グリュエン・プレシジョン 《ロイヤル・コサージュ》 五弁の花のアンティーク時計 ホワイト・ゴールドにダイアモンド付 1954年



ムーヴメントの種類: Gruen cal. 275


14Kホワイト・ゴールドの金無垢ケース

白色文字盤に金色の立体インデックス、銀色のドーフィヌ型針


1954年



 文字盤の上下に愛らしい花を咲かせたアンティーク時計。アメリカのグリュエン社がスイスで作った 1954年の時計で、「ロイヤル・コサージュ」("Royal Corsage")、つまり贅沢で小さな花束、というモデル名が付けられています。

 第二次世界大戦のあいだ軍用時計の生産に集中したアメリカの時計各社が、戦後になって民生用時計を自由に作れるようになると、あたかも堰(せき)を切ったように、数々の美しい時計が誕生しました。本品もそのような時計のひとつです。





 本品は電池ではなくぜんまいで動く「手巻き式」で、一円硬貨よりも小さなサイズです。グリュエン社の女性用時計にはユニークなデザインのものが多く、本品もユニークな六角形の文字盤を有します。四輪の花の中心に輝くのは、小さいながらも本物のダイアモンドです。

 高級ファッションブランドの製品など、ユニークなデザインの時計は、その年の服に合わせるアクセサリーとして位置づけられています。それゆえにデザインは美しくても耐久性が無く、時計として見ると安物である場合が往々にしてあります。これに対して本品は「時計」として真面目に作られており、二十一個のルビー製部品を使用した高級なムーヴメント(時計内部の機械)を搭載しています。二十一個のルビーを使用したムーヴメントには優れた耐久性があり、一生ものとして使うことができます。

 本品はサイズもデザインも可愛いですが、決しておもちゃではありません。大人の女性にこそふさわしい上質のドレス・ウォッチです。





 時計内部の機械を「ムーヴメント」(英 movement)、ムーヴメントを保護する金属製の容器(時計の外側)を「ケース」(英 case)といいます。本品のケースは 14カラット・ホワイト・ゴールド(十四金)でできています。裏蓋に純度の刻印があります。本品のように、めっきではない金製のケースを持つ時計を「金無垢(きんむく)時計」といいます。

 純度百パーセントの金は軟らかすぎるため、時計やジュエリーには使えません。金無垢時計やジュエリーの金は、強度を確保するために他に金属との合金とし、わざと純度を落としてあります。本品に使われている金は14カラット・ホワイト・ゴールド(十四金)で、純金の「二十四分の十四」に相当する純度の、金とニッケルの合金です。

 時計の素材として最も重要なのは強度です。わが国でよく見かける 18カラット・ゴールド(十八金)は人間の手の力で容易に変形してしまうほど柔らかいですが、14カラット・ゴールドは 18カラット・ゴールドほど容易には変形せず、実用的な硬さを有します。





 上の写真の左側に写っているのはケース裏蓋の内側で、さまざまな刻印があります。"14K GOLD"(14カラット・ゴールド)は金の純度の刻印、"CASED AND TIMED IN USA" は「スイス製ムーヴメントをアメリカでケースに入れて時間調整した」という意味、"WBO" はグリュエン社に時計ケースを供給していた「ウィリアム・B・オガッシュ時計ケース会社」(William B. Ogush Watch Case Company) のロゴです。

 "275" はムーヴメントの型番、"844" はケースの型番、"Z31270" は本品のケースに固有のシリアル番号です。




 本品のケースはたいへんユニークなデザインで、文字盤の窓は各辺がわずかに曲線を描く六角形となっています。

 六角形は「強さ」と「安定」の象徴です。薄い紙でたくさんの円筒を作って束にし、外側から徐々に締め付けてゆくと、六角柱を束ねたハニカム(英 honeycomb 蜂の巣)構造になることは良く知られています。ハニカム(蜂の巣)は外側から力を加えても形状が安定していて、変形が起こりません。

 また「六」は最初の完全数です。完全数の存在に最初に気付いた古代ギリシアの数学者ピュタゴラス (Πυθαγόρας, c. 580 - c. 495 B.C.) は、「数」こそが世界(宇宙)を形作るものであると考え、天体の運行を支配する精妙な数的秩序とその調和を美しい音楽と和音に譬えて、「ムシカ・ウニウェルサーリス」(羅 MUSICA UNIVERSALIS 「宇宙のムシカ」の意)、「ハルモニア・ムンディ」(羅 HARMONIA MUNDI 「宇宙のハルモニア」の意)と呼びました。





