旧ソ連製 ヴァストーク 2603 《スプートニク Спутник》 宇宙時代の幕開けを告げるハイ・ジュエル・ウォッチ 1957 - 59年


ムーヴメントの種類  Восток 2603



 1957年10月24日、ソヴィエト連邦は弾道ミサイルを使用し、世界初の人工衛星スプートニク一号の地球周回軌道投入に成功しました。本品はこれを記念して制作された珍しい時計で、小秒針を回転するディスクに置き換えています。





 本品のケース本体はニッケルまたは銅合金にクロムめっきを施したもので、直径三十四ミリメートルの標準的なサイズです。適合するバンド幅は現代の標準的なバンド幅と同じで、十八ミリメートルです。

 文字盤の周囲十二か所にある長針五分ごと、短針一時間ごとの数字を、インデックス(英 index)といいます。本品のインデックスは金色の立体インデックスで、読みやすい字体のアラビア数字と細長い三角形が交替しています。





 腕時計のインデックスには、年代ごとの流行があります。1940年代以前のインデックスはすべてアラビア数字です。1950年代の時計では、アラビア数字と線状のインデックスが混用されます。1960年代の時計では、線状のインデックスのみが使われます。以上は西側諸国の場合で、ソヴィエト連邦の時計は独特のデザインが見られますが、本品に限って言えば、文字盤デザインの傾向は西側と一致しています。

 ソヴィエトからアメリカ合衆国へは、北極を超えれば最短距離で到達可能です。スプートニク一号の成功は、大陸間弾道弾の実験が成功したのと同じ意味を持っていました。アメリカ合衆国がスプートニク・ショックに見舞われたのはそのためです。この時計が西側に輸出されたかどうか筆者(広川)は知らないのですが、ソ連製時計の野暮ったさを感じさせない洗練されたデザインは、世界に通用し、むしろ西側諸国よりも優位に立つソヴィエトの科学技術の勝利を象徴しています。





 文字盤の中央部分は金色で、同心円状のギヨシャージュ(仏 guillochage ギョーシェ彫り、エンジン・ターニング)が施されています。ギヨシャージュ上部にはキリル文字の筆記体でスプートニク(露 Спутник)と書かれています。スプートニクとはロシア語で「衛星」の意味です。ギヨシャージュ下部にはズヂェーラナ・ヴェセセール(露 Сделано в СССР エセセール製)と書かれています。エセセール(СССР)とはサユース・サヴィエーツキク・サツィアリスティーチスキク・リスプーブリク(露 Союз Советских Социалистических Республик ソヴィエト社会主義共和国連邦)の略称です。

 短針と長針はドレス・ウォッチに相応しいリーフ型で、ブルー・スティールでできています。ブルー・スティールは鋼を加熱して酸化被膜を形成したもので、深い青色が見た目に美しいだけでなく、錆にも強くなります。





 現代の時計は中三針(なかさんしん)式といって、時針、分針、秒針がいずれも文字盤の中央に取り付けられています。しかしながら秒針を文字盤の中央に取り付ける加工は難しく、中三針式の時計は 1960年代に入って以降にようやく普及しました。1950年代以前の時計は、どの国で製造された物であっても、六時の位置に秒針が付いています。このような方式を小秒針式(スモール・セカンド式)といいます。本品も小秒針式です。





 本品の小秒針は針の代わりに円盤を取り付けています。円盤にはスプートニクを模る丸窓が開いていて、円盤が回転すると丸窓に数字が現れて秒を表示します。回転する円盤に数字を書き、固定した小窓越しにこれを表示するのは、1950年代のデジタル式腕時計に採用された方法です。本品はこれとは逆にスプートニクの小窓付き円盤を回転させることで、地球を周回する衛星の動きをうまく再現しています。





 文字盤の最下部にはキリル文字でチストポリ国営時計工場(露 ГЧЗ Чистополь)と書かれています。チストポリ(Чистополь)はタタールスタンの都市で、ヴァストーク社の所在地です。





 ケース裏蓋はこじ開け式で、ステンレス・スティールでできています。





 本品の機械は「ヴァストーク 2603」で、11 1/2リーニュの十七石手巻きムーヴメントです。

 時計マニアを自称する素人には、旧ソ連製の時計を不当に低く評価する人がいますが、筆者(広川)にはその理由がわかりません。ヴァストーク 2603 は、フランスのリップ社が設計したムーヴメント、リップ R26と同じもので、毎時一万八千振動(f = 18000 A/h)、パワー・リザーヴ三十七時間の極めてまともな機械です。ヴァストーク 2603 は 1953年からおよそ半世紀に亙って作り続けられ、パビェーダ(Победа)、スラーヴァ(Слава)、ズィム(Зим)、ラキェータ(Ракета)にも搭載されました。





 ヴァストーク 2603 の天符はグルシデュール(Glucydur)製で、ひげぜんまいは、外端を時計の裏蓋側に持ち上げた巻き上げひげです。巻き上げひげはアブラアン・ブレゲというフランス人時計師が考案した仕組みで、この人の名前を取ってブレゲひげ(Breguet hairspring, spiral Breguet)とも呼ばれています。巻き上げひげ(ブレゲひげ)が変形すると修正は困難ですが、本品の巻き上げひげ(ブレゲひげ)は歪みが無く、たいへん良い状態です。





 本品と同系列のヴァストーク社製ムーヴメントには 2602, 2603, 2605 の三種類があります。2602 には耐震装置がありませんが、本品 2603 にはインカブロックが付いています。2605 はデイト表示付ですが、デイト表示機能は日板送り爪摩耗による故障が起きがちですから、デイト表示の無い 2603 は耐久性・保守性の面で最良の機械と言えます。さらに本品は十七石(17 камней)のハイ・ジュエル・ウォッチで、必要なすべての箇所にルビーが使われています。





 時計会社はバンドまで作っていませんので、アンティーク時計のバンドをお好みのものに取り替えても、アンティーク品としての価値はまったく減りません。本品にはスイス製の新品のバンドを取り付けています。バンドは消耗品ですが、本品のバンド幅は現代の多くの時計と同じ十八ミリメートルですので、取り換え用のバンドは容易に手に入ります。

 本品はオーバーホール済で調子よく動作しております。下記は本体価格です。当店の時計は現金一括払い、ご来店時のクレジットカード払いのほか、現金の分割払い(三回払い、六回払い、十二回払いなど。利息手数料なし)でもご購入いただけます。当店ではお客様のご希望に出来る限り柔軟に対応しております。ご遠慮なくご相談くださいませ。





本体価格 120,000円 販売終了 SOLD

電話 (078-855-2502) またはメール(procyon_cum_felibus@yahoo.co.jp)にてご注文くださいませ。




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