極稀少モデル ブローバ 《ライタングル》 アール・デコ様式の流線型ケース スイス製ムーヴメントをアップグレードした高級品 1938年



 1938年頃に制作されたブローバ《ライタングル》。ブローバ・ライタングルはもともと男性用として作られましたが、1930年代の時計は現代の時計に比べると小さく作られていますので、女性にも快適にお召しいただけます。バンドは茶や赤などお好きな色に交換可能です。八十年前のアンティーク品にもかかわらず、保存状態はきわめて良好で、きちんと動作します。





  時計内部の機械をムーヴメント(英 movement)といいます。現代の時計の機械はクォーツ式ムーヴメントといって、電池で動作します。他方、1970年代以前の時計は機械式ムーヴメントといって、ぜんまいで動いています。本品は 1938年の時計で、やはりぜんまいで動きます。電池は必要ありません。

 ムーヴメントを格納する金属製ぼ筐体(きようたい 容器)、すなわち時計本体の外側を、ケース(英 case)といいます。本品のケースは十二時側が厚く、六時側が薄く作られています。この形はアンティーク時計としても極めて珍しく、他に類例がありません。





 腕時計は手首の外側、手首の内側のどちらに装着しても構いません。腕時計を手首の外側に装着した場合、肘を直角に曲げて手首を胸の前に持ってくると、時計の文字盤が幾分外向きになります。時計の正面から時刻を読むには、手首を少し捩じるようにして、文字盤を手前に向ける必要があります。しかるにブローバ・ライタングルのケースを手首の外側に装着すると、手首を胸の前に持ってきた場合、十二時側が手前に立ち上がった形になり、時刻を楽に読み取れます。通常の時計であれば文字盤が外向きになるところを、ブローバ・ライタングルならば手首を捩じらずとも文字盤を正面から見て、時刻を読むことができるのです。ライタングル(Rite-Angle)という商標は「在るべき角度」(英 right angle)という意味で、このようなケースの形状に由来します。

 ブローバ・ライタングルが有する独特のケース形状は優れたアイデアです。しかしながら 1938年当時、高級な時計の価格は初任給のおよそ三か月分に相当し、新しい時計を買い替えたり買い足したりするのは容易ではありませんでした。それゆえブローバ・ライタングルの売れ行きは芳しくなく、一、二年の短期間に発売中止になってしまいました。このような理由により、ブローバ・ライタングルは非常に珍しいコレクターズ・ウォッチとなっています。





 ウォッチといえば、現代人は腕時計を思い浮かべます。しかしながらいまからおよそ百年前、ウォッチすなわち携帯用時計といえば主に懐中時計のことでした。

 男女に分けて述べると、お洒落な女性たちは二十世紀初頭頃に小さな女性用懐中時計を手首に装着しはじめ、これがペンダント時計・腕時計兼用のコンヴァーティブル・ウォッチに発展しました。コンヴァーティブル・ウォッチは懐中時計ケースにバンド装着用金具を付加しただけの時計で、懐中時計と同様、ケースは円形です。しかしながら時計メーカーはトノー型や長円形など細長い形のムーヴメントを開発し、1910年代に長方形ケースの腕時計専用機を発売しました。女性用ウォッチといえば円形のペンダント・ウォッチしかなかった時代に、目新しい長方形の時計を手首に装着するという目新しいファッションは、女性たちの間で爆発的な人気を呼びました。

 女性たちがいち早く腕時計を使い始めたのに対し、男性は二十世紀に入っても懐中時計を使い続けました。これは当時の男性の美意識が保守的だったせいもありますが、いま一つの理由は、ムーヴメントの精度の問題でした。二十世紀初頭、社会で働くのは男性の役割であり、女性は家庭を守るものと考えられていました。社会で働く男性には、正確な時計が必要でした。しかるに女性用時計の小さなムーヴメントは正確さに不安がありました。機械としての信頼性が高く、大きくて見易い懐中時計こそが、社会で働く男性にふさわしいと考えられたのです。





 このような理由により、男性の間で腕時計が本格的に普及し始めたのは、女性よりもかなり遅れた 1930年代のことでした。男性が腕時計を使い始めたとき、女性の場合と同様に、レクタンギュラー・ウォッチ(長方形ケースの時計)に人気が集中しました。しかるに男性は円形ケースの懐中時計を長く使い続けたために、時計メーカーはトノー型や長円形など、細長い形の男性用ムーヴメントを開発していませんでした。細長い形の男性用ムーヴメントが開発されるのは、1940年代以降のことです。1930年代の時計メーカーは、難しい課題に直面しました。円形ムーヴメントを使って、優れた精度の男性用レクタンギュラー・ウォッチを作らなければならなかったのです。

