ゆったりと時を刻む機械式ドレス・ウォッチ 《ジラール=ペルゴ cal. 26.3》 金無垢ケースの高級品 男女兼用 スイス 1960年頃



 ベルンから北に七十キロメートル離れたラ・ショー=ド=フォン(La Chaux-de-Fonds ヌーシャテル県)は、スイス時計産業の中心地です。1825年にここに生まれ、長じて時計師となったコンスタン・ジラール(Constant Girard, 1825 - 1903)は 1852年にジラール社(Girard & Cie)を創業し、二年後の 1854年に同業者の娘マリー・ペルゴ(Marie Perregaux, 1831- 1912)と結婚して、社名をジラール=ペルゴ(Girard-Perregaux)に変更しました。一方ラ・ショー=ド=フォンには 1791年に創業したボート社(la Maison Bautte)がありましたが、ジラール=ペルゴ社は 1906年にボート社を買収しました。このためジラール=ペルゴ社の歴史は一挙に十八世紀に遡り、今年で二百三十年目を迎えることになりました。

 世界に時計会社は数多くありますが、その中でもジラール=ペルゴは最も高級な時計メーカーのひとつです。当店は現行品を扱いませんが、ジラール=ペルゴの現行品価格(特注品を除く)は 990,000円(品番:49555-11-131-BB60)から 56,826,000円(品番:99820-52-001-BA6A)、中心の価格帯は 200万円から 500万円台となっています。





 時計内部の機械をムーヴメント(英 movement)、ムーヴメントを保護する容器、すなわち時計本体の外側に見えている金属製の部分をケース(英 case)と呼びます。本品のケースはスクエア型(正方形)で、秒針を持たないドレス・ウォッチにふさわしく、横からでも薄く見えるようにデザインされ、ムーヴメントも薄く作れる手巻き式が採用されています。ケースの材質は十四カラット・ゴールド(十四金、純度 14/24の金合金)です。ケースが金めっきでも金張りでもなく、金そのもので出来た本品のような時計を金無垢時計といいます。本品は金無垢の手巻きドレス・ウォッチです。

 本品のケースは正方形と円を組み合わせたユニークなデザインです。円形ケースの時計に比べ、四角い時計はケースの密閉性が不十分になりがちです。そもそもアンティーク時計(ヴィンテージ時計)は制作当初から防水性を有しませんが、埃(ほこり)の侵入は防ぐ必要があり、四角いケースの時計はこの点で不利です。しかしながら本品を裏側から見ればわかるように、本品は四角いシルエットを有しつつも、ムーヴメントは円形のケース裏蓋に格納されています。すなわち機能の点からみると本品は円形ケースに等しく、埃を防ぐ十分な密閉性を確保しています。





 ケースの前面、文字盤と風防を取り囲む部分をベゼル(英 bezel)といいます。本品のベゼルには正方形の各頂点を起点として放射状の溝が刻まれています。溝の数は三百数十本に及びますが、これは打刻して付けた模様ではなく、ウォッチケース・エングレイヴァーという専門の彫金職人が、彫刻刀による手作業で一本ずつを刻んでいます。

 近年は時計ケースに彫金を施すことがなくなりました。ジラールペルゴの時計はいつの時代も高価ですが、特注品は別にして、現行品は彫金細工が一切ありません。五千万円を超える機種のケースもただ磨かれているだけです。ケースを平滑に磨くとよく輝いて高級感が出ますが、研磨処理は実は作る側には好都合で、手間も時間もコストも掛かりません。アンティーク時計に見られる彫金装飾は、時間が現代よりもゆったりと流れていた時代のものなのでしょう。手間を惜しまない彫金ケースを、今後はもう見ることができないであろうと思います。





 ケースの三時方向から外側に突出するツマミを竜頭(りゅうず)といいます。本品の竜頭は金無垢で、ジラール=ペルゴのロゴ(GP)が入っています。本品は手巻き時計ですから、一日一回竜頭を回して、ぜんまいを巻き上げます。





 時計において、時刻を表す刻み目や数字が配置された板状の部品を文字盤(もじばん)または文字板(もじいた)といいます。本品の文字盤は半艶消しの上品な銀色で、細かいヘアライン加工が柔らかな光を反射します。文字盤は十二時から三時間ずつ四つの領域に区切られていますが、この優雅なデザインはヘアラインの方向を放射状、同心円状、放射状、同心円状と変化させることにより実現されています。

