ゼラチン・シルバー・プリント ルージュ・ド・ブールジュ ブールジュの赤 愛の光のアグヌス・デイ


上部の紐を除く概寸 62 x 49 mm  厚さ 約 4 mm

フランス  19世紀末から20世紀初頭



 教皇の祝福を受けた蝋(ろう)の小円盤を、楕円形のポシェットに封入した古い信心具「アグヌス・デイ」。「アグヌス・デイ」(AGNUS DEI) はラテン語で「神の子羊」という意味です。信心具「アグヌス・デイ」の本体は、ローマ、サンタ・クローチェ聖堂のシトー会修道院で製作された蝋製の円盤で、一方の面に神の子羊が造形されています。本品はこの蝋製小円盤を布製ポシェットに封入し、持ち運びできるようにしたものです。





 ポシェットは修道女の手作りで、表(おもて)面を絹、裏面を木綿で被い、ガラス・ビーズを縫い付けて丁寧な縁取りを施しています。表(おもて)面の絹は鮮やかな色に染められており、その色はフランス語で「グルナディーヌ」(grenadine) と呼ばれる柘榴(ザクロ)シロップの色に似ています。

 柘榴の果実は多くの種子を含むため、異教の古代以来、豊穣の象徴とされてきました。エレウシスのデメテル秘儀において祭司が被った柘榴の小枝の冠は、柘榴と豊穣の関係を端的に表しています。一方、キリスト教時代になると、柘榴がもたらす「豊穣」の観念は霊的水準に引き上げられます。教父たちは多くの信徒によって構成されるキリスト教会を柘榴にたとえました。十字架の聖ヨハネ (St. Ioannes a Cruce, 1542 - 1591) によると、柘榴の球形の実は神の永遠性を象徴し、柘榴の甘い果汁は神を知り愛する魂が味わう喜びを象徴し、柘榴の多数の種子は、多数の被造物において現れた神の完全性を表します。

 表(おもて)面の絹の色は、「ルージュ・ド・ブールジュ」(rouge de Bourges) と呼ばれるブールジュ司教座聖堂サン=テチエンヌのステンドグラスの赤色にも似ています。ブールジュ司教座聖堂サン=テチエンヌのステンドグラスは、シャルトル司教座聖堂ノートル=ダムのステンドグラスとほぼ同時期に製作されました。「ブールジュの赤」は、「シャルトルの青」と同様に、聖堂内部を美しく染め上げています。


(下・参考画像) トーマス・アロムの原画による1860年代のスティール・エングレーヴィング、「ブールジュ司教座聖堂サン=テチエンヌ」 当店の商品です。




 ゴシック聖堂のステンドグラスは、太陽光をいわば霊化して、神の家たる聖堂を満たす天上の光へと変化させます。その光は神そのものの象徴であり、赤は神の愛を、青は神の知恵を表します。イエズスの聖心から滴る血の色である赤は、究極の愛を表す色であるゆえに、神の子羊「アグヌス・デイ」にとりわけ相応しいということができましょう。


(下・参考画像) セラフィムに囲まれた神から発出する愛(赤の光)と智(青の光)。ライヒェナウ派による10世紀末のイザヤ書挿絵。

 Staatsbibliothek Bamberg, Bibl. 76, fol. 10 v. 24.8 x 18.6 cm


 ポシェットの表(おもて)面には聖心を示すイエズス・キリストの絵を、裏面には「アグヌス・デイ」(Agnus Dei) と書いた紙片を、それぞれ貼り付けています。





 キリスト像はゼラチン・シルバー・プリントで、経年によって暗部がシルヴァリング silvering(ミラリングmirroring、シルヴァー・ミラリング silver mirroring)を起こしています。このアグヌス・デイが製作されたのは 1890年代から1910年代頃で、アルブミン・プリントとゼラチン・シルバー・プリントの交代期にあたります。19世紀はアルブミン・プリントの時代でしたが、1880年代頃からはゼラチン・シルバー・プリントもよく使われるようになり、アルブミン・プリントは1920年代に姿を消すことになります。写真はガラス・ビーズで留めたパイエット(スパンコール)に縁取られています。パイエットはオールド・プラスティック製で、おそらくセルロイドと思われます。


 本品の裏面には、ラテン語で「アグヌス・デイ」(Agnus Dei) と記した紙片が貼り付けられています。裏面の布は紫色です。西ヨーロッパにおけるキリスト教の象徴体系において、地面に密着して咲く慎ましやかなスミレの色、紫は、遜(へりくだ)りを表します。紫はアメシストの色でもあります。アメシスト (amethyst) の語源は「酔わない」という意味のギリシア語アメテュストス (ἀμέθυστος, amethystos) で、この宝石を身に着けていると酒に酔わないと言われています。東方教会では主教が身に着ける衣の色ですが、これは司牧の責任者として常に冷静な判断を下せるように、アルコールに酔うべきでないのはもちろんのこと、霊的陶酔にも浸るべきでないということを表しています。


(下・参考画像) 見事な色と大きさの天然カラー・チェンジ・アメシスト。22.38カラット。当店の商品です。




 本品はおよそ百年、あるいはそれ以上前に製作された真正のアンティーク品ですが、古い年代にもかかわらず非常に良好な保存状態です。破損やひどい汚れなど、特筆すべき問題はいっさいありません。

 「アグヌス・デイ」は、ローマ教皇の祝福を受けた蝋製円盤を封入した特別な信心具です。製作年代から判断すると、本品はピウス9世(在位 1846 - 1878年)、レオ13世(在位 1878 - 1903年)、ピウス10世(在位 1903 - 1914年)のいずれかから祝福を受けているはずです。 アグヌス・デイを常に身に着けることによって、罪の赦しが得られ、厳しい気候や洪水、火事、疫病、悪魔、突然の死から守られるといわれています。「アグヌス・デイ」が製作された年代は、20世紀前半頃までです。サンタ・クローチェ聖堂のシトー会修道院は2011年に閉鎖されましたので、将来再び作られることはおそらく無く、たいへん貴重な品物となっています。





本体価格 9,500円 販売終了 SOLD

電話 (078-855-2502) またはメール(procyon_cum_felibus@yahoo.co.jp)にてご注文くださいませ。




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