直径 21.4ミリメートルの円形の時計。1940年頃のものです。ちょうど一円硬貨ほどの面積で、1950年代の女性用時計に比べるとずいぶん大きく感じますが、1930年代から40年代頃の時計としては普通のサイズです。
開口部はたいへん珍しいハート形で、繊細な帯状の彫金装飾に縁取られています。装飾は内周と外周の二層にわかれており、内周は小さな木の実状の粒を、波打つ枝状の線で繋いでいます。外周の装飾は、高級なアンティーク・ファイン・ジュエリーに施される彫金の一種、「ミル打ち」と同様の細かい粒状細工となっています。開口部を繊細な彫金で取り巻くことにより、ベゼルに当たった光が広い面状に反射することを防いで高級感を与え、またハート型というユニークな形を強調する効果を生み出しています。
12時及び6時のラグ(バンドを取り付ける部分)上に、赤いストーンが嵌め込まれています。このストーンは金 (Au) あるいはセレン (Se)
で赤く発色させたクリスタルであろうと思われます。人工の素材ですが、プロング・セット(爪留め)されていて脱落する可能性もなく、高級感があります。
文字盤は明るいグレーあるいはシルバーで、マット(艶消し)処理を施されているために、柔らかく上品な光に包まれています。文字盤外周の目盛部分もハート形を描いており、これに沿って金色のアラビア数字立体インデックスが配置されています。6時の位置にインダイアル(文字盤内にある小文字盤)が配され、長さ3ミリメートルほどの可愛らしい秒針が回転しているのが見えます。針はいずれも金色で、長身と短針はダイアモンド形と呼ばれる上品かつシャープな形状です。
スイス製17石手巻ムーヴメント、ア・シールド (AS) キャリバー 970を搭載しています。AS 970 は 8 1/2リーニュの円形で、1930年代から製造がはじまり、1940年代を通じて数々の時計に採用された信頼性の高いムーヴメントです。
1940年頃のAS 970には 7石のものもありますが、この時計に搭載されているのは15石の高級品で、15個のルビーが部品として嵌め込まれています。またスモール・セカンド付きのものとそうでないものがありますが、この時計には前者が採用されていますので、可愛らしい秒針の動きを楽しんでいただけます。
この時計のムーヴメントは天符の振り角も大きく、良好なコンディションです。オシドリの嵌まる竜真の窪み、キチ車と鼓車の噛み合わせ部分、裏押さえの腕部分等、消耗しやすい部分にも異常はありません。AS970用の各種パーツは豊富な在庫を確保しておりますので、ご安心くださいませ。
この時計には 1930 - 40年代当時の「ウィントン」の箱を付けることができます。当時、この時計の価格は初任給の3カ月分を超えていました。時計の箱は高級品に相応しく、ベルベットが張られた美しい作りです。
蓋を開けて時計と対面。
時計のバンドはお好みに合わせて無料で交換いたします。最もドレッシーなのは黒のコードバンドですが、金属製バンドに付け替えることもできます。
コードバンドはサイズ調整が容易で、黒以外の色もご用意可能です。ご相談くださいませ。金属製バンドはサイズ調整ができない場合があります。ご了承くださいませ。
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