グリュエン 《プレシジョン》 アール・デコ様式による黒文字盤のドレスウォッチ

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 1940年頃にアメリカのグリュエン社が制作した腕時計。もともと男性用として作られた時計ですが、女性にもお使いいただけます。七十年以上前の古い品物にもかかわらず、保存状態は良好で、きちんと動作します。





 グリュエン・ウォッチ・カンパニー(Gruen Watch Company グリュエン時計会社)は、ドイツ生まれの時計師ディートリヒ・グリューン、あるいはディートリヒ・グリュエン (Dietrich Grün, 1847 - 1911) が、アメリカで設立した時計会社です。

 ディートリヒ・グリュエンは先にアメリカに渡っていた兄たちを頼り、二十歳であった1867年にアメリカに渡ります。勤勉で優秀な時計職人であったディートリヒ・グリュエンは、1874年にセイフティ・ピニオンの特許を取得し、二年後の 1876年には自ら社長となってオハイオ州コランバスに「コランバス時計製造会社」(The Columbus Watch Manufacturing Company) を設立しました。しかしながら 1893年、アメリカは経済恐慌に陥り、翌 1894年にコランバス社は倒産します。コランバス社は再編されてニュー・コランバス社となりますが、ディートリヒ・グリュエンは新会社には加わらず、同年「D. グリュエン・アンド・サン社」(D. Gruen and Son) を設立しました。グリュエンの新会社は当初コランバスにありましたが、1898年、シンシナチの「タイム・ヒル」に移りました。グリュエン社は 1958年までアメリカで存続し、その後 1977年まではスイス、ビールの工場が稼働していました。





 時計内部の機械を「ムーヴメント」(英 movement)、ムーヴメントを保護する金属製の容器(時計本体の外側)を「ケース」(英 case)といいます。本品はケースと文字盤が長方形の「レクタンギュラー型」です。

 腕時計は懐中時計から発達しましたので、初期の腕時計用ムーヴメントはすべて円形でした。また初期の腕時計はすべて女性用でした。しかし 1930年代になって男性用腕時計が十分に普及し、またケースが四角い時計が流行すると、四角い男性用腕時計に適したムーヴメントが開発され始めました。グリュエンのクアドロン (Quadron) は最初期の例です。





 本品のムーヴメント、グリュエン「キャリバー 355c」は、この数年前に開発された「クアドロン」と同様、、四角い時計に適したトノー(tonneau 樽)形で、電池ではなくぜんまいで動く「手巻ムーヴメント」です。電池で動く「クォーツ式」腕時計が普及したのは、1970年代以降のことです。本品が製作された 1930年代は、クォーツ式腕時計はまだ存在せず、腕時計はすべてぜんまいで動いていました。

 秒針があるクォーツ式腕時計を耳に当てると、秒針を動かすステップ・モーターの音が一秒ごとに「チッ」、「チッ」、「チッ」 … と聞こえます。デジタル式など秒針が無いクォーツ式腕時計を耳に当てると、何の音も聞こえません。これに対して機械式時計、すなわち本品のようにぜんまいで動く腕時計や懐中時計を耳に当てると、小人が鈴を振っているような小さく可愛らしい音が、「チクタクチクタクチクタク…」と連続して聞こえてきます。





 良質の機械式腕時計、懐中時計には、摩耗してはいけない部分にルビーを使います。ルビーはたいへん硬い鉱物ですので、良質の時計の部品として使用されるのです。本品のムーヴメント「グリュエン キャリバー 355c」は 17個のルビーを使用しています。上の写真ではルビーが四個しか見えませんが、あとの13個は機械の裏側(文字盤側)など、上の写真に写っていない部分に使われています。

 17個のルビーを使用した「17石」(じゅうななせき)のムーヴメントは、摩耗してはならない個所すべてにルビーを使用した「ハイ・ジュエル」(high jewel) と呼ばれる高級機です。「グリュエン キャリバー 355c」は天符だけでなく、ガンギ車用にも、ガンギ受けと地板の両方に受け石を使っています。