 女性用時計のムーヴメントは男性用腕時計のケースに充分納まるサイズですから、男性用腕時計の長方形ケースに女性用時計のムーヴメントを入れれば、この課題は簡単に解決できそうに思えます。しかしながら先ほども述べたように、当時の女性用ムーヴメントには精度の不安がありました。したがって男性用時計に女性用ムーヴメントを入れるわけにはゆきません。女性用ムーヴメントよりもひと回り大きな男性用ムーヴメントを採用しつつ、細長いデザインに仕上げる必要があります。しかし当時の男性用ムーヴメントはどれも円形で、幅が狭い長方形ケースには入りません。

 この難問を解決するために考え出されたのが、ステップト・ケース(英 stepped case 段付きケース)です。当時の時計メーカーは、レクタンギュラー・ウォッチに円形ムーヴメントを格納するために、ケース側面を目立たないように張り出させ、内部の空間を広げました。ケース側面が横に張り出した部分は、幾つかの段を為しつつ後退しており、目立ちません。ステップト・ケースの開発によって、時計全体の長方形デザインを損なわず、円形ムーヴメントを使って四角い時計を作ることが可能になりました。

 1940年代以降には細長い男性用ムーヴメントが開発され、ステップト・ケースは歴史的役割を終えます。ステップト・ケースは、1930年代の男性用腕時計のみに見られる特徴です。





 本品は長方形の文字盤を有するレクタンギュラー・ウォッチです。しかしながら本品のムーヴメントは円形です。それゆえ本品は、1930年代の男性用腕時計ならではのステップト・ケースを採用しています。ケースのデザインは全くのアール・デコ様式で、側面に重なるステップ(段)は、当時流行した流線型を描きます。





 ケースの素材は、板状の金をベース・メタルに張り付けたロールド・ゴールド・プレートです。現代の金めっき(エレクトロプレート)に比べると、ロールド・ゴールド・プレートは金の厚みが数十倍に達し、摩耗に強く、見た目にも高級感があります。本品のケースに張られている金はおそらく十カラット・ゴールド(純度 10/24のゴールド)で、十八金に比べて金そのものの強度が格段に強く、色の点でも淡く上品なシャンパン・ゴールドをしています。実際、本品ケースに張られた金に特筆すべき摩滅は見られず、1930年代当時の美しい状態を保っています。時計ケースが最も傷みやすいのは肌に触れる裏蓋ですが、本品の裏蓋は良好な状態です。また本品は手首の丸みに添うようにケースの裏面が曲面を描き、快適な着用感を得られます。





 文字盤は白あるいはライト・シルバーで、均一の古色がアンティーク時計ならではの趣(おもむき)を醸します。本品の文字盤は 1930年代当時のオリジナルです。真正のアンティーク時計の文字盤が持つ雰囲気は、レプリカには決して真似ができません。

 文字盤の周囲十二か所にある長針五分ごと、短針一時間ごとの数字を、インデックス(英 index)といいます。本品のインデックスは打刻によると思われる浮き彫り状の立体インデックスで、金色のアラビア数字が毎正時を示し、光を美しく反射します。インデックスのデザインには時代ごとにはっきりとした流行があります。毎正時がアラビア数字で表示されるのは、1930年代と 1940年代の腕時計の特徴です。文字盤中央と十二時の中間に、インデックスと同じく金色の立体文字で、「ブローバ」(BULOVA)のロゴが打ち出されています。

 現代の時計は中三針(なかさんしん)式またはセンター・セカンド式といって、秒針が短針・長針と同様に、時計の中央に取り付けられています。これに対して 1950年代までの時計はごく少数の例外を除き、小秒針式またはスモール・セカンド式といって、六時の位置に秒針が取り付けられています。本品も六時の位置に一段低くなった小文字盤があって、長さ三ミリメートルの可愛らしい秒針が回っています。

 長針と短針は金色で、アンティーク時計にふさわしいモダン型です。いかにもヴィンテージ時計らしいクラシカルな針は、文字盤全体の上品なデザインに良く似合っています。





 本品は円形の手巻きムーヴメント、「ブローバ キャリバー 8AZ」を搭載しています。「ブローバ キャリバー 8AZ」はスイス、ヌーシャテルのフォンテンメロン社による「フォンテンメロン キャリバー 125」を改変した機械です。ヨーロッパ市場向けの時計に搭載された「フォンテンメロン キャリバー 125」は、二番車に穴石(ドーナツ状のルビー)を使用せず、十五石であるのが普通です。しかしながらブローバ社は二番車にも穴石を追加して、十七石の「ブローバ キャリバー 8AZ」へとアップグレードしています。

 回転速度が遅い二番カナ及び二番車の軸は、回転の回数も少ないので、ヨーロッパ市場向けの大部分の時計では、軸受けの穴石が省略されています。しかしながら二番カナは主ぜんまいが入った香箱車と噛み合っており、二番カナ・二番車の軸は常に大きな力を受けつつ、地板と受けの孔の周に押し付けられています。それゆえ軸受けの穴石を省略すると、長い年月の間に孔の周が摩滅して広がったり、偏円形になったりする可能性があります。このような不具合は定期的な注油をきちんと行っていれば予防可能ですが、実際に使われていたアンティーク時計では、恐らく現役時代の整備不良によって生じる不具合が、少なからず見受けられます。