 上の絵は 1660年にアムステルダムで出版されたアンドレアス・ケラリウス (Andreas Cellarius, c. 1596 - 1665) 著「ハルモニア・マクロコスミカ」("HARMONIA MACROCOSMICA") からの抜粋です。図には太陽を中心に水星から土星までの軌道と黄道十二宮が描かれ、上部にはラテン語で「コペルニクスの惑星界、すなわちコペルニクス説に基づく全被造界の仕組みを図示したもの」(PLANISPHAERUM COPERNICANUM Sive Systema VNIVERSI TOTIVS CREATI EX HYPOTHESI COPERNICANA IN PLANO EXIBITVM) と書かれています。天動説でも地動説でも使われる「ハルモニア」(ἁρμονία ギリシア語で「調和」の意)は、「ハルモゾー」(ἁρμόζω 「組み立てる」「秩序付ける」「制御する」の意)の名詞形です。

 機械式腕時計は人工的な力で無理やり動くのではなくて、「天符」(てんぷ)の等時性という法則によって時間を測っています。巨大な天体や星雲を運行させるのと同じ物理法則により、宇宙を組み立て秩序付ける「ハルモニア・ムンディ」(世界のハルモニア)に共鳴して時を刻むのが、本品のような機械式時計です。機械式時計を制御しているのは、「ムシカ・ウニウェルサーリス」、天界の音楽なのです。

 宇宙空間で規則正しく星を動かす「天界の音楽」は、この時計の天符を二十四時間に二十一万六千回、往復するように回転させます(振動数 f = 18000 A/h)。この小さな時計は宇宙に行きわたる「ハルモニア・ムンディ」の一部です。そのことを理解すれば、長径十数ミリメートルの小さなムーヴメントに宇宙を感じることができます。





 文字盤の上下には五弁の花が二輪ずつあしらわれ、花の中心にはダイアモンドがプロング・セット(爪留め)されています。花の種類は山桜か夾竹桃(キョウチクトウ)、あるいは桔梗(キキョウ)でしょうか。

 アンティーク時計には無色透明のストーンが嵌められていることがよくあります。それらがダイアモンドであるとは限りませんが、本品のストーンは四つともダイアモンドです。現代のダイアモンドはブリリアント・カットですが、本品はおよそ六十年以上前の時計ですので、二十世紀中頃まで一般的であったシングル・カットが施されています。大きなダイアモンドがたくさん嵌った時計は普段用として使いづらいですが、本品のデザインは決して派手ではなく、上品で可愛いので、日々ご愛用いただけます。




 時計のクリスタル(風防)を通して見える部分を「文字盤」(もじばん)または「文字板」(もじいた)といいます。本品の文字盤は白色で、細かい線が交差する文様が施され、「グリュエン」(GRUEN) のロゴが記されています。本品の文字盤は再生処理(リファービッシュ、リダン)を施しておらず、製作当時のオリジナルです。ところどころに小さな変色がありますが、六十年以上も前に製作されたものとしては充分に良好なコンディションです。この程度の変色は真正のアンティーク時計ならではの趣(おもむき)としてお楽しみください。

 文字盤の周囲十二か所にある「長針五分ごと、短針一時間ごと」のマークを「インデックス」(英 index)といいます。本品のインデックスは小さな部品を植字した「立体インデックス」で、文字盤よりも一段高くなっています。十二時と六時のインデックスはアラビア数字、三時と九時のインデックスは細長い三角形、他のインデックスは小さな円盤で、変化のあるリズムが活き活きとした表情を与えます。

 銀色の針はドーフィヌ型というタイプです。「ドーフィヌ」(dauphine) とはフランス語で王太子妃、すなわち「ドーファン(dauphin 王太子、王の長男)の妃(きさき)」のことです。この形の針をなぜ「ドーフィヌ」と呼ぶのか私は知らないのですが、とても優雅な名前です。





 ぜんまいを巻いたり時刻を合わせたりする際のツマミを、竜頭(りゅうず)といいます。アンティーク時計は毎日ぜんまいを巻く必要がありますので、竜頭が摩耗しやすいですが、本品の竜頭は新品同様で、全く摩耗していません。竜頭にはグリュエンのロゴが入っています。なお竜頭は将来的に摩耗しても簡単に交換できます。