 上の写真はムーヴメントの受け側、すなわちムーヴメントをケース裏蓋から外すと見える側を撮影したもので、メーカー名「グリュエン・ウォッチ・カンパニー」(Gruen Watch Company)、モデルのシリーズ名「プレシジョン」(Precision)、石数を表す「十七石」(SEVENTEEN JEWELS)、ムーヴメントのシリアル番号 (718351) が刻まれています。天符受けに刻まれている "GXC" は「アメリカ合衆国時計輸入記号」(U. S. watch import code) で、グリュエン社がこのムーヴメントをアメリカに輸入したことを表します。

 グリュエン社は、アメリカでの操業を停止する直前に国内工場で制作した 21石ムーヴメント「トゥエンティ・ワン」を別にすれば、主にスイスからムーヴメントを輸入し、アメリカでケースに入れて歩度(時間の進み方)の最終調整をする、というやり方を創業以来続けました。本品「キャリバー 355c」もスイス、ビールのグリュエン社工場で作られたものです。キャリバー名を表す数字 "355" が、地板の裏、香箱に近いところに打刻されています。

 天符受には「コノルーマ」(Conoruma) と刻印されています。これはエリンバー(Elinvar 鉄、ニッケル、クロムの合金)と似たグリュエン社独自の合金で、温度変化への耐性に優れ、天符とひげぜんまいに使用されています。





 グリュエン社の四角い時計は、ケースの裏蓋が手首に沿うように緩やかなカーヴを描く「カーヴェクス」(Curvex) と呼ばれるデザインで有名です。本品の文字盤に「カーヴェクス」とは書かれていませんが、ケースのデザインはグリュエンらしく湾曲しています。





 ケースの湾曲に合わせて、文字盤(時刻の数字を表示する板状部品)もカーヴを描いています。「キャリバー 355」「キャリバー 355c」と同系の「キャリバー 311」はムーヴメント自体が湾曲したカーヴェクス・ムーヴメントですが、「キャリバー 355」「キャリバー 355c」の受けには湾曲がありません。しかしながら「キャリバー 355」の地板は受けと同様に平坦であるのに対し、本品「キャリバー 355c」の地板(文字盤を取り付ける部分)は、文字盤のカーヴに合わせて曲面を描いています。





 本品の文字盤は黒を背景に金色の文字で "GRUEN PRECISION"(グリュエン プレシジョン)、"SWITZERLAND"(スイス)と書かれ、高級感のあるコントラストを見せています。

 文字盤の周囲十二か所にある「長針五分ごと、短針一時間ごと」の数字を、「インデックス」(英 index)といいます。本品のインデックスは「ブレゲ数字」と呼ばれる優雅な斜体のアラビア数字です。ケースと同色の明るい金色ですが、艶消し処理をしてあり、光を柔らかく反射します。インデックスの外側には一分ごとの目盛が金色で描かれています。

 1960年代から現代に至るまで、インデックスや時計メーカーのロゴマークなど、一部が立体的になった文字盤は、平坦な文字盤に別作の部品を植字して作るのが普通です。ところが本品の文字盤のブレゲ数字は植字ではなく、文字盤に浮き彫りにされています。時計職人の手作りに近い高級品であった1940年頃の時計と、大量生産品として効率よく生産された後の時代の時計の違いは、このようなところにも表れています。

 本品の文字盤には経年による変色が認められます。拡大写真では変色が容易に判別できますが、肉眼で実物を見ても変色にはなかなか気づきません。黒い文字盤は白い文字盤に比べて変色が目立ちにくく、ガラス越しに見るといっそう綺麗に見えます。店頭にて実物をご確認ください。


 現代の時計の秒針は「センター・セカンド」といって、短針、長針と同様に、時計の中央に取り付けられています。これに対して 1950年代までの時計の秒針は、ごく少数の例外を除き、「スモール・セカンド」といって、六時の位置に取り付けられています。時計の中央に秒針を取り付ける方式のムーヴメントを制作するのは技術的に困難で、「センター・セカンド」が普及するのは1960年代です。1930年代の時計の秒針はすべて「スモール・セカンド」方式で、本品も例外ではありません。

 針は上品で高級感のある金色のリーフ型で、当時のオリジナルです。柳の葉のようにスマートな曲線を描くリーフ型の針は、ゆったりと時を刻むアンティーク時計にたいへん良く似合っています。





