史上最小の自動巻時計 オメガ 《レイディマティック》 キャリバー 661 二十四石 ケース径 17.6 mm 1964年

Omega, "Ladymatic", cal. 661, 24 jewels, production year circa 1964



 オメガ社が1964年頃に製作した女性用時計「レィディマティック」。史上最小の自動巻ムーヴメントとして知られる「オメガ キャリバー 661」を搭載しており、一円硬貨よりも小さなサイズです。およそ五十年前に製作されたヴィンテージ時計(アンティーク時計)ですが、新品のように綺麗な状態です。





 時計内部の機械を「ムーヴメント」(英 movement)といいます。時計のムーヴメントには、電池で動く「クォーツ式」と、ぜんまいで動く「機械式」があります。現代の時計はほぼすべて「クォーツ式」ですが、これは 1970年代から使われ始めたものです。本品が製作された 1964年には、クォーツ式ムーヴメントはまだ存在していませんでした。

 秒針があるクォーツ式時計を耳に当てると、秒針を動かすステップ・モーターの音が一秒ごとに「チッ」、「チッ」、「チッ」 … と聞こえます。デジタル式など秒針が無いクォーツ式時計を耳に当てると、何の音も聞こえません。本品のような機械式時計を耳に当てると、小人が鈴を振っているような小さく可愛らしい音が、「チクタクチクタクチクタク…」と連続して聞こえてきます。





 ムーヴメントを保護する金属製の容器(時計本体の外側)を「ケース」(英 case)といいます。本品のケースはステンレス・スティールでできています。ステンレス・スティールは丈夫であるうえにアレルギーも起こしにくく、時計のケース素材として最も優れています。

 上の写真はケースを開けたところで、裏蓋裏面の刻印が見えます。フランス語「アシエ・イノクシダブル」(ACIER INOXYDABLE) は、英語「ステンレス・スティール」(英 stainless steel)と同じ意味です。フランス語「ファブリケ・アン・シュイス」(FABRIQUÉE EN SUISSE)、英語「スウィス・メイド」(SWISS MADE) は、いずれも「スイス製」という意味です。他にオメガ社のマークとロゴ (OMEGA WATCH COMPANY オメガ・ウォッチ・カンパニー)、ケースを作ったサントラル・ボワチエ社のロゴ (CB, Centrale Boitiers)、ケースのシリアル番号 (551004) が刻印されています。サントラル・ボワチエ社はオメガ社にシーマスターのケースも供給しています。黒インクで書かれているのはオーバーホール(分解掃除)の記録です。





 1964年の時計と現代の時計を比べると、動く仕組みが異なるだけでなく、サイズの点でも大きく異なります。1930年代から 1970年代までは男性用、女性用ともに現代よりも小さな時計が流行していました。特に本品は史上最小の自動巻時計で、ムーヴメントの直径が 15ミリメートル、ケースの直径が 17.6ミリメートルしかありません。一円硬貨の直径は 20ミリメートルですから、いかに小さなサイズであるかわかります。このように華奢で可愛らしい時計は、現代では作られなくなってしまいました。

 オメガ社はいまでも女性用時計「レィディマティック」を作っています。現代のレイディマティックは本品のおよそ二倍、34ミリメートルの直径があります。現代の「レィディマティック」が大きいのは流行のせいであって、オメガ社の技術水準が低下したわけではないでしょう。しかしながら大きな機械を作るよりも小さな機械を作る方が難しいですから、1960年代の女性用時計は当時の男性用時計を凌(しの)ぐばかりか、現代の時計をも凌ぐ高度な技術で製作されていることがおわかりいただけます。





 上の写真の左側は1964年製「オメガ レイディマティック」(本品)、右側は同年代の男性用時計「サーティナ ブリストル 195」(当店の商品)です。「サーティナ ブリストル 195」の直径は 34ミリメートルで、現行の女性用時計「オメガ レイディマティック」と同じサイズです。





