ドーム型風防の小さな時計 《オルロフ》 十四カラット・ホワイト・ゴールド製ケース ダイアモンド四石付 1945 - 1950年頃



 「ミッド・センチュリー」(英 mid-century 「世紀の半ば」の意)と呼ばれる二十世紀中ごろは、建築や家具の歴史において、未来を志向したモダンなデザインで知られる時代です。ミッド・センチュリーは時計の歴史においても特徴的な時代で、この時代の時計は現代の時計に比べて格段に小さく作られています。女性用時計はとりわけ華奢(きゃしゃ)で、ほとんどのモデルは現行の一円硬貨よりも小さなサイズです。本品もその例外ではありません。





 時計において、時刻を表す刻み目や数字が配置された板状の部品を、文字盤(もじばん)または文字板(もじいた)といいます。本品の文字盤は白色で、「オルロフ」(Orloff)、「セヴンティーン・ジュエルズ」(17 JEWELS 十七石 意味は後述)、「スイス」(SWISS スイス製)の文字が記されています。

 本品の文字盤は経年によって淡く色づき、レプリカには無いアンティーク時計ならではの雰囲気を獲得しています。変色の程度はごく軽く、充分に良い状態ですので、文字盤再生(リファービッシュ、リダン)の必要はまったくありません。





 文字盤の周囲十二か所にある「長針五分ごと、短針一時間ごと」のマーカー(目印)を、「インデックス」(英 index)といいます。本品のインデックスは金色の小さなアラビア数字を文字盤上に植字しています。本品のようにアラビア数字のみを使用したインデックスは、1950年頃までに作られた時計の特徴です。

 インデックスのアラビア数字は縦横一ミリメートル強で、たいへん小さいですが、光を反射して金色にきらめき、よく目立ちます。視認性に関する問題はまったくありません。





 針はインデックスと同じ金色です。針はシンプルな「バトン型」で、飽きがきません。

 本品のクリスタル(風防)は、当時デュポン社によって発明されたばかりのプレクシグラス(ルーサイト、アクリル樹脂)で、中央がドーム状に盛り上がったクッション型です。ドーム状のクリスタルはキャンディーのように小さな時計にいっそうの丸みを与え、たいへん愛らしい表情を生み出しています。





 時計内部の機械を、ムーヴメント(英 movement)と呼びます。ムーヴメントを入れる金属製容器、すなわち時計本体の外側部分を、ケース(英 case)と呼びます。本品のケースは十四カラットのホワイト・ゴールドでできています。

 金は金色の金属元素です。銀は可視光の全域にわたってほぼ偏り無く光を反射しますから白く輝きますが、これに対して金の反射光は長波長側に偏っており、そのせいで黄色っぽい輝きになります。ところで金は非常に軟らかい金属で、純金は実用的用途に使うことができません。たとえば純金で時計ケースを作ってもすぐに歪みが出て、風防も裏蓋もバンドも外れてしまい、ムーヴメントがケースの外に転がり出てしまいます。それゆえ金で実用品を作る場合は、他の金属を混ぜて合金とし、必要な強度を確保します。





 金合金の色は、混ぜる金属によって異なります。金に銅と銀を混ぜると、最もよく見かけるイエロー・ゴールドになります。金にニッケルを混ぜると、ホワイト・ゴールドになります。本品のケースは銀色ですが、素材は銀ではなくて、ホワイト・ゴールドです。

 金の純度は「カラット」(karat)で表します。純度百パーセントの金は二十四カラットですが、これは軟らか過ぎて実用品を作れません。本品のケースは十四カラット、すなわち「二十四分の十四」の純度のホワイト・ゴールドで製作されています。十四カラット・ゴールドは「十四金」ともいいます。上の写真は本品の裏蓋側です。十二時側の端近くに "14K" と刻印されているのは、「十四カラット」という意味です。

