多色刷り石版による小聖画 恩寵の器マリア 「お言葉どおり、この身に成りますように」(ブアス=ジューヌ No. 3318)


良質の厚紙に多色刷り石版  110 x 74 mm

19世紀末から20世紀初頭  フランス



 クロモリトグラフィ(多色刷り石版)によって歳若き聖母を描いた古い聖画。19世紀末から20世紀初頭頃のもので、版元はパリのブアス=ジューヌ (Bouasse-Jeune et Cie) です。

 パロック期以降の美術作品において、聖母は白い衣に青のマントを羽織った姿で表されるようになります。白の衣と青のマントは、ベアトリス・ダ・シルヴァ ( Beatriz da Silva, 1424 -1490) が幻視した聖母が身に着けていたものです。 ベアトリス・ダ・シルヴァは、聖母受胎修道会の創設者として知られるポルトガルの聖女です。しかしながらこの聖画においては、少女マリアはピンクの衣と青いマントという中世以来の服装で描かれており、古典的な香りがするとともに、若い女性の華やかさ、ナザレの少女マリアが生身の女性として持つ親しみやすさをも感じさせる作品に仕上がっています。

 天使ガブリエルが去った後、少女マリアは目を閉じて、ついいましがた伝えられた受胎告知の言葉に思いを巡らせています。救い主を産むという、普通の人間であれば怖れ慄(おのの)いて当然の大任を委ねられたにもかかわらず、歳若いマリアは混じりけの無い信仰によって神に全てを委ね、薔薇色の頬が色を失うこともなく、口許には微笑みさえ浮かべています。太祖アブラハムやヨブにも匹敵するこの無条件の信仰によって、マリアは人間に救いをもたらす「恩寵の器」となったのです。

 聖画の下には次の言葉がフランス語の韻文で記されています。

Fiat! mot créateur et parole féconde! 「かくあれかし」とは、なんと創造的な言葉であり、なんと豊かな実りをもたらす語であることか。
Dieu le dit au néant pour enfanter le monde. 神は世を産み出すために、無に向かってこの言葉を発し給うたのだ。
Et Marie, à la voix de l'ange Gabriel, そしてマリアは、天使ガブリエルの声を聞いて、
En répetant ce mot unit la terre au ciel. この言葉を繰り返し、地を天に結びつけたのだ。


 ラテン語の動詞「フィアット」(FIAT) は、「ファキオー」(FACIO 「作る」「為す」)の受動相「フィオー」(FIO 「できる」「成る」「生じる」)の接続法現在三人称単数形で、「生じよ」「かくあれ」「そうなりますように」という意味です。「フィアット」は神が天地を無から創造された際に使われた言葉で、創世記1章に繰り返し出て来ます。天地創造の第一日を記述した創世記1章1節から5節を、ノワ・ウルガタにより引用します。

In principio creavit Deus caelum et terram. Terra autem erat inanis et vacua, et tenebrae super faciem abyssi, et spiritus Dei ferebatur super aquas. Dixitque Deus: “Fiat lux”. Et facta est lux. Et vidit Deus lucem quod esset bona et divisit Deus lucem ac tenebras. Appellavitque Deus lucem Diem et tenebras Noctem. Factumque est vespere et mane, dies unus. (LIBER GENESIS, caput I, 1 - 5)   初めに、神は天地を創造された。地は混沌であって、闇が深淵の面にあり、神の霊が水の面を動いていた。神は言われた。「光あれ。」こうして、光があった。 神は光を見て、良しとされた。神は光と闇を分け、光を昼と呼び、闇を夜と呼ばれた。夕べがあり、朝があった。第一の日である。


