稀少ダブルネーム ゼニス 2752PC ハイ・ビート・オートマティック マイクロメーター・レギュレーター付


ムーヴメント: Zenith 2752PC

ケースのサイズ 38 x 38 mm (竜頭を除く)

厚さ 11.8 mm (クリスタルと裏蓋を含む)



ステンレス・スティール無垢ケース

青色文字盤に立体バー・インデックス

4時30分にデイト表示



1970年頃



 クォーツ時計が使われるようになる直前の時代、機械式時計の技術が最高レベルに到達した1970年頃のスイス製ムーヴメント、ゼニス2752PCを搭載した高級腕時計。ゼニス2752PCは、ゼニス社がアメリカ資本に買収されてクォーツに移行する前に、自社の技術を結集して製作した最終世代のハイビート(高振動)・ムーヴメントで、同時期に開発された「エル・プリメロ」と並ぶ同社最後の名機です。



【機械式時計の原理 振り子と天符】

 1583年、ガリレオ・ガリレイ (Galileo Galilei, 1564 - 1642) は、教会の天井から吊り下げられたランプが揺れるのを観察して、機械式時計の原理を発見したと言われています。すなわちガリレオは、左右に揺れるランプが一往復するのにかかる時間を自分の脈拍で測定しました。そしてランプが大きく揺れているときと、小さく揺れているときでは、一往復するのにかかる時間がまったく同じであることに気付いたのです。これが「振り子の等時性」と呼ばれる原理です。

 この「振り子の等時性」を利用して作られたのが、最初の機械式時計である「振り子時計」です。振り子時計を実際に作ったのは、オランダの物理学者ホイヘンス(Christiaan Huygens, 1629 - 1695) で、1656年のことでした。

 振り子時計で最も重要な部品は、振り子です。最も重要であるどころか、振り子こそが時計そのものなのです。他の部品(輪列、文字盤、針)はすべて、振り子が往復した回数を表示するために、振り子に付加されたカウンター(数とり器)に過ぎません。

 ところで振り子時計は傾けることができません。時計を傾けると、振り子の動きが止まってしまうからです。したがって携帯用時計(ウォッチ)を作るためには、振り子と同様に一定の周期で振動し、傾けても動きが止まらないものを見つける必要があります。1654年、イギリスの博物学者ロバート・フック (Robert Hooke, 1635 - 1703) は、ひげぜんまいがまさにこのような性質を有することに気付きました。

 ひげぜんまいとは、下の写真に写っている毛髪のように細いぜんまいです。ひげぜんまいの外端を固定すると、天符(てんぷ 写真に写っている部品全体のこと)は一方向に回り続けるのではなく、あたかも振り子が往復するように、一定の周期で回転の方向を切り替えます。



 1675年、ホイヘンスは、フックが見つけたひげぜんまいの等時性を利用して、懐中時計を製作しました。これが最初の携帯用時計です。ホイヘンスの天符式時計は、20世紀後半にジラール・ペルゴ社のクォーツ時計、ブローバ社のアキュトロン(音叉時計)、セイコーのエルニクス(電子天符式時計)が出現するまで、およそ300年に亙って使われ続けることになります。


【天符の振動数と歩度の関係、本品のムーヴメント "ref. 2752PC" の位置付け】

 上述したように、ひげぜんまいには振り子と共通する性質が多くあります。すなわち材質と太さが同じであれば、ひげぜんまいの振動数は長さで決まります。またひげぜんまいが振り子と同様の等時性を有するために、天符が回転の向きを切り替えて一往復するのに掛かる時間は、天符が大きく振れているときも小さく振れているときも、まったく同じです。これは主ぜんまいが巻き戻るにつれて輪列を流れる力が弱くなっても、時計の歩度(時間の進み具合)が一定に保たれることを意味します。

 ところで一般に物の量を測定するとき、物差しの目盛や測定機器の分解能が細かいほど、より正確な測定が可能です。時計で時間を測る場合にも同じことが言えます。一定時間内に天符が振動する(往復する)回数が多ければ多いほど、より正確に時間を測定できます。

