リジューのテレーズの聖遺物と、両親の肖像の珍しい小聖画を、バーガンディ(赤ワイン色)のベルベットを使用して額装しました。額の外寸は 32 x 22センチメートルです。
中央の聖遺物は、テレーズの遺体に触れさせた薔薇の花弁を糸で台紙に留めた繊細な作りです。本品はフランス北東部パ=ド=カレーで制作されましたが、この花弁はリジューのカルメル会の修道女たちが一枚一枚丁寧に押し花にしたものでしょう。
花弁の上下に分かれて、次の言葉が記されています。
Pétale ayant touché à une Relique de Bienheureuse Thérèse de l'Enfant Jésus 福者「幼きイエズスのテレーズ」の遺物に触れた花弁
テレーズが列聖されるのは 1925年ですが、本品は1923年に制作されており、テレーズの称号は「福者」(Bienheureuse, Bse)
となっています。
90年以上前の薔薇の花弁は、乾燥して粉々に砕けていても不思議ではないですが、この花弁はなぜか原形を完全に保っています。花弁が原状を留めて欠損が無いことは、赤紫のインクで花弁を囲むように手描きされた写本風文様の配置が、花弁の輪郭と合致していることからもわかります。
リジューのテレーズの遺体は、列福、列聖に向けて二度の開棺調査が行われ、腐敗していないことが確認されました。90年以上の時を経ても形が崩れず、赤みの名残さえ感じさせる薔薇の花弁は、テレーズその人を思わせます。一枚の花弁がテレーズの聖遺物とされるのは、テレーズに触れることによって分かち与えられたテレーズの聖徳が、花弁のうちに宿っていると考えるからですが、この不思議な花弁を見ていると、それは本当なのだ納得できます。
表(おもて)面の下半分には、テレーズの自伝「ある魂の物語」に基づく言葉が記されています。内容は次の通りです。日本語訳は筆者(広川)によります。
Je voudrais avoir été Missionaire depuis le commencement du monde et continuer de l'être jusqu'à consommation des siècles. | 私は世の始まりから終わりまで宣教師であったならよかったと思います。 | |
(Bse Thérèse de l'Enfant Jésus) | (福者 幼きイエズスのテレーズ) | |
Achevez ma Mission de faire aimer le bon Dieu sur la terre: moi du Ciel je vous aiderai et prierai pour vous. | 神が地上で愛されるようにするという私の使命を、皆さんは成し遂げてください。私は天から皆さんを助け、また皆さんのために祈ります。 |
裏面最上部には赤色のインクで「スゥ・デ・ミシオン・パロワシアル会員の祈り」(Prière des Associés du Sou des Missions
Pariossiales) と書かれています。
「ミシオン・パロワシアル」(Missions Pariossiales) とは教区民の信仰心を高めることを目的にしたカトリック教会の運動です。農村部を中心とした各地の教区で、およそ10年から15年に一度、説教師をよそから招き、一週間ほどの日程で説教、ミサ、祈祷会、食事会、アトラクションなどさまざまな催しが行われました。「スゥ・デ・ミシオン・パロワシアル」(le
Sou des Missions Pariossiales) とは、この「ミシオン」を財政的に支えるための団体です。
祈りの内容は次の通りです。日本語訳は筆者(広川)によります。
Mon Jésus, faites-moi la grâce de vous donner la plénitude d'amour, de gloire, de contentement que vous méritez et que vous attendez de moi. | わがイエズスよ、御身が愛と御栄えはおほいなり。御身満ち足り給ふ。御身にふさはしきを捧げ奉る恵みをば、我に与へ給へ。御身、我が捧ぐるを待ち給へば。 | |
Mon Jésus, tout par amour pour vous qui m'aimez tant. | わがイエズスよ、我をかくまで愛し給へる御身への愛が為にこそ。 | |
(50 jours d'indulgence) | (五十日間の免償) | |
+ Eugène-Louis, Évêque d'Arras, Boulogne et Saint-Omer, | アラス、ブーローニュ、サン=トメール司教 ウジェーヌ=ルイ | |
Arras, le 11 Novembre, 1923. | アラス、1923年11月11日 |
アラス、ブーローニュ=シュル=メール、サン=トメールは、いずれもフランスの北東端、パ=ド=カレー県の町で、ノルマンディーからはかなり離れています。リジューのテレーズが当時のフランスの人々に如何に慕われていたかがよくわかる聖遺物です。
聖遺物の両側に並ぶのは、テレーズの父ルイ・マルタン (Louis Martin, 1823 - 1894) と、母ゼリー・マルタン (Zélie Martin, 1831
- 1877) の小聖画です。このふたりは 2008年に列福されましたが、本品は 1959年頃に制作された聖画ですので、「福者」(Bx, Bse) の尊称はありません。それぞれの肖像の下には、「神の僕(しもべ)ルイ・マルタン、幼きイエズスの聖テレーズの父 1823
- 1894年」、「神の婢(はしため)ゼリー・マルタン、幼きイエズスの聖テレーズの母 1831 - 1877年」と記されています。
裏面の上半分には、ルイ・マルタンとゼリー・マルタンの列福と列聖、及び二人の執り成しによる恩寵を神に願う祈りが記されています。内容は次の通りです。日本語訳は筆者(広川)によります。
Prière pour demander la glorification du Père de Sainte Thérèse de l'Enfant-Jésus et des grâces par son intercession | 幼きイエズスの聖テレーズの父の列福と列聖、及びその執り成しによる恩寵を願う祈り | |||
