アール・デコ様式のローマ数字文字盤 《オリス モノトーン薄型ドレス・ウォッチ 十七石》 六時に小秒針 懐中時計型龍頭 耐震装置装備 スイス 1950年代半ば



ラグと竜頭を除くケースの直径  33.6ミリメートル

風防と裏蓋を含む厚み 8.0ミリメートル


ラグ幅(時計に取り付ける部分のバンド幅) 17ミリメートル



 1950年代半ば頃のスイスで作られた薄型ドレス・ウォッチ。六時の位置の小秒針、アール・デコ様式の文字盤とケースに、1950年代製腕時計の特徴がよく現れています。直径 33ミリメートル、厚さ 8ミリメートルの上品なサイズ、無彩色とシルバーでまとめた清潔感ある意匠により、仕事にも十分に使える時計に仕上がっています。





 時計内部の機械をムーヴメント(英 movement)、ムーヴメントを保護する金属製の容器(時計本体の外側)をケース(英 case)といいます。ケースはベゼル(英 bezel)と裏蓋(英 back)に分かれます。べゼルとは風防の枠となる部分のことで、文字盤を上にして時計を平置きしたときの、ケースの上半分に相当します。近年の時計はベゼルとケース本体が一体化しています。1950年代の時計においてもベゼルとケースは大抵の場合一体化していますが、本品のベゼルはケース本体と分離しています。これは懐中時計によく見られる特徴で、文字盤のローマ数字インデックス、玉葱型の龍頭とともに、十九世紀風のクラシカルな薫りを本品に与えています。





 時計において、時刻を表す刻み目や数字が配置された板状の部品を文字盤(もじばん)または文字板(もじいた)といいます。文字盤の周囲十二か所にある「長針五分ごと、短針一時間ごと」の数字を、インデックス(英 index)といいます。

 インデックスの様式には年代ごとの流行があります。十二時、三時、六時、九時をアラビア数字で、他の時刻を四角形で表すのは、1950年代に作られたインデックスの特徴です。本品ではアラビア数字がローマ数字に置き換わっており、腕時計には珍しい例です。ローマ数字のインデックスは懐中時計に多用されましたが、懐中時計のインデックスはすべての時刻が数字であったのに対し、本品は四か所のみが数字です。また本品のローマ数字は幅がたいへん広く、アール・デコ様式の字体が採用されています。本品の文字盤は懐中時計の薫りを遺しつつも、1950年代にふさわしい意匠となっていることがわかります。





 本品の文字盤は半艶消しのライト・グレー(明るいねずみ色)で、つややかな黒地のインデックスが周囲を取り巻きます。四時付近に線状に色が濃くなった部分がありますが、およそ六十年以上前の品物であることを考えれば、極めて良好な保存状態といえます。文字盤の上半分にオリス(ORIS)のロゴとセヴンティーン・ジュエルズ(17 JEWELS 十七石)の白文字が転写されています。オリス(ORIS SA)はスイス北部バーゼルラント州ヘルシュタイン(Hölstein)で 1904年に創業した腕時計専業の老舗メーカーです。

 本品の針は銀色で、たいへん上品なバトン型です。現在の時計は中三針(なかさんしん)式といって、時針分針と同じ位置に長い秒針を取り付けますが、1950年代の男性用腕時計は六時の小文字盤にスモール・セカンドと呼ばれる小秒針を取り付けるのが普通でした。本品も小秒針式で、六時の位置にシンプルな小文字盤を有します。小文字盤には同心円状の溝が切ってあり、時計が傾くとあたかも車輪が回転するかのように光の軸が回り、落ち着いた意匠に動きを添えています。





 本品は電池ではなくぜんまいで動く機械式です。機械式時計には手巻きと自動巻きの二種類がありますが、本品はより薄くドレッシーな手巻き式です。

 腕時計の三時の位置から突出するツマミを龍頭(りゅうず)といいます。機械式時計のぜんまいは、龍頭を回転することにより巻き上げます。ぜんまいを巻くのはとても簡単で誰にでもできますから、初めての方でもまったく心配いりません。また時計を使わない日にぜんまいを巻く必要はありません。懐中時計の龍頭は玉葱のような形状ですが、1920年代に男性が腕時計を使い始めるのとほぼ同時に、腕時計には扁平な龍頭が使われるようになります。しかるに本品は愛らしい玉葱形の龍頭を採用しており、腕時計には珍しい特徴となっています。