 時計の文字盤にはアンティマグネティック、ショック・レジスタント、セヴンティーン・ジュエルズ等、顧客に訴求する様々な言葉が掛かれている場合が多いですが、本品はそれらをすべて装備しつつ、文字盤には「ジラール=ペルゴ」(GIRARD-PERREGAUX)とだけ書かれ、高級ドレス・ウォッチにふさわしいシンプルなデザインとなっています。本品の文字盤はこの時計が製作された 1960年当時のオリジナルで、再生処理(リファービッシュ、リダン)は施されていませんが、古い年代を考えると十分に綺麗な状態です。





 文字盤の周囲十二か所にある長針五分ごと、短針一時間ごとの印を、インデックス(英 index)といいます。本品のインデックスは金製の小部品を植字した立体インデックスです。

 インデックスの様式には年代ごとの流行があります。大体の傾向として、1940年代以前の時計ではインデックスはすべてアラビア数字で、六時は小秒針の文字盤となっています。1950年代の時計では、十二時、三時、九時のみがアラビア数字で、六時は小秒針の文字盤、他の部分は直線または楔(くさび)形のバー・インデックスです。1960年代の時計は小秒針が消失し、すべてがバー・インデックスになります。本品は 1960年頃、すなわち 1950年代から 1960年代へ移り変わろうとする時期の時計ですので、十二時と六時がアール・デコ様式のアラビア数字となっています。





 上の写真は本品の裏側で、低いドーム状の裏蓋が写っています。この写真が示すように、本品は正方形のシルエットを有しつつも機能的には円形ケースであり、防塵性に優れています。円形の裏蓋には十四カラット・ゴールド(14K GOLD)すなわち十四金の文字が刻印されています。本品のケースに十四金が使われているのは、本品のケースがアメリカ合衆国で制作されたからです。我が国の金製品には十八金が多く使用されますが、アメリカ合衆国では十四金が金製品の標準的な純度です。

 十四金ケースの時計は十八金ケースの時計に比べて安物であるかのように言う人がありますが、それは違います。私(広川)は十八金ケースよりも十四金ケースを好みますが、その理由は三つあって、最初の理由は十八金に比べて幾分淡く、シャンパン・ゴールドにも近い色が上品であるからです。銀やプラチナ、ホワイトゴールド、ステンレス・スティールなど銀色の時計や装身具を好む方は、金色の派手さが苦手なのだと思いますが、十四金の色はたいへん上品であり、銀色を好む方にも抵抗なく身に着けていただけます。

 第二の理由は時計ケースの性能に関わることです。時計ケースやジュエリーに純金(二十四金)は決して使われませんが、それは金がたいへん軟らかい金属であるからです。金は木槌で叩くと限りなく薄い箔になります。金はこのように優れた展性を有しますが、優れた展性は変形しやすさや摩耗しやすさと表裏一体です。ペンダントやイヤリングであれば力が加わり続けることは無いので、十八金でも問題ありません。時計の場合もパーティーの時だけに着けるカクテル・ウォッチであれば、まったく問題ありません。しかしながら日々愛用する時計の場合、十八金製ケースは摩耗しやすく、また容易に変形します。時計ケースが変形してきちんと閉まらなくなり、湿気や埃が容易に侵入します。最悪の場合は裏蓋が外れて、衝撃に弱い機械式ムーヴメントが落下しかねません。十四金製ケースは十八金製ケースに比べて格段に強く、このような事故はまず起こらないのです。

 第三の理由としては、イギリスの九金やカナダの十金は十四金よりも更に丈夫ですが、長いあいだ使わずに放置すると変色する場合があります。これに対して十四金は変色が起こりません。





 上の写真はケース裏蓋からムーヴメントを取り外し、蓋の内側を撮影しています。裏蓋の内側には様々な刻印が見えます。いちばん上のジー・ピー(GP)はジラール・ペルゴ社のロゴマーク、"B2043" はケースの型番です。本品のケースは、全体のサイズと厚み、全体の形状、裏蓋のフランジの形状が、本品が搭載するムーヴメント、ジラール=ペルゴ キャリバー 26.3 専用に作られています。"J75346" はケースのシリアル番号です。

 その下には、一本の槍が大文字のジェイ(J)を左から右に貫いています。これはニューヨーク州ロングアイランドにあった時計ケースのメーカー、ジョネル社(Jonell Watch Case Inc.)のマークです。槍の下に十四カラット・ゴールド(14K)の刻印があります。ジョネル社は小規模な会社ですが、金無垢ケースをはじめとする高級ケースのメーカーとして知られています。本品のケースはジョネル社が制作し、ジラール=ペルゴ社に納めたものであることがわかります。





