部分には、リボンやチェーンを通すための環が付けられています。この環にも一個のパイライトが取り付けられています。

 本品の上部に突出した台形部分には、純度八百パーミル(800/1000)の銀を表すパリ造幣局のポワンソン(仏 poinçon 貴金属の検質印)、「テト・ド・サングリエ」(仏 tête de sanglier イノシシの頭)、及びフランスの銀細工工房のマークが刻印されています。純度八百パーミルの銀はフランスの信心具に使われる最も高級な素材です。「テト・ド・サングリエ」の検質印は、パリ造幣局において 1838年から 1973年まで使用されていました。





 裏面中央のくぼみには、胸の前に両手を合わせて天を見上げるノートル=ダム・ド・ルルド(ルルドの聖母)と、ヴェールを被ってその前に跪くベルナデットの姿が浮き彫りにされています。これは1858年3月25日、聖母が十六度目にルルドに出現した際の様子です。このとき聖母はベルナデットに四度続けて名を問われ、「わたしは無原罪の御宿りです」と答えました。ベルナデットの傍らには、揃えて脱いだ靴と薪の束が見えます。聖母とベルナデットの間には、小さなせせらぎが見えています。





 上の写真は筆者(男性)の手に載せて撮影しています。女性が本品の実物をご覧になると、もうひと回り大きなサイズに感じられます。

 聖地ルルドにまつわるメダイユやペンダントは数多く作られていますが、本品はその中で最も美しい作品です。小さなパイライトがひとつひとつジュエリー職人の手で爪留めされていることをはじめ、非常に丁寧な作りから、本品が一点物ではないにしても、量産品では決してないことがわかります。ルルドの聖母を主題にしたペンダントやメダイを、筆者(広川)はこれまでに非常に多く見てきていますが、本品の類品は一度も目にしたことがありません。

 大きめサイズの本品は、どのような服装に合わせても魅力的なアクセントになります。写真ではよくわかりませんが、エマイユには艶やかな光沢が、パイライトには華やかな煌めきがあり、実物を手に取るとたいへん美しい作品です。お買い上げいただいた方には必ずご満足いただけます。





本体価格 35,800円 販売終了 SOLD

電話 (078-855-2502) またはメール(procyon_cum_felibus@yahoo.co.jp)にてご注文くださいませ。




ビジュ・ド・デヴォシオン キリスト教をモチーフにしたジュエリー 商品種別表示インデックスに戻る

ビジュ・ド・デヴォシオン キリスト教をモチーフにしたジュエリー 一覧表示インデックスに戻る


キリスト教関連品 商品種別表示インデックスに移動する



アンティークアナスタシア ウェブサイトのトップページに移動する




Ἀναστασία ἡ Οὐτοπία τῶν αἰλούρων ANASTASIA KOBENSIS, ANTIQUARUM RERUM LOCUS NON INVENIENDUS