1926年の無銘トランジショナル・ウォッチ エマイユ(琺瑯)文字盤に銀無垢彫金ケース


スイス、アトラス社製 15石手巻ムーヴメント



ベゼルに手彫り彫金装飾のあるスターリング・シルバー製ケース

ワイア・ラグ(ばね棒を使わない固定式ラグ)

蝶番(ちょうつがい)式裏蓋

白色エマイユ(琺瑯 ほうろう)文字盤に、アラビア数字インデックス

ブルー・スティールのモダン型針


ラグ(バンドを取り付けるための突出部分)と竜頭(りゅうず)を除いたケースの直径: 33.5 mm


1926年



 懐中時計から腕時計が生まれようとする時代にスイスで制作され、連合王国 (UK) に輸入された銀無垢時計。バンドを取り付けた腕時計ではありますが、エマイユ(琺瑯)文字盤、菊花形の竜頭(りゅうず)、蝶番式ケース、ベゼルの彫金装飾に前世紀(19世紀)の面影を強くとどめています。このような時計は「トランジショナル・ウォッチ」、すなわち懐中時計から腕時計への移行期の時計と呼ばれています。本品には次のような特徴があります。



 ケースには懐中時計に施されていたのと同様のエングレーヴィングによる彫金細工が施されています。これは鋳型に流し込んで模様を付けたのではなく、ビュラン(彫刻刀)を使って手作業で模様を彫っています。

 竜頭(りゅうず)も懐中時計に使われていたのと同じタイプです。竜頭が摩耗していないかどうかはアンティーク時計を買う時に注意すべきポイントのひとつですが、本品の竜頭は良いコンディションで、たいへん扱いやすいサイズです。

 現代の腕時計ではバネ棒という部品を使ってバンドを取り付けますが、本品を含む古いヨーロッパの時計はワイア・ラグ方式です。ラグというのはバンドを取り付けるための金具のことで、ワイア・ラグとはこの部分が針金状でケースに溶接されているもののことをいいます。このタイプの時計には、ワイア・ラグ用バンドを取り付ける必要があります。





 文字盤には白色不透明ガラスによるエマイユ(琺瑯 ほうろう)が施されています。エマイユ文字盤は懐中時計に使われていたものですが、制作に非常な手間がかかるため、後には作られなくなります。本品はエマイユ文字盤を使用した最後の世代に属します。エマイユ文字盤は変色が起こらない反面、ヘアライン(非常に細いクラック、ひび割れ)が入りやすい欠点があります。本品にも時計の中心から47分に向かってヘアラインが走っています。しかしながらこのヘアラインはほとんど見えず、写真に写そうと頑張りましたが、どの方向から文字盤を撮影しても、ヘアラインを識別できる画像は得られませんでした。

 インデックスはローマ数字で、12時のみ赤い字で表示するのも古い時計の特徴です。メーカーの名前が書かれていないため、非常に上品ですっきりと落ち着いたデザインに仕上がっています。6時の位置に秒針のための小文字盤があります。三本の針(時針、分針、秒針)の色は写真では黒く写っていますが、実際には濃い青です。現代の時計の青い針はたいていの場合青く塗装していますが、本品のようなアンティーク時計の青い針は「ブルー・スティール」と言って、鋼を加熱して青い酸化被膜を作ったものです。「ブルー・スティール」は見た目が美しいことに加えて腐食(錆)に強くなります。







 ケースは懐中時計と同様の蝶番式です。蝶番に問題はなく、直角に開きます。裏蓋の内側にはいくつかのホールマークとケースのシリアル番号 (317847) が刻印されています。修理と整備の履歴を示す多数の符号も見えます。





 ホールマークのうち、いちばん上の "C.N" はメイカーズ・マーク、すなわちこのケースを作った銀細工師のイニシアルです。中ほどの三つのうち、左上にある "FF" はグラスゴー検質所が連合王国への輸入品に刻印したタウン・マークです。右上の "d" はグラスゴー検質所における 1926年のアセイヤーズ・マーク(デイト・マーク)です。".925" はスターリング・シルバー(純度 925/1000の銀)を表すスタンダード・マークです。1910年代までの時計ケースはニッケル製が普通でしたが、1920年代には所得が向上し、本品のような銀製ケースが見られるようになります。





 ムーヴメントはスイス製の手巻き式で、15個のルビーを使用したハイ・ジュエル機です。上の写真ではルビーが四個しか写っていませんが、あと11個は機械の裏側(文字盤側)や内部など、この写真に写らない部分に使われています。三番受けに「スイス製、アトラス」(ATLAS, SWISS MADE) の刻印があります。

 脱進機はクラブトゥース式で、天符の振り角は大きく、天真の曲がり、ひげぜんまいの巻き乱れ等の問題も一切ありません。ひげぜんまいは巻上ひげ(ブレゲひげ)です。主ぜんまいの巻き上げ機構及び時刻合わせ機構は現代の時計と同様のペンダント・ワインド、ペンダント・セットで、動作上の問題はまったくありません。





 本品は男性用として作られた時計ですが、20世紀中葉以前の時計は現在に比べて小さめのサイズであり、たいへん上品であるゆえに、女性にもお使いいただけます。商品写真は黒いバンドを取り付けて撮影しましたが、お好きな色、質感のバンドに換えることができます。時計会社はバンドまで作っていませんので、アンティーク時計のバンドをお好みのものに取り換えても、アンティーク品としての価値はまったく減りません。時計お買上時のバンド交換は、当店の在庫品であれば無料で承ります。遠慮なくお申し付けくださいませ。





88,000円 現状売り 販売終了 SOLD

電話 (078-855-2502) またはメール(procyon_cum_felibus@yahoo.co.jp)にてご注文くださいませ。




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