 上の写真は本品が搭載する手巻き式ムーヴメント、ジラール=ペルゴ キャリバー 26.3 を取り出して撮影しています。ジラール=ペルゴ キャリバー 26.3 は、電池ではなくぜんまいで動く機械式ムーヴメントです。電池で動くクォーツ式腕時計は 1970年代後半以降に普及しました。本品が製作された 1960年頃にはクォーツ式腕時計はまだ存在せず、腕時計はすべてぜんまいで動いていました。

 上の写真で右手前に見えるいちばん大きな車が角穴車(かくあなぐるま)で、この下には低い円筒形の香箱(こうばこ)が収められています。ぜんまいはぐるぐると撒かれた状態で香箱に格納されています。ぜんまいから徐々に解放される力は二番車、三番車、四番車を経て、左奥に見える銀色のガンギ車に到達します。ガング車はアンクルを介して天符(てんぷ 左手前に見える大きな金色の輪)と連結しており、天符によって調速されて正確な時間を刻みます。

 秒針があるクォーツ式腕時計を耳に当てると、秒針を動かすステップ・モーターの音が一秒ごとにチッ、チッ、チッ … と聞こえます。デジタル式など秒針が無いクォーツ式腕時計を耳に当てると、何の音も聞こえません。これに対して機械式時計、すなわち本品のようにぜんまいで動く腕時計や懐中時計を耳に当てると、アンクルの剣先がガンギ車の衝撃面に当たる微かな音が、チクタクチクタクチクタク…と連続して聞こえてきます。これはいわば機械式時計の心音です。





 ジラール=ペルゴ社は「ア・シールド キャリバー 1525」の受けの形状を変更して、「ジラール=ペルゴ キャリバー 25」を作りました。その後キャリバー 25は 25.09, 25.19, 25.29と改良されてゆき、さらに振動数を 18,000から 21,600に変更したキャリバー 26が誕生します。このキャリバー 26も 26.09, 26.19, 26.29と改良されてゆき、最終的に本品キャリバー 26.3 が誕生します。ジラール=ペルゴ キャリバー 26.3 の天符はこのグレード専用に設計され、主ぜんまいも強化されています。

 本品ムーヴメントの受けにはジラール=ペルゴ(GIRARD-PERREGAUX)、スイス製(SWISS)、十七石(17 JEWELS SEVENTEEN)の文字が彫り込まれています。良質の機械式腕時計、懐中時計には、摩耗してはいけない部分にルビーを使います。ルビーはたいへん硬い鉱物ですので、良質の時計の部品として使用されるのです。機械式ムーヴメントにおいて、摩耗してはならない箇所のすべてにルビーを使用すると、十七個のルビーを使った十七石(じゅうななせき)のハイ・ジュエル・ムーヴメント(英 high jewel movement)となります。本品ジラール=ペルゴ キャリバー 26.3 は、十七個のルビーを使用したハイ・ジュエル・ムーヴメントです。


 なお現代の機械式時計は高振動になってきているので、本機の振動数 A/h = 21,600 を少ないと感じられる方があるかもしれません。しかしながら振動数と時計の正確さに必然的な相関関係はありません。かつてヌーシャテル天文台では機械式時計の精度コンクールが行われており、日本のセイコーが市販の 19セイコーを持ち込んで優勝したことがありました。19セイコーは 18,000振動ですが、優勝機の日差は 0.01秒でした。

 そもそも精度コンクールが天文台で行われるのは、時計の正確さが天体観測と照らし合わせて検証されるからです。すなわち地球の自転と公転はどんな機械式時計よりも正確なわけですが、これを天符の振動になぞらえるならば、地球の自転は振動数 A/h = 0.04167(= 1/24)、公転は振動数 A/h = 0.00011 に相当します。このことからもわかるように、機械式時計の正確さを担保するうえで最も重要なのは、振動数の高さではありません。歩度を丁寧に調整することこそが大切なのです。

 振動数が低いと部品の損耗が避けられ、時計を長年に亙って良い状態で使えます。これはロー・ビート機(低振動機)が持つ最大の長所であり、パテック・フィリップを初めとするスイス高級時計の現行品は、多くの機種が本品と同じ 21,600振動に設計されています。NASAの採用で知られるオメガ・スピードマスターも 21,600振動です。





