最小クラスの手巻き時計 十八金製アンティーク・オメガ カットがきらめくサファイア風防 オリジナルの共箱付き 1961年



 いまからちょうど六十年前の 1961年頃に、スイスのオメガ社が製作した女性用時計。1960年代には小さな時計が流行しましたが、当時の女性用時計の中でも本品はとりわけ小さく、オメガ社の優れた技術力が目に見える形で現れています。





 時計内部の機械をムーヴメント(英 movement)といいます。時計のムーヴメントには、電池で動くクォーツ式と、ぜんまいで動く機械式があります。現代の時計はほぼすべてクォーツ式ですが、これは 1970年代から使われ始めたものです。本品が製作された 1961年にはクォーツ式ムーヴメントはまだ存在しておらず、本品はぜんまいで動く機械式です。

 秒針があるクォーツ式時計を耳に当てると、秒針を動かすステップ・モーターの音が一秒ごとにチッ、チッ、チッ… と聞こえます。デジタル式など秒針が無いクォーツ式時計を耳に当てると、何の音も聞こえません。本品のような機械式時計を耳に当てると、小人が鈴を振っているような小さく可愛らしい音が、チクタクチクタクチクタク…と連続して聞こえてきます。

 ムーヴメントを保護する金属製の容器、すなわち時計本体の外側を、ケース(英 case)といいます。本品のケースは十八カラット・ホワイト・ゴールド(十八金)でできています。金はアレルギーを起こしにくく、時計のケース素材として優れています。





 時刻を表す刻み目や数字が配置された板状の部品を文字盤(もじばん)または文地板(もじいた)、文字盤の周囲十二か所にある長針五分ごと、短針一時間ごとの目印をインデックス(英 index)といいます。本品のインデックスは 1960年代の時計に流行したバー・インデックス(棒状のインデックス)で、銀色の小部品を文字盤に植字しています。十二時の位置にはギリシア文字によるオメガ社のマークが植字され、その下に黒文字でオメガ社のロゴ(OMEGA)が書かれています。

 本品の文字盤は時計が製作された当時のオリジナルです。色は元々の明るいシルバーが経年によりクリームがかった色に変化していますが、六十年前の時計としては十分に綺麗な状態です。放射状のヘアライン(微細な線)による半艶(つや)消し仕上げが、柔らかな光を上品に反射し、文字盤に活き活きとした表情を与えています。

 針はすっきりと上品な剣型です。ケース及びインデックスと同じく銀色ですが、ある程度の幅があるため、良好な視認性を確保しています。なおこの時代の女性用時計に秒針はありません。





 本品の風防はサファイアガラスでできています。サファイアガラスは、普通のガラス(ミネラル・ガラス SiO2)ではなく、サファイア (Al2O3) です。このサファイアは人工的に生成したものですが、天然サファイアと同じ化学構造と物理的特性を有します。ミネラル・ガラスのモース硬度は 7 ですので、ミネラル・ガラスでできた時計の風防は瑕(きず)が付きやすく、またいったん瑕が付くと風防全体を交換するしかありません。これに対してサファイアガラス(人工サファイア)はモース硬度 9 と非常に硬く、めったなことで瑕が付きません。本品の風防もベリルで力を入れてこすりましたが、まったく瑕がつきませんでした。

 本品の風防は宝石のようなファセット・カットを周囲に施したカット風防で、時計が傾くたびにキラキラと美しく光を反射します。時計の風防にファセット・カットを施すのも、1960年代の流行です。





 1961年の女性用腕時計と現代の女性用腕時計を比べると、動く仕組みが異なるだけでなく、サイズの点でも大きく異なります。1930年代から 1970年代までは小さな時計が流行していました。女性用腕時計の直径は英語でミッド・センチュリー(英 mid century 世紀の中頃)と呼ばれる二十世紀半ば、とりわけ 1960年代から 1970年代に最も小さくなります。本品もそのような女性用時計のひとつで、ケースの直径が 15.8ミリメートルしかありません。上の写真は直径20ミリメートルの一円硬貨の上に、本品を置いて撮影しました。このように華奢で可愛らしい時計は、現代では作られなくなってしまいました。