 現代の時計のサイズは男性用、女性用とも、史上最大です。上の写真でサーティナの後ろにあるのは、オメガ社が 1941年に製作した男性用懐中時計(当店の商品)です。懐中時計は腕時計よりも大きく、本品の直径は 44.5ミリメートルです。しかしながら現行のオメガ製腕時計「シーマスター プラネット・オーシャン 600m」は 45.5ミリメートルの直径があり、この懐中時計よりも分厚く、驚くほど大きなサイズです。五十年前に製作された本品の高度な技術力、華奢で愛らしいデザインは、同じオメガ社の現行品と比べるといっそう際立ちます。





 時刻を表す刻み目や数字が配置された板状の部品を「文字盤」(もじばん)または「文地板」(もじいた)、文字盤の周囲十二か所にある「長針五分ごと、短針一時間ごと」の数字を「インデックス」(英 index)といいます。本品のインデックスは 1960年代の時計に流行した棒状の「バー・インデックス」です。本品のインデックスは文字盤よりも一段高くなった「立体インデックス」で、二種類の形状の小さな部品を植字しています。

 本品の文字盤は明るいシルバーで、無数のヘアライン(微細な平行線)で上品な半艶(つや)消し仕上げが為されています。ギリシア文字によるオメガ社のマークが植字され、「オメガ」のロゴ (OMEGA) とモデル名「レィディマティック」(Ladymatic)、「スイス製」(SWISS MADE) の文字が黒で書かれています。およそ五十年前の品物であるにもかかわらず、文字盤は新品同様の状態です。この文字盤は再生(リファービッシュ、リダン)したものではなく、時計が製作された当時のオリジナルです。

 針はすっきりと上品な「バトン型」で、黒く塗られ、シンプルなバー・インデックスによく似合っています。この時代の女性用時計に秒針はありません。





 本品のクリスタル(風防)は「サファイアガラス」でできています。「サファイアガラス」は、普通のガラス(ミネラル・ガラス SiO2)ではなく、サファイア (Al2O3) です。このサファイアは人工的に生成したものですが、天然サファイアと同じ化学構造と物理的特性を有します。ミネラル・ガラスのモース硬度は「七」ですので、ミネラル・ガラスでできた時計のクリスタルは瑕が付きやすく、またいったん瑕が付くとクリスタル全体を交換するしかありません。これに対してサファイアガラス(人工サファイア)はモース硬度「九」と非常に硬く、めったなことで瑕(きず)が付きません。

 本品のクリスタルは宝石のようなファセット・カットを周囲に施した「カット・クリスタル」で、時計が傾くたびにキラキラと美しく光を反射します。時計のクリスタルにファセット・カットを施すのも、1960年代の流行です。







 上述したように、時計のムーヴメント(内部の機械)には「クォーツ式」と「機械式」があり、本品はぜんまいで動く「機械式ムーヴメント」を搭載しています。機械式ムーヴメントには「手巻」(てまき)と「自動巻」(じどうまき)があります。自動巻は英語式に「オートマティック」とも呼ばれます。手巻ムーヴメントと自動巻ムーヴメントは、いずれもぜんまいで動く機械式ムーヴメントであって、基本的な仕組みは同じです。簡単にいうと、「自動巻機構」という特別な仕組みを手巻ムーヴメントの上に載せたものが、自動巻ムーヴメントです。

 手巻ムーヴメントと自動巻ムーヴメントの違いは、ぜんまいの巻き上げ方の違いです。手巻ムーヴメントのぜんまいは、一日一回、手動で巻き上げる必要があります。自動巻ムーヴメントのぜんまいは、手動で巻き上げることもできますし、「自動巻機構」のはたらきにより、時計を着用した人の手首の動きを利用して、自動的にぜんまいを巻き上げることもできます。

 仮に自動巻ムーヴメントから自動巻機構を取り除いても、手巻ムーヴメントの時計として正常に動作しますので、自動巻機構は時計が動く上で必須の仕組みではありません。しかしながらクォーツ式時計が登場する以前、自動巻は手でぜんまいを巻く必要が無い便利な時計として人気がありました。


