スイス製 小さなチューリップの金無垢時計 《女性用ドレス・ウォッチ ベンラス》 透かし細工のラグにミル打ち装飾 1960年代


 洋服や髪形や化粧に時代ごとの特徴があるのと同じように、時計のデザインにも時代ごとの特徴があります。1960年代の女性用時計は上品、端正なデザインで、一円硬貨よりも小さなサイズでした。文字盤はアラビア数字を使わず、バトン状のバー・インデックスですっきりとまとめるのが60年代の流行です。1960年代と現代では、時計が動く仕組みも異なります。現代の時計は電池で動いていますが、1960年代の時計はぜんまいで動きます。電池を入れる必要はありません。





 時計内部の機械を、ムーヴメント(英 movement)といいます。ムーヴメントを保護する容器、つまり時計本体の外側を、ケース(英 case)といいます。現代はプラスティック製ケースの時計がありますが、アンティーク時計のケースは、現代の多くの時計と同様に、金属でできています。

 ケースの素材に使われる金属の種類は様々ですが、アレルギーを起こしにくいという点では、金が優れています。本品のケースはめっきではない金でできていています。めっきではない金でできたケースを金無垢(きんむく)ケース、そのようなケースの時計を金無垢時計といいます。本品はホワイト・ゴールドによる金無垢時計です。


 ケースの上部をベゼル(英 bezel)といいます。本品のベゼルは新古典様式の意匠に従い、古典ギリシアを思わせる幾何学的パターンが造形されています。


 ベゼルに嵌っている透明のガラスやアクリルを、風防といいます。ベゼルは風防の枠の役割を果たしています。本品の風防は楕円形のアクリル製で、周囲に宝石のようなカットが入っています。本品の風防は「プレクシグラス」と呼ばれる高透明度のアクリル製で、周辺に宝石のようなカットが入っています。

 風防は緩やかなドーム状で、真横から見るとベゼルよりも高く盛り上がっています。盛り上がった風防は見た目が可愛いですが、平坦な風防に比べて瑕(きず)が付き易いという欠点があり、ガラス製風防の場合に大きな問題となります。ガラスに付いた瑕は除去できないからです。一方プレクシグラス製風防は瑕を簡単に磨き落とすことができます。本品の風防はプレクシグラス製ですから、多少の瑕は綺麗に修復可能です。





 時計に付いている長針五分ごと、短針一時間ごとの目盛りを、インデックス(英 index)といいます。インデックスが取り付けられている板状の部品を、文字盤(もじばん)または文字板(もじいた)といいます。

 本品の文字盤は白に近い銀色で、「ベンラス」(BENRUS)のブランド名と「十七石」の表示が書かれています。インデックスは銀色の棒状部品を文字盤に植字したバー・インデックスです。一時から十二時までのすべてにバー・インデックスを使うのは、1960年代の時計の特徴です。

 本品の針は視認性に優れたバトン型で、シンプルなデザインは飽きが来ず、バー・インデックスの形状ともよく調和しています。この時代の女性用時計に秒針はありません。特に本品のような金無垢時計はドレス・ウォッチですので、秒針があると目障りです。腕時計の秒針はもともとストップ・ウォッチの機能を兼ねさせるためのもので、作業で使う測定用の部品です。





 十二時側と六時側に突出したバンドの取り付け部分を、ラグ(英 lugs)といいます。現代の時計は男性用、女性用とも十二時側と六時側に二本ずつのラグが突出し、バネ棒という伸縮式の棒状部品で平たいバンドを取り付けます。しかるに 1960年代の女性用時計はとても小さいので、十二時側と六時側に一本ずつのラグが突出し、コード・バンド(ひもバンド)または末端がフック状のバンドを取り付けるようになっています。このような方式のラグを、センター・ラグといいます。

