多色刷り石版による小聖画 瞑想に耽る聖ゲルトルード


聖画のサイズ 111 x 75 mm

フランス  19世紀後半から20世紀初頭



 いずれもベネディクト会の修道女で神秘思想家として知られるふたりの同名の聖女、ヘルフタの聖ゲルトルード(大ゲルトルード)、及びニヴェルの聖ゲルトルードをひとりの人物像で表した珍しい聖画。ナントの石版画工房「ゲヌゥ・フレール」 (la maison Guéneux frères à Nantes) による小品です。





 表(おもて)面は多色刷りの石版画で、修道院の一室で祈る聖女を描きます。ベネディクト会の黒い修道服を着てクルシフィクスの前に跪いた聖女は、胸の前に手を組み、頭を垂れて瞑想に耽っています。聖女の頭上では、四人のケルビムが祈る聖女を優しく見守っています。

 聖女の胸には幼子イエズスの心臓が描かれていることから、聖女が脱魂状態であり、いままさに神秘的な体験をしていることが推察されます。





 聖画の上には聖女に執り成しを求める祈りの言葉がフランス語で書かれています。

Sainte Gertrude, Épouse de Jésus, priez pour nous.  イエズスの浄配なる聖ゲルトルードよ、我らのために祈りたまえ。


 祈祷台の上、及び後方の机に上に、それぞれ「霊操 (Exercises)」、「神のあわれみに満たされて (Insinuations de la divine piété)」という本が載せられています。前者はヘルフタの聖ゲルトルードの主要著作であり、後者はヘルフタの聖ゲルトルードの自伝的作品です。「ゲルトルード」という名前の聖女は何人もいますが、ヘルフタの聖ゲルトルードはそのなかでも特に有名な聖女で、「大ゲルトルード」と呼ばれています。

 聖女の足許には次の言葉がフランス語で書かれています。

Si tu veux me trouver, cherchez-moi au l'autel, ou dans le coeur de Gertrude.  汝、もし我を見出さんとせば、祭壇にて探すべし。さもなくばゲルトルードが心の内を探すべし。


 これはヘルフタの聖ゲルトルードの幼少時代に教育係を務めたハッケボルンの聖メヒティルトに対して、イエズス・キリストが語った言葉とされています。



 画面の左端、祈祷台の手前には修道院長の杖が立てかけてあり、ねずみが杖を駆け登っています。これは大ゲルトルードと同名の聖女、ニヴェルの聖ゲルトルードの伝統的図像表現です。ニヴェルの聖ゲルトルードはねずみの害から守ってくれる守護聖人とされ、おそらくこのために猫と愛猫家の守護聖人ともされて、猫とともに図像に描かれることもあります。





 古代の聖人の場合は歴史的事実が正確に伝わらず、ひとりの聖人が幾人もに分裂して崇敬を受けたり、逆に複数の人物が混同されてひとりの聖人に融合したりする場合があります。しかしながらヘルフタのゲルトルードとニヴェルの聖ゲルトルードはいずれも中世の修道女であって、それぞれ正確な伝記が伝わっており、別人であることは明らかです。

 中世以降の聖人について、別々の人物を一人の人物像に融合させて表すのは極めて異例のことであり、本品の描写は意図的に為されたことなのか、それとも間違えて混同したのか、判断がつきません。数ある諸聖人の小聖画のなかでもたいへん珍しい作例であることだけは確かです。





 裏面には、「神のあわれみに満たされて (Insinuations de la divine piété)」の一節を引用して、ヘルフタの聖ゲルトルードの名による神への祈りの言葉が書かれています。

 当時、フランスのバル=ル=デュク(Bar-le-Duc ロレーヌ地域圏ムーズ県)にある聖ジャン教会は、聖ゲルトルードに捧げた礼拝堂を建設しようとしていました。この聖画は、その資金集めのために発行・販売されたものであることがわかります。





 裏面最上部には、「サント・クレール」という修道名の女子修道院長(メール、マザー Mère)に宛てて、「祈りの際に私のことを思い出してください」との伝言がフランス語で書かれています。書き込みはおよそ百年前のもので、黒インクは烏賊墨(セピア)色に褪色し、(illigible) とした部分は消えかかって判読不能です。

Ne m'oubliez pas dans vos prières, Mère Sainte Claire, (illigible) à sa petite sœur Apollonie.


 伝言の最後にプチット・スール・アポロニ(sœur Apollonie 小さき姉妹アポロニア)という名前が出て来ますが、この人はおそらく「貧者の小さき姉妹会」(Petites Sœurs des Pauvres) の修道女なのでしょう。「貧者の小さき姉妹会」は「十字架のマリア」(Marie de la Croix) を名乗った聖ジャンヌ・ジュガン (Ste. Jeanne Jugan, 1792 - 1879) が創設した修道会で、貧しい高齢女性の救済を目的に活動しています。


 本品はおよそ百年のフランスで制作された真正のアンティーク品ですが、良質な中性紙に刷られており、たいへん良好なコンディションです。特筆すべき問題は何もありません。





本体価格 11,000円 (聖画、額、ベルベット代、工賃込み) 販売終了 SOLD

※ 額の種類、ベルベットの色は変更できます。額の種類によって価格が変わる場合があります。

電話 (078-855-2502) またはメール(procyon_cum_felibus@yahoo.co.jp)にてご注文くださいませ。




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