 わが国でよく目にする十八金は、二十四金(純金)ほどではないですが、それでもかなり軟らかく、時計ケースに使うと簡単に曲がってしまいます。そのため十八金ケースの時計は取り扱いに多少の注意が必要です。また十八金は摩耗しやすいので、毎日使う時計よりも、ときどき使う時計に適しています。これに対して十四金の時計ケースは、十八金と同様の金無垢ケースでありながらも格段に丈夫です。本品はラグにダイアモンドを嵌め込んだ宝飾時計ですが、パーティー専用のように派手なデザインではありません。それゆえ普段遣いが十分に可能ですが、本品のケースは丈夫で、耐摩耗性に優れており、時計を日々愛用するうえで心強い味方となってくれます。





 上の写真はケースから裏蓋を外し、ムーヴメント(時計内部の機械)を取り出したところです。裏蓋の内側には、中央部分に「十四カラット・ゴールド」(14KT GOLD)の刻印があります。


 現代の時計は「クォーツ式時計」といって、電池で動くクォーツ・ムーヴメントを使っています。クォーツ式時計が普及したのは 1970年代後半以降で、それ以前の時計は電池ではなくぜんまいで動いていました。電池で動く時計を「クォーツ式時計」と呼ぶのに対して、ぜんまいで動く時計を「機械式時計」といいます。アンティーク時計はすべて機械式時計です。本品も機械式時計で、電池ではなくぜんまいで動きます。電池は不要なので、本品のムーヴメントには電池を入れる場所がありません。

 三時の横に突出したツマミを竜頭(りゅうず)といいます。ぜんまいはこの竜頭を指先でつまみ、回転させて巻き上げます。ぜんまいを十分に巻き上げると二日近く動作しますが、そのまま放っておくと止まるので、一日一回ぜんまいを巻き上げてください。ただし使わないときは、ぜんまいを巻く必要はありません。止まった状態で保管していても大丈夫です。





 上の写真は本品のムーヴメントを取り出し、一円硬貨の上に載せて撮影しています。

 良質の機械式時計には、摩耗してはいけない部分にルビーを使います。ルビーはたいへん硬い鉱物ですので、良質の時計の部品として使用されるのです。必要な部分すべてにルビーを入れると、「十七石」(じゅうななせき)のムーヴメントになります。十七石のムーヴメントは「ハイ・ジュエル・ムーヴメント」(英 high jewel movement)と呼ばれる高級品です。本品は十七石のハイ・ジュエル・ムーヴメントで、十七個のルビーが使用されています。上の写真で赤く写っているのがルビーで、五個しか入っていないように見えますが、この写真に写っていない文字盤下の地板やムーヴメントの内部に入っていたり、箇所によって二重に入っていたりして、全部で十七個が使われています。





 本品が搭載するのは、スイスのフォンテンメロン社(Fabrique d'Horlogerie de Fontainemelon, FHF)が製作した手巻ムーヴメント、「フォンテンメロン キャリバー 60」(FHF 60)です。「フォンテンメロン キャリバー 60」は信頼性の高い高級機で、同サイズの数機種の原型となりました。日本の精工舎(セイコー)も、本機を手本にしたムーヴメントを製作しています。

 上の写真でムーヴメントの右端に大きな環が見えています。これは天符(てんぷ)という部品で、機械式時計の心臓に相当する調速脱進機の一部です。「フォンテンメロン キャリバー 60」の天符は「振動数一万八千」(f = 18000 A/h)といって、一秒間に二・五回、一時間に九千回の割合で、振り子のように往復する回転運動を繰り返します。

 天符には小さな物がたくさん突き刺さっているように見えます。このひとつひとつが、「チラネジ」と呼ばれる極小のマイナスネジです。チラネジは小さめのティースプーンに一万五千個から二万個ほども入ってしまう小さな部品です。コンピューター制御の工作機械を使えば、このような部品を自動的に作ることが可能です。しかしながら本品はおよそ七十年前の時計で、当時はコンピューターなどありませんでしたから、チラネジをはじめとするすべての部品は、熟練した時計工が機械や道具を自ら操作して製作していました。ひとつひとつの女性用アンティーク時計は、このような部品がおよそ百個ほど集まって組み立てられています。