 大きな機械を作るよりも小さな機械を作る方が難しいですから、1960年代の女性用時計は当時の男性用時計を凌(しの)ぐばかりか、現代の時計をも凌ぐ高度な技術で製作されていることがおわかりいただけます。





 上述したように、時計のムーヴメント(内部の機械)にはクォーツ式と機械式があり、本品はぜんまいで動く機械式ムーヴメントを搭載しています。機械式ムーヴメントには手巻きと自動巻がありますが、本品は手巻きで、一日一回ぜんまいを手動で巻き上げる必要があります。

 時計の三時部分に突出するツマミを、竜頭(りゅうず)といいます。上の写真で手前に写っているのが竜頭で、オメガのマークが付いています。竜頭を指先でつまんで回転させれば、誰でも簡単にぜんまいを巻くことができます。竜頭を一段階引き出して回転させると、時刻合わせができます。これは現代の腕時計と同じです。竜頭の操作は簡単ですので、アンティーク時計が初めての方でも全く心配はいりません。





 上の写真はケースを開けて、ムーヴメントを裏蓋から外したところです。向かって右側に写っているのは裏蓋の内側で、様々な文字や記号が見られます。いちばん上には三角形の内部にオメガのマークとオメガ時計会社(英 OMEGA WATCH COMPANY オメガ・ウォッチ・カンパニー)の文字が刻印されています。その下に見えるのはファブリケ・アン・シュイス(仏 FABRIQUÉE EN SUISSE スイス製)、スウィス・メイド(英 SWISS MADE スイス製)の表示、その下で枠に囲まれているのが十八カラット・ゴールド(十八金 純度 18/24 すなわち 75パーセントの金)の表示です。その右にあるのは、スイスを女性に擬人化したヘルヴェティア(Helvetia)の横顔です。ヘルヴェティアの横顔は、十八カラット・ゴールド製またはプラチナ製のケースに刻印されます。左に見える鍵は本品のケースがジュネーヴで製作されたことを示します。鍵の内部に打刻されたアラビア数字 "2" は、F. バウムガルトナー社(F. Baumgartner SA)の番号です。最下部の数字はケースのシリアル番号です。





 ヘルヴェティアの横顔は、ケース側面にも打刻されています。この写真では少しわかりづらいですが、ヘルヴェティアの横顔の下に見えるのは大文字の "G" で、本品ケースがジュネーヴ検質所で検査されたことを示します。





 上の写真は本品のムーヴメントを一円硬貨に載せて撮影しています。本品のムーヴメント《オメガ キャリバー 580》の直径は、13.5ミリメートルしかありません。当時のオメガ社の技術力にはただただ驚き入るばかりです。

 ムーヴメントの表面にはオメガのマークとキャリバー名(Ω 580)、オメガ・ウォッチ・カンパニー(英 OMEGA WATCH COMPANY)、スイス製(英 SWISS)、十七石(英 SEVENTEEN 17 JEWELS)の文字と、シリアル番号(18654797)が刻まれています。キャリバー(英 calibre/caliber)とはムーヴメントの型式のことです。オメガ キャリバー 580は、十七石の手巻きムーヴメントです。





 上の写真の右寄りに、天符(てんぷ)と呼ばれる大きな環状の部品があります。天符はぜんまいで動く時計(機械式時計)に特有の部品です。電池で動く時計(クォーツ式時計)に天符はありません。

 機械式クロックにおいて、最も大切な部品は振り子です。機械式時計は振り子によって時を測っています。しかるに懐中時計や腕時計には振り子を取り付けることができません。時計が傾くと振り子が止まるからです。天符はいわば傾けても止まらない振り子で、クロックの振り子と同様の振動を行います。振動とは一方向に回り続けるのではなく、往復するように回転することです。