 機械式時計の天符における振動数とは、一秒あたりの半周期の数のことです。もしも天符が一秒間に一往復すれば、2振動です。三往復すれば、六振動です。四往復すれば、八振動です。一秒間に八振動する天符の振動数は、一時間当たり 28,800振動となります。(8 x 60秒 x 60分 = 28,800) 28,800振動、あるいはそれ以上の振動数のことを「高振動」(ハイビート)と呼んでいます。

 実際の時計の正確さは振動数のみによって決まるのではありませんが、ムーヴメントに特に不具合が無いかぎり、天符の振動数は時計の精度を決める最大の要因です。本品ゼニス 2752PCと同時期に製作されたエル・プリメロの天符は毎秒五往復し、一時間当たり 36,000振動の「スーパー・ハイビート」機として有名です。

 ただし振動数が上がれば上がるほど良いかというと、そうとはかぎりません。振動数が上がると、部品の損耗も激しくなるからです。セイコーのエルニクスはひげぜんまい付の天符で調速する高振動、高精度の時計でしたが、クォーツ式に敗れて淘汰され、姿を消しました。部品の損耗の激しさが、大きな理由であろうと思います。(ただしエルニクスの場合、力の流れる方向が通常の機械式時計とは逆で、アンクルがガンギ車を動かしていましたから、この部分にかかる負荷が非常に大きいという特殊事情がありました。)

 ゼニスの「エル・プリメロ」は、ぜんまい式時計の精度を限界まで高める試みでした。ゼニス社が部品の耐摩耗性を高め、烈しい動きに耐える潤滑油を開発して製作したエル・プリメロは、たしかに素晴らしいムーヴメントですが、実用向けというよりも、技術上の実験、時計メーカーの「腕試し」という意味合いが強いように思います。計時の精度と部品の強度のバランスがうまく取れた実用向きの時計という意味では、同社がエル・プリメロと同時期に開発した 2752PC(本品 毎時 28,800振動)のほうが優れています。



 この時計はスイス、ゼニス社製17石オートマティック(自動巻)ムーヴメント、ref. 2752PCを搭載した男性用時計で、ヘアライン加工を施したダークブルーの文字盤に、1960~70年代の時計に定番のバー・インデックスを植字し、視認性に優れたシンプルな針を取り付けています。




 文字盤上部に「モヴァード」(MOVADO) と「ゼニス」(ZENITH) のダブル・ネームが記され、ゼニス社の銀色の立体エンブレムが植字されています。文字盤の下半分には「オートマティック(AUTOMATIC 自動巻)」及び「スイス製」(SWISS MADE) と記されています。

 四時半の位置にデイト表示(日付表示)の窓があります。デイト表示はクイック・セットと呼ばれる方式で、竜頭(りゅうず)を最大限に引き出して回すことにより、すばやく合わせることが可能です。

 文字盤は時計が製作された当時のままで、途中で書き換えていないオリジナルですが、非常に良いコンディションです。白く塗られた秒針は、滑らかに動くスイープ運針です。




 時計ケースはステンレス・スティール無垢で、裏蓋はネジ式です。裏蓋を外すと、ゼニス社のロゴ (ZENITH SWISS)、及び同社のエンブレムが刻印されています。



 ステンレス・スティールは錆に強く、他のベース・メタルに比べてアレルゲンにもなりにくく、ゴールドに比べて耐摩耗性に優れています。時計ケースの素材としては、最も優れたもののひとつです。


 ムーヴメントは錆もなく、たいへん良いコンディションです。ローター(回転錘)にゼニスの社名と17石の刻印、天符付近の地板にキャリバー名 2572PCの刻印があります。



 ゼニスのデイト表示付自動巻ムーヴメント、キャリバー 2572PCは、同じ振動数の17石手巻ムーヴメント、キャリバー 2572をベースにしています。デイト表示無しの手巻ムーヴメントが ref. 2572、デイト表示付の手巻ムーヴメントが ref. 2572C、デイト表示無しの自動巻ムーヴメントが ref. 2572P、デイト表示付の自動巻ムーヴメントが ref. 2572PCです。これら四機種の調速脱進機は共通ですので、振動数はいずれも同じで、毎時 28,800振動です。いずれの機種も設計上のパワーリザーヴは43時間です。

