端正な顔立ちの男性用ハイ・ジュエル・ウォッチ 《ニメル (虎)》 ステンレス製裏蓋の大型ケース 十七石の高級品 スイス 1940年代

Nimer, ETA cal. 853, 17 jewels, 1940s


突出部分を除くケースの直径 38.0 mm  風防と裏蓋を含む最大の厚さ 11.0 mm

適合するバンド幅 20 mm



 スイスは 1815年以来の永世中立国であるゆえに、同国の時計産業は第二次世界大戦期にも戦争の直接的な影響を受けず、質の良い時計を作り続けました。本品は第二次世界大戦期に作られた時計で、中立国スイスが生んだハイ・ジュエル・ウォッチ(後述)のひとつです。三十八ミリメートルのケース直径は、ヴィンテージ・ウォッチとしては最も大きなサイズです。風防と裏蓋を含む最大の厚さは十一ミリメートル、バンドの幅(時計に取り付ける部分の幅)は二十ミリメートルです。





 スイスには数多くの腕時計メーカーがありますが、年代ごとのデザインには共通する特徴があります。男性が腕時計を使うようになったのは女性よりも遅れて 1920年代頃ですが、当初に育ち始めた華やかなデザインは、1929年10月24日に始まった世界恐慌で一挙に保守的になりました。腕時計デザインに見られる保守性は、第二次世界大戦を経て戦後の混乱が落ち着くまで続きます。腕時計のデザインが個性と華やかさを取り戻したのは 1950年代のことです。

 本品は 1940年代の時計で、如何にもこの時代の時計らしい保守性を有します。ケースは基本の円形であり、文字盤の色、インデックス、針の形はいずれもこの上なく正統的で上品です。長く使っても飽きが来ず、仕事にもプライベートにも使い易いデザインです。





 本品の文字盤は半艶消しのライト・シルバー(明るい銀色)で、光を柔らかく反射します。文字盤は古い年代にもかかわらず綺麗ですが、再生(リファービッシュ、リダン)したものではなく、時計が製作された当時のオリジナルです。クリームがかった色と軽度の焼け(経年による変色)は、アンティーク時計が数十年の歳月をかけて獲得した古色であり、レプリカには真似のできない独自の美です。

 本品をはじめ、1940年代に作られた腕時計のインデックスは、アラビア数字によります。本品は文字盤が大きいために、インデックスの数字が随分と小さく感じられますが、ライト・シルバーを背景に黒々と書かれたゴシック体のアラビア数字はたいへん見易く、実用性においても上品さにおいても欠けるところがありません。





 文字盤の上方、十二時のすぐ下に王冠のマークがあり、流麗な筆記体で「ニメル」(Nimer アラビア語で「虎」)と書かれています。資料によると、「ニメル」はムルコ社(Mulco Watch Factory SA, La Chaux-de-Fonds, 1931 - )が有していたブランドで、1937年11月30日に商標登録されています。筆者(広川)はこれまでに数本の「ニメル」を目にしましたが、いずれも良質のムーヴメントを搭載し、真面目に作られた時計でした。本品もそのような製品のひとつで、ハイ・ジュエルの良い機械を積んでいます。





 上の写真は文字盤の裏側で、「ジンガー ショー=ド=フォン」(SINGER, CHAUX-DE-FONDS)の刻印が見えます。ジンガー社(Jean SINGER & Cie SA)はムルコ社があったのと同じラ・ショー=ド=フォンの文字盤メーカーで、1919年から現在まで存続しています。オメガやロレックスの文字盤は、ジンガー社が作っています。





 現代の時計は「センター・セカンド式」あるいは「中三針(なかさんしん)式」といって、時針、短針と同様に、秒針が文字盤の中央に取り付けられています。これに対して 1950年代以前の時計は「スモール・セカンド式」あるいは「小秒針式」といって、文字盤の六時の位置に小文字盤があり、秒針はここに取り付けられています。文字盤の中心に秒針を取り付けるのは技術的に難しく、この方式が普及するのは 1960年代以降です。1950年代までのウォッチ(携帯用時計、すなわち懐中時計と腕時計)はスモール・セカンド式(小秒針式」)で、本品も例外ではありません。

 時針と分針の形状は、バトン型をさらに細くしたフィル型です。「フィル」(fil)とはフランス語で「糸」のことで、その名の通りたいへん細いですが、濃い青色は明色を背景によく目立ち、視認性にはまったく問題ありません。青い針は「ブルー・スティール」(青焼き)といって、鋼を加熱して青い酸化被膜を作っています。「ブルー・スティール」は見た目が美しいことに加えて腐食(錆)に強くなります。現代の時計の青い針はたいていの場合青く塗装していますが、本品の針は真正の「ブルー・スティール」で、少し黄色味のある文字盤と美しく調和しています。





 時計内部の機械をムーヴメント(英 movement)、ムーヴメントを保護する金属製の容器(時計本体の外側)を「ケース」(英 case)といいます。本品のケースはスリー・ピース構造で、ムーヴメントの枠になる部分を、ベゼルと裏蓋が挟み込んでいます。

