ボーイズ・サイズのクラシカルなアンティーク時計 《ユンハンス》 十五石 1931年頃

Junghans cal. 680.70, 15 jewels, circa 1931


ケースのサイズ 縦 35.7 x 横 26.3 mm (ラグを含み竜頭を除く)

ラグの幅(最も適合するバンド幅) 14 mm



 ドイツのユンハンス社が 1931年頃に製作した時計。ユンハンスは 1960年に創立された時計会社ですが、当初はウォッチ(携帯用時計、すなわち懐中時計と腕時計)ではなく、クロックを専門に作っていました。ユンハンスが初めて腕時計を作ったのは 1927年です。本品はそれからほとんど時を経ずに製作されていますので、ユンハンス製腕時計としては最初期のものといえます。アンティーク時計は男性用、女性用とも現代のものよりも小さめですが、特に本品はボーイズ・サイズですので、大きな時計が苦手な方や女性にも快適にお召しいただけます。バンドは金属製バンドやお好きな色の革バンドに交換可能です。八十年以上前の品物にもかかわらず保存状態は良好で、きちんと動作します。





 時計内部の機械を「ムーヴメント」(英 movement)、ムーヴメントを保護する金属製の容器(時計本体の外側)を「ケース」(英 case)といいます。1920年代の携帯用時計(懐中時計及び腕時計)用ムーヴメントはいずれも円形でしたが、1930年頃からはクッション型、トノー型、レクタンギュラー型等、四角に近いデザインが流行します。本品のムーヴメントは円型、文字盤も円形ですが、ケースの形状はトノー型です。「トノー」(tonneau)とはフランス語で「樽」(たる)のことです。

 ケース上部の稜線を斜めに切り除き、装飾を排してすっきりとまとめた仕上がりは、ドイツにおけるアール・デコそのもののイメージです。本品に採用されたケースの意匠は、1930年代初頭のドイツ時計でしかあり得ないと思えるほどに、時代と場所を映し出しています。





 本品は 10.5リーニュ(地板の直径 23.3ミリメートル)の円型手巻ムーヴメント、「ユンハンス キャリバー 680.70」を搭載しています。「ユンハンス キャリバー 680.70」は 1931年から 1935年頃までの間に製作されたムーヴメントで、電池ではなくぜんまいで動く「手巻式」です。電池で動く「クォーツ式」腕時計が普及したのは、1970年代以降のことです。本品が製作された 1930年代にはクォーツ式腕時計はまだ存在せず、腕時計はすべてぜんまいで動いていました。

 秒針があるクォーツ式腕時計を耳に当てると、秒針を動かすステップ・モーターの音が一秒ごとに「チッ」、「チッ」、「チッ」 … と聞こえます。デジタル式など秒針が無いクォーツ式腕時計を耳に当てると、何の音も聞こえません。これに対して機械式時計、すなわち本品のようにぜんまいで動く腕時計や懐中時計を耳に当てると、小人が鈴を振っているような小さく可愛らしい音が、「チクタクチクタクチクタク…」と連続して聞こえてきます。





 上の写真はムーヴメントの受け側、すなわちムーヴメントをケース裏蓋から外すと見える側を撮影しています。天符はチラネジ天符です。動作中に撮影したこの写真において、天輪の軌跡が全くぶれていないことからもお分かりいただけるように、天真に曲がりは無く、たいへん良い状態です。またひげぜんまいにも乱れはなく、等間隔を保って綺麗に巻いています。これらは機械式ムーヴメントにおいて最も重要なことです。

 良質の機械式腕時計、懐中時計には、摩耗してはいけない部分にルビーを使います。ルビーはたいへん硬い鉱物ですので、良質の時計の部品として使用されるのです。「ユンハンス キャリバー 680.70」には七石の機械もありますが、本品は十五石で、いっそう大きな耐久性を有します。上の写真ではルビーが四個しか見えませんが、あとの十一個は機械の裏側(文字盤側)など、上の写真に写っていない部分に使われています。十五個のルビーを使用した「十五石」(じゅうごせき)のムーヴメントは、摩耗してはならない個所のほとんどすべてにルビーを使用した良質の機械です。

 ユンハンスの頭文字である「ヨット」(J)を八芒星形の枠で囲んだマーク、及び「80」の数字が、二番受けに刻印されています。本機には「ヨット・アハツィッヒ」(J80)という別名があります。ユンハンス「ヨット・アハツィッヒ」は受けの形を途中で変更しながら、1931年から 1953年までの二十三年間に亙って製作された名機です。本品に搭載されている「キャリバー 680.70」は「ヨット・アハツィッヒ」の最初期の型で、ガンギ受けが独立していることが特長です。これに対して後期型の「ヨット・アハツィッヒ」、すなわち「キャリバー 680.71」「680.72」「680.75」においては、ガンギ受けを二番受けと一体化し、製作の労を省いています。最初期モデルである本品「キャリバー 680.70」は、「ヨット・アハツィッヒ」の製作が始まった最初の五年間に限り、労力を惜しまずに作られた最も良い機械です。





