1950年頃のドレス・ウォッチ 「ウォルドン」 21石 小さな高級品


 1950年頃にスイスで製作された女性用ドレス・ウォッチ。上品な金色のケースに白色の文字盤を採用した小さな時計で、バンドを含む全体の長さは、15センチメートルです。本品には21石の高級手巻ムーヴメント「フォンテンメロン キャリバー 60」が搭載されています。「ムーヴメント」というのは、時計内部の機械のことです。





 本品は現代の時計のような「クォーツ式」ではなく、ぜんまいで動く「機械式」です。電池で動くクォーツ式時計は 1970年代から使われ始めます。本品が製作された 1950年頃には、クォーツ式時計はまだ発明されていませんでした。

 秒針があるクォーツ式時計を耳に当てると、秒針を動かすステップ・モーターの音が一秒ごとに「チッ」、「チッ」、「チッ」 … と聞こえます。デジタル式など秒針が無いクォーツ式時計を耳に当てると、何の音も聞こえません。本品のような機械式時計を耳に当てると、小人が鈴を振っているような小さく可愛らしい音が、「チクタクチクタクチクタク…」と連続して聞こえてきます。


 1950年頃の女性用時計は一円硬貨よりも小さなサイズで、本品もその例に漏れません。1950年頃の女性用時計に四角形の文字盤を持つものは少なく、本品は珍しい作例です。

 この時代に作られた女性用スイス時計の文字盤は、円形またはトノー(tonneau 樽)形が多く、次に多いのがクッション形(cushion 四角形の各辺が外向きに膨らんだ形)です。文字盤が四角い時計は、長方形のムーヴメントを搭載し、長方形の文字盤を持つ作例が時折見られます。しかしながら正方形のムーヴメントは存在せず、正方形の文字盤を持つ時計を目にすることもめったにありません。本品はトノー形のムーヴメントを搭載しつつ、三時側と九時側の張り出しをデザイン上の工夫によって目立たなくし、稀少な正方形の文字盤を実現しています。





 本品のデザインはアール・デコ様式に拠っています。「アール・デコ」(art déco フランス語で「装飾美術」の意)とは 1920年代から 1950年代にかけて流行した美術工芸及び建築の様式で、幾何学図形を多用し、飽きの来ないすっきりとしたデザインが特徴です。

 上の写真は、左から順に、アール・ヌーヴォー期(19世紀末から20世紀初頭)の置時計、アール・デコ期の置時計、アール・デコ期の腕時計(本品)を比較したものです。左端のアール・ヌーヴォー期の置時計は、生きた植物のように不規則な曲線で構成されています。中央のアール・デコ期の時計は、直線及び規則的な曲線で構成されています。このふたつと比べると、本品のデザインが後者の様式に基づいていることがよくわかります。なお腕時計は1920年代から普及し始めた品物であり、アール・ヌーヴォー期の腕時計は存在しません。





 時計内部の機械を「ムーヴメント」(英 movement)、ムーヴメントを保護する金属製の容器(時計本体の外側)を「ケース」(英 case)といいます。本品のケースはロールド・ゴールド・プレートで、裏蓋は丈夫なステンレス・スティール製です。「ロールド・ゴールド・プレート」とは板状の金をベース・メタルに張り付けたもので、現代の金めっき(エレクトロ・プレート)に比べると、金の厚みは十数倍ないし数十倍に達します。金の層が厚いため、摩耗に強く、見た目にも高級感があります。本品のケースに張られている金はおそらく 10カラット・ゴールド(純度 10/24のゴールド)で、十八金に比べて金そのものの強度が格段に強く、色の点でも淡く上品なシャンパン・ゴールドをしています。





 本品の文字盤は清潔感のある白で、"WALDON 21 JEWELS SWISS"(ウォルドン、21石、スイス製)の文字、及びアラビア数字とバー(棒)による立体インデックスを配します。インデックス(英 index)とは文字盤の周囲十二か所にある「長針五分ごと、短針一時間ごと」の刻み目のことです。本品のインデックスはケースと同色の明るい金色で、光を反射して美しく光ります。

 本品の文字盤はたいへん綺麗な状態ですが、再生(リファービッシュ、リダン)したものではなく、時計が製作された当時のオリジナルです。よく使われた時計の場合、ケースを開けて文字盤を見ると、周辺部分(ケースと接する部分)が傷んでいるのが普通です。しかしながら本品の文字盤は新品同様です。したがってこの時計はほとんど使われず、大切に保管されていたようです。

