ローマ皇帝自身が処刑をためらうほどの美女として、十三世紀の聖人伝レゲンダ・アウレアに描かれている処女殉教者、アレクサンドリアの聖カタリナの聖画。アレクサンドリアの聖カタリナは、処女、教師、学童、学生、法律家、哲学者、神学者の守護聖人です。
アレクサンドリアの女王であったとされるカタリナは、天を象徴する青色の衣に、金糸で刺繍を施した緋(あけ)のマントを羽織り、豊かに波打つ金髪に宝石入りの黄金の冠を戴いています。冠は殉教者に与えられた栄冠(「コリントの信徒への手紙 第一」 9章25節)と見ることもできます。聖カタリナの衣の色に関して、図像学上の決まりごとはありませんが、青と緋色は天界にある女王に相応しい高貴な色の組み合わせです。ラファエロやグエルチーノも、聖カタリナの衣にこの色を使っています。
(上) Raphael, St. Catherine of Alexandria, c. 1507, oil on wood,
72.2 x 55.7 cm, The National Gallery, London
(下) Il Guercino, Martyrdom of St Catherine, 1653, oil on canvas, 222,5 x
159 cm, The Hermitage, St. Petersburg
緋色を長衣の色、青をマントの色とすれば、これはそのまま十七世紀中頃までの聖母像における衣の色となります。いずれにせよ、この二色の取り合わせが高貴さを表していることにかわりはありません。
伏し目がちのカタリナの視線は、右手に持つナツメヤシの葉、あるいは左手を優しく添えた恐ろしい刑具に注がれているように見えます。恐ろしい物を見ているにもかかわらず、天上の平和に満ちているカタリナの穏やかな表情は、ナツメヤシの葉が象徴する殉教も、身の毛のよだつような刑具も、聖女にとって天なる花婿イエズス・キリストの許へ行くための甘美な助けに他ならないことを示しています。
本品は縦 33.5センチメートル、横 23 センチメートルで、ほとんどB4サイズに近い大きさです。モノクロではなく美しいカラーですが、オフセット印刷ではなく真正の多色刷り石版画です。画面を拡大して見ると点描法を取り入れていることがわかります。あたかも天上の光が満ちているかのような画面の明るさは、この技法によって実現されています。下部にドイツ語、イタリア語、フランス語、スペイン語、英語で「聖カタリナ」と書かれています。画家の名前も版元名も記されていませんが、これはフリドリン・ライバー(Fridolin
Leiber, 1853 - 1912)の作品です。版元はおそらくフランクフルトのエドヴァルト・グスタフ・マイ(Edward Gustav May)でしょう。
本品は1900年頃のドイツで制作されたもので、良質の中性紙に刷られています。百年以上前のものですが、これまで展示されることもなく新品のまま保管されていたために、真正のアンティーク品とはにわかに信じ難いほどの良好なコンディションです。
別料金にて額装をご注文いただくことも可能です。このサイズの聖画を額装すると大衣(509 x 394 ミリメートル)くらいになり、たいへん見ごたえがあります。ベルベット張りのマットで額装するとよく映えるはずです。