 本品のケースは10カラットのゴールド・フィルドです。「ゴールド・フィルド」とは板状の金をベース・メタルに張り付けたものです。現代の金めっき(エレクトロプレート)に比べると金の厚みは数十倍に達し、摩耗に強く、見た目にも高級感があります。グリュエンのゴールド・フィルドは金の層が厚いことで特に知られています。本品のケースに張られている金は 10カラット・ゴールド(純度 10/24のゴールド)で、十八金に比べて金そのものの強度が格段に強く、色の点でも淡く上品なシャンパン・ゴールドをしています。





 ケース裏蓋には元の所有者らしき名前と、「1942年」の年号が刻まれています。

 1941年12月8日、日本が真珠湾を攻撃して日米が開戦すると、合衆国政府はアメリカ国内でムーヴメントを製作するエルジン、ハミルトン、ウォルサムの各時計会社に命じ、全力を挙げて軍用時計のみを生産させました。したがってこの三社は、太平洋戦争のあいだ、民生用の時計を作ることができませんでした。ブローバ社はスイスで作ったムーヴメントを輸入してアメリカ製ケースに入れ、時計を完成させる方式を採用していましたので、戦争中も民生用の時計を作ることができました。

 グリュエンもスイスに自社工場を持っていましたので、ブローバと同様の方法で、民生用の時計作りを続けることができました。ケース裏蓋の内側に「(スイスから輸入したムーヴメントを)アメリカ合衆国にてケースに入れて時間調整をした」(CASED AND TIMED IN U.S.A.) と刻印してあるのは、この意味です。しかしながら太平洋戦争の間、シンシナチにあるグリュエンの本社工場では時計作りを休止して、軍用の精密機器や計器類を製作しました。そのため太平洋戦争期に作られ、アメリカに輸入されたグリュエンの時計は、それ以前に比べてはるかに少なくなっています。

 本品には「1942年」の年号が刻まれていますが、1942年は大平洋戦争の開戦から数か月しか経っていませんし、デザインの点でも本品は完全なドレス・ウォッチですから、本品が製作されたのは太平洋戦争中ではなく、1941年よりも前でしょう。





 上の商品写真に写っている金属製バンドはバネで伸縮するタイプで、表(おもて)は時計と同じ 10カラット・ロールド・ゴールド・プレート、裏はステンレス・スティールでできています。表(おもて)側には艶のある黒いプラスティックを嵌め込んでいます。このバンドを時計と合わせた全長は、バネがまったく伸びていない状態で測って、16センチメートル強です。

 写真の金属製バンドは黒い文字盤とよく合っていますが、グリュエン社が取り付けたわけではなく、前の所有者が自分に合うサイズ、好みのデザインのバンドを取り付けているだけのことです。時計会社はバンドまで作っていませんから、自分に合うサイズとデザインのバンドを取り付けるのが、アンティーク時計との正しい付き合い方です。このバンドも、もっと長いサイズの金属製バンド、あるいは革バンドに交換できます。下の写真は革バンドを取り付けた例です。







 当店では時計用の箱をご購入いただけます。箱はレプリカ(現代の複製品)ではなく、本物のヴィンテージ品(アンティーク品)です。グリュエン社の箱は別売りですが、時計をお買い上げいただいた方には割引価格でご提供いたします。







 本品は男性用として作られた時計ですが、20世紀中葉以前の時計は現在に比べて小さめのサイズであり、たいへん上品であるゆえに、女性にも十分にお使いいただけます。バンドはお好きな色、質感、長さのバンドに換えることができます。時計会社はバンドまで作っていませんので、アンティーク時計のバンドをお好みのものに取り換えても、アンティーク品としての価値はまったく減りません。時計お買上時のバンド交換は、当店の在庫品であれば無料で承ります。

 当店はアンティーク時計の修理に対応しております。アンティーク時計の修理等、当店が取り扱う時計につきましては、こちらをご覧ください。





 当店の時計は現金一括払い、ご来店時のクレジットカード払いのほか、現金の分割払い(三回払い、六回払い、十二回払いなど。利息手数料なし)でもご購入いただけます。当店ではお客様のご希望に出来る限り柔軟に対応しております。ご遠慮なくご相談くださいませ。





168,000円 販売終了 SOLD

電話 (078-855-2502) またはメール(procyon_cum_felibus@yahoo.co.jp)にてご注文くださいませ。




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