 この時計は秒針が無い「二針」です。これは本品がドレスウォッチに位置づけられていることを示します。

 現代の時計はセンター・セカンド方式(文字盤中央に秒針を取り付ける方式)の「中三針」(なかさんしん)が普通ですが、センター・セカンド方式は製作が難しく、1960年代以降にようやく普及しました。それ以前の時代には、男性用時計はスモール・セカンド方式で、小さなサイズの秒針が6時の位置に取り付けられていました。

 男性用ヴィンテージ腕時計のスモール・セカンドは 3, 4ミリメートルの長さしかなく、視認性は良くありません。したがって一分間を正確に測定する場合、腕時計ではなくストップ・ウォッチを使うか、少し無理をしてセンター・セカンド秒針を取り付けた「ドクターズ・ウォッチ」を使うか、いずれかの方法が採られました。センター・セカンド式「ドクターズ・ウォッチ」の場合、秒針は視認性をいっそう高めるために、赤く塗られるのが普通でした。1960年代になってセンター・セカンド秒針が普及しても、秒針を赤く塗る伝統はしばらくの間続きました。1960年代、70年代頃のヴィンテージ・ウォッチの秒針が赤いのは、センター・セカンド式「ドクターズ・ウォッチ」の名残です。

 要するに、私が言いたいのは、「秒針付の時計はドレス・ウォッチではなく、作業現場でストップ・ウォッチ代わりに使う時計である」ということです。現代の私たちは、時計の秒針を、付いていて当たり前のものだと思っていますが、もともと時計の秒針とは、作業現場で測定に使うための装置であったのです。


(下・参考画像) センター・セカンド式「ドクターズ・ウォッチ」。秒針が赤く塗られています。当店の商品



(下・参考画像) 男性用ドレス・ウォッチ。現場の測定用ではないので、秒針はありません。当店の商品




 いっぽう女性用の場合、ほとんどのヴィンテージ時計のサイズは一円硬貨よりも小さく、文字盤はさらに小さなサイズです。この小さな文字盤の六時の位置に、長さ1ミリメートルほどのスモール・セカンドを取り付けたとしても、小さすぎて見えません。それゆえ女性用アンティーク時計、ヴィンテージ時計には、秒針が無いのが普通です。

 センター・セカンド式秒針を女性用時計に取り付けることは、技術的には充分に可能でした。実際、女医やナース用腕時計には、赤く塗ったセンター・セカンドが付いていました。しかし一般の女性が秒針付きの時計を買うことはありませんでした。1960年代になっても、70年代になっても、女性たちは秒針の無い時計を使い続けました。この事実は、女性用時計がドレス・ウォッチとして位置づけられていたことを示します。女性にとって、時計、特に本品のような宝飾時計はおしゃれを引き立たせるジュエリーであり、決して「現場の測定機器」ではなかったのです。





 この時計に搭載されている機械は、トノー(樽)形の手巻ムーヴメント、「グリュエン キャリバー 275」です。ムーヴメントとは、時計内部の機械のことです。

 電池ではなくぜんまいで動く時計を「機械式時計」といいますが、良質の機械式時計のムーヴメント(時計内部の機械)には、重要な部品の摩耗を防ぐためにルビーを使用します。ルビーとサファイアはコランダムという鉱物で、いずれもモース硬度「9」と、たいへん硬い宝石です。ルビーを使うのが望ましい箇所は十五箇所あって、そのすべてにルビーを入れると十七個の石が使われることになります。十七石以上のムーヴメントは「ハイ・ジュエル」(英 high-jewel) と呼ばれる高性能の機械です。





 「グリュエン キャリバー 275」は「ハイ・ジュエル」の高級機で、十七石のものと二十一石のものがあります。本品は「キャリバー 275」のなかでも二十一石の最高級機で、三番車、四番車、ガンギ車に「受け石」と呼ばれるルビー製部品を四個追加し、合計二十一個のルビーを使用しています。 コンディションはきわめて良好で、天符(てんぷ)の振り角も大きく、スムーズに動作しています。

