金色と青の取り合わせが華やかなフランス製クロス。金色の十字架に不透明の青色ガラスでエマイユを施し、直径6ミリメートルの円形メダイを交差部に嵌め込んでいます。円形メダイは銀色で、聖母の横顔を浮き彫りにし、青色の透明ガラスを掛けてあります。
クロスの裏側には「ノートル=ダム・ド・クレリ」(N. D. de Clery) と刻まれており、この十字架が巡礼の記念品であることがわかります。ノートル=ダム・ド・クレリのバシリカ(サントル地域圏ロワレ県、クレリ=サンタンドレ
Clery-Saint-Andre)は、フランス王室(ヴァロワ朝)にゆかりが深い聖母マリアの巡礼地ですが、この文字は手作業で刻まれていますから、このクロスは既製の記念品として売られていたものではなく、文字を刻んだ人が特別な思いを懐いて聖母のバシリカを訪れ、その気持ちを忘れないために、クロスに手ずから文字を刻んだのであろうと考えられます。
金色と青は視覚的にも美しい組み合わせですが、いずれの色も天国を象徴する意味合いがあります。とりわけ青(ブリュ・マリアル、マリアン・ブルー)は聖母の象徴です。また、青はフランスを象徴する色でもあります。
ちなみにこの十字架に掛けられている不透明ガラスは「フレンチ・ブルー」と呼ばれるウルトラマリン(ラピスラズリ)の色ですし、宝石商でもある私は、フレンチ・ブルーと言えばホープ・ダイアモンドを連想します。ホープ・ダイアモンドは現在スミソニアン博物館にありますが、もともとは「フレンチ・ブルー」(ル・ブリュ・ド・フランス Le
bleu de France)と呼ばれるフランス王室の財産で、フランス革命時、ルイ16世一家がチュイルリー宮に監禁されたときに強奪され、リカットされて、やがてアメリカに渡ったものです。フランスと青にはこのようなつながりがあります。
青いガラスでエマイユを施し、「ノートル=ダム・ド・クレリ」の文字を手ずから刻んだこの十字架からは、第二次世界大戦でフランスが負った大きな傷がまだ癒えない時代に、優しい聖母の庇護と慰めを求めてバシリカに巡礼した人の信仰が伝わってきます。
クロスはたいへん良好なコンディションです。エマイユにも金めっきにも剥がれた部分はありません。