 ケースは時計の外形を決定するゆえに、時計をデザインする上で最も重要な要素ですが、審美的役割のほかにも、ムーヴメントを保護するという重要な役割を有します。時計ケースのなかで最も弱いのは、裏蓋です。日々の使用するなかで、裏蓋は手首と擦れ合って摩耗や腐食が起こり易いからです。しかしながら本品のケース裏蓋は、摩耗に強く、アレルギーも起こしにくいステンレス・スティール製です。上の写真に見える「フォン・ダシエ」(仏 fond acier)の刻印は、フランス語で「スティール製裏蓋」という意味です。





 電池で動く時計を「クォーツ式」、ぜんまいで動く時計を「機械式」といいます。また時計内部の機械を「ムーヴメント」(英 movement)といいます。機械式ムーヴメントには「手巻きムーヴメント」と「自動巻きムーヴメント」(オートマティック・ムーヴメント)があります。本品が搭載するのは、機械式ムーヴメントのなかでも、手巻きムーヴメントと呼ばれる種類です。手巻きムーヴメントと自動巻きムーヴメントの違いは、手巻きムーヴメントが竜頭(りゅうず ツマミ)を回してぜんまいを巻くのに対し、自動巻きムーヴメントは二通りの方法でぜんまいを巻けることです。すなわち自動巻きムーヴメントは、手巻ムーヴメントと同様に竜頭を回してぜんまいを巻くこともできますし、手首に着けて日常生活をしていれば、ぜんまいが自動的に巻き上がるようにも作られています。

 現代の機械式時計は自動巻きが多いですが、本品が作られた 1940年代に自動巻き機構は十分実用的な水準まで発達していませんでした。したがって本品は手巻き式です。自動巻き部品はムーヴメントに厚みを加えますが、手巻きムーヴメントは薄型に仕上がります。ドレス・ウォッチにおいて、これは手巻き式の大きな長所となっています。本品のムーヴメントは十四リーニュ(地板の直径三十二ミリメートル)というサイズで、ヴィンテージ時計では最も大きな部類に属しますが、直径に比べて薄く仕上がっています。





 裏蓋を開けると、受けにコート・ド・ジュネーヴ装飾を施した美しいムーヴメントが見えます。すぐに見える部分には、メーカー名やキャリバー名等が刻印されていませんが、これはスイス、エタ社(ETA)の「キャリバー 853」という機械です。「エタ キャリバー 853」は毎時一万八千振動 (f = 18000 A/h)で、パワー・リザーヴは異例の五十時間を誇ります。

 良質の機械式時計には、摩耗してはいけない部分にルビーを使います。ルビーはモース硬度「九」と非常に硬い鉱物(コランダム Al2O3)ですので、高級時計の部品として使用されるのです。手巻き、自動巻きにかかわらず、機械式時計の必要な部分すべてにルビーを入れると、「十七石」(じゅうななせき)のムーヴメントになります。十七石のムーヴメントは「ハイ・ジュエル・ムーヴメント」(英 high jewel movement)と呼ばれ、高精度、長寿命の高級機です。





 筆者が知る限り、「エタ キャリバー 853」には十五石のものと十七石のものがあります。これら二つのムーヴメントは、二番車に穴石(ドーナツ状のルビー)を使っているか否かが異なります。1940年頃のスイス製腕時計は、十五石のムーヴメントを採用するのが普通でした。二番車は回転速度が遅いので、他の歯車に比べると、軸受けの摩耗が起こりにくいからです。

 しかしながら長い目で見れば、二番車といえども、軸受けの摩耗は徐々に進行します。軸受けが摩耗して偏円形になると、二番車が傾きます。どの歯車であれ、機械の歯車が傾くと、隣のカナとの噛み合わせに問題が生じ、時計が止まります。特に二番車の場合、歯車が傾くと筒カナも傾きますから、針の先端が文字盤と接触し、文字盤に疵(きず)が付いたり、時計が止まったりします。

 時計を長く使うのであれば、二番車にも穴石を使うに越したことはありません。十五石と十七石はたった二石の違いですが、時計の寿命には大きな影響があるのです。本品が搭載する「エタ キャリバー 853」は二番車に穴石を有する十七石の機種ですので、これから先も長くお使いいただけます。





 本品のバンド幅は二十ミリメートルです。昨今の男性用時計は極端に大きなサイズが流行しているので、本品を見ても大きいとは思われないかもしれませんが、ほとんどの男性用ヴィンテージ時計はバンド幅が十六ミリメートルですので、本品がかなり大きいことがお分かりいただけます。本品はケースも文字盤も無彩色ですので、何色のバンドでも美しく合わせることができます。時計会社はバンドまで作っていませんので、アンティーク時計のバンドをお好みのものに取り換えても、アンティーク品としての価値はまったく減りません。商品写真に写っているバンドは当店にて取り付けた新品です。時計お買上時のバンド交換は、当店の在庫品であれば無料または割引価格にて承ります。現在在庫している幅二十ミリメートルのバンドを見るには、このリンクをクリックしてください。

 当店の時計は現金一括払い、ご来店時のクレジットカード払いのほか、現金の分割払いでもご購入いただけます。当店ではお客様のご希望に出来る限り柔軟に対応しております。遠慮なくご相談くださいませ。





本体価格 148,000円

電話 (078-855-2502) またはメール(procyon_cum_felibus@yahoo.co.jp)にてご注文くださいませ。




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