 手巻ムーヴメントと自動巻ムーヴメントの外形上の違いは、ケースの裏蓋を開けたときに、大きな回転錘(かいてんすい)が見えることです。回転錘は英語式に「ローター」とも呼ばれます。下の写真で「オメガ時計会社」(OMEGA WATCH Co)、「スイス製」(SWISS) と刻印されている部品が回転錘です。腕時計を付けて日常生活をすると、手首がいろいろな角度に動き、回転錘は重力に引かれてぐるぐると回ります。この動きを利用してぜんまいを巻き上げるのが自動巻ムーヴメントです。

 回転錘のすぐ下に自動巻機構の残りの部分が見えており、オメガのマークとキャリバー名「661」、「二十四石」(TWENTY-FOUR 24 JEWELS)、「アジャステッド・トゥー・ポジションズ」(ADJUSTED TWO (2) POSITIONS) の文字が刻まれています。キャリバー(calibre/caliber) とはムーヴメントの型式のことです。この時計は二十四石自動巻ムーヴメント「オメガ キャリバー 661」を搭載しています。





 本品のように良質の機械式時計には、摩耗してはいけない部分にルビーを使います。ルビーはサファイアと同じく「コランダム」(Al2O3) という鉱物で、モース硬度「9」と非常に硬いので、高級時計の部品として使用されます。必要な部分すべてにルビーを入れると、「十七石」(じゅうななせき)のムーヴメントになります。十七石のムーヴメントは「ハイ・ジュエル・ムーヴメント」(英 high jewel movement)と呼ばれ、高精度、長寿命の高級機です。

 上の写真は本品のムーヴメント、「オメガ キャリバー 661」で、赤く写っているのがルビーです。本品「オメガ キャリバー 661」の手巻部分(自動巻機構を取り除いた部分)には十七個のルビーが使われています。また「オメガ キャリバー 661」の自動巻機構には七個のルビーが使われています。手巻部分の十七個と自動巻機構の七個を合わせると、二十四石となります。

 「キャリバー 661」はオメガ社が 1961年に開発した「キャリバー 660」系の機械で、直径わずか 15ミリメートルの世界最小の自動巻ムーヴメントです。上の写真は本品の裏蓋を開けて一円硬貨の上に置いています。ムーヴメントの左端付近に刻印されている数字 (20571993) はシリアル番号で、本機が 1964年製であることを示しています。なおムーヴメントの大きさに関して厳密にいうと、ア・シールド社が 1967年に開発した「ア・シールド キャリバー 1775」の直径は 13.5ミリメートルですが、「オメガ キャリバー 660」及び「オメガ キャリバー 661」のほうが「ア・シールド キャリバー 1775」よりも薄く、時計として着用した際にドレッシーに見えます。





 上の写真では、シリアル番号を刻んだ付近に幾つかの歯車が見えています。いちばん下の層から一部分がのぞいている歯車は、「香箱車」(こうばこぐるま)です。「香箱車」は、「香箱」と呼ばれる平たい円筒形容器の蓋部分です。「香箱」には「主ぜんまい」(メインスプリング)が収納されており、機械式時計を動かす動力を供給しています。香箱車の真上に重なるように、一回り小さな「角穴車」(かくあなぐるま)が見えています。角穴車の中心部分はステンレス・スティールの大きなネジで留められています。「香箱車」と「角穴車」は、オメガ社のムーヴメントであっても他のメーカーのムーヴメントであっても、通常はステンレス・スティールでできています。しかしながら「オメガ キャリバー 660」及び「オメガ キャリバー 661」において、これらの部品はベリリウム青銅でできています。

 ベリリウム青銅 (beryllium bronze, Glucydur) はブロンズにベリリウムを加えたもので、磁気を帯びず、非常に硬い優れた合金です。機械式時計において大きな力がかかる香箱車と角穴車には理想的な素材ですが、高価であるため、昔の時計にはほとんど使われていません。筆者(広川)がこれまでに目にした限り、角穴車にベリリウム青銅を使っているヴィンテージ時計(アンティーク時計)は、本品を含む「オメガ キャリバー 660」系(cals. 660, 661, 662, 663)、及び「ミドー キャリバー 707」のみです。あとはロンジン社とオメガ社の別の時計部品において、ごくまれにベリリウム青銅が使われています。