 上の写真は本品のムーヴメントを一円硬貨の上で動作させています。 腕時計の機械式ムーヴメントは千分の一ミリメートル単位の精密さで作られています。上質の機械式時計ムーヴメントは見た目にもたいへん美しいものですが、この美しさは見せるためにうわべを飾ったのではなく、上質の物に自(おの)ずから備わる美、つまり機能美です。機械式時計の小さなムーヴメントには、ガリレオ・ガリレイやクリスティアン・ホイヘンス以来四百年の英知と、時計職人の数か月分の労働力が投入されています。


 グリュエン社の広告 1941年


 因みに本品が作られた時代、ハイ・ジュエルの時計は、ステンレス製ケースの品であっても初任給のおよそ 3カ月分の価格でした。本品は金無垢時計ですので、当時の販売価格は初任給の半年分ぐらいでしょう。現代のクォーツ時計に比べるとずいぶんと高価ですが、現在スイスで作られている機械式時計も、価格はやはり数十万円以上です。ほとんどのクォーツ時計には、実はおもちゃのようなプラスチック製ムーヴメントが入っていて、そのせいで安く手に入るようになったのですが、良質の機械式時計の値段は、昔も今も変わりません。

 初任給数か月分の価格で売られていたハイ・ジュエルの時計は、適切なメンテナンスによって数十年間動き続ける「一生もの」です。「一生もの」である事を考えると、「初任給の数か月分」という価格は決して高くはありません。現代のクォーツ時計でも、ブランド物を買えば数十万円しますが、クォーツ・ムーヴメントの心臓である「回路」の寿命は、高級時計のメーカー自身が言うところではおよそ七年、長く見積もってもせいぜい十年ちょっとです。数万円程度のクォーツ時計には80円から100円位の機械が入っていて、寿命は数年です。このような市販の時計に比べると、「一生もの」といえるだけの耐久性があり、もともとの価値の半分以下、ときには数分の一で手に入るアンティーク時計(ヴィンテージ時計)は、たいへんなお買い得品です。


 Gruen cal. 275


 アンティーク時計の弱点は、壊れたときの修理です。本品はグリュエン時計会社の製品ですが、このメーカーはもはや存在しません。また現在まで存続している時計会社の時計であっても、メーカーは何十年も前のアンティーク時計の部品を持っていません。アンティーク時計が故障すると、必要な部品が手に入らないので修理できないのです。そのような理由で、アンティーク時計はお買い上げ後の修理、メンテナンスに対応しない「現状売り」となるのが普通です。

 しかしながら当店では長期に亙り修理に対応いたします。どうぞご安心ください。上の写真は現在当店に在庫している「グリュエン キャリバー 275」の一部です。写真に写っているムーヴメントのうち、上の十個はオーバーホールすればそのまま使えます。下の十個も修理すれば使えます。「グリュエン キャリバー 275」をはじめ、当店にはアンティーク時計の部品が多数在庫しています。





 また本品のようにユニークなデザインのアンティーク時計の場合、機械の修理・メンテナンスとともに大きな問題となるのがクリスタル(風防)交換です。時計のクリスタルはサイズや形状が精密に作られているために、通常の丸型や角型であっても適当に合わせることができません。特にこの時計のような特殊な形状のものが破損したり紛失したりした場合、この時計用に製作された専用クリスタルが在庫していなければ、交換することは不可能です。機械部品とならんで、当店には数十年前の時計用クリスタルが豊富に在庫してございます。ご購入後の修理・メンテナンスは安心してお任せくださいませ。

 上の写真はグリュエン用のファンシー(変形)・クリスタルで、いずれも数十年前のデッド・ストック(新品)です。手前に並べた五枚は「ケース・ナンバー 844」用、つまり本品用のクリスタルです。下の拡大写真をご覧ください。







(下・参考写真) ブローバ用のファンシー(変形)・クリスタル 当店在庫の一部



(下・参考写真) エルジン用のファンシー(変形)・クリスタル 当店在庫の一部



(下・参考写真) スイス時計各社用のファンシー(変形)・クリスタル 当店在庫の一部




 当店では、バンドに関してもお好みの素材、デザイン、サイズのものに無料で変更していただくことが可能です。このページの商品写真はドレッシーなコードバンド(ひもバンド)を付けて撮影しました。コードバンドは最も高級感があるので、本品のような宝飾時計には特におすすめです。お好みにより、金属製バンドに替えることもできます。当店独自の時計用バンド変更サービス、及び当店のアンティーク時計に関する全般的な説明は、こちらをクリックしてください