(下) 本品と同時代の時計部品のカタログ 当店の商品




 ミッド・センチュリー当時、本品のようなダイアモンド付き金無垢時計の価格は、少なくとも初任給の六か月分に相当したはずです。現代の貨幣価値でいえば、百万円近い値段であったことがわかります。クォーツ式(電池式)の安価な時計が容易に手に入る現在から見ると、昔の時計は想像もつかないほど高価な品物であったわけですが、製造後数十年経った時計でも普通に使えるという「一生もの」のクオリティを備えていたのであって、いわゆる「ブランド代」ゆえに品質に比べて価格が高すぎる商品とは事情が異なります。初任給数か月分の価格が付いた商品には、初任給数か月分の実質的な値打ちがあったのです。

 ちなみに機械式時計は現在でも作られています。高級品を紹介する雑誌などで見かける数十万円から数百万円の時計が、機械式時計です。クォーツ時計は数年の寿命で、かなり良いものでも十年余りで回路が壊れて修理不能になりますが、機械式時計は数十年以上のあいだ動く「一生もの」です。良質の機械式時計の「初任給数か月分」という値段は、昔も今も変わりません。

 時計を長く使い続けるためには、品物がもともと持っている良質さとともに、修理への対応が必要となります。アンティークアナスタシアはアンティーク時計の修理に対応しており、本品に搭載されている「フォンテンメロン キャリバー 60」(FHF 60)の部品も豊富に揃えていますので、時計を安心してご愛用いただけます。





 バンドを取り付けるための突起を「ラグ」(英 lugs)といいます。現代の女性用時計は昔の男性用時計に相当するサイズで、十二時側と六時側に二本ずつのラグが突出し、「ばね棒」と呼ばれる部品を使って、革や金属でできた幅広のバンドを取り付けるようになっています。しかしながら 1930年代から1970年代頃までの女性用時計は一円硬貨よりも小さなサイズですので、ラグは十二時側と六時側に一本ずつ突出する「センター・ラグ」方式であるのが普通です。本品もセンター・ラグ方式で、十二時側と六時側に一本ずつ突出したラグに、コード・バンドと呼ばれる紐製バンドを通すか、金属製バンド末端のリングを引っ掛けて取り付ける仕組みになっています。

 本品は十二時側ラグと六時側ラグのそれぞれに、縁にミル打ちを施した盾形の台座があって、ダイアモンドがふたつずつ嵌っています。日本製の女性用アンティーク時計に嵌められている無色のダイアモンド様(よう)透明石はほとんどがガラスですが、本品に嵌められている四石がすべてダイアモンドであることは、熱伝導率による検査機器で確認しています。ダイアモンドはメレですが、クラウンに瑕(きず)はなく、きちんとカットされています。カットは現代のラウンド・ブリリアント・カットではなく、ヴィンテージ・ジュエリー(アンティーク・ジュエリー)に多いシングル・カットです。


 昔も今も、時計会社は時計のみを作り、バンドは作っていません。新品の時計を買ったときに付いているバンドは、バンドのメーカーが時計会社に納入したものです。それゆえアンティーク時計のバンドに関しても、そのバンドがもともと付いていた「オリジナル」かどうかということは、全く気にする必要がありません。革やファブリックのバンドは消耗品ですから、いずれにせよ新品に交換する必要があります。金属製バンドは長持ちしますが、この場合も時計とバンドの組み合わせに必然性はありません。「オリジナル」のバンドがアンティーク時計に付いている場合でも、元の所有者が自分の好みやサイズに合わせてバンドを付け、それが残っているだけのことです。したがって自分の好みのデザイン、材質、サイズのバンドを選んで取り付けるのが、アンティーク時計との正しい付き合い方です。

 写真に写っているバンドは当時のレディース・ウォッチ用コード(紐)を使用した新品で、当店にて取り付けたものです。黒い紐のコード・バンドは高級感があって、時計を引き立たせてくれますし、普段使いにもドレスアップした装いにも似合います。本品に金属製バンドを取り付けることも可能です。





 アンティーク時計を安心してご購入いただくために、全般的な解説ページをご用意いたしました。アンティーク時計を初めて購入される方は、こちらをお読みくださいませ。





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女性用腕時計 金またはプラチナ製ケース 宝石で装飾したもの メーカー名 《OからZ》 商品種別表示インデックスに戻る

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