 「17石」とは17個のルビーが部品として使われているという意味です。17個という数には必然性があり、「17石」は高い耐久性が必要な箇所のすべてにルビーを使用したハイ・ジュエル・ムーヴメント (high-jewel movement)、すなわち高品質のムーヴメントであることを示しています。


 ゼニス2572系ムーヴメントの優れた特長として、マイクロメーター式の緩急針微調整機構を備えています。

 緩急針を微調整するには様々な方式が考案されており、アンティークウォッチの場合、視覚的に美しく高級感のあるスワンネック緩急針が人気があります。しかしこの方式の場合、スワンネック部分、及び緩急針に力を加えるためのネジが細くて長いため、いずれも破損しやすいという難点があります。それに比べてゼニス2572系のマイクロメーター式微調整機構は破損しにくく、非常に細かい調整が可能で、緩急針付調速脱進機のなかでは最高級のものと言ってよいでしょう。






 天符のルビーは、複雑な形状の金属製部品によって押さえられています。これは天真のホゾを衝撃から守る耐震装置(バネの一種)です。

 天符は、天真の両端(ホゾ)が地板と天符受(てんぷうけ)に取り付けた孔石(ドーナツ状のルビー)に嵌まることで保持されています。天真のホゾと孔石の間に生じる摩擦は、計時の正確さに悪影響を及ぼします。それゆえ摩擦を極力小さくするために、腕時計の天真のホゾは直径 0.08ミリメートル以下と、髪の毛よりも細いサイズになっています。

 天真は特殊な鋼鉄製で、非常に硬いですが、靭性(じんせい)が劣ります。つまり落下等の衝撃に対して弱く、折れやすいのです。機械式時計が持つこの弱点を緩和するために考案されたのがバネを利用した耐震装置で、孔石とその外側の受け石を固定せず、バネで押さえて可動性を持たせることにより、軽度の衝撃を吸収できるように工夫しています。

 耐震装置は1950年代に様々な形状のものが考案され、普及しました。ゼニス2572系に搭載されているのは「キフ=ウルトラフレックス」(Kif-Ultraflex) と呼ばれるものです。キフ=ウルトラフレックスはインカブロックと並ぶ性能で知られ、ロンジン、ジラール=ペルゴ、ロレックス、ブロバ、パテック=フィリップ等、数多くのメーカーに採用されています。


 1970年当時、良質の時計の価格は給与数か月分にも相当しました。このゼニスの価格も、おそらく初任給の4カ月分以上に相当したはずです。

 本品はオーバーホール済みです。天符の振り角は大きく、ぜんまいを巻き上げるだけでたいへん元気に動き始めます。裏押さえ、鼓車、キチ車、竜真とオシドリの噛み合わせの溝、オシドリネジを留める地板の孔等、破損・損耗しやすい箇所に関しても、まったく問題はありません。



 このゼニスはケースのサイズが 38 x 38ミリメートル、バンド幅 20ミリメートルで、ヴィンテージ・ウォッチとしては大きなサイズです。大きいと言っても、男性の間でいま流行している極端に大きな時計ほどではなく、ちょうど良い大きさです。

 昨今流行しているように大きく厚い時計を着けると、シャツの袖が時計に引っ掛かって、正しい位置まで下りません。シャツの袖がスーツの袖口から覗かないのは、男性のドレス・コード違反です。スーツを美しく知的に着こなすには、このゼニスくらいの大きさが限度でしょう。


 商品写真は黒の革バンドを取り付けて撮影しましたが、お好きな色、質感の革バンド、金属製バンドに簡単に替えることができます。遠慮なくお申し付けくださいませ。






本体価格 210,000円 販売終了 SOLD

電話 (078-855-2502) またはメール(procyon_cum_felibus@yahoo.co.jp)にてご注文くださいませ。




男性用(男女兼用)腕時計 商品種別表示インデックスに戻る

男性用(男女兼用)腕時計 一覧表示インデックスに戻る


腕時計 商品種別表示インデックスに移動する


時計と関連用品 商品種別表示インデックスに移動する



アンティークアナスタシア ウェブサイトのトップ・ページに移動する




Ἀναστασία ἡ Οὐτοπία τῶν αἰλούρων ANASTASIA KOBENSIS, ANTIQUARUM RERUM LOCUS NON INVENIENDUS