 上の写真は一円硬貨の上に本品を載せ、隣にもう一枚の一円硬貨を置いて撮影しています。本品ケースのラグを除くサイズは 19.8 x 16.4 ミリメートルです。一円硬貨の直径は 20.0 ミリメートルです。


 本品のラグは透かし細工になっており、チューリップのように造形されています。チューリップの花に当たる部分には、ホワイト・トパーズと思われるシングル・カットの無色透明石が爪留めされています。花芽の輪郭には、丁寧なミル打ち(ミリング)が施されています。ミル打ち(英 milling)とは線状の隆起部分に鏨(たがね)を適用し、連続する微小な点を形作る彫金技法のことです。ミル打ちは非常に手間がかかる技法で、アンティーク・ファイン・ジュエリーやアンティーク時計には見られますが、現代ではほとんど行われなくなっています。




 本品を裏返すと、ケースの裏蓋に「十四カラット・ゴールド」(14K GOLD)の刻印があります。

 アレルギーを起こしにくい金は、直接肌に触れる物の素材として、たいへん優れています。しかるに純金はとても軟らかく、簡単に瑕(きず)がつき、摩滅し、変形してしまいます。ですから純金を使って時計やジュエリーを作っても、実用性がありません。時計やジュエリーを純金で作れば、すぐに瑕(きず)がつき、摩滅し、変形して、使い物にならないからです。それゆえ実用品の金は他の金属を混ぜて合金とし、必要な硬さを得ています。

 金は金色の金属で、純金は金色ですが、金合金の色は混ぜる金属によって異なります。金にニッケルを混ぜると銀色に近いホワイト・ゴールドとなります。本品は純度十四カラット(14/24、約六十パーセント)の金合金で、六十パーセントの金と四十パーセントのニッケルでできており、表面をロジウム(白金族の貴金属元素)でめっきしています。





 本品はぜんまいで動く時計で、電池は不要です。三時の位置に突出しているツマミを、竜頭(りゅうず)といいます。上の写真で、竜頭は手前に写っています。指先で竜頭をつまみ、時計回りに回転させるとぜんまいを巻くことができます。

 本品のようにぜんまいで動く時計を「機械式時計」といいます。クォーツ式(電池式)時計と機械式時計は、耳に当てたときに聞こえる音が全く異なります。秒針があるクォーツ式腕時計を耳に当てると、秒針を動かすステップ・モーターの音が一秒ごとにチッ、チッ、チッと聞こえます。デジタル式など秒針が無いクォーツ式腕時計を耳に当てると、何の音も聞こえません。これに対して機械式時計、すなわち本品のようにぜんまいで動く腕時計や懐中時計を耳に当てると、小人が鈴を振っているような微(かす)かで可愛い音が、チクタクチクタクチクタク…と連続して聞こえてきます。





 時計内部の機械を、ムーヴメントといいます。良質の機械式ムーヴメントには、摩耗してはいけない部分にルビーを使います。ルビーはたいへん硬い鉱物ですので、時計の部品として使用されるのです。必要な部分すべてにルビーを入れると、十七石(じゅうななせき)のムーヴメントになります。十七石のムーヴメントはハイ・ジュエル・ムーヴメント(high jewel movement)と呼ばれる高級品です。





 本品のムーヴメントはスイス、ユニタス社のキャリバー 69(UT 69)というハイ・ジュエル・ムーヴメントで、「セヴンティーン・ジュエルズ」(17 SEVENTEEN JEWELS 十七石)の刻印があります。上の写真で赤く写っているのがルビーです。ルビーは写真に五個しか写っていませんが、ムーヴメントの内部や裏側に使われていたり、場所によっては二重に重ねられていたりして、全部で十七個が使われています。





 上の写真は本品のムーヴメントを一円硬貨の上に載せ、隣にもう一枚の一円硬貨を置いて撮影しています。いちばん左に写っているのは、ケース裏蓋の内側です。

 機械式時計の各部品はマイクロメートル(千分の一ミリメートル)の精度で制作されています。現代ではコンピュータ制御の産業ロボットを使って微細な加工ができますが、1960年代当時はすべての精密加工が時計師の手によるものでした。特に女性用時計のムーヴメントは一円硬貨よりも小さなサイズですから、その製作には熟練した時計師の技術が必要であったことは言うまでもありません。