 「オメガ キャリバー 660」及び「オメガ キャリバー 661」は、非常に小さなサイズであるにもかかわらず、45時間のパワー・リザーヴを誇ります。「パワー・リザーヴ」(英 power reserve)とは、ぜんまいをいっぱいに巻き上げて駆動する時間のことで、普通は 40時間以内です。また他社の自動巻ムーヴメントに比べて薄いのも特徴で、分解すると、良く考え抜かれた設計に驚かされます。振り子の役割をする「天符(てんぷ)」は一秒間に 2.75往復し(振動数 f = 19800 A/h)、優れた計時性能を確保しています。

 「オメガ キャリバー 661」(本品)の手巻部分は、「キャリバー 660」と共通しています。二つのムーヴメントは、石数(いしかず ムーヴメントに使われているルビーの数)が異なります。「キャリバー 660」は自動巻機構にルビーを使わない十七石の機械です。自動巻機構にはルビーを使わないのが普通ですので、「オメガ キャリバー 660」は十分に高級な機械です。しかしながら本品「キャリバー 661」は自動巻機構にも七石のルビーを使用し、極めて贅沢な作りとなっています。





 アンティーク時計のバンドは元々取り付けられていた「オリジナル」でなくても構いません。革製のものは言うまでも無く、バンドはすべて消耗品ですし、昔のバンドが使える状態で残っていたとしても、それは前の所有者が自分に合うサイズ、好みのデザインのバンドを取り付けているだけのことです。時計会社はバンドまで作っていませんから、自分に合うサイズとデザインのバンドを取り付けるのが、アンティーク時計との正しい付き合い方です。

 バンドを取り付けるための突起を「ラグ」(英 lug)といいます。アンティークの女性用時計は十二時側と六時側に一本ずつのラグが突出した「センター・ラグ」方式が普通です。しかしながら本品は現代の時計と同じく、十二時側と六時側に二本ずつのラグが突出し、ばね棒を使ってバンドを取り付けるようになっています。それゆえ「センター・ラグ」方式の時計に比べてバンドに関する自由度が高く、さまざまな色や質感の革バンドを取り付けることができます。本品に金属製バンドを取り付けることも可能です。上の写真に写っているバンドは日本製のデッドストック品で、時計を含めた長さは 17センチメートルです。当店には他の金属製バンドも在庫しています。





 当店は数少ないアンティーク時計の修理対応店です。アンティーク時計はどこの店でも原則的に「現状売り」で、壊れても修理が困難ですが、アンティークアナスタシア店主にはアンティーク時計に関する十分な専門知識があり、部品も豊富に揃っているため、他店で不可能な修理に対応できます。お買い上げ後も期限を切らずに修理に対応しますので、日々気軽にご愛用いただけます。デリケートなイメージのアンティーク時計ですが、日常使用は十分に可能です。時計はオーバーホール(分解掃除)済みで、順調に動作しています。どうぞ安心してお買い上げくださいませ。

 1964年に本品が販売されていた価格は、初任給のおよそ六か月分でした。当時は 1ドル=360円の固定レートで、輸入品が高価であったためでもありますが、当時のヴィンテージ・ウォッチ(アンティーク・ウォッチ)が現在順調に動いていることからもお分かりいただけるように、当時の機械式時計は非常に質が良く、じゅうぶんに「一生もの」と呼べる品物でした。特に本品は時計の外側が綺麗であるのみならず、外側を見ただけでは分からないムーヴメントのコンディション(輪列の状態、日の裏輪列の状態、時刻合わせ機構の状態、天真やひげぜんまいの状態、調速脱進機の動作)も非常に良好で、これから数十年に亙ってご愛用いただけます。

 お支払方法は現金一括払い、ご来店時のクレジットカード払いのほか、現金の分割払い(三回払い、六回払い、十二回払いなど。利息手数料なし)でもご購入いただけます。当店ではお客様のご希望に出来る限り柔軟に対応しております。ご遠慮なくご相談くださいませ。





本体価格 178,000円 販売終了 SOLD

電話 (078-855-2502) またはメール(procyon_cum_felibus@yahoo.co.jp)にてご注文くださいませ。




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