 上の写真は本品の文字盤を外し、ムーヴメントを地板側から撮影しています。九時のあたりに見えるのは天符の受け石と受け石座です。本機を受け側から見ると、受けの形状と配置は懐中時計ムーヴメントの名残をとどめていますが、地板側から見ると、巻き上げ及び時刻合わせ機構が現代と同じ設計思想に基づいて製作されていることがわかります。





 本品は後世の「ボーイズ・サイズ」に相当する小さめのサイズですが、軍用時計として作られたものと思われ、シンプルなデザインのケースにも、文字盤と針のデザインにも、ミリタリー・ウォッチの特徴が色濃く表れています。

 本品の文字盤はシルバーあるいはライト・グレーで、流麗な筆記体による「ユンハンス」(Junghans)のロゴが上部に記されています。本品の文字盤にはところどころに「焼け」(変色)があって、真正のアンティーク時計ならではの趣きを醸しています。

 文字盤の周囲十二か所にある「長針五分ごと、短針一時間ごと」の数字を、「インデックス」(英 index)といいます。本品のインデックスは幅広のゴシック体によるアラビア数字で、視認性に優れます。数字には夜光塗料が塗られていますが、現在では光らなくなっています。インデックスの外側、文字盤の縁に近い外周には白地に黒の目盛が描かれ、文字盤を引き締めています。

 現代の時計の秒針は「センター・セカンド」といって、短針、長針と同様に、時計の中央に取り付けられています。これに対して 1950年代までの時計の秒針は、ごく少数の例外を除き、「スモール・セカンド」といって、六時の位置に取り付けられています。時計の中央に秒針を取り付ける方式のムーヴメントを製作するのは技術的に困難で、「センター・セカンド」が普及するのは1960年代です。それ以前の時計はほとんどすべて「スモール・セカンド」方式で、 1931年製の本品も例外ではありません。





 本品の針は青い色をしていますが、これは「ブルー・スティール」といって、鋼の表面に酸化被膜を作ったものです。ブルー・スティールは貴金属ではありませんが、作るのに手間がかかるので、現代の時計に採用されることはまずありません。現代の時計の青い針は、大抵の場合青色の塗料を塗ってあります。本品の針は真正のブルー・スティールです。長針と短針が枠状になっているのは、隙間部分が夜光塗料で埋められていた名残です。長い年月の間に夜光塗料は剥落し、失われています。

 「ボーデン・エーデルシュタール」(独 Boden Edelstahl)の文字が裏蓋に刻印されています。ドイツ語で「ステンレス・スティール製裏蓋」という意味です。





  本品はもともと男性用として作られた時計ですが、現代の時計に比べてかなり小さく上品なサイズであるゆえに、女性にもお使いいただけます。バンドはお好きな色、質感、長さのバンドに換えることができます。時計会社はバンドまで作っていませんので、アンティーク時計のバンドをお好みのものに取り換えても、アンティーク品としての価値はまったく減りません。

 本品はバネ棒を使用しないワイアラグ方式です。ワイアラグはヨーロッパのアンティーク時計に多い方式で、わが国で普通に市販されている革バンドを取り付けることができません。ワイアラグ用の革バンドは当店で扱っております。時計お買上時のバンド交換は、当店の在庫品であれば無料で承ります。

 当店はアンティーク時計の修理に対応しております。アンティーク時計の修理等、当店が取り扱う時計につきましては、こちらをご覧ください。





 昔、時計工場で作られて出荷された際の本品は、小きずも変色も無い新品でした。それが本来あるべき状態であるならば、昔の時計が新品のまま残っているか、あるいはアンティーク風に作り直した複製品が理想ということになります。しかしながらアンティーク時計がまとう雰囲気を、時計会社が意図して作りだすことはできません。本品の持つ趣きは、八十数年間という長い年月によってようやく獲得された本物の「パティナ」(古色)であり、新品の時計には決して真似ができません。新品の時計にこれを再現するには、同じ長さの年月がかかります。私は時が紡いだアンティーク時計の趣きに魅了されます。この時計も本当は手放したくないのですが、私はアンティーク時計商であるゆえに、販売せざるを得ません。長い年月のみが与えうる美をお分かりいただける方に、ご購入いただければと思います。


 当店の時計は現金一括払い、ご来店時のクレジットカード払いのほか、現金の分割払い(三回払い、六回払い、十回払いなど。利息手数料なし)でもご購入いただけます。当店ではお客様のご希望に出来る限り柔軟に対応しております。ご遠慮なくご相談くださいませ。





本体価格 89,500円 販売終了 SOLD

電話 (078-855-2502) またはメール(procyon_cum_felibus@yahoo.co.jp)にてご注文くださいませ。




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