 経年によって主ぜんまいの力が弱まると、二番カナ・二番車の軸受け孔が多少広がっていても、ムーヴメントは遊び(ぐらつき)をうまく吸収しつつ動作します。しかしながら十五石のアンティーク時計の主ぜんまいが切れると、しばしば厄介な問題が起こります。二番カナ・二番車の軸受け孔が広がっている場合、新品の主ぜんまいに入れ替えると、ぜんまいの力が強すぎて、広がった孔の周に軸が押し付けられてしまい、二番車が傾いたり、三番カナとうまく噛み合わなくなったりして、時計が止まってしまうのです。「新しい葡萄酒は新しい革袋に。古い葡萄酒は古い革袋に」(マタイ 9:17)という主イエスの御言葉通り、二番カナ・二番車の軸受け孔が広がったアンティーク時計ムーヴメントには、力が強い新品の主ぜんまいを入れることができません。

 しかるに本品は十七石のハイ・ジュエル・ムーヴメントで、二番カナ・二番車の軸受けにも穴石を使っています。当時のブローバ社がフォンテンメロン社のエボーシュをそのまま使わずに、二個のルビーを追加し、万全を期してくれたおかげで、八十年後の我々はこの時計をいっそう安心して使うことができます。





 ムーヴメントには「ブローバ時計会社」(BULOVA WATCH COMPANY)、「スイス製」(SWISS)、「十七石」(SEVENTEEN JEWELS)等の刻印があります。宝石のルビーはたいへん硬い鉱物ですので、時計部品として使用されます。十七石というのは十七個のルビーを部品として使用しているという意味です。十七石の機械はハイ・ジュエル・ムーヴメントと呼ばれ、摩滅の可能性がある十七か所すべてにルビーを使った高級品です。弦月のマークは 1938年を示すブローバのデイト・コードです。





 上の写真の手前右に、大きな環が振動(往復するように回転すること)しています。この環は振り子と同じ役割をする部品で、天符(てんぷ)といいます。機械式腕時計は天符で時間を計っているので、ここに歪み等の不具合があると致命的な故障となります。このページに掲載したムーヴメントの写真は、いずれも天符が高速で振動しています。しかしながらどの写真においても、環の輪郭はまったくぶれていません。これは本品の天符に歪み等の問題が無いことを示します。

 静止した写真では分かりませんが、本品の天符は大きな角度で振動しています。これはひげぜんまいという部品が良い状態であることを示します。ひげぜんまいに問題があると時計はまともに動かず、致命的な故障となります。本品のひげぜんまいはブレゲひげ(スピラル・ブレゲ、巻き上げひげ)という高級な種類で、如何なる問題も無い良好な状態です。





 ブローバ・ライタングルはもともと男性用時計として作られましたが、現代の時計に比べて小さめのサイズであり、たいへん上品なデザインであるゆえに、女性にもお使いいただけます。上の写真は女性モデルが本品を着用しています。

 バンドはお好きな色、素材のバンドに換えることができます。時計会社はバンドまで作っていませんので、アンティーク時計のバンドをお好みのものに取り換えても、アンティーク品としての価値はまったく減りません。時計お買上時のバンド交換は、当店の在庫品であれば無料で承ります。

 当店はアンティーク時計の修理に対応しております。アンティーク時計の修理等、当店が取り扱う時計につきましては、こちらをご覧ください。





 ブローバ・ライタングルが非常に珍しいのは、すぐに製造が中止されて、市場に出回らなかったからです。この時計はごく少数しか作られず、アンティーク・ウォッチのコレクターでも実際に目にした人がほとんどいない稀少品となっています。

 ブローバ社は毎年幾つもの新モデルを発売しましたから、製造期間が短いのはライタングルだけではありません。しかしながら他の全てのモデルにおいて、ケースは十二時側と六時側の厚みが等しい通常の形です。ライタングルは十二時側と六時側の厚みが異なる唯一のモデルです。ライタングルのようなケース形状は、アメリカ、ヨーロッパ、日本を問わず、他のメーカーの時計にも見られません。

















 当店には 1930年代のブローバの箱が商品として在庫しています。箱の価格は 20,000円ですが、時計をお買い上げいただいた方には割引価格にてお譲りいたします。

 当店の時計は現金一括払い、ご来店時のクレジットカード払いのほか、現金の分割払い(三回払い、六回払い、十二回払いなど。利息手数料なし)でもご購入いただけます。当店ではお客様のご希望に出来る限り柔軟に対応しております。ご遠慮なくご相談くださいませ。





210,000円

電話 (078-855-2502) またはメール(procyon_cum_felibus@yahoo.co.jp)にてご注文くださいませ。




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