 バンドを取り付けるための突起をラグ(英 lugs)といいます。ラグは十二時側と六時側にそれぞれ二本ずつ突出しています。本品のラグは 1950年代に流行した形状で、根元外側にノット(英 knot ふくらみ)があり、また外側に向かって花開くように美しい曲線を描きます。手首の丸みに添うような曲線も、本品のケースに優美さを加えています。





 十二時側のラグ間の距離、および六時側のラグ間の距離はいずれも十七ミリメートルで、これが本品に適合するバンド幅ということになります。十七ミリメートルは 1950年代の男性用腕時計に標準的、あるいは標準よりもやや広めのバンド幅です。本品の商品写真は黒の革バンドを取り付けて撮影しましたが、幅が十七ミリメートルのバンドであれば、色や素材は自由に変更できます。赤や青、白、茶色などの革バンドを付けることもできますし、金属バンドを付けることもできます。





 上の写真は本品の裏蓋側です。裏蓋はこじ開け式で、中央部にオリスのマークが刻印され、「ベース・メタル製トップ」「ステンレス・スティール製裏蓋」「耐震」「スイス製」の文字が英語で刻まれています。その下の数字(7377)は、ケースのモデル名でしょう。

 時計ケースにはムーヴメント(時計内部の機械)を守るという大切な役割があります。ケース裏蓋は肌と直接的に接ゆえに腐食や摩耗が起こり易く、ここに孔が開くとムーヴメントに水分が侵入します。しかるに本品のケース裏蓋は丈夫なステンレス・スティール製で、腐食や摩耗に強いうえにアレルギー反応も引き起こしにくくなっています。「ベース・メタル製トップ」とはケースの葉面およびベゼル部分のことで、おそらくブロンズにクロムめっきが施されています。この部分は葉だと擦れ合わないので、ステンレス・スティール製でなくとも問題ありません。





 上の写真は裏蓋を開けたところで、ムーヴメントが見えています。向かって左手前に写っている大きな輪は、振り子の役割をする天符(てんぷ)です。天符の右には銀色の大きな車が見えています。これが角穴車で、角穴車の下にある香箱という円筒形の箱に主ぜんまいが入っています。天符と角穴車の間に、「スイス製」「十七石」の文字が刻まれています。

 良質の機械式腕時計、懐中時計には、摩耗してはいけない部分にルビーを使います。ルビーはモース硬度「九」と非常に硬い鉱物(コランダム Al2O3)ですので、時計の部品として使用されるのです。本品のムーヴメントには十七個のルビーが使用されています。機械式ムーヴメントにおいて、摩耗してはならない箇所のすべてにルビーを使用すると、十七個のルビーを使った十七石(じゅうななせき)のハイ・ジュエル・ムーヴメント(英 high jewel movement)となります。十七石の本品は、ハイ・ジュエル・ムーヴメントを搭載した高品位の時計です。





 本品のムーヴメントは、スイスのユニタス社が制作したキャリバー 6565(UT 6565)です。UT 6565はユニタス社のキャリバー 6360を発展させたものですが、UT6360の 18,000 A/h(一秒間に五振動)に対し、UT6565は 21600A/h(一秒間に六振動)とアップグレードされており、より一層正確な計時が可能となっています。またユーザーにはわからないことですが、UT 6565は整備がしやすくデザインされており、その意味でも優れた機械です。


 本品のムーヴメントは電池ではなくぜんまいで動いています。電池で動くクォーツ式腕時計が完全に普及したのは、1980年代のことです。本品が製作された 1950年代の腕時計は、ぜんまいで動いていました。

 本品のようにぜんまいで動く時計を機械式時計といいます。機械式時計は手巻き時計と自動巻き時計に分かれます。前者は手動でぜんまいを巻き上げる方式で、機械式時計の基本形です。宇宙飛行士の時計は、現代でも手巻き式です。手巻き式ムーヴメントと自動巻きムーヴメントを比べると、手巻き式ムーヴメントは自動巻き機構が付加されない分だけ薄く作ることが可能です。