 この時計が製作された当時、本品の価格は初任給の半年分に相当しました。クォーツ式(電池式)の安価な時計が容易に手に入る現在から見ると、昔の時計は想像もつかないほど高価な品物であったわけですが、製造後数十年経った時計でも普通に使えるという「一生もの」のクオリティを備えていたのであって、いわゆる「ブランド代」ゆえに品質に比べて価格が高すぎる商品とは事情が異なります。初任給半年分の価格が付いた商品には、初任給半年分の実質的な値打ちがあったのです。

 流行のブランド時計も恰好よくはありますが、所詮は何万本という単位で生産される量産品にすぎません。日常使いが可能で、日々の生活に潤いと上質の華やぎを与えてくれる「一点もの」、あらゆる華やかな場にもふさわしい「一点もの」を、ぜひ生涯の伴侶にお選びください。





248,000円

電話 (078-855-2502) またはメールにてご注文くださいませ。





【コラム 世界史の流れの中で】

 1517年10月31日、マルティン・ルター (Martin Luther, 1483 - 1546) がヴィッテンベルク大学の聖堂に「95箇条の論題」(Disputatio pro declaratione virtutis indulgentiarum) を張り出したことがきっかけとなって起こった宗教改革は、翌年にはフランスに波及し、宗教戦争の時代となりました。1598年、フランス国王アンリ4世 (Henri IV, 1553 - 1610) は「ナントの勅令」(Édit de Nantes) を発布してプロテスタントに信仰の自由を認めましたが、1685年、ルイ14世 (Louis IV, 1638 - 1715) が「フォンテーヌブローの勅令」(Édit de Fontainebleau) によって「ナントの勅令」を破棄したため、フランス国内のユグノー(プロテスタント)たちはスイスをはじめとする国外に脱出しました。フランスにおいて時計作りに携わっていた人たちにはユグノーが多かったので、ルイ14世の「フォンテーヌブローの勅令」はフランス時計産業の衰退とスイス時計産業の振興の原因となりました。

 1941年12月8日、日本が真珠湾を攻撃して日米が開戦すると、合衆国政府はアメリカ国内に工場を持つ時計会社に命じ、全力を挙げて軍用時計を生産させました。日米間の総力戦はすべてのアメリカ国民に仕事をもたらし、高価格品である時計への需要がにわかに高まりました。特に初めて安定した月給を貰って購買力を得た女性たちは、ハイ・ジュエルの高級時計を求めました。ところがアメリカの大手時計会社のうち、エルジン、ハミルトン、ウォルサムはいずれも軍用時計の生産に全力を傾注していたため、民生用時計の需要に応えることができませんでした。

 スイスは四方を枢軸国に囲まれながらも辛うじて中立を保っていました。ヒトラーはスイス侵攻の計画を立てていましたが、これは実現しませんでした。アメリカで時計の需要が高まっているにもかかわらず、アメリカ国内の時計会社が民生用の時計を全く生産できずにいる状況に大きな商機を見たスイス時計各社は、大量の時計をアメリカ向けに輸出し、アメリカ国内に地歩を築きました。

 1945年8月15日、日本が無条件降伏して太平洋戦争は終結しましたが、アメリカの時計各社が工場設備を改めて平時の体制に戻るには時間がかかりました。また軍用時計の生産に専念している間に、市場はスイス時計にすっかり奪われていました。これが遠因となってエルジン、ウォルサム、ハミルトンの国内工場は操業停止に追い込まれ、エルジンとウォルサムは会社そのものが倒産・消滅してしまいます。

 グリュエン社も戦争中は軍用の精密機械を作り、戦争遂行に協力しました。しかしながら同社は創業以来スイス、ビール(Biel ベルン州ビール郡)の工場でムーヴメントを製作していたため、ミリタリー・ウォッチ用に工場設備を強制的に変更させられる事態を免れ、終戦後も同業他社に比べて速く平時の体制に立ち直りました。

 ちなみにベルン州ビールの工場ではグリュエンとロレックスが生産されていました。このためグリュエンの部品、たとえば天真の形状はロレックスのものとよく似ています。また幾つかのムーヴメントはロレックスのものと全く同じです。ビールの中心部にあるかつてのグリュエンの工場は、現在ではロレックスの社屋になっています。





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