ジャン=バティスト・エミール・ドロプシ作 「聖クリストフ」 800シルバー製メダイヨン 直径 26.7 mm


突出部分を除く直径 26.7 mm   最大の厚さ 4.4 mm

フランス  20世紀初頭



 19世紀後半から20世紀前半のフランスにおけるカトリック・メダイユ彫刻を代表するひとり、エミール・ドロプシ (Jean-Baptiste Émile Dropsy, 1848 - 1923) による美しい作品。素材は800シルバー(純度 800/1000の銀)で、開閉するメダイヨン(ロケット)となっています。





 写真では分かりづらいですが、赤色の布の上には金色の枠を付けた円形ガラスが嵌まっていて、収納される写真等を保護するようにできています。真正のアンティーク品にもかかわらず完璧な保存状態で、美観にも、ロケット(フランス語では「メダイヨン」 médaillon)としての機能にもまったく問題が無く、じゅうぶんに実用可能です。





 メダイヨンの表(おもて)面には、聖クリストフの上半身と、左肩に乗った幼子イエズスが立体的に表現されています。クリストフのギリシア語形クリストフォロス (Χριστόφορος) は通常の意味の人名ではなく、「キリスト (Χριστός)」を「運ぶ人 (-φόρος)」という意味です。この名前に関連して、13世紀の聖人伝「レゲンダ・アウレア」には、次のような物語が書かれています。

 武人クリストフは世界で最も強い主君に出会うため、隠者の助言に基づいて渡し守をしていました。 ある日、小さな男の子を向こう岸に渡していると、男の子の体重は世界を背負っているのではないかと思うほど重くなりました。やっとの思いで向こう岸にたどり着いたクリストフが、世界を背負っているかと思うほどに重かったと男の子に言うと、男の子は「汝は世界を背負っただけでなく、世界を創造したキリストを背負ったのだ。わたしこそが汝の捜し求める王キリストである。」と答えて姿を消しました。





 本品の聖クリストフは筋骨隆々たる巨漢ですが、その容貌は決して魁偉ではなく、神の前に遜(へりくだ)る信仰、幼子への愛と優しさが、穏やかな表情の横顔に滲んでいます。怪力無双の大男クリストフは、立ち木を引き抜いてそのまま杖にし、胸の下まで川の深みに浸かっています。クリストフの右の肘と立ち木の上部、及びクリストフの体を打つ川面の波が、メダイヨンの円形画面の外まではみ出して、たいへん迫力のある描写となっています。





 幼子イエズスは、天地の支配権を表す世界球、グロブス・クルーキゲル(GLOBUS CRUCIGER ラテン語で「十字架付の球体」)を左手に持ち、右手で天を指して、自らが天地の造り主であり主宰者であることを、威厳に満ちた態度で宣言しています。幼子イエズスと聖クリストフの間に通い合う眼差しは、「神の愛」と「神への愛」を目に見える形で表しています。幼子イエズスから発する光輝や、向かって右の背景に見える雲、向かって左の遠景にかすんで見える聖堂など、この作品が金属の凹凸のみに頼るメダイユ彫刻であるとは信じ難い完成度に、彫刻家エミール・ドロプシの天才が表われています。表(おもて)面の右端に、エミール・ドロプシのサイン (E. Dropsy) が刻まれています。





 メダイヨンの裏面には、曲線的な植物モティーフを背景に、光り輝く十字架があしらわれています。

 伝説によると聖クリストフは殉教者ですから、この聖人のメダイの裏面には殉教者を象徴するナツメヤシの葉が彫られるのが普通です。あるいは強い香気によって高い徳を象徴する百合が刻まれることもあります。しかるに本品に刻まれている植物は、種類の特定ができません。本品が制作された19世紀末から20世紀初頭は、日本美術の強い影響下に発展したアール・ヌーヴォーの時代でした。アール・ヌーヴォーの植物文様はもともと写実的でしたが、後には独自の様式化が進みます。本品裏面にあしらわれた曲線的な植物文様は、アール・ヌーヴォー後期、すなわち20世紀初頭に制作された美術工芸品ならではの特徴です。


 中世以来、聖クリストフは旅人や乗り物に乗る人を事故から守る守護聖人として崇められ、聖クリストフの図像を見る者は、その日のうちに「悪しき死」、すなわちしかるべき儀式をせずに死んでしまう突然の死、事故死に遭うことが無い、と言い伝えられています。「聖クリストフの姿(絵や像)を見る者は、その日のうちに悪しき死に遭うことが無い」という言い伝えは、ロマン・ロラン「ジャン・クリストフ」の冒頭部分でも引用されています。




【上 参考画像】 聖クリストフの札 手彩色木版画 (南ドイツ、1423年) 家に貼るためのもの。絵の下部に書かれているラテン語は次のとおり。

Christofori faciem die quacumque tueris, illa nempe die morte mala non morieris.   クリストフォロスの顔を見れば、その日は決して悪い死に遭うことがない



 したがってこのメダイヨンは、大切な人の写真などを肌身離さず持ち歩くとともに、身に着ける人を不慮の事故から守るペンダントとして制作されていることがわかります。本品は百年あるいはそれ以上前に制作された真正のアンティーク品ですが、驚くほど良好な保存状態です。浮き彫り彫刻の突出部分もまったく磨滅しておらず、細部までよく残っています。メダイヨン(ロケット)の機能に関しても、如何なる問題もありません。ガラスは割れておらず、蝶つがいに緩みは無く、閉じた際に隙間はありません。高名なメダイユ彫刻家エミール・ドロプシが、信心具の素材として最も高級な銀を使用して制作し、ベル・エポック(フランスの「古き良き時代」)の香りを今に伝える実用可能な工芸品です。





本体価格 21,000円 販売終了 SOLD

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