Seigneur Jésus, qui avez fait de votre Serviteur Louis Martin un époux et un père modèle, daignez, nous vous en supplions, glorifier celui qui, par sa fidélité à vos lois, sa générosité dans l'offrande de tous ses enfants et son admirable résignation dans épreuve, a mérité de donner à l'Eglise Sainte Thérèse de l'Enfant-Jésus. -- Dans votre bonté, veuillez faire connaître vos desseins à son égaed, en nous accordant, par lui, les grâces que nous sollicitons. | 主イエズス、しもべルイ・マルタンを夫の鑑(かがみ 手本)、父の鑑と為し給える御身よ。御身に願い奉る。畏(かしこ)くも彼に聖者の誉れを与え給え。この者、御身が法(のり)に聴き従い、その子ら全員を捧げて惜しまず、試みのうちにても神に委ねる誉むべき信仰を以て、幼きイエズスの聖テレーズをカトリック教会に与うるを許されたれば。我らがこの者を通して請い願うとき、我らに恩寵を給いて、御身が愛のうちに、この者への御計らいを示し給え。 | |||
Ainsi soit-il. | アーメン。 | |||
Imprimatur: + André, Évêque de Bayeux et Lisieux | 印刷許可 バイユー及びリジュー司教 アンドレ | |||
14 Août 1959 | 1959年8月14日 | |||
Prière pour demander la glorification de la Mère de Sainte Thérèse de l'Enfant-Jésus et des grâces par son intercession | 幼きイエズスの聖テレーズの母の列福と列聖、及びその執り成しによる恩寵を願う祈り | |||
O Dieu, notre Pière, qui avez glorifié l'humble Thérèse de l'Enfant-Jésus pour son abandon et sa confiance filiale en Vous, accordez à nos supplications que sa mère, Zélie Martin, soit proposée par votre Eglise, comme un example de ces mêmes vertus qu'elle a pratiquées avec tant d'esprit de foi, dans les devoirs et les épreuves de la vie familiale. -- Daignez aussi, par des faveurs célestes, manifester son crédit auprès de Vous. | 神よ。我らが御父よ。御身にすべてを委ね、御身を信じ奉りたる御身の娘、幼きイエズスの謙虚なるテレーズに、聖女の誉れを与え給いし御身よ。テレーズの母ゼリー・マルタンが、かくも強き信仰の精神を以て、家庭生活の義務と試練のうちに実践したる数々の徳の鑑(かがみ)として、御身の教会によりて諸人に示されんことを、我らは請い奉る。さらに、御身のこの者を嘉(よみ)し給うを、天来の恵みによりて、畏くも示し給え。 | |||
Ainsi soit-il. | アーメン。 | |||
Imprimatur: + André, Évêque de Bayeux et Lisieux | 印刷許可 バイユー及びリジュー司教 アンドレ | |||
14 Août 1959 | 1959年8月14日 |
裏面の下半分はリジューのカルメル会からの要請で、ルイ・マルタンまたはゼリー・マルタンに執り成しを求める人に向けられています。この部分は冒頭の一箇所において「ルイ・マルタン」と「ゼリー・マルタン」の名前が入れ替わっていますが、それ以外の文言はいずれの聖画にも共通しています。内容は次の通りです。
Les personnes qui recevraient des grâces par l'intercession de Louis/Zélie Martin sont priées de les faire connaître au Carmel de Lisieux (Carvados). -- Les Causes de Béatification sont strictement personelles. Les miracles retenus pour le succès de ces Causes doivent être attribués à une seule personne. Si l'on demande prodige à cette fin, il faut donc prier M. Martin seulement ou Madame Martin seulement, sans les unir dans une même intercession et sans invoquer en même temps Sainte Thérèse. | ルイ・マルタン(または、ゼリー・マルタン)の執り成しによって恵みを受けることを願われる方は、リジュー(カルヴァドス県)のカルメル会までお知らせください。列福審査は、例外なく、聖者一人ひとりに関して行われます。列福審査に合格する奇跡は、ただ一人の聖者の執り成しに帰されるものでなくてはなりません。それゆえ列福のために奇跡を願う場合、マルタン氏のみ、あるいはマルタン夫人のみに祈らなくてはなりません。一回の執り成しを二人に同時に願ってはならず、またマルタン氏あるいはマルタン夫人に祈る際には同時に聖テレーズに執り成しを願ってはなりません。 |
二枚の小聖画が刷られた 1959年は、ルイ・マルタンとゼリー・マルタンの列福審査が行われていた時期に当たります。裏面の祈りと告知文からは、ふたりの優れた信仰と聖性を知るリジューのカルメル会が、キリスト者の模範としての列福を望む心からの願いが伝わってきます。
裏面最下部に書かれている言葉は次の通りです。「意匠登録番号 65」(Déposé Numéro 65 ゼリー・マルタン)、「同 66」(Déposé
Numéro 66 ルイ・マルタン)、「リジュー中央事務局」(Office Central de Lisieux)、「フランスで印刷」(Imprimé
en France)
本品は聖遺物が90年以上前、二枚の小聖画が50年以上前に制作された真正のヴィンテージ品ですが、良好な保存状態で、特筆すべき問題はありません。額は壁に掛けることもできますし、サイズ
32 x 22センチメートルとそれほど大きくないので、絵皿用スタンド等を使って立てることも可能です。