 ユニタスの同系列ムーヴメントにはデイト表示付きの UT6580がありますが、文字盤のデザインはデイト表示が無いほうがすっきりしますし、日板およびこれを送る車の爪は摩耗してしばしば壊れます。しかも機械式時計の日付や曜日は自動的に合わず、月末には手動で調整しなくてはなりませんから、無くても良い機能だと私は考えています。





 ムーヴメントの九時付近、上の写真でいえば上端付近に、天符が写っています。天符は携帯用時計(ウォッチ、すなわち懐中時計及び腕時計)において振子の役割をする部品で、時計のムーヴメントを人間の体に譬えれば、天符は脳や心臓に相当します。機械式時計は天符が規則的に振動することで時間を測っています。それゆえ天符の振動の規則性は、機械式時計にとって最も重要な性能です。天符は大きければ大きいほど安定して動作します。UT 6565の天符は大きなサイズで、本品でも安定的に動作しています。

 天符の中心軸を天真(てんしん)といいます。天真の両端をホゾといいます。腕時計の天真は、ホゾの直径が 0.08ミリメートルほどしかなく、非常にデリケートです。天真は鋼鉄でできています。鋼鉄は硬く、引っ掻きや摩耗に対しては強い素材ですが、衝撃に対しては脆弱(ぜいじゃく)で、時計を誤って落下させる等の衝撃を与えると簡単に折れてしまいます。天真のホゾが折れると天符の動きが止まり、時計が停止します。それゆえ天真のホゾ折れは、人間に譬えれば脳死や心停止のように重大な故障です。





 この故障を起きにくくするために、本品のムーヴメントは耐衝撃装置を備えています。上の写真の手前右側には天符が写っており、天符の中心にルビーが見えます。これは受け石という部品です。UT 6565の天符の受け石は、葵の紋のような形の金色の板バネで押さえて保持されています。この板バネが耐震装置(耐衝撃装置)で、ムーヴメントに強い慣性が働いたとき、天符の穴石と受け石にわずかな動きを許すことにより、天真のホゾに加わる衝撃を低減します。耐震装置はごく小さな板バネにすぎませんが、たいへん優れた発明であり、天真のホゾ折れ事故はこれによって大幅に減少しました。

 なお耐衝撃装置が付いていても、衝撃が加わる方向によっては、耐震機能がほとんど働きません。したがって耐震装置の有無にかかわらず、機械式時計は乱暴に扱うべきではありません。そういう意味では耐震装置が付いたからといって使い勝手が良くなるわけでもないのですが、万一の事故を考えると、耐震装置は付いているほうが一層安心できます。







 本品のムーヴメントは天符の振り角も大きく、良好な状態です。オシドリの嵌まる竜真の窪み、キチ車と鼓車の噛み合わせ部分、裏押さえの腕部分等、消耗しやすい部分にも異常はありません。アンティーク時計(ヴィンテージ時計)はどこの店でもほぼ現状売りで、修理にはなかなか対応してもらえませんが、当店ではアンティーク時計の修理に対応しています。

 本品はヴィンテージ時計としては大きめのサイズですが、高さ八ミリメートルと薄型であるゆえにシャツや上着の袖に引っかからず、仕事用のスーツもスマートに着こなせます。本品をはじめ 1950年代の男性用時計は現代の女性用時計と同じぐらいの大きさですので、女性にもお使いいただけます。上に示した二枚の写真は、女性による着用例です。





 本品の文字盤はグレー系ですのでバンドは黒を選びましたが、時計会社はバンドまで作っていませんので、バンドをお好みのものに取り替えてもヴィンテージ品としての価値はまったく減りません。バンドはお好きな色、質感、長さのバンドに替えることができます。時計お買上時のバンド交換は、当店の在庫品であれば無料で承ります。

 当店はアンティーク時計(ヴィンテージ時計)の修理に対応しております。アンティーク時計の修理等、当店が取り扱う時計につきましては、こちらをご覧ください。当店の時計は現金一括払い、ご来店時のクレジットカード払いのほか、現金の分割払いでもご購入いただけます。当店ではお客様のご希望に出来る限り柔軟に対応しております。ご遠慮なくご相談くださいませ。





本体価格 95,000円

電話 (078-855-2502) またはメール(procyon_cum_felibus@yahoo.co.jp)にてご注文くださいませ。




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