 この「フィアット」という同じ言葉を、受胎を告知されたマリアも使っています。ルカによる福音書1章25節から37節を、ノワ・ウルガタにより引用します。

In mense autem sexto missus est angelus Gabriel a Deo in civitatem Galilaeae, cui nomen Nazareth, ad virginem desponsatam viro, cui nomen erat Ioseph de domo David, et nomen virginis Maria. Et ingressus ad eam dixit: “ Ave, gratia plena, Dominus tecum ”. Ipsa autem turbata est in sermone eius et cogitabat qualis esset ista salutatio. Et ait angelus ei: “ Ne timeas, Maria; invenisti enim gratiam apud Deum. Et ecce concipies in utero et paries filium et vocabis nomen eius Iesum. Hic erit magnus et Filius Altissimi vocabitur, et dabit illi Dominus Deus sedem David patris eius, et regnabit super domum Iacob in aeternum, et regni eius non erit finis ”.Dixit autem Maria ad angelum: “ Quomodo fiet istud, quoniam virum non cognosco? ”. Et respondens angelus dixit ei: “ Spiritus Sanctus superveniet in te, et virtus Altissimi obumbrabit tibi: ideoque et quod nascetur sanctum, vocabitur Filius Dei. Et ecce Elisabeth cognata tua et ipsa concepit filium in senecta sua, et hic mensis est sextus illi, quae vocatur sterilis, quia non erit impossibile apud Deum omne verbum ”. Dixit autem Maria: “Ecce ancilla Domini; fiat mihi secundum verbum tuum”. Et discessit ab illa angelus. (EVANGELIUM SECUNDUM LUCAM, caput I, 25 - 37) . 六か月目に、天使ガブリエルは、ナザレというガリラヤの町に神から遣わされた。 ダビデ家のヨセフという人のいいなずけであるおとめのところに遣わされたのである。そのおとめの名はマリアといった。天使は、彼女のところに来て言った。「おめでとう、恵まれた方。主があなたと共におられる。」マリアはこの言葉に戸惑い、いったいこの挨拶は何のことかと考え込んだ。すると、天使は言った。「マリア、恐れることはない。あなたは神から恵みをいただいた。あなたは身ごもって男の子を産むが、その子をイエスと名付けなさい。その子は偉大な人になり、いと高き方の子と言われる。神である主は、彼に父ダビデの王座をくださる。彼は永遠にヤコブの家を治め、その支配は終わることがない。」マリアは天使に言った。「どうして、そのようなことがありえましょうか。わたしは男の人を知りませんのに。」天使は答えた。「聖霊があなたに降り、いと高き方の力があなたを包む。だから、生まれる子は聖なる者、神の子と呼ばれる。あなたの親類のエリサベトも、年をとっているが、男の子を身ごもっている。不妊の女と言われていたのに、もう六か月になっている。神にできないことは何一つない。」マリアは言った。「わたしは主のはしためです。お言葉どおり、この身に成りますように。」そこで、天使は去って行った。


 表(おもて)面の最下部には、版元の名前と所在地(ブアス=ジューヌ、パリ、マルビヨン通9番地)、及び図版番号(3318)が書かれています。



 裏面には、ヘルフタの聖ゲルトルード (Hl. Gertrud von Helfta, Gertrude die Grosse, 1256 - 1302) による祈りの言葉が、フランス語で記されています。内容は次の通りです。

O Marie, paradis de Sainteté, lys de Pureté, Soyez mon guide, car toute la beauté de la vie et de la Veriée resplendit en Vous.   聖性の宮、純潔の百合なるマリアよ。わが導き手となり給え。生命の美のすべて、真なる神の美の全てが、御身において光り輝くからです。



 本品はおよそ百年、あるいはそれ以上前に製作された真正のアンティーク品ですが、たいへん良好な保存状態です。特筆すべき問題は何もありません。紙は中性の良質紙ですので、酸性紙のような変色、崩壊は今後も起こりません。





聖画の価格 4,800円 (税込、額装別) 販売終了 SOLD

電話 (078-855-2502) またはメール(procyon_cum_felibus@yahoo.co.jp)にてご注文くださいませ。



なお、別料金にて額装が可能です。下の二点の価格はいずれも 4,200円(ベルベット代、工賃、税込)です。ベルベットは紺、緑、臙脂、黒等からお選びいただけます。







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