アール・デコの四角い時計 《ポスト 十七石》 ア・シールド キャリバー 970 1950年頃

Post, A Schild cal. 970, 17 jewels, circa 1950


ラグを含むケースのサイズ 縦 36.2 x 横 26.2 mm  風防と裏蓋を含む最大の厚さ 10.5 mm

ケースの長方形部分のサイズ 縦 23.7 x 横 21.8 mm (ラグと竜頭を除く)


バンド幅(時計に取り付ける部分の幅) 19 mm



 1950年頃の腕時計。ケース、文字盤ともアール・デコそのもののようなデザインです。六十年以上前の品物にもかかわらず、新品のように綺麗な保存状態です。元々男性用として作られた時計ですが、五百円硬貨ほどの上品な大きさですので、女性にもご愛用いただけます。バンドは金属製バンドやお好きな色の革バンドに交換可能です。





 時計内部の機械を「ムーヴメント」(英 movement)、ムーヴメントを保護する金属製の容器(時計本体の外側)を「ケース」(英 case)といいます。本品が作られたのは 1940年代後半から1950年代前半頃ですが、この時代には四角い時計が流行していました。しかるにムーヴメントは円形である場合が多いので、この年代の腕時計には円いムーヴメントを四角いケースに入れた時計が多く見られます。本品もそのような作例のひとつで、円いムーヴメントと四角いケースが、この時代に独特の組み合わせとなっています。

 本品のケース素材は金張りです。「金張り」とは板状の金をベース・メタルに張り付けたもので、現代の金めっき(エレクトロプレート)に比べると金の厚みは数十倍に達し、摩耗に強く、見た目にも高級感があります。本品のケースに張られている金は 十カラット・ゴールド(純度 10/24の金)で、十八金に比べて強度が格段に強く、色の点でも淡く上品なシャンパン・ゴールドをしています。

 ケースのデザインは幾何学的な規則性を重視し、メカニカルな印象を与える「アール・デコ」様式によります。最も特徴的なのは大型のラグ(バンドを取り付けるための突起)で、曲線よりもむしろファセット(小面)の連続によってカーヴを描いています。三時側と九時側のベゼルも、正面から見ると曲線を描いて盛り上がっているかのように見えますが、側面から見ると緩やかな台形であることがわかります。





 時計において、時刻を表す刻み目や数字が配置された板状の部品を「文字盤」(もじばん)または「文字板」(もじいた)といいます。本品の文字盤は白で、この時計が製作されたときのオリジナルです。アンティーク時計の文字盤にはある程度の「焼け」(変色)があるのが普通ですが、本品は六十年以上前の文字盤にもかかわらず、不思議なほど綺麗な状態です。アンティーク時計は整備作業や修理の記録がケースの裏蓋に書かれている場合が多いのですが、本品のケース裏蓋にはそのような書き込みも見当たらりません。したがって本品は試着されただけの新品、あるいは新品に近い状態のままほとんど使用されなかった時計であろうと思われます。

 文字盤の周囲十二か所にある「長針五分ごと、短針一時間ごと」の数字を、「インデックス」(英 index)といいます。本品のインデックスは金色の立体インデックスで、白い文字盤を背景に優れた視認性を確保しています。三時と九時のインデックスは小さな球体を三つ繋げた特徴ある形をしています。この形もアール・デコ様式ですが、珍しいデザインです。筆者自身、このようなインデックスを見たのは初めてです。

 現代の時計の秒針は「センター・セカンド」といって、短針、長針と同様に、時計の中央に取り付けられています。これに対して 1950年代までの時計の秒針は、ごく少数の例外を除き、「スモール・セカンド」といって、六時の位置に取り付けられています。時計の中央に秒針を取り付ける方式のムーヴメントを製作するのは技術的に困難で、「センター・セカンド」が普及するのは1960年代です。それ以前の時計はほとんどすべて「スモール・セカンド」方式です。本品の場合も文字盤の六時の位置には直径五ミリメートル足らずのくぼみがあり、それを取り巻くように十二本の刻み目が書かれて、スモール・セカンド(小秒針)用の小文字盤となっています。小文字盤の中では、長さ四ミリメートルほどの小さな針が回っています。





 文字盤上部には「ポスト」という珍しいブランド名が書かれています。筆者は長年に亙ってアンティーク時計を扱っていますが、このメーカー(Post Watch Company ポスト・ウォッチ・カンパニー)の時計は、本品を含めて三本しか見たことがありません。ポスト・ウォッチ・カンパニーはスイスの小さな時計会社ですが、これまで目にした同社の時計はいずれも良質なムーヴメントを搭載していました。本品も例外ではなく、必要な全ての個所にルビーを使った十七石のハイ・ジュエル・ウォッチ(後述)です。

 時針と分針はドーフィン(dauphine フランス語で「王太子妃」)型と呼ばれるタイプで、インデックスと同じ金色です。錆は全く見られず、美しく光っています。





 上の写真は本品のムーヴメントです。現代のクォーツ・ムーヴメントはプラスチック製ですが、機械式時計のムーヴメントは丈夫な金属で作られています。赤く見えるのはルビーです。