 針は上品で高級感のあるリーフ型で、やはり当時のオリジナルです。柳の葉のようにスマートな曲線を描くリーフ型の針は、優雅な時を刻むドレス・ウォッチにこの上なくふさわしい形です。





 1930年代から1950年代頃までの女性用時計には、アーチ状に盛り上がったクリスタル(風防)が流行していました。本品のクリスタルには、縁の部分にフリーバイト(fleabite ノミがかじったように小さなキズ)がありました。肉眼で見ても気づかないようなキズでしたが、拡大写真では大きく写ってしまうので、思い切って1950年代当時のデッドストック品に交換いたしました。写真はいずれも交換後に撮影しています。

 ぜんまいを巻いたり時刻を合わせたりする際のツマミを、竜頭(りゅうず)といいます。アンティーク時計は毎日ぜんまいを巻く必要がありますので、竜頭が摩耗しやすいですが、ほとんど使われていなかった本品の竜頭は、新品同様の良好な状態です。





 時計内部の機械を「ムーヴメント」(英 movement)といいます。本品のムーヴメントは電池ではなくぜんまいで動いています。本品のようにぜんまいで動く時計を「機械式時計」といいます。良質の機械式時計には、摩耗してはいけない部分にルビーを使います。ルビーはモース硬度「9」と非常に硬い鉱物(コランダム Al2O3)ですので、高級時計の部品として使用されるのです。必要な部分すべてにルビーを入れると、「17石」(じゅうななせき)のムーヴメントになります。17石のムーヴメントは「ハイ・ジュエル・ムーヴメント」(英 high jewel movement)と呼ばれ、高精度、長寿命の高級機です。

 しかるに、ほぼ完ぺきな17石ムーヴメントをさらに上回るのが21石ムーヴメントです。本品のムーヴメントには、下表で示すように、 21個のルビーが使用されています。本品の三番車、四番車、ガンギ車には、穴石のみならず受け石も装備されています。これは潤滑油の損失を防ぐ万全の対策で、機械式時計において実用的意味のあるすべての箇所に、ルビーを入れたことになります。 

    石 数
        日の裏側(地板側) 裏蓋側(受け側)
輪列   二番車の真用   0   1
三番車の真用   1   2
四番車の真用   1   2
ガンギ車の真用   2   2
           
アンクル   アンクル真用   2   1
アンクルの爪用   2
           
天符   天真用   2   2
振り石   1






 フランスと国境を接するスイス、ヌーシャテル県の時計の町、ラ・ショー=ド=フォン (La Chaux-de-Fonds) に、スイスで最も古い時計会社のひとつであるフォンテンメロン社 (Fabrique d'Horlogerie de Fontainemelon SA, FHF) があります。本品のムーヴメントはこのフォンテンメロン社が製作した「キャリバー 60」(FHF 60) という機械です。

 「フォンテンメロン キャリバー 60」は 6.75 x 8 リーニュ、毎時 18,000振動 (f = 18000 A/h) の女性用手巻きムーヴメントで、パワー・リザーヴ(ぜんまいを完全に巻き上げた場合の駆動時間)は 46時間を誇ります。同じフォンテンメロン社の「キャリバー 120」と並び、「キャリバー 60」は同一の天真、竜真を使う数多くの機種 (FHF 60, FHF 602, FHF 603, FHF 606, FHF 607, FHF 608-21, FHF 609, FHF 60-1, FHF 60-2, FHF 60-21, FHF 60-2N, FHF 69, FHF 691N, FHF 69N, FHF 69-21, FHF 69-INT, Standard 69, Standard 691N, Standard 69N, Standard 69-21) の原型となった名機です。日本のセイコーも FHF 60 に倣って女性用ムーヴメントを設計しています。





 「フォンテンメロン キャリバー 60」は数多くの女性用時計に搭載されているゆえに、故障した場合も部品が手に入りやすく、メンテナンス性に優れています。「一点もの」の贅沢を手軽に楽しめるのがアンティーク時計の魅力ですが、あまりにも珍しいムーヴメントは部品が手に入りにくいため、修理に支障をきたします。本品のようにデザインが稀少でありつつ、多くの時計が採用するムーヴメントを搭載した機種は、アンティーク時計のなかでも最も安心して「一点もの」を楽しむことができます。