 オメガ キャリバー 580は毎時 21600振動(f = 21600 A/h)で、これは天符が一秒あたり 6回、一時間あたり 21600回の振動を繰り返すことを意味しています。毎時 21600振動は一般的な女性用時計よりも高振動であり、極小サイズにもかかわらず優れた計時性能が確保されています。





 本品のように良質の機械式時計は、高速で作動しても摩耗しないようにルビーを部品として使用しています。ルビーはサファイアと同じくコランダム (Al2O3) という鉱物で、モース硬度 9 と非常に硬いので、高級時計の部品として使用されます。

 必要な部分すべてにルビーを入れると、十七石(じゅうななせき)のムーヴメントになります。十七石のムーヴメントはハイ・ジュエル・ムーヴメント(英 high jewel movement)と呼ばれ、高精度、長寿命の高級機です。本品はハイ・ジュエル・ムーヴメントで、写真に赤く写っているのがルビーです。ルビーは五つしか見えませんが、あと十二個のルビーは写真に写っていないところに使われています。

 天符の孔石と受け石(天符の中心に見えるルビー)は金色の小さな分銅形部品で留められています。これはインカブロックという板バネで、衝撃吸収装置として働きます。







 本品はオリジナルの箱に入っています。箱はハートのような愛らしい形です。

 アンティーク時計のバンドは元々取り付けられていた「オリジナル」でなくても構いません。革製のものは言うまでも無く、バンドはすべて消耗品ですし、昔のバンドが使える状態で残っていたとしても、それは前の所有者が自分に合うサイズ、好みのデザインのバンドを取り付けているだけのことです。時計会社はバンドまで作っていませんから、自分に合うサイズとデザインのバンドを取り付けるのが、アンティーク時計との正しい付き合い方です。

 バンドを取り付けるための突起をラグ(英 lugs)といいます。女性用アンティーク時計は十二時側と六時側に一本ずつのラグが突出したセンター・ラグ方式が普通です。しかしながら本品は現代の時計と同じく、十二時側と六時側に二本ずつのラグが突出し、ばね棒を使ってバンドを取り付けるようになっています。現代の時計と同じ方式を取り入れた本品は、同時代に多く見られたセンター・ラグ方式に比べてバンドに関する自由度が高く、さまざまな色や質感の革バンドを取り付けることができます。本品に適合するバンドの幅は 6ミリメートルです。幅 6ミリメートルのバンドは市販品にあまり見かけませんが、当店には在庫しています。メーカーに注文して作ってもらうこともできますので、バンド交換に関して心配は無用です。





 当店は数少ないアンティーク時計の修理対応店です。アンティーク時計はどこの店でも原則的に「現状売り」で、壊れても修理が困難ですが、筆者(広川)にはアンティーク時計に関する十分な専門知識があり、部品も豊富に揃っているため、他店で不可能な修理に対応できます。お買い上げ後も期限を切らずに修理に対応しますので、日々気軽にご愛用いただけます。デリケートなイメージのアンティーク時計ですが、日常使用は十分に可能です。時計は順調に動作しています。どうぞ安心してお買い上げくださいませ。





 本品は1961年当時に日本に輸入された時計です。本品の新品時の価格は、初任給の六か月分を超えていました。当時は 1ドル=360円の固定レートで、輸入品が高価であったためでもありますが、当時のヴィンテージ・ウォッチ(アンティーク・ウォッチ)が現在順調に動いていることからもお分かりいただけるように、当時の機械式時計は非常に質が良く、じゅうぶんに「一生もの」と呼べる品物です。特に本品はケースも風防も綺麗な状態であり、外側を見ただけでは分からないムーヴメントの状態(輪列の状態、日の裏輪列の状態、時刻合わせ機構の状態、天真やひげぜんまいの状態、調速脱進機の動作)も非常に良好で、これからも長くご愛用いただけます。





 お支払方法は現金一括払い、ご来店時のクレジットカード払いのほか、現金の分割払い(三回払い、六回払い、十二回払いなど。利息手数料なし)でもご購入いただけます。当店ではお客様のご希望に出来る限り柔軟に対応しております。ご遠慮なくご相談くださいませ。





242,000円 税込

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