 良質の機械式腕時計、懐中時計には、摩耗してはいけない部分にルビーを使います。ルビーはモース硬度「九」と非常に硬い鉱物(コランダム Al2O3)ですので、時計の部品として使用されるのです。本品のムーヴメントには十七個のルビーが使用されています。写真ではルビーが五個しか見えませんが、あとの十二個は機械の裏側(文字盤側)など、上の写真に写っていない部分に使われています。本品のように十七個のルビーを使用した「十七石」(じゅうななせき)のムーヴメントは、摩耗してはならない箇所のほぼすべてにルビーを使用しており、「ハイ・ジュエル・ムーヴメント」(英 high jewel movement)と呼ばれる高級品です。

 本品のムーヴメントは、スイスのア・シールド社が制作した「キャリバー 970」(AS 970)です。「ア・シールド キャリバー 970」(AS 970)は 8 1/2リーニュの円形手巻きムーヴメントで、1930年代から製造がはじまり、1940年代を通じて数々の時計に採用された信頼性の高い機械です。AS 970には七石、九石、十五石などいくつかの機種がありますが、この時計に搭載されているのは最も高級な十七石の機種です。またスモール・セカンド付きのものとそうでないものがありますが、この時計には前者が採用されていますので、可愛らしい秒針の動きを楽しんでいただけます。





 上の写真の手前右側には、小さなネジがたくさん取り付けられた環状の部品が写っています。これは携帯用時計(ウォッチ、すなわち懐中時計及び腕時計)において振子の役割をする部品で、天符(てんぷ)といいます。時計のムーヴメントを人間の体に譬えれば、天符は脳や心臓に相当します。天符の中心軸を天真(てんしん)といいます。天真の両端をホゾといいます。腕時計の天真は、ホゾの直径が 0.08ミリメートルほどしかなく、非常にデリケートです。天真は鋼鉄でできています。鋼鉄は硬く、引っ掻きや摩耗に対しては強い素材ですが、衝撃に対しては脆弱(ぜいじゃく)で、時計を誤って落下させる等の衝撃を与えると簡単に折れてしまいます。天真のホゾが折れると天符の動きが止まり、時計が停止します。それゆえ天真のホゾ折れは、人間に譬えれば脳死や心停止のように重大な故障です。

 この故障を起きにくくするために、本品のムーヴメントは耐衝撃装置を備えています。天符の中心のルビーを、金色の小さな部品が押さえているのが見えます。金色の小さな部品は、リュラ(λύρα 竪琴)または和柄の「分銅」のような形をしています。これは天真のホゾを衝撃から守る役割を果たす一種のバネ、耐衝撃装置で、「インカブロック」(Incabloc)といいます。インカブロックは 1940年代頃から市販の時計に搭載され始め、1950年代に広く普及しました。インカブロックが付いていても、衝撃が加わる方向によっては、耐衝撃機能はほとんど働きません。したがってインカブロックの有無にかかわらず、機械式時計は乱暴に扱うべきではありません。そういう意味では、インカブロックが付いたからといって使い勝手が良くなるわけでもないのですが、万一の事故を考えると、インカブロックは付いているほうが一層安心できます。

 本品のムーヴメントは天符の振り角も大きく、良好な状態です。オシドリの嵌まる竜真の窪み、キチ車と鼓車の噛み合わせ部分、裏押さえの腕部分等、消耗しやすい部分にも異常はありません。アンティーク時計はどこの店でもほぼ現状売りで、修理にはなかなか対応してもらえませんが、当店ではアンティーク時計の修理に対応しています。「ア・シールド キャリバー 970」の各種パーツも豊富に確保しておりますので、ご安心ください。当店の修理対応につきましては、こちらをご覧くださいませ。





  本品はもともと男性用として作られた時計ですが、現代の時計に比べてかなり小さく上品なサイズであるゆえに、女性にもお使いいただけます。バンドはお好きな色、質感、長さのバンドに換えることができます。時計会社はバンドまで作っていませんので、アンティーク時計のバンドをお好みのものに取り換えても、アンティーク品としての価値はまったく減りません。時計お買上時のバンド交換は、当店の在庫品であれば無料で承ります。

 商品写真の撮影に使用した金属製バンドは、本体の幅が十六ミリメートルです。幅十六ミリメートルは、男性用として作られたヴィンテージ・ウォッチ(アンティーク時計)のバンドに多いサイズです。しかしながら時計のラグ間の距離は十九ミリメートルです。上の写真は幅十九ミリメートルの革バンドを取り付けて撮影しています。十九ミリメートルのバンドは、ヴィンテージ・ウォッチ用としてはかなり幅広です。





 当店はアンティーク時計の修理に対応しております。アンティーク時計の修理等、当店が取り扱う時計につきましては、こちらをご覧ください。当店の時計は現金一括払い、ご来店時のクレジットカード払いのほか、現金の分割払いでもご購入いただけます。当店ではお客様のご希望に出来る限り柔軟に対応しております。ご遠慮なくご相談くださいませ。





89,250円

電話 (078-855-2502) またはメール(procyon_cum_felibus@yahoo.co.jp)にてご注文くださいませ。




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