 受けに刻印された六桁の数字(263546)はシリアル番号ですが、初めの三桁(263)はキャリバー 26.3の意味ですので、実質的なシリアル番号は 546です。1960年当時の時計はたいへん高価で、高級ブランド品でなくとも初任給の二、三か月分に相当しました。ましてや本品は金無垢のジラール=ペルゴですから、これを買える人はあまりいなかったはずです。実質三桁のシリアル番号は、このムーヴメントを搭載した時計が数百個しか制作されなかったことを示します。世界全体の富裕層を顧客にして数百個ですから、本品は選ばれた人のための時計と言えましょう。

 天符受けに刻まれ三文字はアメリカ合衆国の時計輸入記号(US Import Codes)で、"GXM " はジラール=ペルゴを示します。この記号、及びシリアル番号の下にあるアナジャステッド(英 UNADJUSTED 未調整)の表示から、本品はスイスのジラール=ペルゴ本社でムーヴメントを制作し、ジラール=ペルゴがアメリカに設けた支社がこれを輸入して、ジョネル社に発注したケースに入れて時計を完成させたことがわかります。1960年当時のアメリカ合衆国は国内の時計産業を保護するため、輸入時計に高率の関税を課していました。スイスの時計会社がアメリカ合衆国で時計を売る場合、完成した時計ではなくムーヴメントのみを輸入することで、この関税を回避できたのです。

 アナジャステッド(英 UNADJUSTED 未調整)の表示を見て不安に思われる方がいらっしゃるかもしれませんが、ムーヴメントの歩度(ほど 時間の進み具合)が未調整であれば時計は使えませんから、アナジャステッド(未調整)というのは、もちろん嘘です。嘘と言う表現が直接的すぎるなら、建前といっても構いません。ムーヴメントにアナジャステッドと彫り付けることで、スイスから輸入されるムーヴメントが、関税のかからない部品あるいは未完成品であることを強調したのです。





 ケースの十二時側と六時側には、バンドを付けるための突起が二本ずつ突出しています。この突起をラグ(英 lugs)と呼びます。時計バンドのサイズは取り付け部の幅、すなわちラグの内側で測ったラグ間の距離で表示します。本品に最も適合するバンドのサイズは 17ミリメートルですが、幅 17ミリメートルの時計バンドはほとんど作られていませんので、主に 16 または 18ミリメートルのバンドを使うことになります。





 本品はもともと男性用時計として作られています。近年流行の男性用時計は、これまでの腕時計史になかったほど大きく分厚いサイズです。しかしながら本品の正方形ケースは突出部分を除く縦横のサイズがいずれも二十八ミリメートルで、この時代の他の時計と同様に、五百円硬貨(直径 26.5 mm)ほどの大きさです。本品は現代の男性用時計のように分厚くないので、シャツの袖が時計に引っかかることなくスマートに着用でき、スーツやジャケットとの取り合わせに適しています。





 1960年当時の男性用時計は現代の女性用時計のサイズ、あるいは現代の女性用時計を一回り大きくしたぐらいのサイズですので、本品は女性にもご使用いただけます。上の写真は女性モデルが本品を着用しています。本品のケースは淡く上品な金色ですので、派手な金色が苦手な方にもご愛用いただけます。











 このページに掲載した商品写真は概ね黒い革バンドを付けて撮影しましたが、上の写真のようにバンドの色を替えることも可能です。本品に限らずアンティーク時計全般に共通して言えることですが、時計のメーカーとバンドのメーカーは別です。アンティーク時計に付いているバンドは、たまたまその時計に取り付けられているだけのことで、時計とバンドの組み合わせに必然性はありません。バンドの裏側などに時計会社のロゴが付いているとしても、それは時計会社がバンドのメーカーに依頼して、そのような仕様のバンドを納品させているだけのことです。それに加えてそもそも革バンドは消耗品ですから、何十年も使い続けることはでいません。

 それゆえアンティーク時計の革バンドは好みの色やデザインのものを選んで新しく取り付けるのが、アンティーク時計との正しい付き合い方です。本品の場合もお好みに合う色やデザインのバンドをご用意いたします。たとえばバンドの色をピンクや赤、青、茶色等に変更する事も出来ますし、金属製バンドに取り換えることもできます。バンドを替えるとずいぶん雰囲気が変わり、女性にも使い易くなります。

 当店の時計は現金一括払い、ご来店時のクレジットカード払いのほか、現金の分割払い(三回払い、六回払い、十二回払いなど。利息手数料なし)でもご購入いただけます。当店ではお客様のご希望に出来る限り柔軟に対応しております。遠慮なくご相談くださいませ。





本体価格 358,000円

電話 (078-855-2502) またはメール(procyon_cum_felibus@yahoo.co.jp)にてご注文くださいませ。




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