 1960年代当時、ハイ・ジュエルの金無垢時計である本品の価格は、初任給の半年分近くに相当しました。現在の貨幣価値に換算すれば百万円近い値段になります。良質の時計はたいへん高価であったわけですが、しかしながらこれはブランド代ではなくて、「一生もの」と呼べるだけの内実、実質的価値を伴っていました。ムーヴメントにルビー製部品を多用するのも、優れた耐久性と長寿命を確保するためです。





 アンティーク時計の長所は、同じものが手に入らない一点物であること、非常に高価であったハイ・ジュエル・ウォッチが当時の数分の一の価格で手に入ることです。アンティーク品と中古品の違いに関して言えば、中古品は「新品ではない」というだけの意味で、多くの場合、より大きな金額を払えば新品が手に入ります。これに対してアンティーク品は単なる中古品ではなく、その品物が作られた時代ならではの作りやデザイン、現代では再現できない技法などによって製作されています。

 本品はぜんまいで動く機械式時計で、電池式の現代の時計とは動く仕組みが根本的に異なります。ムーヴメントから聞こえる音も全く異なり、本品を耳に当てるとチクタクチクタクチクタク…という微かな可愛い音が連続して聞こえます。男性の時計マニアのために、現代でも少数ながら機械式(ぜんまい式)時計は作られています。しかしながら本品のように小さな女性用機械式時計は、現在は全く作られていません。トノー型(樽型)のケース、センター・ラグ、1960年代特有の文字盤なども、二十世紀半ばの女性用時計ならではの特徴です。





 最後に、バンドについて。時計会社はバンドを作っていません。アンティーク時計とバンドの組み合わせに必然性は無く、以前の所有者が自分のサイズや好みに合ったものを付けているというだけのことです。したがってアンティーク時計のバンドに関して、オリジナルにこだわる必要はまったくありません。バンドは消耗品ですので、傷んでいれば取り替える必要がありますし、当時のバンドが使える状態で残っている場合でも、自分のサイズや好みに合わなければ取り替えて構いません。

 当店に入荷したとき、本品には銀色の金属製バンドが付いていました。しかしながらケースと同色のバンドが付いていると、ラグが可愛い形をしていても、せっかくのデザインが目立たなくなってしまいます。本品のラグはチューリップのように美しく造形されているので、黒いコード・バンド(紐のバンド)に付け替えました。コード・バンドは使い慣れないうちは着脱の操作が少し面倒ですが、金属製バンドよりも高級感があり、小さな時計を引き立ててくれます。コード・バンドは慣れればスムーズに着脱できるようになります。コード・バンドを使いこなせるかどうか不安で、金属製バンドを好まれる場合は、お買い上げ時、あるいはお買い上げ後のいつでも容易に変更できますので、どうぞご安心ください。


 アンティーク時計はどこの店でも原則的に「現状売り」です。壊れた場合に修理が困難であるのが、アンティーク時計の唯一の短所です。しかしながらアンティークアナスタシアでは他店で不可能な修理が可能で、お買い上げ後も期限を切らずに修理に対応しています。また時計は無料でオーバーホール(分解掃除)をした後にお渡しいたしますので、日々安心してご愛用いただけます。詳しくはこちらをご覧ください。

 お支払方法は現金一括払い、ご来店時のクレジットカード払いのほか、現金の分割払いでもご購入いただけます。当店ではお客様のご希望に出来る限り柔軟に対応しております。ご遠慮なくご相談くださいませ。





本体価格 128,000円

電話 (078-855-2502) またはメール(procyon_cum_felibus@yahoo.co.jp)にてご注文くださいませ。




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