神と対話する少女マリア 《エマイユ画による受胎告知 117 x 83 mm》 透明感ある作品 フランス 二十世紀中頃または後半



 フランスで制作されたエマイユ(七宝)の聖画。まっすぐに前を見つめる少女マリアを描きます。





 エマイユのサポート(下地)となる金属を、胎(たい)と呼びます。本品の胎は長方形の銅板で、中央に向けて緩やかに盛り上がっています。胎は銅またはセレンで鮮やかに発色した赤色ガラスのエマイユで被われ、透明感のある背景を為しています。この背景上に、白、青、黄、サーモンピンク、焦げ茶、茶、金の順に重ねて、マリアの姿が転写されています。





 福音史家の唯一の関心は、イエスが旧約に預言されたメシアであることを、救済の経綸のなかで証明することです。それゆえ文学作品の場合とは異なって、救済史に無関係な事柄、たとえば登場人物の感情などは福音史家の関心の埒外にあります。しかるに絵画の本質的働きは、描かれる人物を親しみやすい姿に現前させることです。それゆえイエスや聖母、諸聖人が伝統的聖画に描かれるにあたっては、正典福音書のほか、多くの作品が新約外典を典拠に用います。

 たとえば伝統的受胎告知画において、マリアはしばしば宮殿のように立派な家にいますが、これは新約外典プロトエヴァンゲリオン・ヤコビー(羅Protoevangelium Iacobi ヤコブ原福音書)の記述が元になっています。しかしながら本品のマリアは様式的な美化を免れ、田舎の村に住む名もなき少女として描かれています。





 我々が自分の考えを伝えたいとき、社会的地位ができるだけ高い人、影響力のある立場の人に話をするのが効果的だと考えます。しかしながら神がなさることは正反対です。神が天使(希 ἄγγελος 使者)を遣わした先はエルサレムでもローマでもなく、パレスチナの小村ナザレに住む少女の家でした。全人類の救済という大きな事柄を伝えるのに、神は名も無き少女を選び、しかも少女の同意を得たうえで、彼女を救世主の母とし給うたのです。

 人間社会の出来事は、重大事であればあるほど派手な起こり方をするのが通例です。受胎告知をこれに引き比べると、事の重大さと起こり方の慎ましさに釣り合いが取れていないように思えます。しかしながら筆者(広川)の考えでは、受胎告知は人間社会の内で起こった出来事ではないゆえに、歴史上の他の出来事、たとえば王朝の成立や国家の独立等の事件に見られる派手さが無いのです。もしもキリスト教が人工的宗教の一つにすぎないとすれば、受胎告知はもっと派手に行われたでしょう。しかるに筆者の考えでは、受胎告知は人間の権能に属する出来事ではなく、自然の権能に属する進化史上の出来事に他なりません。





 神は救いを強制せず、マリアは自由意思によって救いを受け容れました。筆者の考えでは、これは進化を続けたヒト科霊長類が神と交通する段階に到達し、不可視の精神的領域に踏み込んだことを意味します。マリアが救いを受け容れたのは月面への第一歩を超える重大な一歩であり、シュテファン・ツヴァイクの用語を借りれば「星の時間」の出来事といえます。

 生物の進化において、重大な局面は常にひそやかに起こりました。受胎告知は誰も見ていないところで密やかに起こりましたが、これは動物の進化における重大な変異の起こり方と同じです。進化史上の他の出来事と受胎告知の起こり方に見られる共通性は、キリスト教の非人為性を証明しています。キリスト教は人間が動物として有する自然本性と整合的であって、受胎告知の密やかさはその端的な表れである、と筆者(広川)は考えます。





 上の写真は本品を男性店主の手に載せて撮影しています。女性が本品の実物をご覧になれば、写真で見るよりもひと回り大きなサイズに感じられます。





 本品は数十年前のフランスで制作された真正のヴィンテージ品ですが、保存状態はきわめて良好です。エマイユの罅(ひび)や剥落等、特筆すべき瑕疵(欠点)は何もありません。上の写真に写っている展示台(小さな皿立て)は、本品に無料で附属します。





本体価格 29,000円 展示台付き 販売終了 SOLD

電話 (078-855-2502) またはメール(procyon_cum_felibus@yahoo.co.jp)にてご注文くださいませ。




その他のアンティーク聖画 商品種別表示インデックスに戻る

カニヴェ、イコン、その他の聖画 一覧表示インデックスに戻る


カニヴェ、イコン、その他の聖画 商品種別表示インデックスに移動する

キリスト教関連品 商品種別表示インデックスに移動する



アンティークアナスタシア ウェブサイトのトップページに移動する




Ἀναστασία ἡ Οὐτοπία τῶν αἰλούρων ANASTASIA KOBENSIS, ANTIQUARUM RERUM LOCUS NON INVENIENDUS