 ちなみに「フォンテンメロン キャリバー 60」系のムーヴメントには 7石の機械と 17石の機械がありますが、本機は 21石です。私はおそらく同業者の誰よりも数多くの女性用ムーヴメントを見てきていますが、 21石の「フォンテンメロン キャリバー 60」は非常に珍しく、類品を見た記憶がありません。名機として知られる「フォンテンメロン キャリバー 60」のなかでも、本品は最も高級な作りです。





 上の写真は「フォンテンメロン キャリバー 60」を一円硬貨の上に置いています。ムーヴメント内のいちばん左に写っている銀色の環は「天符」(てんぷ)という部品で、振子(ふりこ)の役割をします。いまは撮影のために止めていますが、時計が動いているとき、「フォンテンメロン キャリバー 60」の天符は一時間に 9,000回、往復するように回転します。天符に取り付けられている金色の「チラネジ」は、天符が均等に振れるように重さを調整するための部品です。チラネジの径は、大きな頭の部分で測っても 0.4ミリメートルほどしかありません。ルビーの数は写真では六個しか見えませんが、ムーヴメントの内部や裏側(文字盤側)を含めて、全部で21個が使用されています。

 現代ではコンピュータ制御の産業ロボットを使って微細な加工ができますが、1950年代当時はすべての精密加工が人の手によるものでした。千分の一ミリメートルの精度で百個近くの部品を作り、これを組み立ててひとつの時計が完成します。1950年代の女性用時計は一円硬貨よりも小さなサイズですから、男性用時計よりもさらに高度な技術で制作されています。1950年代当時、本品の価格は初任給の三か月分以上に相当したはずです。現在の貨幣価値に換算すれば、60万円位でしょうか。良質の時計はたいへん高価であったわけですが、しかしながらこれは「ブランド代」ではなくて、「一生もの」と呼べるだけの内実、実質的価値を伴っていました。ムーヴメントにルビー製部品を多用するのも、優れた耐久性と長寿命を確保するためです。上述のように、本品はほとんど使われないままに保管されていた品物ですので、これから先も長い年月に亙ってご愛用いただけます。

 当店には「キャリバー 60」をはじめ、フォンテンメロン社製ムーヴメントの部品が豊富に在庫しています。アンティーク時計はどこの店でも原則的に「現状売り」で、壊れても修理が困難ですが、アンティークアナスタシアでは他店で不可能な修理に対応いたします。詳しくはこちらをご覧ください。クリスタル(風防)が破損したり無くなったりした場合も、当時のドーム型風防をご用意いたします。





 上の写真はケースとバンドの境目を示しています。「ケース」とはムーヴメントを保護収納する金属製の入れ物、すなわちバンドを除く時計本体の外側部分のことです。アンティーク時計に付いているバンドは大抵の場合その時計専用というわけではなく、自由に取り替えできますが、本品に付いているバンドは本品専用で、ばねにより伸縮します。留め金式バンドや革バンドと違って、このタイプのバンドは切れ目が無いので、素早く楽に着脱できます。本品のバンドは、時計本体と同様に、たいへん良い保存状態です。時計を含む長さは、ばねが伸びていない状態で測って、15センチメートルです。

 この時計は当時の箱と組み合わせてご提供いたします。





 本品は 1950年頃の女性用時計には珍しく、文字盤が正方形にデザインされています。この時代の女性用時計は一円玉よりも小さいですが、特に本品の場合は時計ケースの上下(12時側と 6時側)がバンドと一体に見えるせいで、時計の小ささが強調され、同時代の女性用時計に比べてもいっそう華奢で愛らしく、手首を可愛く飾ってくれます。時計は無料でオーバーホール(分解掃除)をした後にお渡しいたします。お買い上げ後も期限を切らずに修理に対応しますので、日々安心してご愛用いただけます。







 お支払方法は現金一括払い、ご来店時のクレジットカード払いのほか、現金の分割払い(三回払い、六回払い、十二回払いなど。利息手数料なし)でもご購入いただけます。当店ではお客様のご希望に出来る限り柔軟に対応しております。ご遠慮なくご相談くださいませ。





126,000円

電話 (078-855-2502) またはメール(procyon_cum_felibus@yahoo.co.jp)にてご注文くださいませ。




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